流れ星を見つけたら、教えてくださいね
流星群観測会場へ向かう途中。
街はすでに妙な熱気に包まれていた。
理由はもちろん、グランフェル公爵家である。
街のあちこちで、黒服の令嬢たちが無線機片手に動き回っていた。
「照明部隊、配置完了!」
「東区画、風向き安定しております!」
「……なぜ、流星群観測で照明部隊が待機しておりますの?」
マリアベルはおっとりと微笑んだ。
「だってぇ❤️暗いと危ないですもの❤️」
「流星群観測ですわよね!?」
ちなみに、王都で無線技術が急速に発展した理由は、マリアベルだった。
マリアベルが、伝書鳩の糞を嫌がった結果。
ヴィクトルが鳩禁止令を出した。
王都は通信手段が消え、しばらくの間大混乱だった。
そして、急速に電話技術が発展。
さらに現在、無線機開発へ繋がっている。
「便利になりましたわねぇ〜❤️」
「ははは!通信速度は大事だからな!」
「国家発展の理由が軽すぎるんですのよ!!」
一方会場では、アレンが困惑していた。
「……なぜ、街を囲むように照明弾部隊が配置されている?」
「暗いのは危ないと、マリアベル公爵夫人が」
「今日は流星群の鑑賞と聞いているが......」
「『安全第一ですわ❤️』とのことです」
「そうか」
そして、流星群観測が始まる。
空は日が落ち始め、あたりは徐々に暗くなっていった。
人々は期待に満ちた顔で空を見上げている。
マリアベルの口が、そっと開いた。
「……やっぱり、暗いですわぁ」
ヴィクトルがそっと無線に手をかけた。
次の瞬間。
ドゴォォォォォン!!!!
夜空が、昼になった。
「きゃあああああ!!!」
「明るい!!!」
「すげぇぇぇ!!!」
無数の照明弾が、夜空を白く染め上げていく。
星。
-----消滅。
流星群。
-----敗北。
「夜空が昼ですわーーー!!!」
ロゼッタの絶叫が響き渡った。
木の上ではルシアンが静かに呟いた。
「安心しろ。照度計算は完了している」
「何のですの」
「理想的な夜空の明るさだ」
「昼になってますわよ???」
「……綺麗ですわねぇ❤️」
マリアベルが、うるうるした目で夜空を見上げる。
「暗いと危ないですものねぇ❤️」
「やりすぎなんですのよ……」
「街のみんなだってせっかく楽しみにして….」
街は、すっかり祭り騒ぎになっていた。
「見ろよ!空が昼みたいに明るいぞ!!」
「すげぇぇぇ!!」
「第二照明来るぞーーー!!」
子どもたちが歓声を上げている。
広場では、屋台の数まで増えていた。
「こんな夜は初めてだ!」
「酒追加しろー!!」
「楽団呼べ楽団ーーー!!」
気付けば、即席の演奏会まで始まっている。
照明弾が夜空へ咲くたび、街から歓声が上がった。
照明部隊として張り切っていた黒ずくめの令嬢たちも
楽しそうに笑いあい、ココアを飲んでいる。
「……なんだか、本当にお祭りみたいですわね」
ロゼッタがぽつりと呟く。
「ああ」
アレンも、静かに街を見下ろした。
「民が楽しそうだ」
「……そうですわね」
その時
「お空ありがとーーー!!」
下から聞こえた子どもたちの声に、ロゼッタは振り返った。
広場の子どもたちが、ロゼッタに向かってぶんぶん手を振っている。
ロゼッタが微笑んで手を振り返していると、隣でマリアベルがうるうるしていた。
「よかったですわぁ〜❤️」
「子どもたちも、楽しそうですわぁ〜❤️」
ヴィクトルも満足そうに頷く。
「ははは!成功だな!」
「成功……なんですの……?」
でも
楽しそうに笑う街の皆と、嬉しそうな家族を見て、ロゼッタは少しだけ肩の力を抜いた。
(……迷惑なのかと思っていましたけれど)
(案外、悪くないのかもしれませんわね)
その時、夜風が吹き抜けた。
「……少し寒いですわね」
ロゼッタがそうつぶやいた瞬間、令嬢たちが一斉に動き出す。
「毛布部隊!!!」
「総員配置!!!」
「保温班急いでくださいませ!!」
ばさっ!!
ばさっ!!
さらにもう一枚。
さらにもう一枚、ばさっ!!
気付けばロゼッタは毛布に包まれ、完全に雪だるま状態になっていた。
その隣へ、アレンが静かに腰を下ろす。
「……5枚か」
「ふふっ毛布部隊が張り切りましたの」
「そうか」
少しだけアレンが笑って、そっと湯気の立つカップを差し出した。
「……飲むか?」
「……ココアですの?」
「ああ」
「……いつの間に」
「毛布部隊のついでだ」
「ふふっ、ありがとうございます……」
ふぅ、と湯気が揺れる。
温かくて、甘い香りにつつまれ、ロゼッタはそっと街を見下ろした。
明るい夜空。
笑い声。
子どもたちは走り回り、大人たちは酒を片手に騒いでいる。
本来の流星群は、もう見えない。
乙女ゲームとしては、完全に終わっている。
でも、
「……みんな、楽しそうですわね」
「ああ」
「これはこれで、悪くない」
「流れ星、見つけたら教えてくださる約束でしたのに」
「次の機会には必ず」
「楽しみにしておりますわ」
ロゼッタは、毛布へ埋まりながら小さく笑った。
そこの様子を見たマリアベルは珍しく穏やかな顔で微笑み
「……ロゼッタちゃん」
「はい?」
「最近、よく笑うようになりましたわねぇ❤️」
「楽しそうにしてくれて嬉しいですわ❤️」
「やっぱりロゼッタちゃんは、とっても可愛いですわ❤️」
(……狂っていますけれど)
(あったかいですわね)
ロゼッタは少し照れくさそうに、毛布へそっと顔を埋めた。
アレンはその様子を見て、思わず口元を緩めた。
最近の彼女は、確かに自然に笑っている。
そのことが、なぜだか少し嬉しかった。
この家はおかしい。
本当に、おかしい
国家規模で暴走するし、常識も大体壊れている
けれど、ロゼッタが笑っている理由だけは分かる。
「……愛されているんだな」
一方その頃。
広場の端、乙女ゲームのヒロインユナは。
「……また、イベント消えた……」
屋台の串焼きを頬張っていた。
美味しい。
悔しいけど美味しい。
「嬢ちゃん!今日は景気いいから一本おまけだ!」
「……ありがとうございます」
ユナは、眩しい夜空を見上げる。
星は見えない。
でも、街は楽しそうだった。
「……まあ、これはこれでいっか……」
串焼き、もう一本注文した。
アレン
「星は見えなかったが」
「……いい夜だった」




