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最初に君へ見せたいと思った(そして婚約者も感染し始めた)

ユナの話を聞きながら、アレンは静かに考えていた。


花火に色を付けるという発想も興味深かったが、それ以上に心を引かれたのは、彼女が花火そのものだけではなく、その見せ方まで考えていたことだった。


どうすればより美しく見えるのか。

どうすれば人が喜ぶのか。


そんなことを真剣に考える人間がいるのかと、少し驚いた。


以前の自分なら、きっと聞き流していただろう。


だが今は違う。


気付けば、頭に浮かんでいたのはユナの話ではなく、別の少女の姿だった。


もし本当に色付きの花火が完成したら。

夜空いっぱいに広がる光の下で、ロゼッタはどんな顔をするだろう。


楽しそうに笑うだろうか。

それとも、驚いて目を輝かせるだろうか。


そんなことを考えている自分に気付き、アレンは小さく苦笑した。


(昔は狂人だと思っていたんだがな)


初めて会った時のことを思い出す。


黒ずくめの鎖帷子を着て絶叫しながら街を歩いていた少女。


翌日の顔合わせでは、投げると爆発する帽子をかぶっていた。


どう考えても意味が分からない。

あの頃の自分が「狂人だ」と判断したのも無理はないだろう。


だが、一緒に過ごすうちに見えてきたものもあった。


彼女は優しくて、家族のことを何より大切にしている。

そして案外、不器用だ。

だからだろうか。


花火の話を聞いているはずなのに、気付けば彼女のことばかり考えてしまうのは。


しばらく歩いた後、アレンはそっと懐から何かを取り出した。


「先ほど、クラウス殿から譲ってもらったんだ」

「まぁ!」


「手持ち花火というらしい」

「君が、がっかりしていたからな」


アレンは少しだけ視線を逸らした。

「行く前から、楽しみにしていただろう」


「だから、せめて少しでも見せてやりたいと思った」


見ていてくれた。気が付いてくれていた。

胸の奥がじんわりと温かくなった。


「アレン様……」

「ありがとうございます」


アレンが火を近付けると、白い光がぱっと弾けた。


「まぁ……」


ロゼッタは思わず声を漏らす。

派手な花火ではない。


けれど静かな夜の中で揺れる光は、とても綺麗だった。


風に流された白い火花がふわりと夜へ消えていく。


「本当は、夜空いっぱいに咲く予定だったんですのよね」

「そうだな。少し驚いた」

「うちの家族が申し訳ございませんわ。」


ロゼッタがしょんぼりしていると、アレンはアレンがいたずらっぽく笑った。


「だが、私はこれでも良かったかなと思っているよ」

「え?」


振り返ると、ちょうどアレンもこちらを見ていた。

思ったより、距離が近い。


二人とも一瞬だけ動きを止めた。

ロゼッタは慌てて視線を逸らした。


「ど、どうしてですの?」

「こうして2人で花火に誘う口実が出来たからな」


ロゼッタは顔が急に熱くなるのを感じてつい目を花火に移してし、固まった。


「まぁ、クラウス殿には申し訳なかったが」

「こうして近くで、花火を楽しそうに見ている君を見ている方が、面白い」


ロゼッタの顔が熱くなった。


「そ、そういうことを普通に言うのは良くないと思いますわ」


「そうか?」

「そうですわ」


アレンは本当に分かっていない顔をしている。


こういう時だけ無自覚なのだから困る。

やがて花火の光が弱くなり始めた。


終わりだと思った瞬間、アレンがもう一本差し出した。


「ほら」

「え?」


「まだある」

「君のために、残しておいたんだ」


「ありがとう、ございます。」

先ほどから胸がどきどきして、ロゼッタはうまく言葉が紡げなかった。


(どうして、こんなに優しいのだろう。)


そう思った瞬間、ふと先ほどの光景が頭をよぎる。


ユナと楽しそうに話していたアレン。

自分には分からない話で盛り上がっていた2人。


胸の奥が少しだけざわついた。

だから少し、意地悪な質問をしてしまった。


「先ほど、ユナ様とお話されていましたけれど、とても楽しそうでしたわ」

「あぁ。先ほどのことか。確かに楽しかった。」


「そう、ですの......」

ロゼッタの胸が少しだけ沈む。


「ユナ嬢の話を聞いていて思ったことがある」


「............?」

「ユナ嬢の話を聞いて、なぜだか君のことを思い出していたんだ」


「もし色付きの花火が完成したら。最初に、君へ見せたいと思った」


ロゼッタは目を見開いた。

「私に、ですの?」

「ああ」


「そ、そう、ですの……」


ロゼッタがどもっていると、マリアベルが嬉しそうにニコニコしながらこちらに戻ってきた。

「あ!ロゼッタちゃ~~ん❤️」


「ヴィクトル様に爆発に色を付けられる話をしましたの!」

「そうしたら、予算のことは気にするな!宰相権限で全面的にバックアップするとおっしゃってくださったんですの!」

ロゼッタは、王子の前で堂々と職権乱用の話をする母に戦慄を覚えながら、同時に嫌な予感を感じていた。


「色とりどりの光の中で輝くロゼッタちゃん……❤️」

マリアベルは夢見るように両手を合わせた。


「きっと、素敵ですわぁ❤️」


「そうだわ❤️色付きの花火をカラードレスのようにしたらどうかしら?」

「きっと世界一綺麗なドレスですわぁ❤️」


「いや、死にますわ!!」


安全確保のためなら花火は撃墜させるが、演出のためなら、娘を火あぶりに処す所存の母に戦慄を覚えてぎょっとした、その時。


「確かに、それは危険だ。」

アレンが静かに口を開いた。


「アレン様!」


’(助かりましたわ!!)


助けてくれると、ロゼッタはアレンにすがるような目を向ける。

アレンはロゼッタに向かって「任せておけ」と言わんばかりの顔でゆっくり頷いた。


「火を直接まとわせるのは危険すぎる。」


(そうですわ!当り前ですわ!)

ロゼッタは心の中で必死に援護した。


「爆発そのものよりも、たとえば色彩変化だけを抽出することは出来るのだろうか。」


嫌な予感がした。

「アレン様?」


「光源の配置や空間演出を組み合わせればあるいは......」

「アレン様?」


「だが、まだ分からないことが多いな。ユナ嬢にも意見を確認しなければ」

「おーい。アレン様~?」



「いや待て、光源を複数設置し、花火の色彩変化と同期させれば――」

「アレン様ーっ?」


この人も危ない。

種類は違うが、危ない空気を確実にまとい始めた婚約者に、ロゼッタはゆっくりと顔を覆った。


終わった。

この人も、ついに感染した。


ロゼッタの前では、目を輝かせて演出を語り合う二人が、

完全に意気投合していた。

せいしゅーーーん!!

こういう王道な青春、大好きです!!

書きながらキュンキュンしていました笑

お付き合いありがとうございます!


アレンもやっと堕ちてきてくれて嬉しいです!

ロゼッタの嫌な予感は、だいたい当たりますね笑


北部編、あと少し。この間に他の誰かもきっと変わります笑

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