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爆発を避けながら求婚した男。ヴィクトル。

「おい……」

「しっ!!」


通行人たちが、ひそひそと声を潜めて噂話をしている。


「あれが……」

「例の“悪魔の七日間”の……」


「あぁ、ヴィクトル公爵閣下だ……!」


ロゼッタは目を瞬いた。


(悪魔の七日間?)


王都では有名なことわざだ。

ロゼッタも、もちろん聞いたことがある。


悪事を働けば、一週間で全てを失う。

容赦なく制圧される。


そんな意味で使われる、有名な言葉だ。

子どもですら知っている。


ロゼッタは隣を見上げた。


そこには、

黒ヒゲ。

黒い丸サングラス。

不自然な黒マントで変装した、父ヴィクトルがいた。


ちなみに、今日は父と母、ロゼッタ。

後方には取り巻き、護衛。

屋根の上にはルシアンも待機している。


今日の夜に予定している流星群の観測。

その前に少しだけ、街歩きが決まった日。


マリアベルの

「目立たないように変装いたしますわ❤️」


の一言で決まった。

全員同じ格好だ。



「パパ」

「ん?」


「あのことわざ、パパと何か関係がありましたの?」

ヴィクトルは一瞬きょとんとして、それから


「ははは!」


爽やかに笑った。


「なに、若い頃の話だよ」

「若い頃?」


「ああ」


ヴィクトルは懐かしそうに目を細める。


「ママを悲しませた貴族たちを、少し、粛清しただけだ」

「粛清!?」


ロゼッタの脳裏に、嫌な文字が浮かぶ。


――破滅。


(まさかお父様、めちゃくちゃ恨みを買っているのでは……!?)


ヴィクトルは娘の不安に気付き、安心させるように肩へ手を置いた。


「大丈夫だ。全員、教育済みだよ」

「嫌な予感しかしませんわ!!」


既視感がする。一話目のママと同じ空気だった。


その時、後方から一人の執事が静かに進み出た。


「ご安心ください、お嬢様」

「私が、かつて粛清された執事でございます」


ロゼッタはギョッとして執事を振り返る。


その目は過去を懐かしむように、穏やかに細められていた。


「あの時は震えました」

「……でしょうね」


「あまりの見事な腕前に」

「そっちですの!!!?」


ヴィクトルは困ったように笑った。

「大げさだなぁ」

「いえ、まさに芸術でした」


「当時の私は若く、奥様のお手製クッキーに『つぎからは侍女に任せた方がよろしいかと。』と......。」


「……その場で笑っていた貴族たちも、皆」

「一族郎党、眠れぬ夜を過ごしました。」


「たったそれだけで……?」

「いえ。"それだけ"では終わりませんでした。」


「旦那様が少々お調べになりまして……。」

「少々?」


執事は静かに微笑んだ

「えぇ。そして王都が少し、すっきりしました。」

「すっきりとは......。」


(その『すっきり』、詳しく聞くのが怖いですわ……。)


少し怖くなったロゼッタがヴィクトルに視線を移すと、

ヴィクトルは少しだけ目を伏せ、とても優しい声で言った。


「ママが悲しんでいたからな」

「理由はそれだけで充分だ」


「不充分ですわーーー!!!」


「旦那様由来の言葉は、他にもたくさんございます」


執事はどこか誇らしげに続けた。


「沈黙の処刑人」

「微笑みの執行者」


「そして――」


「ボマーを手なづけた勇者」


「…………」


「ボマー……?」


ロゼッタがゆっくりとヴィクトルのほうへ顔を向けると、父は爽やかに笑っていた。


「ははっ」

「昔のあだ名だよ」


ロゼッタは嫌な予感を覚えながら、おそるおそる確認した。


「….まさかとは、思いますけれど。」

「ボマーって......?」


ヴィクトルはゆっくりと、とても愛おしげにマリアベルを見る。


マリアベルは、照れたようにおっとりと頬へ手を当てた。

「あらぁ❤️」

「若い頃の話ですわ〜❤️」


「やっぱり、そんな気はしていましたわ。。」


執事は深く頷いた。

「当時の奥様は、今よりさらに怖がりさんでいらっしゃいまして」


「今以上が存在するんですの!?」

「王都では、“歩く火薬庫”とも」


「ママ!?」


ヴィクトルは懐かしそうに笑った。

「ははは。可愛かったなぁ」

「どの辺がですの???」


「私が近付くたび、威嚇で爆発していたんだよ」


「狂ってますわ!!!」


マリアベルはうっとりしていた。


「でもね、パパったら全部避けながら近付いてくるんですもの❤️」


ロゼッタの脳裏に、爆発を避けながら

「はははははっ!」

と笑って近付く父と、


ぷるぷる震えながら手榴弾を投げ続ける母の姿が浮かぶ。

ロゼッタは想像して身震いした。


「あの時のパパ、とっても素敵でしたわ〜❤️」

「ははは、照れるなぁ」


「ちなみに….初顔合わせの時は」

「ママも昔、何か被ってましたの……?」


DANGER帽子の記憶を思い出して、震える声でロゼッタは尋ねた。


マリアベルは首を傾げる。

「いいえ?」

「帽子は使ってないわ❤️」


「よかったですわ」

ロゼッタが安心した瞬間、


「動くと爆発する椅子にお通ししただけですわ❤️」

「帽子の方がマシでしたわーーー!!!」


ヴィクトルは懐かしそうに笑っていた。


「ははは!初対面で爆発したからなぁ!」

「笑い事ではありませんわ!」


「でもちゃんと私に爆風が当たらないように配慮までしてくれたのよ」

「配慮の方向性がおかしいんですのよ!」


マリアベルはうっとり頬を染める。

「それで思ったの……」

「“この人なら大丈夫”って」


「どこがですのーーー???」

ヴィクトル

「ははは!なるほど!次は右だな!」


ドゴーーーンッッ


※詳しくは短編『結婚の決め手は、椅子が爆発したことでした。』で描いています。

ヴィクトルとマリアベルの初対面のちょっと?おかしな物語です。

よろしければ、ぜひ覗いていただけるとうれしいです!

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