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共同戦線ー2



・・・



「っクソ!何本足あんだよ!!」

「!?バルテスッ」

「ぐぅっ!?」



黒賊と触手を同時に相手にしながらどれくらい経っただろうか。

いつの間にか選抜試験(ヴェーレン)に参加していた黒賊達は半数まで数を減らし、辺りは肉片が散らばり、血液独特の鉄臭い匂いが充満していた。


徐々に魔物に体力を削られたバルテスも息が上がり、肩を上下させている。

そして絶え間なく、こめかみから流れ落ちた汗が目に入り、彼の集中力を途切れさせてしまった。

それに気取られ頭を軽く振ったその一瞬、触手がバルテスの視界外から彼の心臓目掛けて地面から飛び出した。


咄嗟に左腕で上半身を庇うも、彼の肘下には鋭い牙が幾重にも並んだ触手が絡みついていた。グヂュゥウという生々しい音と共に、締め上げながらみちみちと更に深く触手は牙を食い込ませていく。



「ッッックソガアアアア!!!」



醜い化け物が己の腕に噛みついているのを見てバルテスは半狂乱に陥り、雄叫びをあげた。

咄嗟に太ももに装備していたナイフで触手を断ち、勢いよく引き剥がす。

力任せに剥がしたせいで、肉が大きく抉れバルテスの左腕は見るも無惨になってしまった。


もうほとんど、彼の左手は使い物にならないだろう。

下手すれば骨まで見えてしまいそうな傷の深さにも関わらず、バルテスは興奮状態のせいか意にも介していない。もしかしたら痛みさえも感じていない。

だらんと下がった腕からボタボタと大量の血がしたたり落ちて地面に吸い込まれていった。



「バカっ、落ち着いて!力任せに剥がせば傷口がっ!!」

「つぅ…っうるせェ!!」



革製のベルトを腕に縛り、食い千切られた部分より少し上できつく締めて止血を施す。

思うように動かなくなってしまった左腕に、苛立ちを隠そうともしないバルテスにレイも焦りを覚え始めた。



(____このまま長引けば、全員死んでしまう…。)



観客席からの絶え間ない白亜の歓声と、頭上でニヤついているであろう祭司長(ヴァルハラ)の顔を想像して頭が痛くなった。ついでに勝手に腹を立てた。


何か…何か、手立てを…。

焦る自分にとっては幸いなことだが、最早周囲の黒賊達は誰もレイ達に刃を向けてこない。彼らもまた、魔物を相手にするので手一杯なようだ。

けれど、彼らの代わりに触手が次から次へと襲い掛かってくる。

次の襲撃に備えて地を踏み締め身構えていた時、突然触手はいつものように下から突発的に襲いかかってくるのではなく、少し遠くからわかりやすく地面を盛り上げながら襲ってきた。



「??!!…なん、で…?」



簡単に触手の軌道が見えたレイは飛び出してきた触手を切り落としながら首を傾げる。

なぜ突然、無作為な襲撃をやめたのか。

格段に(かわ)しやすくなった触手をこれでもかと観察する。すると1つ。あることに気づき地面を見つめた。



(地面が…柔らかくなってる…?)



大量の触手が地中から攻撃してくるせいか、最初の頃に比べて地面は耕されたように柔らかくなっていた。

柔くなった地面は触手の動きに合わせて一緒に波打ち、触手の移動と共に土がモグラの掘り跡のようにその形跡を残している。

突破の糸口を見つけたレイは口元を弛めた。



「バルテス…見つけた」

「アァ!?何を…だ、よっ!!!!」

「ほら、地面。…よく見て。」

「あ?…っ!!ん?地面…???なんだ、柔らかくなって…?___。っ!!!」

「わかった?」

「あぁ。__へぇ…なるほどねぇ?」



未だに襲い来る触手を右手に構える短槍一本で器用に対処しながら、バルテスはレイに促されて地面を観察した。

彼も頭は悪くない。

レイが気付いたように、バルテスもまた同じことに気づき、余裕の無い顔から笑顔が滲んだ。



「丸見えじゃねえか」

「そうそう。」



2人は敢えて地面が柔らかくなっている場所へ移動し、触手の動きを正確に捉える。

すると以前に比べて触手の動きが手に取るようにわかり、難なく対処できるようになった。



「どこから来るかさえわかっちまえば雑魚だな。」

「…とはいえまだまだ数が多い。気をつけないと…」

「だな、あとは本体の居所だが…。」

「___あそこでしょ。」

「あ?」



レイが顎で示した先。

そこは地面がまだ硬く、触手が出てきた形跡のない真っ新な空間だった。



(本体から触手を伸ばしているとすれば、本体付近はまだ地面が硬いはず。)



闘技場全体のありとあらゆる場所が穴ぼこだらけになっているにも関わらず、不自然なまでにきれいな地面のままの場所。

バルテスも目を細めて同じ場所を注視する。

ただ、もしそのきれいな地面の部分に本体が埋まっているとすれば____。



「___でかすぎじゃね?」

「…。」



無言は肯定。

綺麗な地面はあまりにも広範囲で、そこから想像できる本体の大きさに目まいがした。

荒らされていない地面は50m四方はあるだろうか。となると、小さめに見積もっても魔物本体は30m前後あるに違いない。



「えーーーと、で、どうやって引きずり出す…?」

「…。」



本体の居所を掴んだまではいい。

けれど、地中深くに姿を隠しているだろう魔物をどうおびき出すか…。



「…!!__っ耕してくる!」

「は?ちょっ!!えっ!!??」

「バルテスはそこでじっとしてて。」



体力残しておいて。

と口添えて、閃いた顔でレイは勢いよくきれいな地面へ駆け出した。

何と言う原理かはわからないが、田畑を耕すと目の細かい土は下に沈んで、比較的大きい石や不純物は押し上げられて地表に出てくる。

同じ原理で、触手を誘発して本体付近で自分を襲わせれば、地面が柔らかくなって本体が地表に出てくるのでは?



呪印(ルイン)



我なら良い案だと思いながら口元に笑みが浮かんでしまう。そして何よりもやっと、とんでもない痛みに耐えて彫り込んだこの呪印(ルイン)を実践で使えることに喜びを覚えた。

両足に意識を向けながら魔力を足へと通す。

するとドクンと脈打ち熱が膝下へと集中した。複雑な文様が赤く光りながらレイの足を這って覆う。

得も知れぬ力がレイの足にみなぎり、溢れてくる力にレイは更に笑みを深くした。とはいえ、周りから見たら口角が上がるっている程度なのだが…。

膝を曲げて地面を強く踏みしめると、レイの周囲の地面だけガクンと地盤が一段凹む。



「なっ!?」

「っふ」



バルテスの驚愕する声を背に聞きながらレイは勢いよく走りだした。

走る衝撃に釣られてすぐ後から触手が勢いよく飛び出す気配を感じる。けれど、触手がレイに追い付くことはない。

軽くジョギングしている程度の力加減なのに、すでにいつもの3倍程度の速さが出ていた。

レイは縦横無尽に綺麗な地面を蹴り上げる。レイの走った跡も、尋常でない力が加わっているのかひと足ごとに凹んでしまっていた。


観客席のどこか遠くで彫師ガルドラの歓喜の声が聞こえた気がする。



「バルテスッ!!!あとどれくらい呪印(ルイン)の回数は残ってる!?」

「えっ!?、あ、そうだな。あと2回…。いや、1回だ。」

「わかった。」



レイが呪印(ルイン)の力をもって走り回ったおかげで、魔物本体が埋まっているであろう50m四方の地面は10m四方程度を残してぐちゃぐちゃになっていた。

心なしか魔物が潜んでいる地面はうっすらと他の部分に比べて盛り上がってきているようにも見える。



(___いる。ここにいる…!!!)

「なあ!!!どうすんだよ!!!!」

「____まだ考え中。」

「はあぁ!!!????」



もっともっと、魔物を地表に追い出すべくレイは執拗に足に力を込めて駆けまわる。

ズバズバと先回りして襲ってくるようになった触手を捌き、ついでに未だに襲ってくる馬鹿な黒賊達の一部も切り捨てながらレイはついに闘技場内すべての地面を()()()



「っ!!」

「な、んだよ…こいつ…。」



耕かし尽くされ、圧倒的に柔らかくなった地面。

その一角が奇妙にボコボコと盛り上がり始めた。そしてほんの少し立っている地面がカタカタと揺れだす。20~30m程度の範囲の土が盛り上がったかと思うとその中央から、それは姿を現した。

一見すると花の蕾のような、それにしては臓器のように肉っぽくあまりにも生々しい。もし陸上にイソギンチャクが生息していたとしたらこんな見た目かもしれない。

本体と思われる蕾の付け根からは、今まで切り落としてきたのが馬鹿らしく思えるほどの触手がいまだに蠢き元気に這いずり回っている。



「悪夢だ…。」



見知らぬ黒賊がそう呟く。

今まで自分たちが相手にし、撃退していたと思っていたものは相手からしたら小手先で遊んでいるだけのことだったのだ。

その証拠に切り落とした触手はあくまでも指先のうな”先端”だったようで、不揃いながらもぴんぴんしている。



「っひ…!?」

「う…____」



蕾上の本体にスーッと5本、放射状に切れ目が入った。

それが花のように開いたと思えば、大量の牙が渦巻く奴の口が姿を見せる。牙のところどころには食い残しだろうか、肉片や服であっただろう切れ端がぶら下がっていた。


ミチミチミと水っぽい音を立て、牙同士はカチカチと触れ合う。

地獄の底から這い出てきたと言われれば信じられるほど、あまりにも醜く目にしただけで命を投げ出したくなる恐怖そのものだっだ。


案の定、何人かの黒賊は腰を抜かして尻もちをついている。


今までの人生で目にした事も、相手にした事もない生き物が感情を失ったと言われる黒賊に恐怖を思い出させていた。

ほとんどが成人したててで幼いとはいえ、選りすぐりの武人。それなのに情けなくも膝下を立てないほどに震わせて、眼前のものに絶望している。



「ハッ…笑えねえ。」



バルテスの乾いた笑いは、魔物の登場に更に湧いた王侯貴族の歓声に飲み込まれていった。





・・・

前回久方ぶりに更新した際、ほんの少しランクインしていたようで、大変驚きました。ありがとうございました。

気が向いた時、思い出したように書いているだけの物語を待って下さる方がいて、読んでくださる方がいる。嬉しくも、楽しみにしてくださってる方へ申し訳なさもあり複雑な胸中です笑

どれほど続くかはわかりませんが、お付き合いください。まだまだ書きます。

そして、なるべく更新頻度を上げられるよう善処します。

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