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第5章 魔王のひみつ その2(2)


サツキは顔をあげ、質問した。


「誰なんですか?」


その質問に、魔王は答えた。


「勇者だ。」


その答えにサツキは驚いた。


「勇者?ってあの?魔王を倒しに来るって。」


「ああ、今の勇者じゃない。遥か昔の勇者だ。」


遥か昔の勇者。

一体どんな人物なんだろう?

変わり者の勇者。

変態、じゃないよね?

サツキは想像して焦った。


「おい、何を考えた?変なことじゃないよな?」


魔王の言葉に、サツキはビクッとした。


「え、そんなことは。」


目が泳いでいる感じでサツキは、嘘をつこうとした。


「やはり考えたのだな。目が泳いでいるぞ。」


ガンテツの一言で、バレた。


「ごめんなさい。だって変わり者だというから、つい。」


「ま、あながち間違いじゃないけどな。」


魔王の言葉にサツキはその人物に興味をもった。


「ねえ、その勇者って皆知り合いなの?なんか、知ってるみたいに話してたけど。」


「知り合いなわけないだろ?遥か昔の勇者だって言ったよな?」


「え、でも。」


「サツキちゃん、私たち竜族は記憶を見ることが出来るの。」


「そうやって過去に起きた出来事を知り、皆に伝えていくの。過去に何があったのかを。」


ラインとユキの話で益々分からなくなった。


「えっと、どういうこと?」


サツキは首をかしげて尋ねた。


「永いときを生きる竜族は真実を求める。」


「元々竜族は長命な魔族なんだ。長生きすると、三千年は生きることになる。」


その話にサツキは驚いた。

三千年。

気が遠くなるほどの昔。

そんなに長生きなんだ。


「ん?真実を求めるって?」


「この話をするには第2の魔王の話になるんだけど。」


ラインの言葉にウルちゃんが、答えた。


「安心するがいい。昨日カインから第1の魔王の話を聞いたばかりだ。」


「あれ、ウルちゃん起きてたの?」


「当たり前だ。護衛だぞ?」


「なんだ、昨日聞いたのか。ならば話そう。」


「そうね、あの変わり者の勇者のことを。」


ガンテツとラインがホッとした感じで話始めた。

第1の魔王が消えてから、数百年後現れた魔王の話を。


ーーーーーーーーーーーーーーー


その日。

綺麗な朝焼けの広がる空の下。

ある場所に二つの命が誕生した。

ひとりは、黒髪に青い瞳の男の子。

もうひとりは、金の髪に青い瞳の男の子。

双子で産まれた彼らが後に魔王と呼ばれるとは誰も思わなかった。

二人が産まれたのは、ある国の境目だった。

深く暗い森に小さな家が一軒あり、その家から少し離れた納屋で、産声をあげた。


「まさか、双子なんてな。」


「だから、言っただろう?こんな仕事引き受けるなって。」


納屋の外で二人の男たちが先程産まれた赤ん坊を見て、ため息をついた。


「仕方ないだろう?金額が半端なかったんだぞ?」


「それはそうだが。その時点で怪しむべきだったな。」


男たちが話しているのを聞きながら、納屋の中で産まれたばかりの赤ん坊に乳をやる女。


「ごめんね。でも大丈夫だから。きっと来るから。だから、待っててね。」


女は乳を飲む我が子に語りかけた。

赤ん坊は女の声に反応したのか、目線を女に向けた。

しかし、お腹が空いているのか、すぐにまた目線を戻した。

しばらくして、赤ん坊が睡魔におそわれ眠りについた。

ガチャっという音とともに納屋の扉が開かれ、二人の男が入ってきた。


「やっと産んだな。これでお前の役目は終わりだ。」


男は女に近づきそばで寝ていた赤ん坊を抱き上げた。


「待って、もう少しだけ一緒にいさせて。」


女は赤ん坊に向かって手をさしのべた。

しかし、その手は赤ん坊に届くことはなかった。


「さんざん待ったんだ。これ以上待てるか。」


そういうと男は右手に持っていた斧を振り上げ、女の上に降り下ろした。

悲鳴ひとつあげずに、女は倒れた。

斧を降り下ろした男は、その姿に眉をひそめた。


「なんだ、呆気なかったな。」


「まあ、いいんじゃないか?それより行くぞ。日が落ちる前に町までいかねぇとな。」


赤ん坊を抱いていた男は、納屋の扉を開けるように、目で合図した。


「へいへい、わかったよ。久しぶりに旨い酒にありつけるかな。」


そういうと納屋の扉をあけ、外に出た。


「なっ。」


すると、男は固まった。

扉を塞ぐ形で立ち止まった男に苛立ち、後ろから押すようにもうひとりの男も外に出た。

そして、同じように固まった。


「な、なんだこれは。」


「おい、まさかあの女が。」


焦りながらも男たちは、外に広がる光景から目をそらすことなく、話していた。


「バカいえ、そんなことできる暇があったか?」


「だが、あの女、魔族なんだろ?なにかしらできてもおかしくねぇ。」


男たちの目の前に広がるのは。

無数の狼。

その瞳はギラギラとひかり、男たちを見ていた。

そして、

一羽の烏が納屋の近くの木に止まったのを合図に、狼たちは、男たちに襲いかかった。


男たちは、慌てた。

赤ん坊を抱いていた男は、赤ん坊を狼たちにむかい放り投げた。

宙をとんだ赤ん坊を狼たちは、焦らずに口でくわえ、そのまま後ろに下がった。

そして、赤ん坊をくわえた狼たち以外は、容赦なく男たちに牙を向けた。

男たちは、数秒もせずに血にまみれ狼たちに食われていった。

それを見た烏が赤ん坊をくわえた狼のもとに降り立った。

すると、烏の姿がぼやけひとりの男が現れた。


「間に合わなかったか。」


赤ん坊に近づき二人の頭をゆっくりと撫でて、その姿を目に焼きつけるように、じっと見つめた。

そして、狼たちにこう言った。


「安全な場所につれていけ。そして、護れ。」


男の言葉に狼たちは、一声鳴いて了承の意を伝えた。


「行け。」


狼たちは、その言葉を通りに赤ん坊を連れて走り去った。

男はそれを見送ってから、納屋の中に入っていった。

そして、中で倒れている女のそばにひざまずき、女の体を抱いた。


「すまなかった。辛い思いをさせたこと、一人にしたこと。全て俺が悪かった。」


男は女をきつく抱き締めた。

そして、顔を女の首筋に近づけ、甘く香る女の匂いに酔いしれた。

そして、囁いた。


「だが、もう離れない。」


男は一度目を瞑り、女の顔をしっかりと見て、一言発した。


「弔いの焔を。」


その言葉が呟かれると、納屋は焔に包まれた。

そして、全てが灰になった。

後に残されたのは、黒く焦げた地面だけだった。


赤ん坊をつれた狼たちは、走った。

安全な場所を探すために。

しかし、なかなか安全な場所にたどり着かなかった。

それでも狼たちは、探し続けた。

あの男が最後に口にした言葉をまもるために。


どれだけ移動してきたのか。

徐々に狼たちにも疲れがみえはじめてきた。

そして、ようやく見つけた。

人里から離れ、自然豊かな森を。

そこにあった洞窟を狼たちは、住みかにすることにした。


それから5年の月日が流れた。

狼たちに育てられた赤ん坊たちは、元気に育っていた。

しかし、人の子として育てられたのではなく、狼の一員として育てられたため、人の言葉を話すことはできなかった。

だが、本人たちはあまり深く考えずに毎日狼たちと戯れていた。


そんなある日のことだった。

いつも通りに森を散歩していた二人は、川沿いに倒れている人を見つけた。


初めて見る自分達以外の人の姿に二人は興味を持ち近づいた。

その人物は頭から血を流して川辺に手を伸ばした状態で倒れていた。

おそらく上流から何らかの事情で流されてきたのだろう。

二人はじっと見つめた。

そして、黒髪の男の子が近づき、その人物をゆすった。

しばらく何も反応がなかったが、小さくうめき声が聞こえてきた。


「うっ。」


その人物はゆっくりと目をあけた。

そして、近くにだれかいることに気づき、そちらに目線をやった。

それに気づいて男の子はその人物から離れ、金髪の男の子のもとに戻った。

金髪の男の子は黒髪の男の子の後ろから、少しだけ顔を出し男の様子をうかがった。

男はそれを見て一度目をとじた。

そして、ゆっくり目をあけた。


「ここはどこなんだ?」


男の声に二人はビクッとした。

その様子に男は気づきゆっくり話始めた。


「驚かせてすまんな。しかし、私は怪しいものじゃない。」


そこまで話してから、男は自分が川のそばで倒れていることに気づいた。


「おや?何故こんなことになっているんだ?」


そして、頭から血を流していることにも気がついた。


「なにがどうなっているんだ?私は。」


男は、少しふらつきながら立ち上がり、ゆっくり男の子たちに近づいた。

二人は男の様子をじっと見つめていた。


「すまんが、何か話してくれないか?でないと、状況がわからないんだ。」


困った感じで男は二人に話しかけたが、答えはなかった。

それもそのはずだった。

二人は男の話した言葉が全く分からなかった。

男はさらに二人に近づこうとした、次の瞬間。

男は後ろから何かに体当たりされ、前のめりに倒れた。


「っつ、一体なんだ?」


男はゆっくり後ろを振り返り固まった。

そこにいたのは、十匹近くの狼たちがいた。


「狼?何故こんなところに?」


男は、痛む頭で考えた。

そして、判断した。


「すまないが、私は誰だろう?そして、君たちは?さらにこの狼たちは、なんだ?」


男は記憶を失っていた。

黒髪の男の子は、男の様子に興味をもった。

後ろに隠れている金髪の男の子も、少しだけ気になっている。

男の子たちは、狼たちに伝えた。

彼としばらく一緒にいたい、と。

狼たちは、それはダメだといった。


しかし、男の子たちは、粘った。

そして、最終的に危険であると判断した場合には、即刻排除することで、狼たちが妥協した。

男の子たちは、よろこんだ。


こうして、謎の男と二人の少年たちは一年の月日を一緒に過ごすことになった。

はじめの頃は言葉が通じなかったために、身ぶり手振りで意思疏通を図った。

男と少年たちが少しずつ打ち解け始めると、男は少年たちに言葉を教え始めた。

記憶を失っていても日常的なことは、覚えていたため、男はいろいろな言葉を教えていった。


男と出会ってから少年たちは、毎日新しいことを覚えていった。

言葉はもちろん、人として最低限の生活ができるように、簡単な計算まで覚えた。

そして、男は少年たちに、名前を与えた。


黒髪の男の子は、ラギ。

金髪の男の子は、シン。


そして、男の仮の名前を、ニクス、とした。


「ニクス、お腹、すいた。」


ラギの声に気づきニクスはゆっくりと顔をあげた。


「おお、もうそんな時間か。少し待ってくれ。それよりシンはどうしたんだ?」


ニクスは、石の上ですりつぶしていた薬草を少しなめた。

苦い。

しかし、この薬草は腹痛にきく。

昨日から少し腹の調子が悪いニクスは、我慢して口にした。


「くぅ、苦い。」


「ニクス、大丈夫?シン、川にいる。ご飯、行く。」


ラギの言葉にニクスは、シンがご飯の準備のために、川の近くにいることを知った。


「それじゃあ、行くか。今日はたくさんとれるといいな。」


「うん、がんばる。」


ラギの頭に手をのせ、優しく撫でてから手をつないで歩き始めた。

知り合ってから一月半がすぎていた。

二人の少年はニクスに教えられた言葉を、片言だが、喋れるほどになっていた。

そして、ニクスは記憶を失ったままではあるが、二人とともに楽しい毎日を過ごしていた。


「ニクス、頭、無事?」


「うん?痛くないかってことか?まだ時々痛むときもあるが、大丈夫だぞ。心配ありがとな。」


ラギはニクスの言葉に照れたように笑った。

そして、川についた。

川の中で、じっと川の流れを見ている金髪の少年がいた。


「シン、待たせたな。ラギ、3人で誰が一番とれるか競争だ。」


「がんばる。」


「ニクス、遅い。シン、頑張ってる。」


「悪かった。じゃあ一番大きいのをシンにやるからな。」


それから3人で魚を捕まえようとしたが、結局、誰ひとり魚を捕まえられなかった。

長い時間川にいたため、体が冷えてきたので焚き火をした。

そこに、ドサドサっと大量の魚がおかれた。


「ん?いつもすまんな。助かるよ。」


ニクスは驚かずに、魚をおいた相手に礼をいった。

それは、狼たちだった。

最初に比べれば少し打ち解けた様にみえるが、まだまだ心を許しているとは言えず、ニクスの言葉を無視して、ラギやシンのそばに寝そべった。


「ま、いつものことか。」


ニクスは苦笑いをして、魚を焼き出した。

辺り一面にいい匂いが広がると、3人の腹がなった。

3人は顔を見合わせて笑い、ニクスが二人に魚をわたした。


「さあ、たくさん食べるんだぞ。」


「うん、たくさん食べる。」


「ぼくも、食べる。」


二人は、どんどん食べていった。


「さて、食べ終わったら昼寝だな。」


ニクスは、二人が食べ終わったので、木陰においやった。


「ニクス、寝る?」


シンに言われて、ニクスは笑いながら答えた。


「おう、片付けたらな。」


二人は、仲良く手をつないで眠りについた。

それを見て、ニクスは微笑み、空を見上げた。


「はあ、そろそろ動かないとヤバイな。」


その小さな呟きは、二人の少年には聞こえなかった。

ニクスは手早く火の始末をして、二人の隣に寝転び、眠りについた。


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