第5章 魔王の秘密 その2(7)
「では、こちらで訓練を御覧ください。」
シンはそういい、デイロを席へと誘った。
デイロは言われるままにそこに座り、訓練が始まるのをまった。
訓練は湖での戦いを想定して行われた。
小さな船を湖に浮かべての接近戦。
もしくは、水中戦。
しかし、ラギ自身は空にいて、一人だけ訓練に加わっていなかった。
その様子をみて、デイロは内心舌打ちをした。
どの程度の力量かみるためにこの訓練にきたというのに。
それをしっての行動かどうかは、わからないまま訓練は進んでいった。
午前の訓練が終わり、昼食の時間となり、ラギはシンのところにやってきた。
「おい、シン腹減った。」
「ラギ、あなた何もしていないでしょう?きちんと訓練に参加してください。」
「仕方ないだろ?俺が加わってしまえば訓練じゃなくなるからな。」
ラギはある意味天才であった。
武の達人と言われる人物を近くでみていたためか、あらゆる武術を学んでいた。
そのため、個人戦を行えば必ずラギが勝利していた。
「これは、ラギ殿、ご無沙汰しております。先程の訓練もおつかれ様でした。」
デイロもラギのそばに近寄り、訓練をねぎらった。
「それは、どうも。」
そっけない一言を残し、ラギはシンに耳打ちしてその場を立ち去った。
「ラギ殿はなんと?」
「ああ、申し訳ありません。先程の訓練で怪我をしたみたいで、治療に行くといっておりました。」
完璧に嘘と思われたが、デイロは何も言わなかった。
「昼からはぜひラギ殿の勇姿をみたいものです。そうだ、昼からは勝ち抜き戦などはいかがですか?」
「勝ち抜き戦ですか。」
「そうです。確かに団体での訓練も必要かと思いますが、個人の技なども見てみたい。いかがですか?」
その言葉にシンは考えた。
何か仕掛けてくるのだろう。
しかし、ラギに通用するかどうか。
迷ったのは一瞬であった。
「それは面白そうですね、わかりました。ラギに伝えてきます。」
「お願いします。そうだ。勝ち抜き戦をするのであれば、優勝賞品なども必要でしょう?実は先日いいモノを発見したのです。」
そういうと、デイロは側近に指示をだした。
そして、持ってきたのは。
うやうやしく掲げて持ってきたのは、布に包まれた細長いもの。
おそらく剣であろう。
シンはそう思った。
「これは城の宝物庫から出てきたのですが、曰く付きなモノらしく。調べてみると魔剣であるということです。」
デイロは布を取り去り、剣を手に取った。
剣は、鞘が黒に銀で細工がされており、ところどころに紅い石が埋め込まれていた。
柄には、特に何も細工がないように見えた。
「この剣を優勝者に渡すというのは、いかがでしょう?」
デイロはそういうと、シンに剣を渡した。
渡された剣をじっくりと見て、シンは特に何も感じなかった。
「これほどの業物をよろしいのですか?」
確認のためデイロに尋ねると、
「構いません。誰かが使ったほうがこの剣もいいでしょう。」
「では、その旨ラギに伝えてきます。しばらくお待ちいただけますか?」
そういうと、デイロの剣を渡してラギを探しにいった。
その様子をみて、デイロはニヤリと笑い、剣を無造作に布でくるむと側近に渡した。
「これで、ようやく・・・。」
デイロが低くつぶやいた言葉は誰にも聞こえなかった。
シンはラギを探し出し、勝ち抜き戦のことを伝えた。
「ふうん、いいんじゃないか?俺は構わない。」
「しかし、あちらからの提案ですよ?何かあるかもしれません。」
「まあ、気をつけるけど。」
「それでしたら、私も参加させていただきます。」
「は?」
シンとラギの二人の会話に入りこんだのは、ラムザンだった。
「えっと、どういうつもりで?」
「いえ、少しばかり暇でして。ストレス発散もかねて参加します。」
その言葉に二人は顔をひきつらせた。
「本気ですか?」
「いけませんか?」
「ってか、歳考えろよ。」
「まだまだ若者には負けません。」
「何を言っても無駄みたいですね。」
ラムザンの頑なな態度にシンとラギはおれた。
「まあ、負けるとは思いませんが、ほどほどにお願いしますね。」
「わかっております。何か仕掛けてきても負ける気はありませんので。」
実はラムザン、ガイエンの右腕的な存在であった。
武術においては、ラギの師匠であり、
知略においては、シンの師匠であった。
つまり・・・。
「ある意味最強だよな。」
ラギの言葉にシンは深く頷いた。
そして、午後の訓練は勝ち抜き戦に変わったことを、皆に知らせた。
優勝者には特別な賞品がでることも伝えて。
勝ち抜き戦に参加したのは腕に覚えのある強者だけではなく、
ただ実力を知りたいものも参加していた。
そして、勝ち抜き戦は始まった。
場所は、湖。
しかし、水中戦になっては面白くないということで、湖全体を凍らせて場所を作った。
参加者全員に名前を書かせ、その紙を箱にいれて、その箱から二枚ひいて対戦の組み合わせをきめた。
ラムザンとラギは、順調に勝ち進んでいった。
もちろん、実力を隠したままで。
「さすがは、ラギ殿ですな。強い。」
「それはありがとうございます。しかし、まだ強者がのこっているはずですので。」
シンは午前と同じようにデイロのそばで、勝ち抜き戦を見ていた。
「このまま行けば、私の部下と対戦するかもしれませんな。」
そう、実はこの勝ち抜き戦にデイロは部下を出場させていた。
そのことは、デイロから勝ち抜き戦が始まってからシンに伝えられていた。
しかし、シンは落ち着いていた。
ラギが負けるはずがない。
その実力を知っているのは、ラムザンとシンの二人だけであった。
「そのようですね。」
そして、予想どおりラギとデイロの部下の対戦が始まった。
対戦相手であるデイロの部下は、槍を使う男であった。
それに対してラギは剣。
それも細めの剣であった。
始め、の合図とともにデイロの部下は槍を水平にもちラギに対して、突っ込んできた。
しかし、ラギはそれをヒラリとよけ、右手に持っていた剣をデイロの部下の腹に、叩き込もうとした。
デイロの部下はそれを察し、槍の柄でもって、剣を上に弾いた。
「ふうん、これくらいはできるんだな。」
ラギの言葉に、デイロの部下は無反応で応じた。
「でも、俺より弱い。」
ニヤっとラギは笑うと、弾かれた剣を両手でもち上から男の頭めがけて振り下ろした。
男はとっさに左によけた。
そこに、ラギの手から放たれた光によってふっとばされた。
男は、光をまともにうけて気絶した。
「勝者ラギ。」
審判の声に、ラギはふうっと息をはいて、デイロの部下を見た。
男は気絶しているらしく、ピクリとも動かない。
「ま、こんなもんだな。」
そうラギはつぶやくと、シンとデイロのいる方をみた。
すると、デイロがラギの方を見てニヤリと笑ったのが見えた。
ラギは眉をひそめると、次の対戦相手に場所を譲った
「さすがはラギ殿ですな、私の部下では相手になりませんでした。」
「いえ、ただ運がよかったのでしょう。」
お互いの腹の中を見せないまま、勝ち抜き戦は順調に進んでいった。
そして・・・。
決勝戦。
残ったのはやはり、ラギとラムザンだった。
「やっぱこうなるよな。」
「久しぶりの手合わせはたのしみですな。」
周りのことなど気にせず、ラギとラムザンは戦うことに集中していった。
ラギは細身の剣から、大剣に武器を変更していた。
対するラムザンは、巨大な斧であった。
シンは二人をみて、ハアっとため息をついた。
まさか、楽しむつもりではないですよね?
ラギたちの楽しそうな顔をみて、シンは不安に思った。
そして、シンの不安は的中した。
始めの合図がかかると、二人は一度目をとじた。
目を開けた瞬間、二人の姿がきえた。
キィン。
鋭い音がしたと思ったら、そこには剣と斧をつきあわせている二人の姿があった。
それを見て、シンは確信した。
確実に戦うことに夢中になっていると。
かなり本気で戦っていることがよくわかった。
さて、どうしましょうか。
このまま、戦えば決着がつくのに時間がかかりそうである。
その間、自分はデイロと一緒にいることになる。
それは嫌だ。
結果・・・・。
早めの決着を望む。
そこまで考えて、シンは行動を開始することにした。
「申し訳ありません、少し席をはずします。」
デイロにシンは断りをいれ、席をたった。
「かまいませんよ。」
それに対してデイロも何も言わなかった。
席をたち、外にでるとシンは訓練をしていた魔族のうち水中を自由に泳げる魔族をよんだ。
「シン様、御用でしょうか?」
「ああ、すいません。実はお願いがありまして・・・。」
そういうと、その魔族にシンは頼み事をした。
それを聞いた魔族は不思議そうにしながらも、頷いた。
「わかりました、出来る限り頑張ります。」
「少し面倒かもしれませんが、お願いしますね。」
魔族はシンに一礼をして、シンに言われたことを実行すべく立ち去った。
「これで、大丈夫でしょう。」
シンはニッコリ笑うと、デイロのもとに戻った。
「おや、もうよろしいのですか?」
席に戻ったシンにデイロは声をかけた。
「はい、申し訳ありませんでした。」
シンはデイロにそういうと、湖に目を向けた。
「ああ、なかなか素晴らしい戦いをしておりますよ。」
シンの目線をみて、デイロはシンに伝えた。
「そのようですね。」
湖の上での戦いは、激しさを増していた。
ところどころ陥没しているところや、氷の溶けているところもあった。
しかし、そんなことはどうでもいいとばかりに、二人は戦いを楽しんでいた。
ラギが大剣を振りかざし、ラムザンに迫れば、
ラムザンもまた、斧をふりまわしてラギを牽制した。
二人の戦いは、まだまだ続きそうであった。
しかし、それは突然終わりを告げた。
パキパキ。
はじめは小さな音だった。
バキバキ。
それは徐々に大きくなり・・・。
やがて。
バキン。
巨大な音とともに、湖が割れた。
それは、氷が割れた音であった。
「なにっ」
「うおっ」
湖の上で戦っていた二人は驚きながらも、氷にしがみついた。
「これは。」
デイロはその様子をみて、驚いた。
「おやおや、これではこのまま戦うことはできませんね。」
白々しくシンはそういった。
「シン殿、何かされましたか?」
デイロは、シンを睨んだ。
「いえ、何も。おそらく二人の戦いの激しさに氷がもたなかったのでしょう。」
シンはデイロにニッコリと笑った。
「今回は引き分けということで。」
そういうと、シンは氷にしがみつく二人を見た。
ラギとラムザンは、その様子を見た。
「なあ、あれ、絶対に怒っているよな。」
「そのようですな。仕方ありませんが。」
「まあな、デイロのことすっかり忘れてた。」
「私もです。」
こうして、勝ち抜き戦は終わった。
「では、私はこれにて失礼します。」
勝ち抜き戦が終わり、優勝者なしという結果にデイロは不満を持っていた。
しかし、それを顔に出さずに、このまま領地視察に行くという。
「それは、残念です。お気をつけて」
シンはそのことに気づきながらも、この場をそのまま去り、当初の目的である視察に出かけるデイロを見送った。
「この剣はまたの機会にということで。」
側近に持たせた剣を指し示し、シンに伝えた。
「そうですね。またの機会に・・・。」
そこにラギとラムザンが現れた。
「ああ、ラギ殿、残念でしたな。」
「まあ、仕方ない。」
「次回を楽しみにしております。」
デイロは、そういうと一礼して立ち去った。
それを見届けたあと、シンは、ラギたちをジロリと見た。




