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ヒロイン、廃業します

クラウスに説得されながらユナは考えていた。

いや。


正確には反省していた。


乙女ゲームのヒロインに転生したことで舞い上がっていた。

小柄な体

大きな瞳

ふわふわの髪


鏡を見るたびに「ヒロインだ……」

と感動する程度には可愛かった。


前世とは全く違う、守られて愛されるとびっきりの甘い人生が待っているのだと、信じて頑張っていた。


しかし、


湖での出会いイベント

流星群、星空の下での再会イベント

夜会での手当イベント


思い返せば、イベントというイベントがすべて吹き飛んだ。


「あの一家さえ関わらなければ、まだ自分はヒロインとして戦える」

そう信じてこれまで頑張ってきた。


そして今日の花火大会。

今回こそ、勝ったと思った。


グランフェル家の影響力だってないはずだったのに、普通にいた。


思い出しても意味が分からない。


この世界は、自分が主人公の世界だったはずだ

甘くて美しい恋が出来る、乙女ゲームの世界ではないのか.......


そして。


ふと気付いた。


「あれ?」

「もしかして、本当に乙女ゲームではないのかもしれない........」


「この世界は、そう。サバゲーだ。」


では。

私は何をしていたのだろう。


サバイバルゲームをしている一家に対して、自分は何をしていた?

恋愛している場合ではないのではないのだろうか。


そして。


「私......知識チートあるじゃん」


天啓だった。


ユナは目の前の男、隣国の大商人クラウスの手を勢いよく握った。


「私!商人になります!」

「ユナさん!!」


星空の下、目を輝かせながら手を取り合う二人の男女。

話題は尽きなかった。


花火

演出

前世の知識

事業展開

利益配分


なお、話の内容に色気はなかった。


そしてここからは早かった。


契約。

契約。

契約。


気付けばユナは、たった2日でユナ商会を設立していた。


早かった。


そしてクラウスとの契約金。


思ったより多かった。

かなり多かった。


「えっ」

もう一回見た。やっぱり多かった。


「えっ❤️」

もう一回見た。やっぱり多かった。


そして、買った。


前世では絶対に買えなかった服。

憧れだった毛皮。

宝石。

おしゃれな眼鏡。

高級バッグ。


憧れの「ここからここまで全部!」も言った。

とにかく、いっぱい買った。


「なんか私、成功者っぽい!」


こみ上げる万能感。鏡の前でポーズまで決めた。


完璧だった。


そして、今日ユナは

マリアベルからの招待状を握りしめて辺境伯屋敷、応接間の扉の前に来ていた。


「よーし!ここからよ!」


「私の物語は!!」


「やっと始まったんだから!!」



バンッ!!といきなり開いた応接室の扉を見て、ロゼッタは固まった。


「ユ......ユナさん、ですの?どうしちゃいましたの!?」



顔は間違いなくユナだった。だが、恰好がこれまでの可愛らしいものと違っていた。


毛皮。

指輪。

ネックレス。

腕輪。

サングラス


その姿は完全に、成金だった。


今日の席は、ユナの「花火に色を付ける」という話を聞くために設けられ、グランフェル夫妻、辺境伯夫妻、さらにロゼッタとアレンまで同席していた。


自信満々に謎のポーズを決めたユナが、固まった。


「え、なんでこんなに集まって......」


動くたびに、ユナの全身からシャラン、シャランと音がなっている。


「ユナさん、クラウスさんと2人でお話してからどうされたかと心配していたんですの。なにかあったんですの?」

ロゼッタがユナに優しく問いかけると、ユナの目が輝きを取り戻した。


「ロゼッタ様、私気づいたんです!」


「もう恋愛で成り上がる時代は終わりです!」


「おお!」

ガイウスが拍手した。


「これからは商売です!!」

「おお!」

ヴィクトルも拍手した。


「知識です!!」

「お金です!!」

「おおおおおー!!」


なぜか大盛り上がりの空気に、完全に調子に乗ったユナが、勢いよく指を突きつける。


「花火!」

「演出!」

「事業展開!」


そのユナの姿に、ロゼッタは困惑していた。

「ユナさん、楽しそうですわね」


ユナは少し考えて、嬉しそうに微笑んだ。

「えぇ。意外と、悪くないです」


本心だった。

みんながすごいと言ってくれる。


自分の知識が役に立つ。

お金になる。

前世では考えもしなかった。


「まぁ❤️」

マリアベルがうるうるしている。


「ユナちゃんとっても素敵ですわ❤️」


ロゼッタが何気なく尋ねた。


「そういえば」

「はい?」


「クラウス様とはどうなんですの?」

ユナが固まった。


「え?」


「仲良しなんですの?」

「別に!?」


即答だった。


「ただの共同事業者です!」


「そうですの?」

「そうです!」


「本当に?」

「もう!本当です!」


「花火の色についてですよね?今後は商会として技術提供することになると思うので、今日はその話をしましょう!」

ユナは少し慌てたように話題を変えた。


「まぁ!では決まりですわね❤️」

「何がですか?」


「グランフェル家が出資いたしますわ❤️」

「え?出資?」


「ロゼッタちゃんの演出は、あなたの商会にお任せしますわ❤️」

「あぁ、さすがママ!素晴らしいじゃないか!」

「ママ!?パパも!?」


一国の宰相。国家予算を動かせる男。

そして、娘の為なら職権乱用も辞さない男からの、スポンサー宣言だった。


「ほ、本当ですか……?」

「あぁ!今後の花火事業にも興味があるしな!」


ユナの顔が引き締まる。

商人の顔だった。


「ぜひ!よろしくお願いします!ロゼッタ様のために完璧な演出プランを考えさせていただきます!」

「頼もしいな!」

「素晴らしいですわ~❤️」


「完璧な演出プランってなんですの!?」


「ロゼッタちゃんには最高の演出が必要ですもの❤️」

「あぁ、楽しみだな!」

「お任せください!」

「必要ありませんわ!?」


ロゼッタを置いて進む話に、ロゼッタはとても嫌な予感がしていた。

「あの、せめて花火とか爆発は無しにしてくださいませ!!」


ロゼッタが必死に抵抗していると、ガイウスの声が割って入った。

「面白い!!」

「我が北部は花火事業に出資する!」


「ぜひ北部で色付きの花火大会を開催してくれ!!」


「ありがとうございます!!」

「うむ!!」


次々に進む商談に、ユナの目は輝いていた。


「出遅れてしまったな」

アレンがポツリとつぶやいた。


「殿下?」

「私も今日は、演出について意見を聞きたかったのだが」

アレンは少し考えるように顎へ手を添えた。


ロゼッタは嫌な予感がした。

2人で手持ち花火で笑いあった夜。

急にスイッチが入ったように演出を語りだしたアレンの姿が脳裏をよぎる


「私は花火ではなく、もっと別の方向で」

「例えば、観覧位置による視覚効果。色だけではなく空間全体を演出する方法についても聞きたい。」


始まった。

ロゼッタは遠い目になった。


(やっぱり、殿下もでしたのね……)


グランフェル家予備軍が一人増えた瞬間だった。

やっとユナが、この世界がサバゲーだと理解しました!


成金ファッションでドヤ顔するユナ、あほ可愛くて大好きです笑


乙女ゲームのヒロインは廃業しましたが、商人としてこれから元気にいっぱい稼いで欲しいですね!

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