結婚前夜の祝賀パーティー
いよいよ明日は結婚式
王都でも指折りの豪華さを誇る建物、その大広間では結婚前のささやかな祝賀パーティーを開催していた。
主催はグランフェル家、そこに主役の2人、アレンの父である王と王妃、妹のシャルロット、取り巻き令嬢たち、そしてエミリアも家族で来てくれることになった。
パーティーがはじまり、ゆっくり会場の照明が落ちる。
アレンは、静かに天井を見上げていた
やがて暗闇の中で天井から幾筋もの光のカーテンが降り注ぎ、会場中の視線が一斉にそこへ集まる。
そして、巨大な純白の翼を背負ったロゼッタが、あらわれた。
「ロゼッタちゃん素敵ですわー!」
「天使降臨ですわーーー!!」
「神々しいですわーーー!!」
手を取り合うマリアベルと令嬢たちに、アレンは共感して静かにうなずいた。
階段の上では、ロゼッタが少し困った顔をしながらそれでも懸命に笑顔を作っている。
階段を降りきったロゼッタは、翼を背負ったまま少しだけ口を尖らせていた。
その様子を見て、アレンは思わず尋ねる。
「もしかして、恥ずかしかっただろうか」
「ちょっとだけ、ですわ。でも皆が笑ってくれるのも嬉しいですもの」
まただ。ロゼッタは皆の笑顔に答えようと少し無理をしてしまうところがある。
健気でかわいいが、これからは自分が守っていかなければならないと、アレンは改めて感じた。
「殿下も、演出に参加していたでしょう?」
「もちろんだ」
「もちろん?」
「翼の角度も調整した」
アレンがそう答えると、ロゼッタは少しだけ吹き出した。
「何をしていているんですの」
「君が喜ぶと思ったからな」
「もう」
ロゼッタは少し視線をそらして、困ったように笑った。
会場を見渡すと、大切な人間が、皆そこにいた。
まだ始まったばかりなのにハンカチを握りしめて泣いているマリアベル、その肩をそっと支えるヴィクトルがいる。
その近くでは、「すごい演出だ!」と感動してはしゃいでいる王を、王妃が穏やかに見守っている。
うちわと応援旗のようなものを持ってはしゃいでいる取り巻きの令嬢たちもいる。
北部からわざわざ来てくれたエミリアは口から泡を吹きながらメジャーを握りしめて震えるローレンをお姫様抱っこしていた。大丈夫だろうか。
兄のルシアンがそっとローレンのフォローに回っていた。
やがて中央へ進み出たヴィクトルが、手にしたグラスを高く掲げた。
「明日は結婚式だ!だから今日は難しい話はなしだ!」
「まずは楽しもう!」
「「「おおおおおおおお!!!!」」」
祝賀パーティーは一気に熱を帯びた。
「……すごいですわね」
ぽつりとつぶやいたロゼッタに、アレンも同じように会場を見渡す。
笑い声、乾杯の音、令嬢たちの歓声。
王の大笑い。
どこを見ても賑やかだった。
「そうだな」
ロゼッタは少しだけ目を細める。
「こんなにみんな楽しそうにしてくれて、嬉しいですわ」
その声はとても柔らかかった。
きっと本人は気付いていないのだろう、誰より嬉しそうなのはロゼッタ自身だった。
「君もな」
「え?」
「楽しそうだ」
「ふふっ……そうかもしれませんわ」
少し恥ずかしそうに笑う様子が可愛くて、アレンは少しだけ口元を緩めた。
「皆様がたくさん準備してくださいましたもの」
「だから、今日は私がみんなに感謝を伝える番ですわ」
ロゼッタは、胸元へ抱えた包みをぎゅっと抱き直す。
今日は、どうしても自分の手で渡したかった。
「いつも素敵な傘をありがとうございます」
まずは傘担当の令嬢に、ハンカチを渡す
「以前、お花の刺繍がお好きだと伺いましたので」
「お、お、おぼえていてくださったんですのぉぉぉぉぉ!!!!」
黒薔薇担当へ渡されたのは押し花の栞だった。
「以前、綺麗な押し花を見せてくださいましたでしょう?」
「......!!!」
黒薔薇担当が、そのまま後ろに倒れ、横にいた傘担当が慌てて抱き留めた。
その後も、取り巻き令嬢たちそれぞれに、思い出にちなんだプレゼントを渡す。
気付けば広間中が涙で溢れていた。
「ロゼッタ様ぁぁぁ……」
「優しすぎますわぁぁぁ……」
「好きですわぁぁぁ……」
父ヴィクトルには特注の万年筆
兄ルシアンには、ロゼッタが刺繍した射撃用の手入れ布
そして、手元に残った最後の箱。
何度も糸をほどいては、やり直した。
それを抱えたまま、ゆっくり顔を上げる。
「……ママ」
ロゼッタは小さく笑いながら箱を差し出した。
「うえぇぇええん、ロゼッタちゃーーん」
マリアベルは既に号泣しながら、震える手でプレゼントを受け取った。
箱を開くと、少し不揃いで、不器用な刺繍
上手とは言えないけれど、一針一針心を込めてつくった。
そして隅は小さく『いつもありがとうございます』と書かれていた。
マリアベルは動かなかった。
ただ、その文字を見つめている。
そして、数十秒の沈黙の後、
「ろ……ろ、ロゼッタちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
「嬉しいですわぁぁぁ!!」
「可愛いですわぁぁぁ!!」
「ま、ママ、苦しい......」
抱き締める力が強すぎる。でも、喜んでくれて良かった。
ロゼッタが微笑んでいると
「中止ですわーーーー!!!」
「......!?」
「ロゼッタちゃんはずっとうちの子ですわぁぁ!!」
「ママ!?」
「はははっ、うちはそれでも問題ないぞ!」
「パパまで!?」
万年筆を握りしめたヴィクトルまで加勢する。
「いつまでも、うちにいたらいい!」
「結婚式が明日なのですけれど!?」
「問題ない」
「大問題ですわ!」
令嬢たちは涙を拭きながら頷いている。
「そうですわ!」
「ロゼッタ様は永遠にロゼッタ様ですもの!」
「どういうことですの!?」
ロゼッタは助けを求めるように周囲を見回した。
そして、自然とアレンと目が合う。
「……殿下」
アレンはロゼッタに大丈夫だと告げると二人に向き直る。
「義父上、義母上」
「ロゼッタは、もう子供ではありません」
「もちろん、今までと同じように大切に思っているのでしょう」
「うむ」
「当然ですわぁ❤️」
「ですが、それは結婚しても変わらないと思います」
「家族であることは、明日になったからといって消えません」
マリアベルは目から大量の涙を流しながらヴィクトルにしがみついていた。
「ですから安心してください。これからは私も一緒に守ります」
「うぅぅぅ……」
「頼もしいですわぁ!!」
「アレン殿下も、うちの大事な息子ですわぁ……❤️」
その横でヴィクトルも静かに笑っていた。
「そうだな」
万年筆を見つめながら呟く。
「明日からは一人、家族が増えるだけか」
その言葉に、ロゼッタは少しだけ目頭が熱くなった。
結婚する。
家を出る。
そう考えると少し寂しい気持ちもあった。
けれど、家族はここにいて。
これから、自分の隣にはアレンがいる。
「……はい」
「これからもよろしくお願いします、お父様、お母様!」
そう言って笑うと。
マリアベルが再び飛びついた。
「ロゼッタちゃぁぁぁん❤️」
「やっぱり苦しいですわーーー!!!」
その後も祝賀パーティーは賑やかだった。
ヴィクトルと辺境伯は上機嫌で酒を酌み交わし、
フレデリック王は『幸福を呼ぶ壺』について熱弁をはじめ、
令嬢たちはプレゼントを抱えてはしゃいでいる。
その少し離れた場所では、王女シャルロットがグラスを片手にそっと兄へ近付いた。
「お兄様」
「なんだ」
「良かったですわね」
「何がだ」
「顔、とっても嬉しそうですよ」
シャルロットはくすりと笑う。
「……そうかもしれないな」
その手には、ロゼッタからの贈り物が大切そうに握りしめられていた。
シャルロットは満足そうに笑った。
そして宴も終わりに近付いた頃。
ロゼッタは少しだけ夜風に当たりたくなって、テラスへ出た。
空には美しい星空が広がっている。
明日は結婚式。
不思議な気分だった。
王都を爆破予定の悪役令嬢に転生したことに気づいたときは驚いたが
先に家族の溺愛が待っていて、焦る暇もなかった。
最初は戸惑うことも多かったが、皆が笑っている。
楽しそうにしている。それが、今はとても嬉しかった。
「ここにいたのか」
「殿下!皆様まだ騒いでおりますわね」
「主に令嬢たちがな」
「私のママもですわ」
「私の父もだな」
二人で少し笑った。
「明日なんですのね」
「ああ」
遠くから令嬢たちの歓声が聞こえた。
どうやらまだ何か始まったらしい。
「本当に騒がしいですわ」
「そうだな」
「でも......嫌ではありませんの」
その横顔を見て、アレンは少しだけ目を細める。
最初に出会った頃、彼女の世界はグランフェル家だけだった。
大事に囲われすぎて、時に辛そうだった。
だが今は、自分の意思で友人を作り、
家族とぶつかり、世界を広げている。
そして今。こうして自分の隣で笑っている。
それがとても、嬉しかった。
「殿下?」
「いや、明日が楽しみだと思ってな」
「結婚式がですの?」
「ああ。結婚式も。その先も」
「君といる未来が」
「……わたくしもですわ」
ロゼッタがそう小さくつぶやいたとき、遠くから令嬢たちの歓声が響く。
「今から上がりますわーー!」
北部辺境伯ガイウスが無線で、誰かとやり取りをしているようだ。
夜空へ巨大な花火が打ち上がった。
ドォォォォォン!!!
「虹色の花火ですわ!」
「祝福成功ですわーーー!!!」
アレンとロゼッタは、同時に吹き出した。
夜空には大輪の花火。
会場からは歓声。
相変わらず騒がしい。
きっと明日も、その先も。
平穏とは程遠いのだろう。
けれどそれも悪くない。
そう思いながら、二人はもう一度夜空を見上げた。
『大成功ですわーーー!!!』
無線機から聞こえる歓声に、ユナは満足そうにうなずいた。
手元の帳簿へ視線を落とす。
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祝賀花火協賛席
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売上は非常に順調だった。
隣ではクラウスが「ほんとにすごいよ、ユナさんは」
と呆れた顔で笑っている。
「当然よ!」
「結婚式本番はもっと稼ぐんだから!」
次回、いよいよ結婚式です。
ここまで見守ってくださった皆様、本当にありがとうございます;;
少し寂しい気持ちもありますが、最後まで賑やかに駆け抜けたいと思います。
ぜひ次回もお付き合いいただけたら嬉しいです!




