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任命式-1

本当はこれくらいのペースで話を進められればいいのですが…。不定期で大変申し訳ありません。



レイの付き添いとして控えてくれていたフィーリはしばらくレイと雑談したのち、あまり正式な黒賊が控えの間にいると悪い意味で目立ってしまう、と言ってレクリュス達の元へ戻っていった。



(…ここから、ずっと一人…)



レイにとって人が大勢いる中で一人にされるのは初めてのことで、何度硬くなった体を解そうとしても力が入ってしまう。お守りのようにフィーリから去り際に返してもらった己の武器を抱きかかえ、あまり周りの目を気にしないように視線を下に向けた。



(えと、…集合の合図があったら、聖騎士の人に武器を預けて…フェズニアス教会の下手側に移動。それから、また合図があって、広間前方に座っているレオニア様やレクリュス様、王族の前で候補者一斉に跪く…。)


「…ぃ。ぉーい?…しもーし?」

(その後は、一人一人立ち上がってレオニア様の前へ行き、膝をついて誓いの言葉を詠唱する…)

「なぁ?聞こえてるか??」

「っ!!」



レイがフィーリから教えてもらった今後の流れについて、頭の中で復唱していると、いつの間にか頭上に影ができ、肩を揺さぶられてやっと気づく。



「おいおい、アンタ大丈夫か?これから試験が控えてるってのにそんな抜けてっと一番にやられるぜ?」

「ぁ…。_____すみません。」

「いや、俺は別に謝って欲しいわけじゃ…。__まぁいいや、んで?アンタが噂のダン殿の秘蔵っ子だろ?」

「…。」

「はぁ…、んな警戒すんなよ…確かに試験が始まればルールもくそもない、命を奪い合う敵同士だが今は違うだろ?俺はバルテス。一応第一王子セオ様の黒賊候補としてアンタと同じように鍛えられたモンだよ。」

「…セオ、様。」

「ははっ余計に警戒させちまったか。」



レイの言葉が硬くなったのを聞き取ってバルテスが笑い声をあげる。

それもそのはずだ、レイは第二王子であるレクリュス様の黒賊候補。

一方、このバルテスという青年は方や敵対している第一王子セオの黒賊候補だ。

赤に近い茶色の髪をかき上げながら、グイグイと迫ってくる男はレイよりも上背がずっと高い…おそらく170後半くらい。

肩にかけているのは短槍だろうか。彼の特注であろう、短槍にしては随分と刃の部分が長い独特な形をしている。

よくよく手入れされた鈍色に光る刃がより一層レイの警戒心をより一層高めさせていた。



「ホント、そんなに硬くならないでくれ…俺はただ、アンタと手を組みたくて話しかけたんだ?」

「??手を組む…?」

「そう、俺と手を組もうぜ?」



腰をかがめてずいっと迫ってきたバルテスに思わず身を引いてしまったレイ。

及び腰になったレイを逃がさんとばかりにバルテスはより一層近づき、声を潜めて話し始めた。



「俺とアンタは今、一番優良物件に近い候補者だ。それはわかるよな?…ということは、ここにいる候補者全員、ほぼ間違いなく俺らを一番に潰しに来る。」


そう言われて、ハッとバルテスの肩越しに周りを見ると、こちらの様子を伺い見る多数の目があった。残念ながらそこには友好的な視線は一切感じられない。


「…。」

「な?…俺は別にレクリュス様の黒賊になりたいわけじゃない。アンタだってセオ様の黒賊になりたいわけじゃないだろう?」

「_____なりたくない。」

「ははっ、そうだろうそうだろう。ならお互いの為、望む主につけるように共同戦線を組まないか?」



髪よりも幾分か淡い瞳をぎらつかせ、レイに選択を迫ってくるバルテス。そこに拒否権は無いように思われた。元々ぐいぐい来るタイプの人間に苦手意識を持っているレイは、その迫力に負け、思わずうなづき返してしまう。



「か、構わないけれど…」

「そうかそうか!!そりゃあ良かったよ。短い間だろうがよろしくな?…えっと___?」

「レイ…です。」

「レイな!覚えやすい名前でよかったわ。俺、名前覚えんの苦手だからよ…。」



レイが頷いたことに満足したのか、どかりと壁に背を預けレイの隣に座り込む。右耳にだけついているタッセル状のピアスがバルテスの動きに合わせて揺れた。

かなり自由気ままな候補者のようだ。本当にあのセオ様の候補者なのか若干疑いを持つ。



「にしたって、レイは本当に小さいな?マジで成人済みか?」

「12歳です。」

「成人したてかよ!!はー、まだまだ子供じゃねぇか」

「…。バルテスさんは…」



子供扱いされたことに苛立ちを覚えながらバルデスに向き合う。

レイの苛立ちには気付くとなく、バルテスは槍の柄を撫でながら答えた。



「んー?俺は15。」

「15…、」

「んだその反応は…?」

「いや、もっと上かと…。」

「あー?老け顔だってか!?生意気な!!お前こそ、その年の割には心が老けてんぞ!それにその仮面なんだよ!!」



いや、間違いなく心はあなたより老けてるよ、とレイは思いながら騒ぎ立て始めたバルテスから顔を逸らした。些細なことで喚きちらすバルテスは年相応といったところか。

勢いよく指さされた仮面の縁をそっと撫で、レイは呟いた。



仮面これは…ヴェーレンの時には外すから」

「?どうせ外すなら別に着けてなくても変わらなくね?」

「今は、…秘密」

「!!っ、あ、そう。」



薄く口元に笑みを浮かべ、口元で人差し指を立てたレイにバルテスは思わずドキッとする。

仮面で顔の半分は見えないものの、綺麗な鼻筋や小ぶりな口元のせいか、何となくレイの顔が整っていることは想像がついた。

薄い金色のドレスに流れる艶やかな黒髪とのコントラストは特に眼を見張る。



(コイツのドレス選んだ奴…レイの一番の魅せ方を知ってんだろうな)



顔が隠れた状態でこれだ。

しかも12歳…。

バルテスはこのヴェーレンでレイと共同戦線を組むと決めたとははいえ、所詮敵同士であることに変わりはない。

話しかけた当初は正直、隙あらば消してしまおうと考えていたが、レイの放つ独特な雰囲気に飲まれ、今は絆されつつあった。



(何だろうなあ、この手にかけたら負けな雰囲気…。12歳だからか??でも、所詮12歳…だよなぁ。)



暗器を抱え前を見据えるレイを眺めながらヴェーレンでどう立ち回ろうか考える。ドレスの裾から覗く腕は白く、細くてとてもじゃないがヴェーレンで人や魔物とやり合うような力は期待できない。

それに一体一の魔物とのやり合いなら勿論、共同戦線など全く意味はなくなる。加えて、総当たりだと真っ先にレイは獲物になってしまうだろう。

周りを見渡す限り、ほとんど男でしかも年齢はバルデスと同じか一歳違いくらいだ。圧倒的にレイが一番の年下。そして、女。



(あんまりレイを気にして立ち回ると共倒れになっちまうし…かと言って見捨てるのはなぁ…)



じっとレイが着けている仮面の装飾を眺め、思考を巡らせていたら、不意にレイが振り返った。突然に振り返られたバルテスは仮面越しでもかっちりと目線を取られ逸らせなくなる。



「ど、どした?」

「いえ…、足は引っ張らないと思うので、よろしくって言おうと思って」

「お、おう。そうだぞ、足は引っ張んなよ?」

「うん」



頷いてすぐまた前を向き直ったレイに胸を撫で下ろし、バルテスも視線を前に戻した。



(12歳ってのはマジか?板についてなさすぎ…)



バルテスはいくら成人したとはいえ、こんなに落ち着いている12歳を初めて見た。

元々黒賊候補として育てられてきたなら、ある程度周りの子供より精神的な発達は早い。だが、周囲は敵ばかりのこの状況で、レイは震えたりするどころか緊張している様子も見せない。


ただ淡々と任命式が始まるのを待っている、そんな感じだ。

結い上げられた漆黒の髪が小さなレイの動きにも合わせて揺れる。

残りの待ち時間をバルテスはその髪の動きを飽くことなく、観察しながら過ごした。


そしてしばらくした後、控えの間の中央の方で高い笛のような音が響き渡る。

恐らくこれがフィーリが言っていた【集合の合図】だろう。まばらに散っていた候補者たちがぞろぞろと音の鳴った中央の方へ向かっていった。



「始まるな…行くか、お手をどうぞお嬢さん。」



バルテスがゆっくりと腰を上げ、レイに手を差し伸べる。

自然と差し出された手にレイも逆らうことなく左手を載せた。しっかりと手を掴まれ、勢いよく引き上げられる。そんなに勢いがあると思っていなかったレイは軽くよろけてしまい、そのままバルテスの胸へ衝突した。

とっさに謝ろうと顔を上げるも、ニヤついているバルテスに故意だと確信すると、鋭いヒールでその足を踏んだ。



「いっ!?」

「…どうかした?」

「このクソガキ…。」



「やられたらやり返す」という信条を持つレイはバルテスがどんなに怒ろうとも総無視だ。

バルテスはバルテスで仕掛けたのは自分なのであまり強くも出れず、踏まれたつま先をさすりながら、次はまじめにレイを先導して広間の中央に向かっていった。

立襟で紺色のマントをなびかせ、正装をまとっている姿はそこそこに見栄え良く、かっこいいのに、年相応の性格が若干その風貌を損なわせてしまっているようにレイは感じた。



(フィーリさんみたいな残念なタイプ。)



広間中央につけば既にそこには人垣ができ、人垣の中心にはいつの間に控えの間に来ていたのか、銀色で細かな装飾が施された鎧の聖騎士が立っていた。年齢的にはヘリオと同じか少し下くらいか。

薄いグレーの髪色でその眼光は鋭く、手元に開いた紙を見ながら声高に話し始める。



「これより、任命式が始まる。候補者はまず足元の円陣内に全ての武器を置き、それぞれ10人ほどで、4列に並べ。万一、武器を所持したまま高貴な方々の前に出ればその場で処刑だ。」

「_______…」



誰一人として命じられたことに返事などしない。

ただ、淡々と1人、また1人と己の暗器を地面に淡く光るエンジンの中に置いていき、聖騎士の次の命を待った。聖騎士が来る前はある程度雑談などで広間は賑わっていたと言うのに、今は冷え切った静寂だけ。

ついにこれから叙任式が始まるから、その緊張でと言うのが理由ではないだろう。間違いなく聖騎士への敵意が大部分を占めている。聖騎士もそれを分かっているし、何なら口調がやけに強いのは黒賊への嫌悪感が滲み出ている証拠だ。



「武器を出すってどこまで出せばいいんでしょう〜?聖騎士殿ぉ、俺達は布切れ一枚、何なら己が身さえありゃいつだって人を殺せるんですけど?」

「…」


(…黙って従っていればいいのに)



一人の候補者が円陣の前でわざとらしく手を広げ肩をすくめてみせた。明らかに聖騎士に対しての煽り行為だ。

直感的に面倒なことになると感じたレイは小さくため息をつく。バルテスはというと面白そうにその様子を伺っていた。聖騎士はその表情を変えることなく、前に出てきた候補者へゆっくりと視線をやる。



「こりゃあ裸で王族の前に我が身を晒すしか…______」



そして、残念ながらその候補者は最後まで喋ることはできなかった。一瞬、広間に小さな風が巻き起こったかと思うと、次の瞬間にはゴトリと頭が転がり候補者の体が崩れ落ちたからだ。

血の巡りがいいところを切断したせいで死体からは勢いよく血が撒き散らされる。


転がった候補者を見て、同じように聖騎士へニヤニヤと笑みを浮かべていた者達は一瞬で蒼白になった。



(…あぁ、暗器が汚れちゃう…本当に迷惑。血って滑りやすいのに…)

「あーぁ、一瞬だよ一瞬。呆気ねぇ」



一悶着を期待したのかバルテスはつまらなさそうに呟いた。恐らく風の魔法を出してその首を飛ばしたのだろう。ずっと微弱な風を体に纏わせているのか、聖騎士には一切返り血はついていない。つくづく魔法が羨ましいとレイは思った。



「_______なるほど。己が身も武器だというのであれば、神聖な方々の前にその脅威を晒すわけにはいかないな?ああ、もう聞こえもしなければ返事もできないか。

慈悲を持って痛みなく屠ってやったというのに、礼もないとは。しかもそのお返しが汚物を撒き散らしてこの場を汚すなど、せめて自分の体の始末は自分でつけてもらいたいものだな。…さて、他に何か進言したい【隷属】はいるか?」



目の前で同族が殺されようが死体が転がっていようが、殆どの隷属は表情を変えない。そう、まだレイ達は黒賊の候補者なだけであって、隷属には変わりないのだ。

それを改めて強調し、聖騎士は牽制する。そして立場をわきまえない隷属はあのように殺されるのだろう。


首を飛ばされた隷属と親しかったであろう者たちが、小刻みに震えて、怯えていた。

正直、その時点で実力など高が知れる。



「…何もないか。各自、暗器を置いた者から並べ。並び終え次第順に教会の大広間へ向かう。」



銀刺繍が施された濃紺のマントを翻し颯爽とその場を去って行った聖騎士。

去り際に近くにいた候補者へ後始末するよう告げていた。片付け係に命ぜられた候補者も哀れだ。面倒なことこの上ないだろう。しかし、そんなことはおくびも出さず、候補者は落ちている頭を足で転がし、胴体部分は襟元を掴んで引きずりながら控えの間の隅に放り投げていた。血だまりから引きずられた血の跡が生々しく、その隅の方まで途切れ途切れに続いている。

まあ、隷属の扱いなどこんなものだ。


床に着いた血が間違ってもドレスの裾に付かないよう、レイは慎重に慎重を重ねてバルテスと共に列に並ぶ。

正装に身を包んだ候補者達がズラリと綺麗に列をなし、先程、片付けを命ぜられた候補者が列に加わり終えたところで、出来上がった列は別の聖騎士の後について教会の大広間へ向かった。



(…やっと、_______やっと、レクリュス様、ダンさんと同じ舞台に立てる)



震える手は緊張によるものか、武者震いか。

レイは己が内にある底知れない衝動を感じながら、進み始めた列にならってゆっくりと大広間へ歩みを進めていった。





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