せっかくの顔合わせが台無しですわ!
第一王子アレン・ルーヴェルトは、幼い頃から何度も同じ言葉を聞かされて育った。
――グランフェル家には気を付けろ。
グランフェル家は、王国随一の権力を持つ公爵家。
通信技術改革、軍事設備強化、治安の大幅な改善。
今の王国が周辺諸国へ大きく水をあけている理由を一つ挙げろと言われれば、
多くの者がグランフェル家の名を出すだろう。
特に現宰相ヴィクトル・エル・グランフェルは有能で知られていた。
明るく人当たりが良く、誰とでも気さくに言葉を交わす。
それでいて判断は早く、仕事も正確。
王国の発展を支える名宰相として、多くの貴族や官僚から信頼を集めている。
……ということになっている。
実際には、家族への狂気的な溺愛も有名だった。
家族を侮辱した貴族が翌月には社交界から姿を消した。
そんな噂がある。
噂だけならまだいい。
問題は、その手の話が妙に多いことだった。
「公爵夫人を泣かせた商人が王都から消えたという話もあります」
側近が資料をめくりながら言う。
そしてさらに厄介なのが、その妻。
マリアベル・エル・グランフェル。
社交界で彼女を悪く言う者はいない。
美しく、穏やかで、人当たりも良い。
その一方で、
『昔は狂人だったらしい』
『ヴィクトル公が何とか抑えている』
『刺激すると爆弾が飛んでくる』
そんな、にわかには信じがたい噂も根強い。
真偽はわからないが、確かめに行きたい人間など、まずいないだろう。
そして、その二人の娘。
ロゼッタ・エル・グランフェル。
私の婚約者になる令嬢だった。
「気に入らない相手を家の権力を使い追い詰める。」
「取り巻きを大勢引き連れ、黒薔薇を撒きながら高笑いしていた。」
聞こえてくるのはそんな話ばかりだ。
もっとも、実際に見たことがある人間は少ない。
グランフェル家が娘をほとんど表へ出さないからだ。
そして私は、その噂の中心にいる令嬢と婚約する。
今日はその、顔合わせだった。
政略だから、仕方がない。
理解はしている。
してはいる。が。
できれば普通の相手であってほしかった。
その程度の願いは許されると思う。
アレン深刻な顔で資料をめくった。
『“お下がりなさい下民ども!!”担当確認』
『花吹雪担当あり』
『重装甲確認』
「担当とはなんだ」
「不明です」
アレンは静かに目を閉じた。
(本当に….これが私の婚約者なのか……?)
本当に、会いたくなかった。
だが、政略とはそういうものだ。
逃げられない。
逃げたくても、逃げられないのだ。
アレンは覚悟を決めた。
「……入れ」
扉が開いた。
そして次の瞬間、アレンは自分の判断を後悔した。
黒服の令嬢たちをぞろぞろと従え
黒薔薇が舞うその中心で
――ロゼッタ・エル・グランフェルは、なぜか半泣きだった。
「やめてくださいませぇぇ!!!」
しかも頭には帽子。
問題は、その帽子に大きく『DANGER』と書かれていることだった。
アレンは固まった。
(なんだ、あれは……威嚇......か?)
いや、待て。
帽子に危険と書いてあるぞ……!?
「ロゼッタ様、危険な女の香りですわ~❤️」
「かっこいいですわ~❤️」
アレンの脳内で、警報が鳴り響いていた。
(まずい……)
(この女、想像以上に危険だ……!!)
読んでいた事前資料の、まさか上をたたき出してくるとは思わなかった。
しかし当のロゼッタ本人は、本気で涙目だった。
「ママがぁ……」
「ママがぁ……」
目の前の令嬢はこちらの様子に気が付いたのか、必死に何かを訴えている。
母のせいにでもしようとしているのだろうか、だが正直、責任転嫁にしか聞こえなかった。
「母君のせいにするな!!」
「本当に、本当にママなのよぉ!!」
ロゼッタは悲痛な声を上げる。
アレンは勢いのまま帽子を指差す
「だいたい......なんなんだ、その帽子は!?」
ロゼッタは震えながら答えた。
「ママが……」
「“男はみんな狼なのよ❤️”って……」
「いざという時は顎紐を引けって……」
「投げれば爆発するって……」
アレンはしばらく目の前の令嬢が何を言っているのか理解が出来なかった。
理解はできなかったが、なんとか自分が危険な状況であることは理解が出来た。
「……ば…..爆発…..だと!?」
「わたしが一番怖いのよ!!」
「爆薬頭に乗せてる気持ち、考えてほしいのよぉぉぉ!!!」
一方、取り巻きたちは感動していた。
「さすがロゼッタ様ですわ〜❤️」
「“危険と美は紙一重”演出ですわね!」
「あなた達もなんで顔合わせにいるのよ!!」
アレンは確信した。
(やはり狂った悪女か……!)
「だから違うのよぉぉぉ!!!」
マリアベル「だって心配なんだもの〜❤️」




