第4章 魔王の秘密(8)
「おじいさま、いえ。カルロ三世陛下、お願いがあります。」
エリスの声にカルロ三世は柔らかい微笑みを浮かべ、続きを促した。
「すぐには無理だと思います。でも、魔族と人間の双方が平和に暮らせる世界を作っていきたいのです。そのために協力していただけませんか?」
その話を聞いて、アージェンは目を見開いた。
自分は魔族を守る為に自国に結界をはり、ひそかに生きてきた。
しかし、エリスは。
天空神殿の主であるカルロ三世。
その人物の協力を得るということは、世界中に魔族の存在を受け入れさせることになる。
もしカルロ三世が一言、魔族と仲良くしろと命を発すれば。
世界はどうなるのだろう?
世界に多大なる影響をもつ人物の一言。
その言葉は一言でも重い。
それを知っているからこそエリスは、カルロ三世に協力要請をしたのか。
カルロ三世は、その言葉を受けエリスを見た。
「エリス、いや、エリス姫。あなたの言っていることはよく分かる。しかし、それを実現するのはかなり難しいとだけ言っておこう。」
カルロ三世の言葉にエリスは微笑んだ。
「分かっています。ですから少しだけでも変えたいのです。せめて魔族を討伐することのないように。魔族が悪であると決め付けないように。」
エリスの意志が変わらないことをしり、カルロ三世はため息をついた。
「また、厄介なことをいうな。だが、天空神殿の主として、この世界に住む者であるならば保護する義務がある。よかろう。エリス。その意志を尊重しよう。我が命において、魔族を保護できるように案件をだすことにしよう。」
その言葉にエリスはカルロ三世に抱きついた。
「おじいさま、ありがとう。無茶ばかり言ってごめんなさい。」
抱きつかれたカルロ三世は、少しにやけていた。
「エリス、離れろ。」
アージェンはすぐにエリスとカルロ三世を引き離した。
「なんじゃい、少しくらいいいではないか。減るものでもあるまい。」
「いや、減るから。」
アージェンとカルロ三世の会話で少し場が和んだとき。
「おい、オレの存在を忘れてないか。」
少し小さいがはっきりとした声が聞こえた。
「あ、忘れてた。わりい。」
『あら、そういえばいたわね。』
「そうでしたね、完璧に存在がなかったですね。」
「おお、まだいたのか。」
「ってか、誰だっけ?」
アージェン、リリー、ネス、カルロ三世。そしてエリス。
それぞれからの言葉にダリス皇子はすっかり落ち込んだ。
「いいんだ、いいんだ。どうせオレなんか。」
いじけて床を指でグリグリしていた。
「だから、悪いって。で、なんだ?」
あまりの落ち込みにアージェンがダリス皇子に声をかけた。
それに、パッと顔を向けて、少しまじめな顔をした。
「さきほどから話している件だが。魔族と人間が一緒に暮らせる世界をつくるだと?」
「ええ、そうよ。時間がかかるのは分かるけど一歩でも前進したいの。」
その言葉にダリス皇子は。
「無理にきまっているだろう?」
「なっ、何をいうのよ?すぐには無理かもしれないけど、いずれは。」
「いくら天空神殿からの言葉とはいえ、今までどのくらい魔族と人間の間に争いが起きたかしっているのか?」
ダリス皇子の言葉にエリスは戸惑った。
「いえ、知らないわ。」
「およそ、2万件だ。小さな事件なども含めると、倍にはなるだろう。」
その数にエリスだけでなく、アージェンも驚いた。
「それは本当なのか?」
アージェンはダリス皇子に尋ねた。
「ああ、各国に問い合わせて調べたから間違いない。ちなみにこの数字は過去30年間のものだ。これでわかっただろう?夢物語をいうのは、子供のうちだけにしておけ。」
「な、そんな言い方をしなくても。」
「どんな言い方をしても変わらない。だから。」
ダリス皇子は一度言葉をきり、アージェンを見た。
「だから、我が国も協力してやる。」
その言葉にアージェンは驚いた。
ダリス皇子の国は、魔族の実験を行っていた。
ある意味世界中でいちばん魔族にとって危険な国である。
それが何故。
「何故だ?」
アージェンは短くダリス皇子に聞いた。
「償い、みたいなもんだ。知っているのだろう?我が国が行っていたこと。」
「ああ。」
低く重い言葉をアージェンはかえした。
「魔族が全て悪い訳じゃないことは知っていた。しかし、異端であることは人にとって不安要素にしかならないんだ。そのことはわかってほしい。」
ダリス皇子はアージェンに伝えた。
そして、カルロ三世に言った。
「我が国が世界でも有数の軍事国家であることはご存知ですよね。その事を踏まえて、魔族の保護に対して合意をすれば、かなり案件をとおしやすいのでは?」
ダリス皇子の言葉にカルロ三世は考えた。
確かに天空神殿、聖リンカ、この二つが案件に賛成してもまだまだ世界中を納得させることは難しいだろう。
しかし、クテルクス帝国は世界にかなり影響力をもっている。
味方につければ、かなり楽になるだろう。
「その言葉に二言はないな?」
カルロ三世はダリス皇子を見た。
「クテルクス帝国の皇子として、誓います。」
ダリス皇子の言葉にカルロ三世は頷いた。
「ならば、協力を頼むとしよう。」
こうして、天空神殿で行われていた王族会議の最終日に、エリス姫の帰還、魔王の討伐が不要であること、さらに魔族の発見を知らせる機関の設立、この3つが大きな出来事して、世界中に知れわたった。
後にこの3つをまとめてこうよんだ。
カルロの三大魔力大事件、と。
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「とまあ、こんな感じで第一の魔王はエリスに倒されたことになり、世界中にいた魔族たちは、天空神殿に一度集まり、その後魔族の国に送られることになったんですよ。」
あまりに想像とはかけ離れた話にもサツキは驚いた。
「でもカインさん、天空神殿からの話で世界中の人がきちんと納得したんですか?」
「いえ、そう簡単にはいかなかったみたいです。まあ、仕方ないのかもしれませんが。」
カインはサツキにニッコリ笑った。
「ちなみに、魔族の間ではこの事件は、リリーの暴走事件と言われてるんですよ。」
その答えにサツキは笑った。
「ふふっ、暴走になっちゃうんですね。」
カインは、ウルちゃんを見てサツキに目を戻した。
「サツキさん、実はこの第一の魔王の話にはちょっとした続きがあるんです。」
「続き?」
首をかしげて、サツキはカインの言葉をまった。
「はい、第一の魔王アージェンは魔力で魔族の国を結界で守っていた、といったでしょう?実は今もその結界はあるんです。」
その言葉にサツキは目を見開いた。
「それって。」
「現在の魔王様の魔力を使って結界を維持しているんです。ある条件が揃うまで。ですから、サツキさんが帰るための魔方陣に魔力をそそぐことができないんです。すいません。」
そういいカインは頭を下げた。
「いえ、気にしないでください。皆さんがいろいろと、考えてくださっているのはわかってますから。それに最近ゆっくりしてなかったので、ちょうどいいですよ?」
サツキはカインに頭をあげてもらうようにお願いした。
「まあ、とりあえず今日はこの辺りで失礼しますね。」
カインの言葉にサツキは窓の外を見た。
陽はすっかり落ちていて、辺りは薄暗くなっていた。
いつのまにか部屋には明かりが灯されており、ウルちゃんも、サツキの足元に移動していた。
「もうこんな時間だったんですね。すっかり話に夢中になってました。」
「では夕飯の用意をさせますね。」
そういうと、カインは部屋を出ていった。
「はあ、なんだかいろんなことが頭の中をグルグルしてる。」
「疲れたのか?」
ウルちゃんの言葉にサツキはうなずいた。
「うん、だって、本当のお話と違いすぎちゃって。」
「仕方のないことなのだ。これは。」
悲しそうにいうウルちゃんに、サツキは首をかしげた。
「どうしたの?」
サツキの言葉にウルちゃんは、尻尾をふり答えた。
「さあ、夕食がくるまで休むといい。疲れているはずだ。」
ウルちゃんの言葉にサツキはうなづき、目を閉じた・・・。
そして、そのまま眠りについた。




