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婚約者の王子に狂人認定されていました

「少し街へ行ってまいりますわ」

カップを持っていた母の手が止まった。


「……街?」

「はい」


「まちって……あの“街”……?」

「あの街とは、どの街ですの?」


「人が…..歩いている、あの街ですの?」

「それ以外の街があります?」


マリアベルの顔からサァッと血の気が引く。

「だ、だめよ……!!」

「え?」


「人が…….人がいるのよ!?」

「それが街です」


「あなたみたいな可愛い子が歩いたらどうなるの!?」

「どうなるんですか?」


「誘拐されたらどうするのぉ!!」

「刺されたら!?」

「毒を盛られたら!?」

「恋に….落ちたら!?」


「少し歩くだけですわ!」


マリアベルはハッとして立ち上がった。

「そうだわ!ちょうど完成したの!」


「??」

嫌な予感がした。


そして侍女たちが運び込んできたのは

鈍く輝く、鋼鉄製の鎖帷子だった。


ロゼッタは20回くらい瞬きをした。


鎖帷子だった。

どう見ても、鎖帷子だった。


「……?」


護衛用、なのだろうか。


確かに、街には人がいる。

危険もあるのかもしれない。


なるほど、少し大げさかもしれないが、

護衛を増やすという話なら理解できる。


「軽量化に成功したのよ❤️」

誇らしげに胸を張るマリアベルに、これで母が安心するならと、ロゼッタは素直に頷いた。


きっと護衛も軽量化された防具で、動きやすい方がいいだろう。


「全身覆えるわ!」

「素晴らしいですわね」


護衛の方も、きっと安心だろう。


「でしょう❤️」


マリアベルは満足そうに微笑む。

ロゼッタも微笑み返した。


「ロゼッタちゃんのサイズに合わせて作らせたの❤️」


ロゼッタは鎖帷子を見た。


マリアベルを見た。


もう一度鎖帷子を見た。


「......?……わたくし?」

「ええ❤️」


「なぜ、私のサイズに?」

「ロゼッタちゃんが着るからよ❤️」


「あ、え、わたくしが?」

「ええ❤️」


「これを?」

「ええ❤️」


「街へ?」

「ええ❤️」


「……..なんで?」


数十分後。


ガシャアン……


ガシャアン……


黒ずくめの鎖帷子令嬢が街を練り歩いていた。


「ロゼッタ様!黒もお似合いですわ〜!!❤️」

「黒薔薇の貴婦人ですわ〜!!❤️」


後ろでは、取り巻きが黒薔薇を撒きちらしている。


「お下がりなさい下民ども!!ロゼッタ様のお通りですわ!!!」

黙れ下民ども担当が怒鳴る。


「やめて!?目立ちたくないの!!」


街人たちは震えていた。


「誰だあれ……」

「暗殺者か……?」


「いや、公爵家のご令嬢らしい」

「なぜ重装備で歩いているんだ。」


「パパあれなにーー!かっこいいー!」

「しっ!やめろ!」



その頃。


翌日に顔合わせを控えた第一王子、アレン・ルーヴェルトは、馬車の窓からその姿を見ていた。


「お下がりなさい下民どもーーー!!!」

大通りに怒号が響いき、黒薔薇が大量に飛んでいた。


さらにその後ろを、妙に統率の取れた令嬢集団が進んでいる。


中央には、重そうな装備を全身にまとった黒ずくめの少女。


何かを叫んでいる。

だが、周囲がうるさすぎて聞こえない。


情報量が多すぎて、アレンはしばらく黙ってその光景をじっと眺めた。


そして眺めた結果……理解を諦めた。


「……あれが?」

「はい。」


「私の......婚約者なのか?」

「......はい。」


「そう.......か」


美しい令嬢なのかもしれない。


だが、ずっと叫んでいた。

びっくりするほど、叫んでいた。


もう、美人とかそういう話ではなくなっていた。

アレンは将来の婚約者を前に、静かに絶望した。


「……とんだ、狂人ではないか」


側近も青ざめながら頷いた。

ロゼッタ「ただの防犯対策ですのよーーー!!!」

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