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そういうところは、君らしいと思う

今日は、アレンとの婚約者同士の交流会。

王宮へ到着したロゼッタは、遠くから聞こえてくる騒ぎに思わず足を止めた。

「大変だーーー!!!!!」


「......陛下ですわね」

「ああ」

アレンは慣れた様子で頷いた。


広間の向こうではこの国の王、フレデリックが一枚の手紙を掲げながら駆け回っている。


「この手紙を受け取った者は3日以内に10人へ回さなければ不幸になるらしい!!!」

「陛下、それは――」


「不幸になるんだぞ!?」

「ですから――」


臣下たちが必死に追いかけていた。


「またですのね」

「まただ」


「今度は何の詐欺ですの?」

「不幸の手紙らしい」


「大丈夫ですの?」

「あぁ。じきにヴィクトル公が来るだろう。」


「なるほど。いつも通りですわね。」

「あぁ。いつも通りだ。」



にぎやかなフレデリック一行を横目に、2人は王宮庭園へ移動した。


春の風が穏やかに吹いている。

しばらく花を眺めながら歩いていたロゼッタだったが、やがて小さく口を開いた。


「実は先日、お茶会を開きましたの」

「聞いている」

「お友達ができましたわ」

嬉しそうな声だった。

その顔を見て、アレンも自然と表情が緩む。

「エミリア様という方で、とても素敵な方なんですの」


「あぁ、辺境伯家のご令嬢だな。」


「えぇ。とても優しくて、お話も面白くて、素敵な方でしたわ。」

「あと、力持ちで胡桃を素手で割ることも出来る頼もしい方なんですの。」


「……そうか」

アレンは聞かなかったことにして、横にいるロゼッタを見つめる。

その笑顔がいつもよりも柔らかくて、アレンはなんとなく目を逸らした。


「それで、遊びに行く約束をしましたの」

「北部へか」

「はい」


嬉しそうだった顔が、少しだけ曇る。

「でも、お母様には最初反対されてしまって。」


「当たり前ですわよね」

「遠いですし、寒いですし、危険かもしれませんし」


少し視線を落とした。

「わかっていたんですの」

「それでも、行きたかったんだな」


「……はい」

小さく頷く。


「初めてでしたの」

「初めて?」


「お友達と過ごす時間がとても楽しくて、もっと遊びたいと思ったのは。」

少し恥ずかしそうに笑った。


「だから私、どうしても行きたくなってしまって」

「お母様が心配する気持ちも分かるんです」


「でも」

「つい反発してしまいました」


声が小さくなる。

「少し、言い過ぎてしまったかもしれませんわ」


アレンはしばらく考えて、静かに口を開く。


「君の母上は」

「君を大切にしすぎているんだろうな」



「最初は私も驚いた」

「やはりそうですわよね」


「まぁ正直に言えば、かなり驚いた」


「だが」


アレンは足を止めて優しくロゼッタのほうを見て続けた。


「君は」

「母上に腹を立てているんじゃないんだな」


ロゼッタが顔を上げる。

「え?」


「北部へ行きたいんだろう?」

「はい」


「なら、普通は」

アレンは少し言葉を探した。


「反対されたことに不満を持つ」

「あるいは、鬱陶しいと思うのではないだろうか。」


「君が気にしているのは、母上に反対されたことじゃない」

「傷つけたかもしれないこと、だろう?」


ロゼッタは言葉を失った。

その通りだった。


北部へ行きたい。

エミリアに会いたい。

それは本心だ。


でも、胸の奥に引っかかっているのはそこではない。

悲しそうに笑った、母の顔だった。


「……そう、かもしれませんわ」


アレンはしばらくロゼッタを見つめて少し笑った。

「君は、本当に優しいな」

「え?」


「君自身が傷ついた話ではなく」

「母上を傷つけたかもしれないと悩んでいる」


「そういうところは、君らしいと思う」


ロゼッタは少し熱くなった頬を隠すように顔をそらした。

心臓がうるさい。

どうしていいか分からない。


「そ、そうですの……?」

それだけ言うのが精一杯だった



アレンは気付いていない。

たぶん本当に思ったことを、そのまま口にしただけなのだろう。

だから、余計に困る。


胸の奥がくすぐったかった。



「だが」

「君の母上も、君の話を聞かなかったんだろう?」


アレンは肩をすくめた。


その口元にはわずかに笑みが浮かんでいる。


「……はい」

「だからきっと、お互い様だ」



「お母様に謝ったほうが、よろしいのでしょうか」


アレンはしばらく考えて口を開いた。

「無理に答えを出さなくていいと思う」

「せっかくの旅行なんだ。向こうでゆっくり考えればいい」


「ありがとうございます。少し、気持ちが楽になりました」

ふふっと柔らかく微笑んだロゼッタの横顔に、アレンの口元も自然とほころんでいた。




その時


遠くの方から聞き慣れた叫び声が響く。

「ヴィクトルーーーーー!!!」

2人が振り返ると、ちょうど広間の入り口にヴィクトルが到着したところだった。


フレデリック王が勢いよく手紙を差し出し、説明を始める。

「この手紙を3日以内に10人へ回さなければ不幸になるらしい!!!」


ヴィクトルは手紙を一瞥した。


「陛下」

「なんだ」


「それはいたずらです」

「本当か!」


「はい」

「なんだ。ヴィクトルが言うなら間違いないな!ははっ!」


ビリッ。


王は即座に手紙を破り捨てた。


「解決したな」

「解決しましたわね」


二人は顔を見合わせ、そして同時に少しだけ笑った。

王「大変だ!『オレオレ!誘拐されたから5億円必要だ』とアレンから電話が!!!」

ヴィクトル「王太子殿下は今、庭園におります 」

王「ははっ!なんだ良かったー!」

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