第5章 魔王の秘密 その2(3)
日が少し傾き始めた頃、ニクスは目を覚ました。
「あー、よく寝た。」
う~ん、と体をのばし起き上がった。
そして、横を見ると一緒に寝ていた二人がいなかった。
「あれ。どこに行ったんだ?」
ニクスは二人を探すことにした。
いつもいるはずの、洞窟付近や花畑、あちこち探したがその姿はなかった。
「おかしいなぁ。どこにいるんだ?」
首を傾げて、ニクスは川辺に戻ってきた。
その時、悲鳴が聞こえた。
「ん?あの声は。」
ニクスは周りを見回し、川の上流から争いの声が聞こえたことに気づき、上流にむかい走り出した。
「まっててくれよ、今行くから。」
ニクスがたどり着くと、そこには二人の少年と、3人の男がいた。
そして、その周りを取り囲むように、狼たちが牙をむいていた。
「ラギ、シン、無事か?」
ニクスは二人に近づこうとした。
「おいおい、まさか生きていたとはな。」
男の言葉にニクスは顔色をかえた。
「な、なんのことだ?子どもたちを返せ。」
「は、何を言ってるんだ?気づいているんだろ?あの日、何があったのか。」
その言葉にニクスは、ため息をついた。
「ああ、覚えている。というか、思い出した。全ては、アイツが仕掛けたことだな?」
ニクスは男に尋ねた。
「最後だから教えてやるよ。そうだ、あのお方が全て仕組まれたことだ。そして、あんたたちが、邪魔なんだと。」
男は、腰に下げていた剣をひきぬいた。
「さて、おしゃべりはここまでだ。このガキどもをかえしてほしけりゃ、あんたがこっちにくるんだ。それと、この狼たちにも下がるようにいってくれ。」
狼たちは、言葉がわかるのか喉をならした。
「俺のいうことなんて、聞かないよ。だが、その子達を離せばなんとかなるかもな。」
ニクスはそういい、男に近づいた。
そのとき、ラギが叫んだ。
「ニクス、ダメ。僕たちなら、大丈夫。」
すると、ラギの手のひらに小さな光が集まり始めた。
「なんだ、このガキ?」
不審そうにラギを見る男。
ラギとシンを捕まえている男たちも、ラギのことを見ていた。
その隙をついて、ニクスは走り出した。
「ラギ、シン、伏せろ。」
ニクスの言葉に、その場にいた全員がニクスを見た。
ラギの手のひらに集まっていた光は、小さくなり消えた。
そして、ラギとシンは男たちの腕に噛みつき、痛みでラギたちを突き飛ばした。
ラギとシンは、転びそうになりながらも、ニクスに向かって走り出した。
そして、ニクスのもとにたどり着く前に、狼たちが男たちに襲いかかった。
ニクスはラギとシンを抱き抱え、後ろに下がった。
そして、男たちの断末魔をラギたちに聞かせないように、胸にだいた。
呆気なく男たちは、狼たちにやられた。
それを見て、ニクスは二人の手をひいて、その場を後にした。
お昼を食べた場所に戻ってくると、ニクスはラギとシンを座らせた。
「怪我はないか?」
ニクスは二人の頭を撫でて顔をのぞきこんだ。
「大丈夫。ニクス、無事?」
シンの言葉にニクスは、笑いながら答えた。
「それはこっちのセリフだ。とりあえず怪我がなくてよかった。」
ニクスは、ホッとした。
しかし、ラギの言葉がニクスを焦らせた。
「ニクス、あの人達、知り合い?」
ラギの問いかけにニクスは、言葉につまった。
ニクスが二人を見ると、二人はニクスを見ていた。
「別に知り合いって訳じゃない。ただ、顔を知ってるってだけだ。」
その答えにラギとシンは、首を傾げた。
「はあ、わかった。話すよ。」
ニクスは、またこのようなことが起きるかもしれないと思い、話し出した。
「あいつらは、ある人物の命令によって俺を探しに来たんだ。というか、殺しにきた。」
「?」
「?」
ラギとシンは首をかしげた。
「ま、分かりやすくいうとだな。」
ラギたちは、ニクスの言葉をまった。
「俺の親父がこの国の王で、五人の息子がいるんだ。そのうちの一人が俺だ。で、後継者争いがちょっと激しくなりそうだったから、一時的に逃げることにしたんだが。」
と、ここまで話してニクスは二人を見た。
二人は、よくわからないみたいで、やはり首を傾げていた。
「やっぱりわかんねぇよな。」
ニクスは苦笑いをして、二人の頭に手をのせた。
ニクスは、あの日のことを思い出していた。
後継者争いがいやになり、城から抜け出してしばらく旅に出ようと思い、実行した。
しかし、それを知った人物が、ニクスに刺客を差し向け、殺そうとした。
ある目的のために。
そんなことも知らずにこの森を通り抜け、隣国に行く予定だったニクスは、刺客に襲われ運悪く足を滑らせ川に落ちた。
その時に頭をうち、記憶をなくしていたが、ラギたちといるうちに、少しずつ思い出していた。
二人といると、また刺客が来たときに危険であると思っていたが、離れられなかった。
二人の笑顔にニクスの心が癒されていた。
実は、刺客を差し向けたのは、兄弟たちだけではなかった。
「まさか、親父まで俺を殺そうとするなんてな。」
ポツリと言った一言に、ラギは顔をあげニクスを見た。
「ニクス、泣いてる?」
泣きそうな顔をしていたのか、ラギやシンも不安そうな顔をしていた。
「いや、大丈夫。だが、これ以上ここにはいられない。今までありがとな。」
ニクスは二人の頭をポンポンとたたき、ゆっくり立ち上がった。
「ニクス?」
その様子にラギはニクスを不思議そうに見た。
「ごめんな。ここでお別れだ。二人とも元気でな。」
そういい、ニクスは二人に背を向け歩き始めた。
しかし。
「ニクス、ダメ。」
「ニクス、いかないで。」
二人は叫び、ニクスに抱きついた。
抱きついてきた二人に、ニクスは驚いた。
まさか、引き留められるとは思わなかったのだ。
「ニクス、一緒にいる。」
「ずっと一緒。」
二人の言葉に、ニクスは自分の心が揺れるのを感じた。
もう少しだけ一緒にいたい。
しかし、先程の刺客が仲間をつれていないとは限らない。
長居すればするほど、ニクスもラギたちも危険であることは確かだった。
ニクスの迷いを立ちきるように、一匹の狼が現れた。
「まさか、お前まで行くなっていうんじゃないだろうな?」
苦笑いを浮かべてニクスは、狼に話しかけた。
「その通りだ。人間、もう少しだけ二人といることはできぬか?」
「狼が喋った。」
ニクスは驚いた。
今までそんな素振りすら見せなかったのに。
何故。
「人間、我らも学習するのだ。」
「学習って、ありか?」
「何か問題でも?」
「いや、ないが。」
ニクスは深く考えるのをやめた。
よくよく考えれば、狼たちと一緒にいるラギたちも不思議なのだから。
「で、俺にどうしろと?」
「簡単なことだ。この場所が知られたというのならば、違う場所に行けばいいだけのこと。」
狼の言い分に、ニクスは頷こうとした。
「まあ、そうなんだけどさ。でも、結局は何も変わらないんじゃないのか?」
「ほう、変わらないとは?」
「考えてもみろよ。結局、違う場所にいっても、また見つかれば意味がない。」
「たしかにな。で、どうすると?」
ニクスは考えた。
どちらにせよ、一生逃げ続けるのはプライドが許さない。
ならば。
「後継者争いから抜け出せばいいのか?」
「つまりだな、後継者争いには参加しないってことをしらせればいいんじゃないのか?」
「どうやって?」
「直接親父に直談判すればいい。」
「つまり。」
「一度城に帰る。そこで、はっきりと跡目は継がないといえばいい。」
ニクスと狼のやり取りを聞いていたラギは、首をかしげた。
「そうすれば、一緒?」
ラギの問いにニクスは答えた。
「ああ、この国の王子を辞めるといえば、俺は王子でなくなる。ならば、一般市民として、暮らせるはずだ。」
ニクスの答えに狼はフンと鼻で笑った。
「そう簡単に行けばいいがな。」
「それはどういう意味だ?」
狼の意味深な言葉に不安をいだき、ニクスは尋ねた。
「そんな約束でおさまるのであれば、わざわざ殺しに来る必要がないのではないのか?」
その答えにニクスは考えた。
「つまり、城にはいかないほうがいいと?」
「わからん。とりあえず、会って話してみるのもありだがな。」
「結局、城に行かなければならないんじゃないか。」
ニクスは未だ抱きついている二人を見て、決心した。
「よし、城に行くぞ。」
こうして、ニクスとラギ、シンと一匹の狼はニクスの家である城に行くことになった。
しかし。
この行動から始まる一連の流れが、第二の魔王を生み出すことになるとは誰も思わなかった。
次の日、一行は城に向かって歩いていた。
しかし・・・。
「つか、この森抜けるまでどれくらいかかるんだ?」
「およそ半月だな。」
「は?それってどういう意味だ?」
狼の答えにニクスはマヌケな答えを返した。
「なんだ、わかっていなかったのか?この森には、ちょっとした魔法がかけてある。」
「魔法?それって・・・。」
「我らはかの君よりこの二人を護るように言われている。そのため、我らのちからで少し惑わせる魔法がかけてあるのだ。」
「つまり。どういうことだ?」
「少しは考えんか。つまり、森の外からの侵入者を惑わすためと、もし万が一さらわれた時にすぐに逃げ出せないように、と2重結界がはってあるのだ。」
狼の答えにニクスは聞いた。
「なあ、それって結界を解くとかできないのか?」
「できぬ。」
「そう簡単に言うなよ?なんでできないんだ?」
「かけたモノはすでにこの世にはおらん。」
「死んじまったのか。」
「ああ、ワライダケを食い過ぎてな。」
「はあ。」
その答えにニクスは疲れを感じた。
「なんか、いろいろ疲れてきた。」
「ニクス、大丈夫?」
「ニクス?」
ラギとシンの心配そうな声に、ニクスは笑顔を二人に向けた。
「大丈夫だ、それよりもお前たちも疲れたら言えよ?」
「分かった。」
「うん。」
二人はうなずき、ニクスと手をつなぎ、前を見て歩いた。
なんだかんだで、半月かけて森を抜け、とりあえずゆっくり休みたいということで、近くの町で宿をとった。
もちろん、ニクス、ラギ、シンの三人で。
「悪いが、どっかで休んでいてくれるか?さすがに狼をつれて町の中には入れないからな。」
「わかっておる。我をなんだと思っているのだ?」
「しゃべる狼。」
「わかっているではないか。ならば余計な心配などするな。ただし、二人に何かあればすぐに呼ぶがいい。」
そういうと、狼は森の方にゆっくりと歩いて行った。
町の宿でゆっくり休んだ三人は、次の日から城のある街に向けて歩き始めた。
城のある街までは、歩いておよそ一月。
何か移動手段はないのか、と言われても先立つものがなければ意味が無い。
そう、三人は絶賛貧乏まっただ中、であった。
「うう、金さえあれば、馬車とかで一気にいけるのに・・。」
「ニクス、バシャ、何?」
「ああ、馬車っていうのはな・・・。」
そんな会話をしながら、歩くこと一月半。
ラギたちという、子供がいるために一日の進む距離が少なかったので、思った以上に日数がかかっていた。
そして。
辿り着いた城のある街。
通称、白の都といわれている、ザクセン国の王都、イレーネ。
白の都と言われている通り、街全体が白で統一されていた。
「で、どうするのだ?」
「そうだな、とりあえず真正面から行くのはヤバそうだから、裏門からいくか。」
「つまらんな。」
「はあ、そうは言うが、いきなり正面で捕まって殺されたら意味が無いだろ?」
「だから、それがおかしいのだ。」
「それって?」
狼の言葉にニクスは、意味がわからなかった。
「森をでてから、一月半。その間一向に刺客らしきものがいないのは何故だ?それを考えなかったのか?」
言われてニクスは、ハッとした。
「そういえば・・・。」
「つまり、何らかの事情が発生していることになる。ならば、正面から堂々と乗り込むのもいいのではないか?」
ニクスは考えた。
「なるほど、じゃあ、正面から乗り込むか。ってか、俺は家にかえるだけなんだがな。」
よくよく考えれば、ちょっとばかり旅をして家に帰るだけ。
その途中に刺客があったりして、記憶をなくしたり、ラギたちと出会ったりして、いろいろなことがあったが。
「よし、んじゃ正面突破だ。」
ニクスは宣言どおりに、城の正門を目指した。




