一体何が起こっていますの?
ロゼッタの手元には一通の手紙が届いていた。
差出人は王女シャルロット。
ロゼッタの横には、マリアベルが心配そうに目をうるうるさせて
「どうしましたの?」「何が書いてありますの?」とおろおろしている。
ロゼッタは手紙の封を静かに開けた。
『ロゼッタ・エル・グランフェル様
突然のお手紙をお許しください。
最近のお兄様の様子について、どうしても確認したいことがあります。
北部よりお戻りになって以降、お兄様には少々看過できない変化が見受けられます。
ロゼッタ様には、その事情について詳しくお聞かせいただきたく存じます。
なお、こちらとしても大変重要な話であるため、どうぞ辞退はご遠慮くださいませ。
私は必ず真実を知りたいのです。
シャルロット・ルーヴェルト』
「…………」
ロゼッタは手紙を見つめた。
紙の向こうから圧を感じる。
どうぞ辞退はご遠慮くださいませ = 断るな
私は必ず真実を知りたいのです = 絶対来い
そんな意思が、透けて見える気がする。
「まぁ!!」
マリアベルの顔色がサァっと変わった。
「王女様……怒っていらっしゃいますわ!」
「やっぱりそう見えますわよね?」
「怖いですわぁ.......」
珍しく、ロゼッタは母の言葉に同感した。
マリアベルとロゼッタは、しばらく不安そうに手紙を見つめて、無言で震えていた。
そして、マリアベルが立ち上がった。
「ちょっと聞いてきますわ!」
「お母様?」
「お茶会では何が起こるかわかりませんもの!」
「ママ!?」
「大丈夫ですわ!ロゼッタちゃんのことは、ママがしっかり守ってあげますからね!」
大丈夫ではない気がした。
だが止める前にマリアベルは部屋を飛び出していた。
最近少し落ち着いていた過保護が復活したような、嫌な予感しかしなかった。
その翌日。
王宮、王女付き侍女控室。
全員が、机上の一通の手紙を取り囲み、震えていた。
差出人はマリアベル・エル・グランフェル公爵夫人。
この王国でも屈指の最強生物だと噂が絶えない人物だ。
『この度、王女様からロゼッタちゃんへ手紙が届きました。
つきましては、お茶会当日の警備体制についても教えていただけますでしょうか。
毒物混入等の危険はございませんでしょうか。
刃物や針などの持ち込み確認はどのように行われておりますでしょうか。
王女様のご機嫌を疑っているわけではございませんの。
ただ、母として心配なだけですわ。
もしロゼッタちゃんに何かあれば、わたくしも動かざるを得ません。』
「動くって……」
「何が......動くの……?」
マリアベルの夫は宰相ヴィクトルである。
「宰相様では……?」
最近ではこの国の軍部の重要人物、北部辺境伯を勢力に取り込んだという情報もある。
「まさか、軍では……?」
誰も答えられなかった。
そしてお茶会当日。
シャルロットはいつも通り目を覚ましたが、なにかがおかしい。
「……あら?」
侍女がいない。
いつもなら起床前から待機しているはずなのに。
「……リリィ?」
「……アンナ?」
返事がない。
慌てて呼び鈴を鳴らす。
しばらくして見習い侍女が駆け込んできた。
「申し訳ありません!」
「何があったの?」
「そ、その……私もよくわからなくて。」
とにかく、今日はお茶会だ。
シャルロットは気を取り直して急いで身支度を始めた。
髪、ドレス、装飾品。
何とか形にはなった。
でも何かいつもより少し、雑だった。
お気に入りの髪型、メイクもなんだか違和感がある。
「なんなのよ今日は……」
不機嫌なまま会場へ向かうと、そこにはなんだか慌てている侍女長がいた。
「何があったの?」
「申し訳ございません!!」
「本日担当予定だった侍女達ですが……」
「ええ」
「全員、欠席いたしました」
「は?」
意味が分からなかった。
「理由は?」
「こちらを……」
シャルロットは侍女長に差し出された手紙を読んだ。
そこには、「もしロゼッタちゃんに何かあれば、わたくしも動かざるを得ません。」
脅迫のような言葉が書かれている。
なんなんだ、この一家は。
シャルロットは、静かに天を仰いで心をなんとか落ち着かせようと努力した。
その時、
「失礼いたします」
扉が開きロゼッタが入室してきた。
何も知らないのか、平然とした顔で落ち着いている。
上品なその所作が、逆に今朝から積みあがったシャルロットの怒りに火をつけた。
「あなた!!いったい何なのよ!」
「ひっ!?」
「今日のこともそう!お兄様のこともそう!」
「あなたの周りだけおかしいのよ!」
「えぇ!?」
「お兄様を元に戻しなさい!」
「えぇぇ!?」
「この悪女!!」
「えぇぇぇぇ!!」
指を突きつけて泣きそうな顔で叫ぶ王女に、ロゼッタも泣きそうだった。
「わたくしも戻したいですわぁぁぁ!!」
「え?……なんでこの悪女、私より絶望してるの……?」
泣きたいのは自分の方だったはずなのに。
なぜだろう、目の前にいるのはお兄様を狂わせたはずの悪女だ。
そのはずなのに、今にも泣き出しそうなのは、自分よりもむしろロゼッタの方だった。
侍女たち「出席するとマリアベル様が、欠席するとシャルロット様が怖いですわ」
当日
侍医「強い精神的なストレスによる不眠、それに伴う体調不良ですね。全員です。」




