第5章 魔王の秘密 その2(5)
俺、間違ってないよな?
「なあ、一つ聞きたいんだが。」
低い声のニクスにフィリップはにこやかに答えた。
「何、兄さん。」
「なんで俺、遊ばれてるんだ?」
「遊びやすいからじゃないの?」
「遊びやすいって、何だ?」
「ええっと。いろいろあるよね。」
フィリップの答えにニクスは考えた。
しかし、考えてもはじまらない。
とりあえず、実際はどうなったのか聞いてみよう。
「で、本当はどうなったんだ?」
その答えにフィリップは、にんまりと笑って答えた。
「後悔しないよね?」
微妙に不吉な感じがするが、聞かないわけにはいかない。
「ああ、とりあえず、全員教えてくれ。」
ニクスの言葉にフィリップは、話した。
「じゃあ、いうけど、一の兄さんは、商人になるって城を出たんだ。で、三の兄さんは船乗り、四の兄さんはトレジャーハンターつまり、必殺発掘人になるんだって。なかなかおもしろい選択だよね。」
ニクスは、思った。
俺って、なんだろう・・・。
いろいろ悩み過ぎてる気がする。
もっと楽な人生があるような・・・。
そこまで考えてフィリップに突っ込まれた。
「兄さん、現実逃避は良くないと思うよ。」
「てか、それくらいしても罰は当たらないだろ。」
「まあ、その気持ちわからないわけでもないけどね。」
ふうっとため息をついて、ニクスは王を見た。
「で、対外的には死んだことになっているのか?」
「もちろん。ホントのことを言っても信じてくれないだろ?」
「たしかにな。」
王子が商人やら船乗りやらって、どんな国だよ?
そこまで考えて、ニクスはフィリップを見た。
「フィリップ、お前はどうするのだ?」
ニクスの言葉に待ってましたと言わんばかりの笑顔で答えた。
「ようやく聞いてくれたね。実はね、僕は好きなひとがいるんだ。」
「は?」
「だからね、好きな人がいるんだよ。」
「それはわかった。で、それがどうなるんだ?」
「彼女、一人娘なんだ。だから僕が養子にはいることになるんだよ。」
そこまで、聞いてニクスはフィリップをじっくりと見た。
「お前、いつの間に・・・。ってか、早すぎないか?」
「だって、彼女かわいいんだもの。すぐにでも僕のモノにしたいじゃない。」
そういえば独占欲の塊みたいなもんだったな。
「だからね、兄さんしか残らないんだよ。」
「そうなんだよ、だから、お前が後継ぎだよ。」
フィリップと王に言われて、そう言われればとニクスは思った。
「なんで、俺なんだよ?」
「息子たちの夢を応援するのも父親としての責任だろう?」
「俺の夢は?」
「あれ、兄さん夢なんてあったの?」
「お前なあ、俺にだって夢くらい・・。」
「じゃあ、なんだ?納得いく答えを言ってくれ。」
王の言葉にニクスは固まった。
俺の夢。
なんだろう?
とりあえず、のんびりした生活がいいよな。
汗水たらして生活ってのは俺に合わない気がする。
つまり。
「俺の夢・・・。ダラダラした生活。」
「却下。」
「兄さん、ふざけてるの?」
王とフィリップに言われて、ニクスはへこんだ。
「突然言われても思いつかないって。」
「つまり。これといった夢はないんだよね。ってことはこの国をよろしくってことだね。」
「ああ、これでようやく後継者ができたな。よし、明日の会議で早速稟議にかけよう。」
「おい、ちょっとまてよ、俺の意見は?」
ニクスに悲痛な叫びに王たちは、ニンマリ笑って答えた。
「意見?おとといきやがれッて感じだよね。」
「くそっ、どうなっても知らないからな。」
半ば投げやりに言ったニクスに、王は言った。
「大丈夫だ。世の中どうとでもなるもんだ。」
こうしてニクスは正式にザクセン王国の後継者となった。
正式に後継ぎとして、お披露目されニクスは毎日多忙な日々をおくることになる。
多忙な日々を癒やしてくれるのは、離宮にいるラギとシンであった。
なぜ、ラギとシンが離宮にいるのか・・・。
それはひとえに、ニクスの我が儘と、ラギとシンをここで突き放すわけにはいかないからである。
以前いた森に帰すという選択肢もあったが、それではあまりにも可哀想。
ならば、近くにいてもらおうということになり、離宮滞在が決まった。
そして、月日は流れて・・・・。
ニクスとラギたちが出会って、一年がたった。
その日は朝から、雨が降っていた。
そのため、ラギたちは部屋の中で、本を読んでいた。
ニクスがラギたちのために、教育係をつけ様々なことを学んだ。
その人物とラギたちの努力の結果、あっという間に字を読めるほどに成長した。
「なあ、シン、今日はどこにもいけないな。つまんない。」
「仕方ないよ、外は雨だもの。でも明日は晴れるって言ってたよ?」
「マジか?じゃあ、のんびり昼寝でもして過ごすか。」
「そうだね、ニクスは夜にならないと戻らないっていってたから。」
二人は、本をとじて部屋をでようとした。
そのとき。
「やっと、見つけましたぞ。若君。」
ラギたち以外誰もいないはずの部屋で、声が聞こえた。
ラギとシンはゆっくりと振り返った。
そこには、マントを被った一人の人物がたっていた。
「誰だ?」
「何者ですか?」
ラギたちはその人物をじっと見ながら、声をかけた。
「若君。お探しいたしました。さあ、帰りましょう。皆も待っております。」
その人物はゆっくりとマントを脱いだ。
白髪交じりの頭、顔にはシワがきざまれていた。
しかし、瞳はラギたちを見て、少しばかり潤んでいた。
「だから、誰だ?」
「場合によっては、衛兵を呼ぶことになりますよ。」
「おお、申し訳ありません。害をあたえるつもりは全くありません。あまりにもそっくりなもので少々驚きました。」
そこまでいって、男はラギたちの前にひざまずいた。
「あれから、どれだけの月日が流れたのでしょう。私はラムザン。若君をお迎えにあがりました。」
ラムザンと名乗った男の言葉をラギたちはじっくり考えた。
「若君・・。そう呼ばれる筋合いはない。」
「いえ、あなた方はガイエン様とシルビア様に瓜二つです。あの方々の若君に間違いありません。」
「ガイエン?」
「シルビア?」
その名前に全く心当たりはなかった。
「覚えておられるはずはありません。シルビア様は若君が生まれて間もないときに、殺されておりますし、ガイエン様もシルビア様と同じ時にお亡くなりになっております。」
ラムザンは、悲しそうに語った。
その言葉にラギは眉をひそめた。
「同じ時期に?それはどういう?」
シルビアという人物は殺されている。
しかし、ガイエンは殺されているわけではない。
一体何があったのか。
「教えてくれませんか。その二人のこと、そして僕達のことを。」
シンはラムザンに言った。
「わかりました。すべてお伝えしましょう。そして、我らが国へお帰りください。」
ラムザンはそういうと、語りだした。
六年前。
ラギとシンが生まれた時。何があったのか。
そして、なぜ二人を探していたのかを。
「我らは人ではありません。魔族です。
そして、ガイエン様は魔族の中でも一際巨大な魔力を持っておられました。
そんなガイエン様はある一族の長となられました。
ある日ガイエン様は、シルビア様に出会われたのです。
そして二人は恋に落ちました。
二人はやがて結ばれ、シルビア様の妊娠が発覚し、ガイエン様はことのほか喜ばれました。」
ここでラムザンは一度言葉をきった。
そして、目を伏せ言葉を続けた。
「しかし、シルビア様の妊娠をよく思わない人物がいたのです。
ガイエン様の従兄である、デイロ様です。
デイロ様はシルビア様をさらい、ガイエン様に返してほしければ、一族の長の地位を返上して、国を出るようにせまったのです。
ガイエン様はシルビア様を無事に取り戻せるのならばと、その条件をのみました。
しかし・・・。」
「しかし?どうしたんだ?」
「しかし、その時すでにシルビア様は人間の手にわたっていたのです。
デイロ様はさらわせたシルビア様を邪魔に思い、人買いの手に売り渡したのです。
そして、人買いはシルビア様が子供を身ごもっていると知り、生まれた赤子を高値で取引する闇の商人に売り渡すために、赤子が生まれるまで待ったのです。」
一度ラムザンは、ラギとシンを見て、続けた。
「赤子を産んだシルビア様は邪魔となり、殺されました。
そして、生まれたばかりの赤子を闇の商人に渡すために、町へ向かう予定の人買いを、ガイエン様は発見されたのです。
それ以前からシルビア様からの魔力を感じとっていたガイエン様でしたが、一歩遅かったようです。
そして、シルビア様とこれ以上離れられないようにガイエン様も、おなくなりになったのです。」
そんな話を聞いて、ラギとシンは複雑に思った。
まさか、両親が魔族であり、さらに母親は殺され、父親はそのあとをおっていたなど。
そこでふと不思議に思った。
「あの、そのあと、僕達はどうしてあの森にいたんですか?」
シンの言葉にラムザンは答えた。
「ガイエン様の言葉です。安全に暮らせる場所につれていくようにと。多分、その森が一番安全であると、考えたのでしょう。」
「なるほど、確かあの森、結界がはってあるって言ってたよな?」
「ああ、ニクスが聞いたときでしょ?」
「森に結界をはることで、安全を確保したってことか。」
その言葉にラムザンは苦笑いした。
「その結界のおかげで安全に育っていたわけですが、我らにもその気配を感じさせなかったために、お迎えが遅くなってしまいました。」
「で、森を出たから、気配を感じることができるようになったってことか。気配ってわかるもんなのか?」
「ガイエン様に似た気配を探っておりましたので。」
そこまで聞いて、気になっていることをラギはラムザンに聞いた。
「そんで、デイロってやつはどうなったんだ?」
「とりあえず、見張りをつけておりますが。ガイエン様たちのことがわかったのも最近でしたし、何より、ガイエン様たちを探すことが一番でしたので。現在はガイエン様の代わりで、長代行をしております。」
「そうか。」
ラギは、ポツリと呟いた。
どちらにせよ、今のままではどうすることも出来ない。
さて、どうしよう?
そう、考えたとき遠くのほうからニクスの声が聞こえた。
「おーい、ラギ、シン、どこだぁ?」
声は少しずつ近づいてきた。
そして。
ガチャリ。
ドアを開ける音がすると、ニクスが部屋に入ってきた。
「やっぱりここにいたか。
今日は早めに親父から解放されてな。
で、ちょっと。」
そこまでいい、ラギたち以外に別の人物がいることに気づいた。
「え、誰だ?」
ラムザンは慌てることなく、優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。私はラムザンともうします。」
「ラムザン?てか、どうやってここに入った?警備の兵士がいるはずなんだがな。」
ニクスはラムザンを警戒しながら言った。
それを見て、ラムザンはニッコリ笑っていった。
「怪しいものではありません。といっても無理でしょう。ただ、若君を迎えにきただけです。」
「若君?誰のことだ?」
「僕達のことだよ、ニクス。」
「彼は僕達を探していたんだ。」
ニクスの言葉を遮るように、ラギたちは言った。
それを聞いてニクスは、ラギたちを見てため息をついた。
「とりあえず、全部説明してくれ。」
そういい、部屋にあった椅子にドサリと座った。
ラギたちはラムザンに言われた話をニクスに話した。
自分達のこと、両親のこと、そして、こんなことになった原因でもある父の従兄のこと。
聞きおわりニクスはあまりの話に呆然とした。
「つまり、お前は魔族でラギたちを連れて帰りたいと。」
「はい、その通りです。」
「んで、連れて帰ってどうするんだ?話を聞いたが、どうしょうもないんだろ?だったら、このままここに。」
ニクスはラギたちが行ってしまうかもしれない寂しさと、魔族の国に帰ってからのラギたちのことを考えていった。
しかし、ラムザンの次の言葉でニクスは言葉を失った。
「そろそろ限界なのです。若君もおわかりでしょう?」
「どういうことだ?」
「お分かりになりませんか?これ以上隠すのは無理でしょう。」
ニクスは、ラギたちを見た。
「おい、どういうことだ?」
ラギたちは、ハアッと息をはいた。




