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あなたたちいったい何をしておりましたの


その後も北部で数日を過ごしたロゼッタは、初めて友人と遊びアレンと笑い。

辺境伯一家の規格外さに振り回され。


そして――

王都へ帰る日がやってきた。


グランフェル公爵家の馬車が屋敷の前へ到着する。


長かった北部への旅も終わり、ロゼッタは少しだけほっとしていた。


やはり自宅は落ち着く。

そう思いながら馬車の扉が開き、そしてロゼッタは屋敷の前で足を止めた。


【祝・ロゼッタ様ご帰還!!】

【会いたかったですわ!!】

【北部遠征大成功!!】


そこには、王都の反対側からでも読めそうな大きさの巨大な垂れ幕。

「…………」


下を見ると、キラキラと光る赤い絨毯が敷かれていた。

小さな宝石があしらわれ、太陽の光を受けて美しく輝いている。

「歩き辛いですわ」


ロゼッタが宝石の上に足を踏み出すのをためらっていると、


すぐに見覚えのある令嬢達が、勢いよく駆け寄ってきた。


「ロゼッタ様ぁぁぁぁ!!」



「お帰りなさいませ!!」

「ご無事で何よりですわ!!」

「寂しかったですわ!!」

「北部はいかがでしたの!?」

「寒くありませんでしたの!?」

「狼は出ましたの!?」


「え、ええ……」


質問の多さに圧倒されながらロゼッタは周囲を見回した。


紙吹雪が降っている。

楽団も演奏している。

垂れ幕も揺れている。


そして通行人も見ている。


とても、恥ずかしかった。


「みなさま……これは……?」


令嬢達は顔を見合わせ、誇らしげに胸を張る。


「私達なりに準備いたしましたの!」

「北部にいらっしゃる間も毎日集まって相談しましたわ!」

「ロゼッタ様を最高にお迎えするために頑張りましたの!」

ここまで歓迎してくれるのは素直に嬉しい。

ロゼッタは少し感動した。

本当に嬉しい。

だが、できれば楽団はいらなかった。

そして、できれば垂れ幕もいらなかった。

なんなら、何もいらなかった。


後ろでは通行人も、なにか感動の再会かと拍手をしている人もいた。


「ありがとう。私も戻ってこられてうれしいわ。できれば部屋でゆっくりとしたいのだけど......。」

ロゼッタは早く屋敷に逃げ込みたくておずおずと申し出る。


ぴかぴかと輝くレッドカーペットの上をロゼッタ達家族が歩いていると、

そばにある庭木にふと目が留まる。



そこには、ロゼッタの等身大の人形が......



ぶらーんと、


ぶら下がっていた。



「きゃああああああ!!」



「きゃああ!違いますの!」

「風で飛ばないように固定しただけですわ!!」


「怖いですわ!!そもそもこの人形はなんですの!?」

「ロゼッタ様ですわ❤️」

「寂しかったんですの❤️」



取り巻き令嬢たちが口々に言い訳を始める。


「やめてくださいませ!」


さらに屋敷の中。


「……」


「……」


「……」



玄関、廊下、屋敷のそこら中に自分、いや大小様々な自分の人形がいた。


そして、ティールーム


「きゃああああああ!!」


そこには、椅子に縛り付けられたロゼッタがいた。


「違いますの!!倒れてしまわないように固定したんですの!」


「そういう問題ではありませんわ!」

「もっと他の方法が......いやそもそも置かないでほしいですわ!」



「あなたたち、留守の間いったい何をしておりましたの......」


きゃあきゃあ楽しそうな令嬢たちに、ロゼッタはもう一度北部に帰りたい気持ちになった。




「そうですわ!ロゼッタ様!」

「......まだなにかありますの?」


「こちらをご覧くださいませ!」


令嬢の一人が誇らしげに巨大な絵から布を取り払った。


ヴェールをまとい光の中心で微笑むロゼッタ

空には可愛らしい天使達が祝福のラッパを吹き、

さらに頭上からは神々しい光まで降り注いでいる。


もはや神話である。

「素敵ですわよね!」


「どこから突っ込めばよろしいのかしら」


横を見ると取り巻きたちがせっせと、布で隠された絵画らしきものをたくさん運び込んでいる。

ロゼッタは不安になった。


そして案の定、紹介される様々な絵画。


ドラゴンに乗って空を飛ぶロゼッタ

金銀財宝の中でふんぞり返るロゼッタ

湖の中心で水を操るロゼッタ

「あなたたち、私のことをなんだと思っておりますの......」


そして最後。今度は大作だった。


十人以上で合作したらしい。


令嬢たちはうっとりと絵を見つめている。


「素敵ですわ」

「最高傑作ですわ!」


そこに描かれていたのは、巨大な花畑の中央で微笑むロゼッタ

背景には無数の白鳥、虹、噴水、光、上から降り注ぐ花びら


とにかく盛れるものを全部盛ったような絵である。


「これを再現したいんですの!」

「......え?」


「そこで提案なんですけど!」

「ちょっと待ってくださいませ」


「まず白鳥を百羽ほど!」

「すでに確保済みですわ!」

「まず私の許可を......」


「花は五千本!」

「王都の花屋には通達済みですわ!」


「噴水も追加ですわ!」

「あと虹!」

「虹!?」


盛り上がる令嬢たちを見ながら、ロゼッタは静かに後退した。


その時、静かな声が響く。


「まちなさい」

「アレン様!」


一緒にグランフェル邸へ戻っていたアレンが合流した。

(ようやく常識人が来ましたわ!)


助かった。そう思ったのも束の間。

アレンは絵画の前まで歩くと、腕を組んで真剣な顔でじっと見つめ始めた。


研究者が未知の発見を前にした時のような目だった。


ロゼッタは嫌な予感がした。

「なるほど......確かに。この絵画を再現するためには、その設備は必要だな」

「止めてくれるのではないんですの!?」

ロゼッタは悟った。もう誰も、止められない。


(終わった......)


「ただし改善の余地がある」

「改善?」

「白鳥が足りない」

「足りませんでしたの!?」


「花の配置も悪いな」

「まぁ!」


「視線誘導が成立していない」

「まぁ!!」


「虹も再現可能だと思う」

「まぁ!!!」


「安心しろ、私もユナ嬢から話を聞いて調査をしたんだ」

どこからともなく取り出した分厚い資料には、

「自然虹の再現可能性と観覧位置の最適化について 」

と書かれていた。


「まだ、再現実験は出来ていないんだがな」

「殿下も何をされてますの!?」

頭をかきながら恥ずかしそうにこぼすアレンに、思わずロゼッタは突っ込みを入れる。


その時、勢いよく扉が開いた。


「失礼しまーす!」


振り返ると、そこには相変わらず毛皮と宝石で全身を飾ったユナがいた。


その後ろではクラウスが書類の山を抱えている。

「本日は講師として参りました!」


ユナは胸を張り、堂々と宣言する。

「本日は、より美しく見える演出と照明設計について、とその見積もりです!」


ロゼッタは遠い目になった。


いつの間にか。

グランフェル家の被害者だったはずの人間が、共犯者に変わっていた。


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