【完】普通の結婚式がしたかったですわ!
今日は結婚式当日。
朝から王都はどこか浮き足立っていた。
「おい!もう場所取りしたか?」
「したした!」
「花火も上がるらしいぞ!」
「またグランフェル家か!?」
「まただな!」
王都の大聖堂
教会の鐘が鳴り響き、今まさに新婦ロゼッタが入場しようとしていた。
アレンは祭壇の前に立ちながら、その時を静かに待っていた。
重厚な扉がゆっくりと開く。
その瞬間、アレンは思わず息を呑んだ。
ヴィクトルに手を引かれながら現れたロゼッタは、まるで天使のようだった。
純白のドレスに身を包み、宝石があしらわれたキラキラと輝くバージンロードに静かに立つ彼女は、とても幻想的だった。
会場のあちこちから感嘆の息が漏れる。
アレンはしばらく言葉を忘れていた。
だが、ロゼッタの表情は、妙だった。
緊張しているのは分かる。
一生に一度の結婚式なのだから当然だ。
しかし、それだけではない。
どこか怯えている。
いや、かなり怯えていた。
(どうしたんだ)
アレンは視線を下げる。
ロゼッタの足元のバージンロード。
左右に設置された祝福演出装置。
正式名称は長すぎて覚えていないが、簡単に説明するなら両側が爆発する仕掛けになっている。
マリアベルが「たくさん人が集まりますもの、安全第一ですわ❤」
と言って決定したO案である。
もちろん新婦の安全性は確認済みだった。
設計図も見たしルシアンによる安全確認も終わっている。
準備の段階では、問題ないと思っていた。
だが今なら分かる。
これは怖い。
ロゼッタが、震える足で意を決したように一歩踏み出す。
一歩、また一歩。
次の瞬間
ドォォォォォン!!!
ロゼッタの肩がびくりと跳ねる。
対照的に会場は歓声に包まれた。
「きゃーーーー❤️」
「祝砲ですわーーー❤️」
ロゼッタがさらに青ざめる。
五歩目。
六歩目。
ドォォォォォン!!!
今度は目までぎゅっと閉じていた。
その姿を見ているうちに、アレンはだんだん申し訳ない気持ちになってくる。
もはや花嫁ではない。
処刑台へ向かう、罪人の顔だった。
完全に失敗だった。
そして十歩目。
ロゼッタの足がわずかにもつれる。
その瞬間、アレンは思わず身体が動いていた。
本来なら祭壇で待っているべきだった。
花嫁が歩いてくるのを待つのが正式な流れだ。
そんなことは分かっている。
それでも足が止まらなかった。
ただ、あの顔を見ていられなかった。
ヴィクトルも同時にロゼッタを支えるため手を伸ばす。
そして反対側からはアレンの手が伸びていた。
「で、殿下?」
「……すまない。祭壇で待っているつもりだった」
「ははっ良い婿ではないか」
そして、ロゼッタを見ると、まだ少し怯えた顔のままこちらを見上げていた。
アレンは、ロゼッタを安心させるように優しく微笑んで伝えた。
「大丈夫だ。爆発の導線は把握している」
「結婚式ですよね!?」
「あぁ。右斜め三歩前」
「はい?」
「......そこは囮だ」
「囮ってなんですの!?」
「踏むな」
「絶対踏みませんわ!?」
ロゼッタがぎょっとして見上げた先で、アレンの胸元に前夜祭で渡したブローチが光っていた
「それ……」
「付けてくださっていたんですの?」
「あぁ。君から貰ったものだからな」
そして祭壇までたどり着き、ヴィクトルがそっと手を放す
「頼んだぞ」
「お任せください。義父上」
神父が静かに問いかける。
「新郎アレン・ルーヴェルト」
「はい」
「健やかなる時も」
ドゴォォォォォン!!!
後ろでバージンロードが爆発し、ロゼッタがびくりと肩を震わせる。
「病める時も」
ドゴォォォォォン!!!
ローレンがエミリアにしがみついて泣いている。
フレデリック王も驚いたように周りを見回し「うわー!派手だなー!」と感動している。
ロゼッタが少しだけ隣を見ると、そこではアレンが微笑んで静かに一つうなずいていた。
そして神父が続ける
「それでは、誓いの口づけを」
ロゼッタは緊張で心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
後ろではマリアベルは既にヴィクトルへしがみついて泣いている。
シャルロットはハンカチを握りしめ、エミリアはなぜか双眼鏡を構えていた。
アレンがそっとロゼッタへ手を伸ばす。
ロゼッタも目を閉じた。
ほんの一瞬の口づけ。
離れた瞬間、2人は目を合わせて照れたように笑いあった。
その瞬間。
ドゴォォォォォォォォン!!!!
後ろではひときわ大きく、バージンロードが爆発していた。
純白の鳩が飛び立ち
ステンドグラスが砕け散る。
砕けたステンドグラスは、陽の光を浴びてキラキラと幻想的に輝いていた。
そして、破片が落ちる前に。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
ルシアンの銃声が無数の破片を散らしていく。
「安全確認、完了」
結婚式は、その後も何度か爆発を挟みながら無事に進行した。
途中、フレデリック王が「今のは予定通りなのか!?」と三回ほど確認し、
ローレンが七回ほど気絶しかけたが、大きな問題はなかった。
やがて式が終わり。
新郎新婦となった二人は、大聖堂の外へと姿を現した。
その瞬間、ロゼッタは思わず足を止める。
「……あ」
外の景色が。
あまりにも綺麗だった。
先ほどまで霧部隊と名乗る不思議な部隊が作っていた細かな水の粒が、陽の光を受けて薄い霧となって漂っている。
その向こう。
庭園には虹が架かっていた。
七色の光が教会の庭園をゆるやかに横切っている。
そしてその庭園には色とりどりの花々が風に揺れ、
噴水の水が陽光を反射して宝石のように輝き、そして白鳥達が気持ちよさそうに水浴びをしている。
黒薔薇担当の指示で、令嬢たちがふわりと薔薇を撒く。
今日は黒薔薇ではなく、白と赤の花びらだった。
その光景を見た瞬間、ロゼッタは気付いた。
「あの絵……」
以前、北部から帰った時に令嬢たちが再現したいと言っていた一枚の絵画。
白鳥、虹、噴水、上から降り注ぐ花びら
そして祝福に包まれた、ロゼッタ
その光景が今、目の前に広がっていた。
アレンは静かに虹を見上げていた。
光の角度、花の配置、噴水の位置。
太陽の角度が完璧になるよう、式の時間配分も調整した。
花弁の落下速度も、完璧だ。
「想像以上だ」
ぽつりと呟く。
ロゼッタが振り返った。
アレンは少しだけ笑う。
「皆で作った景色、君がいてようやく完成した」
ロゼッタも虹を見上げて、吹きだした
「なんですの、それ。」
「でも、とってもきれいですわ。殿下。ありがとうございます」
「お兄様?そういう時は『愛してる』って言うんですのよ?」
シャルロットが横から得意気に口をはさみ、2人は目をそらして赤面する。
その時だった。
遠く王都の外周から轟音が響く。
ドゴォォォォォォォォォン!!!
全員が空を見上げた。
北部辺境伯ガイウスが無線を片手に豪快に笑っている。
「百門一斉射撃ーーー!!!」
次の瞬間、無数の祝砲が空へ打ち上がった。
昼の空でも鮮やかな色が見えるようユナ監修のもと作られた祝砲だった。
色とりどりの祝砲が王都の空を色どり、
町中から歓声が上がった。
誰もが空を見上げる。
そして王都から少し離れた丘の上。
無線機をそっと置き、ユナは帳簿を眺めた。
祝砲特別席。
結婚限定記念商品。
協賛金。
全ての数字が過去最高を叩き出していた。
口元が満足そうに緩む。
「よし」
隣でクラウスが苦笑する。
「感動的な場面なのにね」
「もちろん、感動的な売上よ!」
「そっちかぁ」
空には祝砲。
王都には歓声。
「普通の結婚式がしたかったですわ」
「無理だろう」
「ですわね。」
騒がしくて、賑やかで。
でも、誰もが笑っていた。
「お幸せにですわーーー❤️❤️❤️!!!」
そんな令嬢たちの祝福が、いつまでも王都に響いていた。
ここまでお付き合いありがとうございました!
そして騒がしいグランフェル家の物語も、ついに完結です。
ちょっと休んだら、ユナの短編とか王と王妃の昔話とかちょこちょこ描きたいなーと思ってます!
でも実は今、次の作品も2つくらい準備していて、数か月以内には始められるかな?と思ってます。たぶん。
「初夜にベッドを燃やし屋敷を全焼させた王女。その翌日に転生した主人公」
が、王女の過去のやらかしと、明るい太陽属性の旦那さんの信奉者たち
マッチポンプ式粘着ストーカー系軍師、「私、脱いだら天下とれるんだから!」が口癖のあほ令嬢。過去の被害者、ポンコツロボットの監視役。毒使いの令嬢。そんなにぎやかなメンバーでスタートする予定です!
また見つけたときは立ち寄ってもらえると嬉しいです~!




