共同戦線ー1
・・・
(どうする…?どうやってこの現状を打開する?)
不規則な魔物の攻撃から身を躱しながらレイは思考を巡らせる。
近くで同様に触手と対峙してるバルテスもどうやらこの魔物への対策は見いだせていない。
けれど、このまま次から次へと現れる触手の相手をしていれば、いずれ自分たちの体力は徐々に削られそのうち食われてしまうだろう。
(うーーん。どうしようかな…)
考えながらも軽々と触手を躱すことができるのは、ひとえにこの魔物の動きが単調で予測がつけやすいからだ。
おかげでそこまで触手の動作に頭の容量を割かず、対策を考えることに集中できて大変助かる。
「ッお前!こんな状況で呑気に考え事ができんな!!」
尊敬するぜ!!とバルテスがいら立ちを隠すことなくレイに吐き捨てながら、自身に襲い掛かる触手を切り落としていく。
無駄のない正確な槍裁きは実に見事だ。
「私に話しかける余裕があるならバルテスも考えてよ。魔物の対処法。」
「バカッ!!無理に決まってんだろッ!!!手一杯だよッ!!!!」
「この、た…____。」
(_____この単細胞め…。)
寸でのところで口から出そうになった言葉を飲み込んだ。今言ってしまえばこの短慮な青年は隙を作ってしまうに違いない。
残念ながらバルテスには期待できそうになく、レイはため息をついて触手を避けながら闘技場全体を観察した。
(地面から触手が伸びてる…ということは本体は地下…。___どうにかして本体を引きずり出さないと。)
会場を走り回りながらレイはよくよく魔物を観察する。レイが走る後を触手は執拗に追いかけた。
右に左に、時には上に。器用に躱しながらうねうねと動き回る触手の伸びどころを見極める。____本体の居場所。
しかし、ランダムに地面からこちらに目掛けて突き出てくる触手は、上手い事本体の場所を隠すように不規則な伸び方をしていてた。
触手が獲物の何を感知して、自分たちの動きや居場所を探り当てているのか。
触手には目のようなものは見当たらない。となると、地面を駆けた時の振動か____?
超音波的な何かを出して感知しているのか、それとも匂いか?
(確かめないと…)
自分に襲い掛かってくる触手を一通り避けてそっと地面に膝をつく。
相変わらず、地面の下では魔物が這いずり回る不気味な振動が届いていた。
次の触手の動きを予測しようとじっとしていた時、レイの右足が何かに掴まれる。
気配無く突然掴まれたことに驚きを隠せず、レイは反射的に手にしている剣を振り上げた。
「っ!!??」
「ぁ…アッ…、た、たすけ…たす…_______」
「____お前…」
虫の鳴くような声を上げながらレイの右足を掴んだモノは、選抜試験の準備中にわざと肩をぶつけてきた女だった。
かろうじて残っていたレイの理性が振り下ろしかけた刃を一時停止させる。
助けを求められた → ので瞬発的に殺すのをやめてしまった。
(_____が…、こいつをどうしてやろうか?)
喧嘩を売られたことを思い出したレイとしては、喧嘩も売られたことですし助けてやる義理など毛頭ない。
ふむ、と考えを一巡させていた時、レイはふとあることを思いつく…いや思いついてしまった。
そして彼女を優しく見下ろした。
突然柔らかく笑みをたたえたレイに、負傷して這いつくばっていた女は眉間にしわを寄せる。こんな状況で笑みを浮かべるなんて、正気じゃない。
「丁度良い、お前で試してみよう。」
「へっ?」
顔に綺麗な笑みを浮かべたまま、レイは自分の右足を掴んでいた彼女の腕に刃を落とした。
あまりにも躊躇いなく、さも当然のように。
一瞬のことで何が起きたか理解できなかった女は目を白黒させる。レイが手にしている「手」がいまだに自分から切り離されたものだと理解が追い付かない。脳が認識することを拒否していた。
呆然とする女を横目に、レイは女の右手を宙へ高く放り投げ、水風船のように血をまき散らす玩具と化したものを楽しそうに観察した。
「血の臭いで来るか?それとも落ちた衝撃かな?どっちだろ…___?」
「へっ?エっ…わ、わた、私の…手…て?????いやッ…イヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
無下に扱われている手が自分のものだと、正気を取り戻した女が絶叫する。
天高く舞い上がった己の手を取り戻そうと、残された腕を伸ばす女の側でレイはにこにこと笑いながらしゃがんで空を舞う手を眺め続けた。
一連の流れを見ていた周囲の黒賊達は固唾を飲み込む。
自分がしたことにドン引きされているとレイは気づけない。にこにこと観察する姿はあまりにも無邪気だった。
宙を舞った女の右手は「ボトッ」と少し重めな音と共に地面を1バウンドする。
するとその瞬間、その周囲から5本ほどの触手がバッと地中から飛び出し、2バウンドする前にその手に食らいついた。
バリバリと無慈悲に女の手は触手の内側に消えていく。
「___なるほど。魔物は衝撃(振動)に反応するみたい。」
「ぃや…、やだ…。わ、私の…て…、手ェ…か、返して…返してよぉ…っ。」
「血の匂いには…鈍感か?」
鼻水やら涙やらで顔面をぐちゃぐちゃにした女がレイに訴えかける。そしてひどい仕打ちだと泣き喚いていた。食われていく右手に絶望した眼差しを向ける女にレイは眉をひそめた。
「ん?魔物が何を基準に攻撃してくるのか分かって、お前も嬉しいでしょ?」
「ヒっク…う…エ…ぁあ…___。」
「もう使い物にならないお前を有効活用してあげたのに…。」
言葉にもなっていない呻き声を漏らしながらぼたぼたと血と涙をこぼす哀れな弱者。
せめて役立ててやろうとレイは有効活用したというのに。感謝こそすれ、文句言われるのはお門違いだろうと口を尖らせた。
「あーーー、えと、さすがに可哀そうじゃねえ?もう少しサクッと殺してやった方が…」
「____こいつが最初にケンカ売ってきた」
「あら、そなの?ならしゃーないな…。んでも残ってるとこどーすんのコレ。」
「さあ?勝手に死ぬんじゃないそのうち。」
ぽんぽんと血も涙もない会話がバルテスとレイの間で飛び交う。
バルテスも少しばかり女の惨状に同情を寄せていたが、レイにケンカを売ってしまったのなら仕方ない。自業自得だ。
ここは闘技場。黒賊が己の主を得るために命を懸けて戦う選抜試験の最中だ。敵に命乞いする方がおかしい。周囲で青ざめていた他の黒賊達も、なんだこいつが悪いのかとどんどん興味を無くし、そのうち女の四肢を好き勝手に解体していった。
自分の身を守る囮として使うのだろう。
残念ながら、女はもう声すら上げない。
徐々にバラバラにされていく己に何も感じなくなったのか、それとも目を開いたままもう死んだのか。
ちらりと見ると涙だけはハラハラと流れ落ちていたから、かろうじて意識だけはまだあるのかもしれない。
触手と通りすがる黒賊達に解体されながら何を思うのか。
「"くわばらくわばら"…」
「っンあ?なんて????」
「んーーーいや、ああいう風には死にたくないなって」
「お前がそれ言うなよ…」
日本の言葉が呪文のように聞こえたのか、バルテスが聞き返すもレイは答えるのも面倒だとはぐらかす。
呆れるバルテスを横目に、気づけば解体するのが億劫な胴体部分だけになっていた女に今は触手が群がっていた。
もう誰も、女のことなど気にしていない。ほんの少し、体の欠片を残して触手さえも離れていった女の最後をレイだけが見届けてやった。




