安心した自分が甘かった。
昨日はパパとママのなれそめ短編を投稿していたのですが、力尽きてしまいこちらの更新が出来ませんでした。。
本編完結後にでもこっちに移植したいと思っているのですが、シリーズ一覧のほうから読むこともできるので、もし読んでもいいよという優しい方がいたらぜひのぞいてやってください!
花火大会の会場は大勢の人で賑わっていた。
「楽しみですわ」
ロゼッタは上機嫌だった。
【花火】とは、隣国から伝わったという新しい技術だ。
前世でも大好きだった。
こちらの世界へ来てから、楽しみにしていた催しはすべて「怖いですわぁ~❤️」
という母の一言で消えた。
愛されていることだけは痛いほど分かる。
分かるのだが、そういう話ではない。正直、限界だった。
だから今日は特別だ。
圧倒的な解放感と、少しの緊張で、ロゼッタは浮き立つ街の様子に釣られるように、ずっとそわそわしていた。
会場へ足を踏み入れたその時だった。
「ロゼッタ!」
聞き慣れた声に振り向く。
「アレン様!」
思わず顔がほころんだ。
アレンは公務のため正装姿だった。
いつも整った人だとは思っていたが、今日はどこか雰囲気が違う。
ロゼッタの姿を見つけると、彼はすぐにこちらへ歩いてきた。
「お会いできて嬉しいですわ!」
そう言って駆け寄ると、アレンの表情がわずかに和らぐ。
「私もだ」
「今日は本当に楽しみにしておりましたの! 花火も見られますし、街も賑やかですし――それに!」
(アレン様にも会えましたわ!)
それを口にする勇気はなかったが、自然と目に熱がこもる。
アレンはそんなロゼッタの様子に気付いたのか、小さく笑った。
「私も、隣国の新技術をとても楽しみにしていたんだ。」
「……それに」
「はい?」
「一緒に見られることも、楽しみにしていた」
「特別観覧席を用意させたんだ。よければ、一緒にどうだろうか」
「エミリア嬢の席もある」
ロゼッタは隠しきれないほど嬉しくなって、大きく頷く。
「嬉しいですわ!」
その様子を見て、アレンもほんの少しだけ笑った。
「そうでした!私は担当者へご挨拶しなくてはいけませんの!」
「え?」
「ふふっ。ごゆっくり」
隣で見守っていたエミリアが、すべてを察したように、少しいたずらっぽい笑顔でそう言うと、
にこやかに立ち去っていった。
気遣いの達人だった。
その頃。
別の場所では、ユナが会場へ到着していた。
「大丈夫」
小さく呟いて、自分に言い聞かせる。
アレンの攻略は、もう正直9割ほど諦めていた。
それでも、このイベントには他の攻略対象がいたはずだ。
詳しくは覚えていないが、イベントなのだから何かはある。ゲームとはそういうものだ。
今度こそきっと、何か起きる。
(最悪、花火のムードを最大限利用して、誰か一人くらいはひっかけてやる!)
ユナはたくましくこぶしを握っていた。
今までのイベントの消失は思い返すだけで頭が痛い。
だが、今回は違う。
もとのゲームでもロゼッタの登場予定のないイベント。
しかもここは北部だ。
グランフェル領から遠く離れた土地であり、あの狂人一家の影響圏外――のはずだ。
花火を見て「怖いですわぁ〜」と怯え出す人も
花火を狙撃する人間も
宰相権限を乱用して花火大会を中止にする人間もいない。
今回、不安要素はゼロのはずだ。
完璧だ。今度こそ。
そう、確信していた。
だから、見覚えのある金髪に、
ユナは固まった。
まるでホラー映画でも見ているような気分だった。
「こんばんはですわ❤️」
当たり前のように.....ロゼッタがいた。
寄り添うようにアレンまでいる。別に、悔しくなんかない。
ユナは天を仰ぎ、首を勢いよく横にぶんぶんと振る。
落ち着け。
冷静になれ。
まだ慌てる時間じゃない。
そう、いつも邪魔をするのはロゼッタではなく、家族なのだ。
ユナは深呼吸を一つして慎重に確認した。
「ちなみに……ご家族の方は?」
「いませんわ? 今回は一人旅ですもの❤️」
ロゼッタは不思議そうに首を傾げながら、満面の笑みで答えた。
ユナは思わず拳を握る。
よし。いける。
ロゼッタの登場は想定外だったが、家族がいないのならば大丈夫だ。
ユナはゆっくりと息を吸い込み、自分を落ち着かせた。
その時、ゆっくりと照明が落ち
隣国の担当者が誇らしげに開会の宣言を始めた
「ご覧ください!」
「これが我が国自慢の花火です!」
観客達が一斉に夜空を見上げる。
導火線に火が入った。
シュウウウウウ――――
一本目が空へ上がる。
ロゼッタのキラキラした瞳に、上空に上っていく花火の球が見える。
そしてーー
消えた。
花は、咲かなかった。
担当者が首を傾げる。
不発か。
まだ新しい技術だ。
まぁ、そんなこともある。
気を取り直して次を打ち上げる
二本目......パァン
三本目......パァン
途中で、消えた。
空中で、球が、無くなった。
謎の破裂音と、白い煙を残して......
「何事だ!!」
その時、地響きのような声が響いた。
人混みが割れる。
現れたのは北部辺境伯だった。
「一体何が起こっている!!!!」
辺境伯は夜空を睨む。
花火は確かに上がっている。
だが、咲かない。
一つ、また一つ。
後ろでは今も静かに白煙だけが増えていた。
「攻撃か?」
パァン。
「まさか、隣国の陰謀か?」
パァン。
ちらりと隣国の担当者を見るが、むしろ一番パニックになっている。
「いや違うな。あれは被害者だ。」
パァン。
観客達の歓声がざわめきに変わっていく。
パァン。
子供達は不安そうに周りを見回していた。
パァン。
辺境伯は眉間に皺を寄せた。
「何故だ」
パァン。
「何故.....花火だけが狙われる」
パァン。
夜空には白煙だけがむなしく増え続けていた。
ユナとロゼッタ、そしてアレンは、
同時にある家族のことを思い浮かべて固まっていた。
「まさかとは、思いますが」
「私も、たぶん同じことを考えております」
「あぁ。私も、そう思う」
同時にゆっくりと振り返ると、
いた。
やはりだった。
ルシアンが木の上に
当然のような顔で、そこにいた。
手には見覚えのない大型の銃器。
ユナとロゼッタはそっと目を閉じた。
やはりいた。
なぜ、自分は期待してしまったのか。
花火を消す人間など存在しない。
普通は。
だがグランフェル家には、存在する。
その事実を忘れていた。
いや。今回は大丈夫だと、安心してしまった自分が悪かったのだ。
全てが今視線の先にいる男。
「爆発物、排除完了。爆発の危険ゼロを確認」
静かにそう、無駄にきりっとした顔でつぶやく男に。
撃ち落とされた。
そして.....
「ロゼッタちゃーーーん❤️」
聞き覚えのある声が響いた。
3人の動きが、とまった。
幻聴だと、思いたかった。
その声は、この場にいてはいけない声だった。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
振り返る。
マリアベルが、笑っていた。
やはり、幻聴ではなかった。
「ヴィクトル様、あそこですわ❤️」
「やっと見つけたか!」
ヴィクトルが満面の笑みで手を振っていた
その後ろには護衛達までいた。
「……」
「……」
「……」
しばらく誰も、喋らなかった。
ロゼッタは静かに理解した。
一人旅。
そんなものは最初から存在しなかったのだと。
ユナ「怪談話は好きです。でも今年一番怖かったのは『ロゼッタちゃ~ん❤️』と呼ぶ誰かの声です。」




