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新しい形

《げ、維心がなんか結論出したみてぇだぞ。こっち見てる、呼ぶんじゃねぇのか。》

維月は、え、と鼻をかみながら下を見た。

確かに、維心がこちらを見上げている。

《え、え、どうしよう。》維月は、月の中で右往左往した。《覚悟ができてない!十六夜、行って来て!》

十六夜は、ブンブンと首を振った。

《お前のことだろが!》

そして維心の声がした。

《維月。話せぬか?》

《ほら!》十六夜は、言った。《逃げてても駄目だ!行け、ルシウスがせっかくいろいろ言ってくれたのに!》

維月は、それでもぐずぐずした。

《…何を話せば良いの?最近間近で見てなかったから、あんなに美しいものを見たら陰の月が出ちゃう!》

十六夜は、グイグイと維月を押した。

《だから!出てもいいからとにかく行け!今しかない、あいつが話す気になってるうちに!》と、ドンと突き飛ばした。《行・っ・て・来・い!》

《きゃあ!何するのよ十六夜!》と、維月は落ちて行った。《…きゃあああ!!》

…ま、親父も居るし怪我はしねぇだろ。してもすぐ治らぁ。

十六夜は、そう思って維月が正確に龍の宮の庭に向かって落ちて行くのを見送ったのだった。


維心は、返答かないのでやはり駄目か、と踵を返そうとした。

すると、月が何やらキラと光った。

「…?」

降りて来る?

だが、いつもと様相が違った。

物凄いスピードで、しかも人型になるのが追い付いていない。

どうも、足を滑らせて落ちたような感じに見えた。

…落ちて来ておるのか?!

維心は、慌てた。

いきなり呼んだので、慌てたのだろうか。

維心は急いで窓から庭へと飛び出して、落下地点を予測しながら右往左往した。

すると、黒い霧がいきなり大量に周辺に現れて足元をウロウロし始め、維心はギョッとした。

だが、維心など目もくれておらぬようで、憑く様子はなかった。

地の気も、何かを警戒するように移動しているのが分かる。

つまりは、恐らく碧黎が構えているということで、維月が間違いなく落ちて来ているのだ。

とすると、この霧はルシウスだろう。

上を見ると、維月がやっとのことで人型になりながら半分光で落ちて来ているのが目視できた。

「維月!」

維心は、腕を伸ばして飛び上がりながら声を掛けた。

だが、完全に実体化しないと、受け止めることができない。

碧黎もルシウスも構えているので、物理的に受け止められないとしても二人が何とかするだろうが、できたら自分が助けたかった。

「早う実体化せよ!受け止められぬ!」

維月は、念とも実体ともどちらとも取れる声で答えた。

『もう、もう実体化できますので!」

確かにほぼ、完成形だ。

最早ハッキリと姿が見えた維心は、両腕を広げた。

「維月!」

「維心様ー!」

宙でぶつかるように維月を抱き留めた維心だったが、その衝撃で後ろへと吹っ飛ばされ、急いで気を後ろへと放って勢いを逃そうとしたが、その前に碧黎の気がグンッと盛り上がって来て、その間に霧が挟まるような感じでクッションのように二人はバウンドして、そして維心は維月を抱き留めたまま地面に着地した。

維月は確かに実体化していたが、髪は金色で目は真っ赤だった。

「維月…何を急いだのだ。何と危ない。」

維心が言うと、維月は下を向いたまま、言った。

「あの…あの、申し訳ありませぬ。慌てたので姿が定まりませぬで。焦ると元の色になってしもうて。」

維心は、首を振った。

「良い、我が急に呼んだりしたゆえ、焦ったのだの。」

しかし、碧黎が言った。

《十六夜が突き落としおったのだ!》碧黎の声が怒っている。《何をしよるのよ、大事な維月に!》

十六夜の声が、上から答えた。

《維月がもたもたしてたからよー。そもそも、親父が居るのに怪我なんかするかよ。分かってたから突き落としたの。怪我したってオレ達は死なねぇじゃねぇか。すぐ治るのによ。》

確かにそうだけど、すごく痛いのに。

維月は思って、むっつりと空を睨む。

碧黎は、息をついた。

《とにかくやめよ。ルシウスも構えておったから大事には至らぬと分かっておったが焦るのだ。》と、スーッと消えて行く霧を横目に見ながら、言った。《…待てルシウス。我は地の陽の碧黎ぞ。主の所へ行く。話そうぞ。》

すると、ルシウスの声が答えた。

《…地からまで話しかけられるとは思うておらなんだ。ならば参れ。》

そして、霧は消えた。

碧黎の声も、それで途絶える。

維月は、その間も何とかいつもの姿に戻ろうと、髪の色が茶色になったり緑になったり忙しかったが、やっと気持ちが落ち着いて来たのか、元の黒髪に鳶色の瞳へと落ち着いて、維心を見上げた。

「あの、もう大丈夫ですわ。お待たせいたしました。」

維心は、頷く。

「ならば、中へ。今、会合の間は誰も居らぬから。」

維心は、維月を腕から離すと、歩き出す。

維月は、頷いて維心の後ろについて、歩いて会合の間へと入って行ったのだった。


会合の宮会合の間は、とても広くて音が反響し、二人の足音がコツコツと大きく聴こえる。

維月は、龍の宮でこんなに緊張するのもいつぶりだろうと思いながら、椅子が多く置いてある場所へと歩いて行った。

「座るが良い。」

維心が、椅子に座ったのを見て、維月もその向かい側の椅子へと、腰かけた。

維心は、言った。

「…こうして向かい合って話すのも、久方ぶりぞ。我が、考えることをやめておったから。ここ最近の騒ぎが収まったらと思うておったが、よう考えたら本日ここへルシウスが来たことで、この騒動も一応の終わりを迎えたのだろう。我は、考えたのだ。」

維月は、頷く。

こんなに美しい神の、側近くに平気で居た自分が、今では信じられないぐらいだ。

だが、だからこそ、今の維月には現実離れしてしまっていて、離縁を通告されても割り合いとあっさり納得できそうな気がしていた。

維心は、続けた。

「だが、主がどう望んでおるのかまず聞きたい。主は、ここへ王妃として戻ろうと思うか。」

え、私が先?

維月は、びっくりしたが、答えないことなど出来ない様子なので、答えた。

「…私は、維心様のお話を聞いてから話そうかと思うておりました。私は、上でルシウスが話すのを聞いておりました。維心様が、あれを聞いてどう結論を出されたとしても、それに従おうと思うております。」

維心は、真剣な顔で、言った。

「それは、我が戻れと申したら戻るということか?」

維月は、え、と目を丸くして維心を見つめた。

「維心様は私に戻って欲しいとお考えですか?これまで通りには、ならぬと分かっておられるのに?」

維心は、息をついた。

「…我は、やはりまだ主を愛しているのだ。簡単には無くなる気持ちではなかろうが。だが、結局我は、主を深く理解していると思っていながら、理解していなかった。会ったばかりのルシウスが、あれほどに主のこれまでの苦労をあっさりと理解しておるのに、我には何も。主に愛想を尽かされても、仕方がないのだ。」

維月は、同じように大きなため息をついた。

「…私も、それまで散々にご迷惑をお掛けして来て、それでもお傍に置いてくださっておったのに、闇である自分を受け入れないというだけで、あっさりと二度とお会いしないと申したことは、反省致しておりました。ですが、あの瞬間に壊れた何かは、もう元には戻りません。ルシウスが申しておったように、これまでのように激しく愛すると言う事は、もうできないかもしれませぬ。それは、維心様も同じでありましょう。」

維心は、それには正直に頷いた。

「その通りよ。我もそれは自覚した。主の中にある闇は、知っておったのに我は受け入れておらなんだのだろうの。それは主ではないと思うておったのやもしれぬ。だが、それも間違いなく主だった。我は愚かだった…だが、それでも我は、やはり主を愛しておるのだ。」

維月は、目を潤ませた。

「それは…確かに私も。」と、下を向いた。「ですが、私はこれからも陰の月でありますわ。これからもっと陰の月として生きる事が多くなりましょう。闇達も世に戻って参りました。私は、あれらの世話もしなければならないと思うておりますの。献身的に仕えてくれるのです。私が、陰の月だというだけで。」

維心は、諦めたように息をついた。

「…ルシウスか?」

維月は、維心が何を言いたいのか分かったが、首を振った。

「ルシウスだけではありませぬ。あちらには、全部で七人の闇達が居ます。皆、とても素直で善良な命です。放って置けませぬ…まだ神世に慣れぬのに、神達と接して生きねばならぬのですよ。確かにルシウスは、他の闇とは違う、特別な命であるとは感じています。でも、私はルシウスを愛しておるのか、そんな事はまだ分からないし、そこまで深く接してもおらぬのです。まだ、出会ったばかりでありますから。」

維心は、言った。

「維月よ、もしも主が我をまだ愛してくれると申すのなら、我は形が変わっても、主を愛して参ろうと思う。」と、椅子に前のめりになって、続けた。「王妃であれとは、もう言わぬ。何より、主が闇達の世話もと申すなら、主には王妃として責務をこなす暇もないだろう。主は、これまで我のために己の中の闇を抑えて生きて来た。今度は、我の番。主が良いように、我は生きよう。主がどうしたいのか、教えて欲しい。もう、否と申すのなら我は諦める。追い縋るような面倒な事はせぬ。」

維月は、維心を見つめた。

陰の月として生きる私を、受け入れて合わせてくださろうと言うの…?

「…維心様、愛しております。」維月は、答えた。「簡単に、長い年月持っていた気持ちが消えるものではありませぬ。ですが、私は王妃としてお仕えすることがもう、できないでしょう。それでも良いと仰るのですか?月の宮へ、時々に参られるとか、私が龍の宮へ上がるとか、そのような関係でも?」

維心は、頷いた。

「何より、今の心持ではその方が良いだろう。我ら、離れて過ごし時に会って共に過ごす。その中で、また変わって参る事もあるやもしれぬ。その時に、また考えれば良いではないか。主が他の誰かを愛したと申すなら、それも仕方がない。だが、お互いに関係をまた、一から構築して参ろう。起こってしもうたことは、もう元へ戻ることは叶わぬから。ここからまた、始めるしかない。」

維月は、維心の手にそっと触れた。

「…はい。これからまた、私達は始めの頃のように、関係を構築して参るのですね。」

維心は、その手を握り締めた。

「その通りよ。我は…やはり何を置いても、主を失いたくないのだ。」

維月は微笑んで、スッと浮いて進むと、維心に口づけた。

維心は、ホッとして涙が込み上げて来たが、維月をそのまま抱き寄せて、それに応えたのだった。

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