不意ー2
見つけた
ただそれにつきた。
そう。見つけたんだーーーー。
漆黒の髪、銀の瞳。
レクから自慢されていた黒賊候補について興味が湧き、性懲りも無く俺は無名棟へと忍び込んでいた。
一眼そいつを確認できればいい、まだ幼い子供だと聞いていたし、それだけで構わなかった。
ついでにフィーリやダン、キアラなんかをからかい、勧誘できれば上々…。
その程度にしか考えていなかったのに、雑草をかき分けて現れた少女は大きく俺の期待を裏切った。
俺がずっと、探していた黒曜と白亜のハーフそのものを体現したかのような銀の瞳と漆黒の髪。
陽の光に乱反射するその瞳と髪は色同士の魅力を存分に引き出し俺を捉えて離さなかった。
肩越しにえづき始める温もりに手を添えて、出来る限りのスピードで目的の部屋まで忙ぐ。
「クレド!!」
「おや??今日はお早いおかえりで…って、何ですかソレは…??」
与えられた部屋の扉を勢いよく開けて、中にいた人物に声をかければ、いつものように穏やかに振り返った幼馴染であり俺の側近クレイバルド。
クレドは俺の国ヴィシュガルツの宰相を務める重鎮の一人だ。
略してクレド。
その普段は穏やかであったはずの眼差しは俺の腕に抱えられている少女を捉えた瞬間、ヒヤリと冷たいものに様変わりした。
次は一体どんな厄介ごとを運んできたとその目が告げている。
いつも穏やかな奴だが予想外なことが起きると一瞬でその機嫌は急降下する。
「無名棟で拾った。今すぐこいつをあやせ。」
「ハッ?ひろ??えっ?あやすって…ぇえ?!」
怒りの矛先がこれ以上俺にこないようにクレドの眼前に少女を晒す。
腕の中でしゃくり声を上げている少女をクレドに押し付けると、冷え切っていた眼差しも気の緩んだ焦った表情に変わった。
俺が上裸で帰ってきたことなどには目もくれず、押し付けたシャツにぐるぐる巻きにされた子供に眼鏡の奥の瞳が見開かれる。
「いや。ほんとに何ですかこれは…」
「泣きそうだ。あやせ。」
「…すでに手遅れかと?」
そう言いながらもさすが身内に兄弟が多いだけあって、少女を優しく揺すりながら背中をポンポンと当たり前のように優しく叩き始めた。
少女がクレドの手に渡り、その顔を肩あたりに埋めて少し甘えるように擦り寄っているのを見て安心したが、何となくムッとしてしまう、俺が攫ってきたのだから信頼されるはずはないと分かってはいても腑に落ちない。
しばらく少女の嗚咽が治まるまでクレドは話しかけずに、ただただ背中を撫でたり叩いたりして落ち着かせ、落ち着いたところを見計らって優しく絨毯の引かれた床に下ろした。
「初めまして。僕はヴィシュガルツの宰相を務めるクレイバルド。クレイバルド=ルクランジェールだよ。アイツや他の奴らはクレドって呼んでる。だから君も好きなように呼んで?」
「…うっ?。は、はい」
「おい、アイツってなんだ。主に対して失礼だろう?俺はジルヴィオ。ジルヴィオ=グランブリュヘル=ディオジールだ。」
「ジ、ルヴィオ…様。」
俺の名を告げた瞬間ぺたりと座り込んでいた少女はこめかみをひくつかせ体を後ろに下げる。
サァーっと顔を青くして目線を斜め上へと逸らした。
「あ?何だその態度は??」
「ごめんなさい、何でもありません。」
「というより陛下…早く状況を説明してくれませんかね??拾ったってどういうことですか?」
失礼な態度を改めてやろうとにじり寄ろうとしたところで、背後から薄ら寒い空気をダダ漏れにする家臣にため息がでる。皇帝に対してその態度はないだろうその態度は…。
「そのまんまの意味だ。無名棟で見つけたから攫ってきた。俺がずっと探してた白亜と黒曜のハーフだな…恐らく、レクのお気に入りで自慢げに話してた黒賊候補とはコイツの事だろ。忍び込んだら偶然見つけちまったもんで連れて帰ってきた。」
「最後に言い残す事はありますか?」
「おいおい、落ち着け皇帝に対して氷魔法で脅すやつがいるか」
現状を言い終えたところでさらに冷気があたりに充満し、一カ所に集まったかと思えば、鋭い氷柱となってその鋭利な矛先を俺に向けていた。
クイッと眼鏡を上に押し上げる知的な仕草には似つかわしくない荒々しい攻撃魔法だ。
「ただでさえ無名棟の方々には嫌われているというのに、また問題起こして…今回こそキアラ殿に殺されても文句は言えませんよ?」
「あ?フィーリがいるだろうが、問題ないだろ」
「…とにかく帰してきて下さい。」
不法侵入だけじゃなく拉致の疑いもかけられたいのですか?
と一瞥する家臣の言う事はもっともだ。
だが、俺にも譲れないことがある。
「無理だな。可能ならコイツはこのままヴィシュガルツに連れて行くぞ。」
「はぁっ!!??何考えてんですか!!バカ言うのも度が過ぎる」
ぴーぴーぎゃーぎゃー喚き出した幼馴染みを横目に未だに放心状態で座り込む少女に近づき膝をついて目線をあわせた。
「名は?」
「…っえ?」
「名を名乗れ…俺は名乗ったぞ。この俺が先に名乗ったのだ。お前も名乗らねば不敬に値する」
「____レイ」
漆黒の髪に銀の瞳を逸らす事なく渋々と伝えられた名。
装飾に囲まれたこの絢爛な部屋に凛と響いたその名に俺の口角が上がる。
臆する事のないその態度も、ガキのくせにやけに大人びたその姿勢も好感が持てた。
何だってこんな国にダンといいキアラといい、逸材が集まるのだろうか?
酷く差別主義なこの国で隷属と呼ばれる濃色の人間は生きにくい環境だ。生まれながらに息する事さえもままならないようなこんな場所で、律儀に忠誠を誓う同族を見ると吐き気がしてくる。早々にこんな人を人とも見ないような国等捨て置いて、自分たちが幸せに生きれる場所を探せば良いものを…そればかりが俺には理解できない事だった。
「先ほどクレドさんがおっしゃった通りです。私を無名棟に帰して下さい。」
「ほら、ご本人もそう言っていますし、事が急すぎます。攫うにしてももっと計画を立ててから実行して下さいよ…」
「!?」
クレドの発言に目を白黒させてレイは驚いた。
まぁ、基本的にここの奴らは俺の行動に順序への文句は付けても、行動そのものへの文句を付けた事がない。
それはこの俺に絶対的な信頼を置いていると言う事の証でもあり、それが俺への忠誠の証明だからだ。
「い、一応理由をお尋ねしますが、なぜ私を攫う必要があるんですか?」
「…簡単な事ですよ。我が国の成り立ちと深く関わっていることです。」
「ヴィシュガルツの成り立ち?」
「ええ。…んー、そうですね…かいつまんでお話をしましょうか。」
面倒な説明はクレドのほうが得意だ。
俺はクレドがレイに分かりやすく説明している横で、ソファーに身を沈め別のシャツに袖を通した。
「いいですか、知っているかどうかは分かりませんが、我が国ヴィシュガルツは黒曜…貴方の国の言葉で言うと隷属の国です。それもここつい最近、僕や陛下が即位してから正確には成り立った国と言えるでしょう。
元々珍しく、差別のない国であったので先代王の時から黒曜の身分回復、人権の保護は積極的に行われてきました。そこに私を含め次代を担う後継者が全員白亜ではなく黒曜として生まれてきてしまった。そこからが我々のルーツです。目指していた黒曜の身分回復…これはジルヴィオ陛下が即位した時点で事実上達成できたと言えるでしょう。その後我々が目指すものは何だと思いますか?」
「…?」
「すみません。難しいですよね…次に目指したものは白亜との共存なんですよ。」
「きょう、ぞん…。」
訝しげにレイは眉をひそめてその言葉を繰り返した。
その瞳には仄暗い疑念が見て取れる。
確かに難しい目標だ。
だが、どうしても黒曜だけでは魔法技術に関して劣ってしまう。手先の技術が発展してもその先への発展は望めないのだ。
となると更なる国の発展を考えた時、避けて通れない道が白亜の持つ魔法技術との融合だった。
未だ、どの国でも黒曜への差別が全くない国等存在しない。
このヴィシュガルツだって0になったわけではないのだから。
国の有力貴族の中には白亜がゴロゴロとのさばり、法をうまく交わして非人道的な事が行なわれている事を知っている。
どうしても白亜が濃色を受け入れられないなら、何かもっと受け入れやすいものを表に立てて、信仰の対象に祭り上げてやれば良い。
白亜は皆「白き魔女」が大好きだ。
白き魔女は銀に輝く髪と瞳を持ち合わせた、無尽蔵の魔力の持ち主だった、という伝承が伝えられている。
髪が銀で瞳が黒、または髪が黒で瞳が銀…そんな奇跡のようなやつが見つかれば白亜も黒曜も今よりかは受け入れられる体制ができるのではないか。
それが俺の見解だった。
見た目なんて単純なもので人の思考が左右できるのか…疑うかもしれないが、これだけ色なんかにこだわる風習がこの世界でできあがっている時点で人々は「色」でしか…見目でしか人の事を判断していないと言う事になる。
「そんな奇跡の持ち主が…レイ____お前なんだよ」
きょとんとしているレイに視線を向ければ顔を強ばらせて身を固くした。
普通の子供にこんな事を話して到底理解できる内容ではないはずだが、この子供はどこまで頭がいいのか…どこまでも理解してしまったようだ。
「そんな…勝手な事言われても、困ります。だって…私はレクリュス様を守らなくちゃ___」
「それはお前の意思がで決めた事なのか?」
「…意思。違う…私の役目、です。私が…どうこうではなくて、私が生きる条件…」
「その時点で自分が一人の人として選択をできていないと言う事にまだ、気づかないか?」
「_____。」
上から容赦なく声をかければ、うつむいてしまった少女に更に追い討ちをかけていく。
その考え方が駄目なんだ。
そんな考え方をするからいつまでたっても黒曜が人という立場を持てない世界が続いてしまう。
濃色だろうが白色だろうが腹を割けば同じ臓器が入っていて、赤い血が巡り、体の中心には心臓が動いているというのに、誰も彼もが真相の確かめようもないおとぎ話で自分たちの価値を決めている…。
そもそもそこに疑問を持って欲しい。
こんな子供が既に自分が濃色で生まれた事が罪なのだと…そんな思考を持っているということに腹が立った。だからこの国を必死に変えようともがいている黒賊…ダンやキアラを俺の国で、俺の護衛として働けと勧誘し続けていた。
「レクは良いやつだ。お前も同じような事を言われたんじゃないのか?自分の道ぐらい自分で決めろって…」
「…っ」
ビクッと体を揺らしたレイのそれは図星だ。
泣き止んだはずのレイが顔をうつむかせてぽたぽたとまた絨毯に静かにシミを作っていく。
泣きわめく事もせずただ静かに床に丸いシミを作る様は少し異様で…
_____魅力的だった。
このままヴィシュガルツへ…
そう思って俺が手を伸ばしたところで勢い良く部屋の扉がぶち壊された。
「あーぁ、僕は面倒ごとごめんなんですけどねぇ…」
シュゥーと何らかの魔法の軌跡ともに、煙の向こうから見知った面々がずらずらと入ってくる。
「おいおい、皇帝の部屋にノックもなしとは…ずいぶんな事じゃねぇか?」
「皇帝の部屋に王が訪ねるのに、ノックはいらないだろう?」
黒賊達の後ろから響いてきた声に背筋が伸びる…
あーーー、これはちょっとやべえかも…。
煙が収まって全貌が見えてきたとき、鋭い視線を容赦なく送るこの国の王…
レオニア=ロンドウェル=レソロア=アルベールがキンっと空気を張りつめさせて佇んでいた。




