表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/34

築百年だそうですわ

流星群が敗北した夜から数日後。


(せっかくアレン殿下と見られると思ったんですのに……)

『流れ星を見つけたら教えてくださいませね』

『ああ』


そんな約束をしていたのだ。


もちろん街のお祭り騒ぎは楽しかったから文句を言うつもりは無いのだけど。

だけど、少しだけ心残りだった。


「流星群、見たかったですわ......」

扉の外で聞いていた3人は、静かに顔を見合わせた。

そして十分後、グランフェル家緊急家族会議が開催された。


数日後

王都には、『星空観測型夜会』が開かれるという噂が流れていた。


しかも、ただの夜会ではない。

夜会会場そのものを、巨大プラネタリウム化するという。


「ここを、プラネタリウム型夜会へ改装しますわ❤️」

再現会場として選ばれたのは、王都でも有名な巨大夜会場。


高い天井に豪華なシャンデリア。

百年以上の歴史を持つ由緒ある建物は、それだけで十分に格式を感じさせた。


そんな会場を見上げながら、ロゼッタはぽつりと呟く。

「プラネタリウムって、この時代にありましたの?」

「ははっ今できた」


「今???」

「ロゼッタの笑顔のためだ」


その背後では技術者たちが慌ただしく動き回っている。


「星空投影装置、搬入完了!」

「夜空再現魔導具、出力安定しております!」

「流れ星再現装置、最終確認終了!」


次々と飛び交う報告に合わせるように、会場の天井へ無数の光が浮かび上がった。

まるで本物の夜空だった。

深い青の中に無数の星々が瞬き、流れ星が静かに横切っていく。


ロゼッタは思わず息を呑む。

「すごい……」

それはお世辞でも何でもなく、本心から漏れた感想だった。

周囲の貴族たちの反応も上々である。


「面白い趣向じゃないか」

「グランフェル家主催なら安全面も問題ないだろう」

「新しい夜会形式としてはかなり斬新ですわね」


誰もが興味深そうに夜空を見上げていた。


「……なんだか普通に成功しそうですわね」


その時、会場責任者らしき男性が誇らしげな表情で一歩前へ出て、胸を張りながら説明を始める。


「こちらが中央ホールでございます」

「この建物は王都指定文化財となっておりまして、築百年以上の歴史を持つ由緒ある建造物でございます」

「ほう」

責任者はますます気分を良くしたらしい。

「百年前の建築技術がほぼそのまま保存されておりまして――」


そこまで言ったところで......


マリアベルが、


ゆーっくりと


天井を見上げた。



その目は見開かれ、恐怖に揺れている。


そして桜色の唇がゆっくりと開かれ


「……百......年?」


その一言が、空気を変えた。


取り巻き令嬢たちの笑顔が消え、ヴィクトルは黙って妻を見る。

ルシアンは何も言わず近くの柱へ視線を向けた。


(終わりましたわ)

ロゼッタは、なにかが終わったことを悟った。


ルシアンが静かに柱へ手を置き、一言低くつぶやく。

「建物診断班、急げ。」


「はい!」

「全館安全確認開始!」


「夜会場封鎖します!」

「待ってくださいませーーー!!」


そこから先は文字通り戦場だった。


そこからは早かった。


ヴィクトルの隣で、ルシアンが静かに壁へ触れる。

「……北側梁、内部腐食を確認」


「崩落確率は?」

「3時間以内に......23%」


「そんなにですの!?」


さらに

「中央階段、内部空洞化を確認」

「東側バルコニー、荷重限界超過」

「シャンデリア固定部、耐久低下を確認」


「そ、そんな……この百年も問題なく――」


「百年間、運が良かっただけです。次も落ちない保証にはならない」

ルシアンが静かに告げると、責任者の顔色が、みるみる消えていく。


ヴィクトルとルシアンは、さっきまで流れ星再現装置で盛り上がっていた人間とは思えないほど、真剣な顔をしていた。



「ルシアン」

「はい」


「避難完了まで」

「7分です」


ヴィクトルは、静かに頷いた。

「……撤去だな」



そして当日

本来なら、豪華な夜会が開かれるはずだった場所は、


更地だった。


風が吹いている。

星が、とても綺麗だった。


怪我人ゼロ。

崩落事故ゼロ。


安全性は完璧だった。


「崩壊確率、ゼロを確認」

ルシアンの報告に、ヴィクトルは満足そうに笑う。


「完璧だな」


だがその隣で、ルシアンだけが、悔しそうに少し目を伏せていた。


「……もっと早く、気付けていれば補強もできた」

「プラネタリウムも、間に合ったはずです。」

「ロゼッタに、流星群を見せられなかった......失敗です」


ヴィクトルは、少しだけ笑った。

「……はははっ」

「お前は欲張りだな」


ルシアンとヴィクトルは黙ったまま、星空を見上げる。


「昔のお前なら、“守れた”だけで満足していただろう?」

「……」

「今は、その先を見ている」


ルシアンの目が、少しだけ揺れた。

「……ロゼッタが、楽しみにしていたので」

「そうか」


ヴィクトルはどこか嬉しそうに笑った。

短い言葉、でもとても優しい父の言葉だった。


「次は、会場も守ります」

「期待している」


ロゼッタは、少し離れた場所からそんな父と兄を見つめていた。

ロゼッタが星空を見上げる。

更地になった会場の向こうには、どこまでも広い夜空が広がっていた。


「残念、だったな」

振り向くと、アレンが立っていた。


「アレン様、いらっしゃってたんですの?」

「夜会の中止を聞いた。」


「ええ……。」

「だから来た。」


ロゼッタは少し首を傾げる。


「中止ですのに?」

「あぁ。また君が、一人で途方に暮れている気がしてな。」


「え、私のために.....ですの?」

「君なら、大丈夫だと言うとは思っていたんだが。」


「......?」

「君は、大丈夫だと言いながら、案外引きずる。」


「……そうでしょうか。」

「あぁ。」


「流星群を見られなかった時も、君は笑っていた。」


「皆が、楽しそうでしたから。」

「でも本当は、少し残念だったんだろう?」


「そうですね、少し。」

「私、そんなに分かりやすいでしょうか?」


アレンはしばらく考えて、静かに首を振る。

「いや、最近分かるようになった。」


(アレン様は、私を見てくれているんですのね。)


そんな当たり前のことが、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。


ロゼッタは急にうるさくなった鼓動を落ち着かせるように、胸に手をそっと当てた。

「楽しかったのは本当ですが、流星群も楽しみにしておりましたの。」


「そうだな。私もだ。」

「だから、今度こそ約束を果たせると思っていたのだが。」


「私も、殿下と一緒に流れ星を見つけられたら、と。少しだけ思っておりました。」

「また、機会があればいいのですけれど......。」


「いや、まだ終わっていない。」

「え?」


その瞬間。


「あっ……!」


夜空を一筋の光が横切った。

2人は同時に空を見上げる。


「見つけた。」

「ええ。今度は、ちゃんと見えましたわ。」


ロゼッタは自然と笑っていた。



一方その頃


乙女ゲームのヒロイン、ユナは。


更地を見つめていた。

手元には、攻略メモが握りしめられている。


【流星群夜会イベント】

・老朽化した会場

・シャンデリア落下

・アレン負傷

・手当イベント発生


ゆっくり顔を上げる。


更地。


「……会場が、存在しないんだけど......」



風が吹く。

星は、とても綺麗だった。


「…………。」

マリアベル「とっても安全ですわぁ〜❤️」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ