第5章 魔王の秘密 その2(6)
「ニクス、黙っていてごめんね。でもそろそろ言おうって思っていたんだ。」
「あのね、僕達魔族なんだよ。だからね、魔力を持っているんだ。」
ラギたちの告白にニクスは驚いた。
「何を言って。」
「ニクス、聞いて。僕達もいろいろ試してはいたんだけど、やっぱり無理なんだよ。だからね。」
「寂しいけどここで、お別れだ。」
ニクスはラギたちを、悲しみに満ちた瞳でみた。
それを見てラムザンは話した。
「詳しくは私からお話しします。」
ラムザンはニクスに魔族の目覚めについて語った。
魔族はある年齢に達すると魔力が格段に強くなる。
それを抑えるためにも、魔力を自在に操れる魔族が、必要である。
そうしなければ、魔力が暴走して死ぬことになる。
「そうなりつつあるのが、現状です。」
ラムザンの説明にニクスはうなだれた。
一番近くにいるはずだったのに、何も知らなかった。
何も気づいてやれなかった。
「ニクス、ごめんね。なんとかできると思っていたんだ。」
ラギの言葉にニクスは落ち込んだ。
「俺って頼りないか?」
ニクスはポツリと呟いた。
その言葉を聞き、ラギたちはニクスに抱きついた。
「違うよ。ニクス、頑張ってるから。邪魔しちゃダメだと思って。」
「ニクスがいるから、僕達ここにいるんだよ。」
二人の言葉で、ニクスは二人を思い切り抱き締めた。
「ラギ、シン、ありがとな。」
そんな三人を見てラムザンは、静かに微笑んだ。
そんな感動的な空気を、微妙な空気にかえる人物がひとり。
大きな音をたてて扉をあけて、飛び込んできた。
「うおぉぉぉ、感動したよぉ。」
号泣しながら、部屋に入ってきたのは、王だった。
「は?」
突然入ってきたと思えば、号泣。
しかも何故か、ニクスからラギたちを引き離して、抱き締めている。
ちょっと、殺意がわいた。
「おい、なにしてんだ?」
低い声を出し王を威嚇したが、号泣している王には聞こえなかった。
「なんて可愛い子たちなんだ。我が息子のためを思ってのことなんて。」
王はラギたちの頬に頬擦りした。
スリスリされて、ラギたちは目をパチクリさせていた。
「えっと。」
「うん、わかるよ。なんて健気なんだ。邪魔になりたくないからなんて。」
そこで王はやっと、ラギたちから少し離れた。
「よし、おじさんに任せなさい。立派に育てるからね。」
「ん?」
ニクスは王の言葉に違和感を覚えた。
「おい、だから。」
ニクスの言葉を聞いたのか、王はニクスに振り返り指を指して宣言した。
「これからよりいっそう王になるために頑張ってもらうからね。」
王の宣言にニクスは頭を抱えた。
「だから、訳わかんねぇ。」
「えぇ、何でわかんないの?この子達の期待にこたえるために、立派な王にならなくちゃね。」
「それはわかってる。だから、頑張ってるんだろ?」
「いや、違うね。迷惑かけたくないって思われてる時点でダメだよ。まだまだだね。だから、しばらく、この子達と離れるんだ。」
王の言葉に、ニクスはとまった。
親父の言うことに一理ある。
「確かにまだまだだな。」
ニクスの言葉にラギたちはそんなことない、と首をふった。
「ニクス、僕達は。」
「わかってる。だから、認められるように頑張る。」
ニクスはラギたちに近寄り頭をなでた。
「では、しばらく若君をお預かりさせていただきます。」
その様子を見て、ラムザンは言った。
ニクスは顔をあげて、ラムザンを見た。
「任せたからな。」
「はい、魔力が落ち着けばこの国でも暮らせます。それまではきちんとお世話をさせていただきます。」
ラムザンの顔を見て、ニクスはうなずいた。
「落ち着いたら、必ず連絡する。だから、少し待っててくれるか?」
ニクスは二人の顔をのぞきこんだ。
ラギたちは、泣くのをこらえているのか、唇を噛みながらうなずいた。
「よし、一日でも早く会えるように頑張るから。」
こうして、ニクスとラギたちの生活は終りをつげた。
そして、この3人が会うことができるのは、かなり長い年月が必要になるのだった。
ニクスとラギたちが別れてから、ニクスは王になるために頑張った。
かなり頑張った。
がむしゃらに頑張った。
ひたすら頑張った。
そのおかげでニクスは立派な王になった。
ニクス、35才のときである。
王になる前に妻も迎え一人の息子もいた。
そして、さらに8年の歳月が過ぎ去った。
ニクスとラギたちが別れてから25年の月日が流れていた。
「おい、シン、そろそろ行ってくる。」
「ああ、もうそんな時間なんですね。気をつけてくださいね。いろいろと。」
トゲのある言い方にラギはシンを見た。
「何がいいたいんだ?」
ラギの言葉にシンはニッコリ笑っていった。
「あれ?わかりませんか?先日みたいなことはないようにしてくださいね。」
ラギはその言葉に顔をしかめた。
「いや、あれはだな、俺が悪いんじゃなくて、あっちが。」
「言い訳は聞きたくありません。とにかくこれ以上問題を増やさないでください。」
聞く耳をもたずにシンはラギにいった。
「へいへい、善処します。」
シンに背を向けてラギは片手をヒラヒラさせて部屋を出ていった。
「はあ、わかっているんでしょうか。」
「あいかわらず、楽しそうですな、若君。」
ラギが出ていったあとに、入ってきたラムザンはシンを見てクスリと笑った。
「そう見えますか?」
「はい。」
ラムザンの言葉にシンはため息をついた。
「まあ、養い親の影響が強かったみたいで。」
シンはラムザンをジットリとした目で見た。
「おや?そうなんですか。それは大変ですな。」
「まあ、いいです。それはそうと、何かありましたか?」
「ああ、実はザクセンから手紙が届いております。」
そういい、ラムザンはシンに1通の手紙を渡した。
「定期便ですね。」
「お茶をいれてきますので、一息つかれてください。」
シンは、手紙を見て微笑み封をあけた。
手紙はいつも通りの言葉で始まっていた。
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ラギ、シン、元気か?
俺は元気だ。
とりあえず、毎日裏と表を使い分けながら、王さまをやってる。
てか、親父のやつ、よくこんなことできてたよな。
最近よく思う。
ま、ナメられちゃ困るから、眉間にシワをよせながら適当にやることにしてるがな。
んで、今回はちょっとおねがいがあるんだ。
時間の都合ができたら一度城に来てくれ。
待ってる。
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「ニクスからのおねがい、なんでしょう?」
いつもとは少し違う言葉にシンは、首を傾げた。
読み終わったのを見計らったのように、ラムザンがお茶を運んできた。
「手紙、なんでしたか?」
シンの前にお茶をおき、ラムザンはたずねた。
「はい、ニクスも元気みたいです。でも、ちょっとおねがいがあるそうで。」
「おねがい、ですか。」
「はい、詳しくはわからないのですが、一度城に来てほしいと。」
「ふむ、なんでしょう?まあ、久しぶりに会いに行かれるのも良いかもしれませんな。」
ラムザンの言葉にシンは、考えた。
久しぶりに会いに行くのも、いいかもしれない。
「そうですね、急ぎの仕事もありませんし、あちらも今は大人しいですし、いいかもしれません。」
シンの言葉にラムザンもうなずいた。
「わかりました。あちらにはバレないように日程を組みましょう。」
「助かります。では、残りの仕事を片付けますね。」
シンはお茶を飲み、再び書類に向かった。
「ああ、ラギにはギリギリまで内緒にしておいてください。」
シンの言葉にラムザンは、ニヤニヤ笑いうなずいた。
「了解しました。あちらの対応はいかがなさいますか?」
「近くどこかに行く予定とかありますか?」
「確か、半月後に10日程南の領地に行かれると聞いております。」
「では、こちらもそれに合わせて動きましょう。」
「では、そのように手配させていただきます。」
そして、ラギには内緒で、シンとラムザンは準備を進めた。
「おい、シン、明後日の訓練のことなんだけど。」
「ああ、北側の湖で行われる訓練ですか?」
「それなんだけど、ヤツが見学に来るって。」
「はい?聞いてませんよ?」
「何でもこっちに来る予定があるとかで。」
「はぁ、わかりました。なんとか対応します。ラギはいつも通りにお願いいたします。」
「わりぃな。頼む。」
ラギはそういい、部屋を出ていった。
シンは、少し考えラムザンをよんだ。
「お呼びですか?」
「すいません、実はあちらが動き出したみたいで。」
「明後日の訓練ですな。先程聞きました。」
「まさか、このタイミングで動くなんて思いませんでした。」
「まあ、あちらとしても焦り始めたのかもしれませんね。」
シンとラムザンは、お茶を飲みながらのんびりと話していた。
「どちらにせよ、いつまでもこのままというわけにもいきません。ならば、仕掛けてみましょう。」
「そうですねえ。しかし、やり過ぎはいけませんよ?」
「わかっています。しかし、ラギがどう動くかは全く予想がつきませんから。」
「ラギ様ですか。ガイエン様に似ておりますから。仕方ありません。」
苦笑いを浮かべたラムザンは、シンに言った。
「で、どうされるのですか?」
「それはですね。何も考えていません。しかし、ラギがなんとかしてくれますよ。」
「つまり・・・。運を天に任せるということですか。」
シンはラムザンを見て、少し人の悪い顔で笑った。
「いいえ、運を天に任せるのではなく、ラギに任せるのです。」
そういい、明後日の訓練がどうなるのか、いろいろとラムザンと話し合った。
そして、訓練の日がやってきた。
前日からある人物が、館に滞在しているということで、少し使用人たちがピリピリしていたが、ラギとシンはいつもどおりに振る舞っていた。
「では、時間ですので、行きましょうか。」
「そうだな、で、どうするんだ?」
「それは、後ほどのお楽しみということで。」
シンはラギにそういうと、訓練の行われる湖へと向かった。
北の湖までくると、たくさんの魔族が集まっていた。
今日行われるのは、ラギとシンのためにラムザンが募った兵たちの訓練である。
ラギとシンはニクスと別れてから、この魔族の国につれてこられた。
ラギたちが連れてこられてことはラムザンがデイロに伝えていた。
ガイエンの子供であるというラギたちにデイロは、ガイエンの治めていた領地の一部を譲るというかたちで、現在住んでいる土地を与えた。
表面上、ガイエンの子供であるラギたちを、デイロは大事にしていた。
しかし、実際には長代行の仕事は自身が行い、ラギたちには口を挟まないように釘をさしていたのだった。
この国にきた当初は何もわからずに、争うこともなくいいなりになっていた。
しかし、少しずつ大きくなり知識も増えることで反旗を翻すことを考え始めていた。
ラムザンはそのことを喜び、様々な分野を学ばせてくれた。
そして、ラギは武を学び、シンは知を学んだ。
そのおかげでラギたちはそれぞれの分野において、並ぶものがほぼいないほどに成長した。
そのことは、噂話しによって国全体に広がっていった。
デイロはそのことを聞き、焦って今回の行動をとったのであろう。
シンはそう考えていた。
訓練はラギが担当して、シンは昨日から館にきているデイロの接待を受け持った。
「これはデイロ殿、お忙しい中お越しいただきありがとうございます。」
表面上は仲良く見せてシンは、デイロを迎えた。
「シン殿。突然の行動、真に申し訳ない。いや、元気にしているかどうかを確認しにきただけですので、気になさらずに。」
デイロ自身も周りの目を気にしたのか、シンと向かい合った。
「そういえば、デイロ殿も武術にはかなり詳しいとお聞きしましたが。」
シンはデイロに、そう話しかけた。
「いえ、多少は嗜んでおりますが、まだまだです。それよりもラギ殿がかなりお強いと聞き及んでおります。」
「ラギも、まだ子供ですので。」
苦笑いを浮かべてシンは、デイロに対応した。
表面上は穏やかな雰囲気であった。




