第4章 魔王の秘密(6)
そして、迎えた会議最終日。
王族たちは前日までに広まった噂でそわそわしていた。
会議最終日にエリス姫より話がある。
それは魔王討伐にも関係している。
王族たちはそれぞれ早めに会議場に集まり、席についていた。
そこに会議開始の5分前に聖リンカ王国の王が現れ、会議直前にカルロ三世が現れた。
王族たちは彼らの行動をちらちらと見ていたが、いつも通りに無関心を装い、席についた。
そして、会議始まりの鐘が鳴った。
それは、この世界を変える鐘の音でもあった。
「それでは最終日の会議を始めます。」
進行役のネスはいつもどおりに会議開始を伝えた。
「まず、はじめにこの6日間で締結された案件について・・・・。」
そして、会議最終日にふさわしくこの期間にきまった案件や条約について説明が行われた。
普段よりその話が長くなったのは、カルロ三世が様々な案件にかかわったからであるが、王族たちの耳にはほどんど伝わっていなかった。
エリス姫の登場はどうなっているのか。
そのことだけに王族たちは集中していた。
それに気付いているカルロ三世は知らん顔でいたが、クテルクス帝国の皇子だけは違った。
「では、次に・・・。」
「すこしよろしいですか。」
ネスの言葉をさえぎりダリス皇子は、カルロ三世をみて話しだした。
「カルロ三世陛下の初日の言葉にありました、エリス姫の件。これはいったいいつお話いただけるのでしょうか?」
王族たちの正に聞きたかった言葉をはっきりと言った、ダリス皇子にカルロ三世は視線を向けた。
「皆様、そのことが気がかりで会議の内容が入っていないようなのですが。それよりは早めにそのことをお話いただけたらと思っております。」
立ち上がり優雅に一礼したダリス皇子に、フンと鼻をならしカルロ三世も立ち上がった。
「それほどにきになるか。ならば少し早いが話すとするか。」
そして、ネスに視線をやり、一つうなずいた。
それに答えてネスは会議場を後にした。
「しばし、待たれよ。」
ネスが出て行ってから15分くらいたったであろうか。
会議場の扉が開かれ、ネスが入ってきた。
その後ろにはベールをかぶった1人の人物を伴い。
その姿に王族たちは、目を見開いた。
ベールにより顔は見えないが、白いドレスを着たその人物に何故か奇妙な感覚をもった。
どこがどう、とはいえない。
しかし、何かが違う。
そう思ったのは会議場にいたすべての王族たちであった。
ベールを被った人物をみて、カルロ三世は穏やかに笑った。
「すまないな。早めに呼び出したこと。体調は大丈夫か?」
その答えに、声は小さいがしっかりした口調でベールを被った人物は答えた。
「はい、カルロ三世陛下のおかげをもちまして体調もかなりよくなっております。」
それを聞き、カルロ三世は王族たちを見回して、言った。
「このベールを被っている人物こそ10年前にさらわれたエリス姫本人である。このベールを取ることはわけ合ってできない。しかし、声はエリス姫であることがわかるはず。」
確かに、声は10年前のあの日。
さらわれたときに聞いた声と同じであった。
「では、この10年の間に何があったか、皆に話してくれ。」
カルロ三世の言葉にエリスは頷き話し出した。
「私はあの日この天空神殿からさらわれました。魔王の手によって。そして連れていかれたのは、魔族たちの住む国。その国は魔王により支配されていました。私は魔王の住む城にある塔に閉じ込められました。部屋にはベット、テーブル、イスがありそれ以外は何もなく、私は独りベットに座り何か出来ることはないかと、考えました。」
そこで、一息つくように言葉をきった。
そして話を続けた。
「しかし、何も思い浮かばなかった。」
小さくため息をつき、首をゆるく横にふった。
「だって相手は魔力を持つ最強の魔族なんです。剣や槍の使い手ではなく、特別な力もない私は、ただ祈ることしかできませんでした。どうか、私に魔王を倒す力をと。数日、数週間、祈り続けましたが、神は何も答えてくれませんでした。祈りが足りないのかと、さらに祈り続けました。月日がたつにつれてふと、気がつきました。ある不思議な暖かさが胸のうちにあることに。」
そこでエリスは、胸元に手を持っていき手を握りしめた。
「この暖かさは少しずつ大きくなっていきました。そして気づいたんです。これが神から与えられた魔王を倒す力だと。魔族たちから感じる不気味な力とは違い、光や希望が感じられる力を手にいれたんです。しかし、まだ魔王を倒すには足りなかった。だから、さらに祈り続けました。魔王を倒せるだけの力を手にいれるために。」
「そして、ついにそのときは訪れました。魔王を倒せるだけの力を手にいれたことに。だから、私はその力で魔王を倒したんです。倒せたからこそ、この光溢れる世界に戻ってこれました。皆様、安心してください。魔王はもういないんです。」
そしてエリスは、胸元から1枚の黒い羽をとりだした。
「これが魔王を倒した証です。これは魔王の羽です。」
エリスは、そういうと羽をカルロ三世に見せた。
「カルロ三世陛下、お分かりになりますか?邪悪なる力が。」
「ああ、分かる。邪悪なる力の一部であったことが。」
カルロ三世はエリスに頷いた。
そこに鋭い声があがった。
「でたらめを言われては困りますね、エリス姫。なんでも話を作ればいいわけでは、ないんですよ?」
そういい立ち上がったのは、クテルクス帝国のダリス皇子であった。
「でたらめ?何を証拠にそのようなことを仰るのですか?」
「わかりませんか?全てですよ。第一に祈りで力に目覚めるとはどういうことですか?第二に10年もかかり魔王をたおしたとは?第三に魔王を倒した後に魔族たちはどうしたのですか?さあ、全てにお答えください。」
「それは今言わなくてはいけませんか?」
「それはどういう意味です?」
エリスの言葉にダリス皇子は戸惑った。
「今は魔王が倒されたことを喜ぶべきではありませんか?世界中にこの事を知らせて、民を安心させるべきでしょう。」
そういいカルロ三世を見た。
「カルロ三世陛下、全世界に通達を。魔王の脅威は去り、平和が再び訪れたと。」
その言葉につられたように、カルロ三世は立ち上がった。
「そうだな。」
カルロ三世は、王族たちに向かい声を張り上げた。
「皆、直ちに国に帰り魔王の脅威が去ったことを国中に知らしめよ。」
その言葉に頷き、王族たちは会議場を後にするため立ち上がった。
「お待ちください。話しはまだ終わっていません。やはり、その話しはおかしいです。まさか、エリス姫、あなたは。」
ダリス皇子はエリスをじっと見た。
そして、何か気づいたように目を見開いた。
「まさか、魔王に操られているのでは?」
その言葉にエリスはビクリと肩を震わせた。
「な、何を根拠にそのようなことを?」
「先程あげた疑問点を全て答えられないのは、そういう意味ではないのですか?魔王に操られ、魔王を倒したと世界に広め人びとが安堵したところを、魔族たちが襲う。エリス姫はその計画の一端を担っているのでは?」
エリスは、ダリス皇子の言葉に狼狽えていた。
そして、カルロ三世もまたダリス皇子の言葉を考えて、顔色を変えていた。
「エリス、ダリス皇子が言ったことは事実なのか?」
カルロ三世はエリスを疑いの眼差しで見た。
しかし、明らかに動揺しているエリスを見て、ダリス皇子が正しいのだと、感じ取った。
「ダリス皇子、ワシはどうすればいいのか。」
イスにドスンと座り、頭に手をやり目をつぶり首をふって、カルロ三世はダリス皇子に尋ねた。
その言葉を待っていたようにダリス皇子は優しく答えた。
「大丈夫です。カルロ三世陛下、実は我が国は魔力による研究をしておりまして。エリス姫が本当に魔力をもっているのならば、私にお任せいただけませんか?」
「それはどういう意味だ?」
「魔族たちを使った研究は既に全てやり終えております。しかし、人に魔力が備わった例は未だに知りません。エリス姫を我が国に渡していただければ、魔力の全てが分かるかもしれません。」
そこでダリス皇子はエリスをじっくり見て、ニヤリと、笑った。
「元々婚約者であったのですから、我が国に連れていくのはかまわないでしょう?」
「いや、しかしだな。」
「ご安心ください。実はもうひとつ秘密にしていたことがあります。しかし、これをいうのは。」
意味深に言いカルロ三世を見たダリス皇子。
その意味に薄々勘づきながらもカルロ三世は尋ねた。
「何が目的だ?」
望んだ答えを聞き、ダリス皇子はひとつ頷いた。
「流石はカルロ三世陛下。よくお分かりになりましたね。何、簡単なことです。陛下の後継者に推薦していただければ、それで。」
その言葉を聞いて、カルロ三世は目を見開き、うつむいた。
そして。
そこに、第3者の声が響いた。
「成る程なぁ、要はじいさんの後がま狙いな訳か。」
その声にダリス皇子は、ハッとした。
会議場を見回しても誰も声をあげた気配はない。
いや、むしろ。
「静かすぎる。」
エリスやカルロ三世との会話に集中していたため、気がつかなかったが、王族たちの誰独りと話し声がしていない。
そこで、ある人物が立ち上がった。
それは、聖リンカの王であった。
「これは聖リンカ公国の王よ、何を言われるか?」
天空神殿の主。
ある意味、世界の主ともいわれ、その力は絶対的なもの、手にいれるために数多の人が何を犠牲にしても手にいれようとしている地位。
「だから、お前のような小物には無理だな。あきらめて、帰れば?」
いつもとは全く違う聖リンカの王に、ダリス皇子は眉をひそめた。
姿は同じでも纏う空気は全く別人。
「貴様、何者だ?」
ここでダリス皇子は、ここにいる聖リンカの王が偽物である可能性に気づいた。
「はあ、気づくのおせぇよ。ったく、こっちはかなり前から準備してたのに。」
「何を?」
ダリス皇子の問いに、カルロ三世もため息をついて答えた。
「まだわからんのか?これは貴様を嵌めるためのワナだ。」
その意味にダリス皇子は目を見開いた。
「カルロ三世陛下、どういうことですか?」
「いやぁ、こんなに簡単に引っ掛かるとは思いませんでしたよ。」
「それはつまり、俺の仕掛けかたが上手かったってことだよな。」
「何をいうか、ワシの演技力が一番じゃ。」
「はあ、じいさん。それはないわ。」
「はい、カルロ三世陛下、一番ヤバかったですよ?」
「だよな。あれは笑いをこらえるのに必死だった。」
「貴様ら、そこを動くなよ。」
カルロ三世が、拳を振り上げ二人に迫っていく。
「ちょっと待て。一体なんのことだ?ワナとか、嵌めるとか。つまり、私は騙されたと?」
あくまでも自分が優位であることを疑わず、高圧的な態度で話すダリス皇子。
その姿に三人はため息をついた。
「まだわかってないらしいな、この皇子さまは。」
「バカを相手にするのは、そろそろ勘弁してほしいのですが。」
「ならば、ネタバラシすればよかろう?」
「めんどくさい。」
「右に同じく。」
「だから、さっきから何を言っているんだ?」
相手にされずビミョーに放置されているダリス皇子も、そろそろ苛立ってきていた。
「仕方ない。話してやるよ。」
そういい、聖リンカの王は目を閉じなにかを呟き始めた。
「偽りの姿は鏡のなかに、真実の姿は我が思うままに。」
すると、聖リンカの王の姿が揺らぎはじめ、消えた。
そのあとに現れたのは。
魔王アージェンであった。
その姿にダリス皇子は息をのんだ。
「まさか、あのときの魔族。」
「一応訂正すると、魔王だ。」
「そんなに簡単に教えるんですか?」
「ああ、アッチも気になるしな。」
「アッチ?エリス姫ですか?」
「いや、エリスなら大丈夫だ。俺が言いたいのは。」
『いやだわ、結界なんかはるなんて。ありえないわ。』
そこに突如聞こえた女性の声。
その声にダリス皇子は、ハッとしてあたりを見回した。
「遅いぞ、なにをしていたんだ。」
『あら、こっちにも事情ってものがあるのよ?』
「つべこべ言わずにさっさと姿を現せ。」
言われたとおりにダリス皇子の隣に1人の女性が姿を現した。
『ちょっと手間取ってしまったわ。』
その姿は出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。
完璧なプロポーション。
そして、その肉体美を前面てきにおしだすような服装。
つまり、見る人がみれば見ほれてしまう姿であった。




