普通とはなんだろう
その夜
「ヴィクトル様、普通って......なんでしょう。」
いつものように寄り添うように座る妻のマリアベルが、落ち込んだ様子で目を伏せている。
いつもなら紅茶を飲みながら、ニコニコと楽しそうに
家族やヴィクトルのことを「素敵ですわ~❤️」と語っている時間である。
「何かあったのかい?」
「今日のお茶会のことですの。」
「ああ、なるほど。帰った令嬢の家には連絡を入れておいたから安心しなさい。」
ヴィクトルは安心させるように微笑む。
「それは、私からもさせていただいておりますわ。」
「でも、そうではなくて.....。」
「北部辺境伯家のエミリアさんのことですの。」
「ルシアンからは問題なかったと聞いているが、なにかあったのかい?」
ヴィクトルは困惑に眉をひそめた。
ロゼッタが喜んでいたことは、彼も報告で聞いている。
珍しく笑顔が多かったらしい。
それを聞いてヴィクトルも嬉しかったのだ。
しかし、マリアベルはなぜか浮かない顔だった。
「そのお友達が……」
「うん」
「とても素敵なご令嬢だったって。」
「最後には遊びに行く約束までして.....」
「私怖くて、遊びに行ってはだめ。と反対いたしましたの。」
「だって遠いですし!」
「夜ですし!」
「寒いですし!」
「でもロゼッタちゃん、一人で行くって。」
「それは心配だ。」
「そうしたら、ママは普通じゃない。と言われてしまいましたの」
「私は普通に友達と遊びたいだけ。それができないのはおかしい......と。」
ヴィクトルは目を閉じた。
「おかしい。か。」
おかしいかは、正直わからない。
だが、なるほど。
やっと理解した。
妻は、普通じゃないと、娘に言われたことで揺れているのか。
マリアベルは珍しく弱々しく笑った。
「普通の距離感でお願いしますわ、って」
「言われてしまいましたの」
しばらくして。
ヴィクトルが小さく笑う。
「難しいな」
「難しいですわぁ……」
夫婦で同じタイミングでため息をついた。
マリアベルは窓の外を見上げた。
笑顔でエミリアについて話していたロゼッタは
とてもキラキラしていて、可愛くて、とても小さく可憐な少女なのだ。
「危ない目にあってほしくない。傷ついてほしくない。」そう強く思うほどに、大切な存在である。
でも、その時の目だけはとても鋭く、今でも頭から離れない。
「だから、わたくし。」
「資料を集めましたの!」
「なんの資料だい?」
後ろには、いつの間にか10人ほど侍女が何やら重たい資料を持って並んでいた。
「一般貴族家庭の親子関係」侍女が一冊掲げる。
「子離れについて」別の侍女が掲げる。
「子供との適切な距離感」さらに別の侍女が掲げた。
「思春期対応マニュアル」さらに次の侍女が掲げた。
「さすがマリアベル!」
「調査とは大事だからな!素晴らしい!」
ヴィクトルは目を輝かせて、早速マリアベルと普通の研究をすることにした。
「ほう」
「一般の貴族は娘の旅行先へ先遣隊も後方部隊も送らないのか」
「警戒網も要らないだと?」
「狙撃班も配置しないそうですわ」
「大胆だな」
「怖いですわぁ」
そして、夜が明けたころ、
「マリアベル」
「はい」
「もう、子供ではないのかもしれないな」
「少しだけ自由にさせてみるのも、良いのかもしれない。」
「北部には、一人で行かせてみよう」
「ヴィクトル様!!?」
マリアベルは焦った顔で勢いよく立ち上がった
「ははっ。大丈夫だ。後ろから、別の部隊編成でついていけばいい」
ヴィクトルはさわやかに笑っていた。
「まぁ、さすがパパですわ❤️」
マリアベルは満面の笑みで、侍女へ指示を飛ばし始めた。
「変装班を呼んでくださいませ❤️」
「かしこまりました」
「あと北部周辺の地図も❤️」
「承知いたしました」
「そうですわ❤️」
「今、花火というものについての資料もまとめさせておりますの。
また後日確認いたしましょうね❤️」
その夜。
ロゼッタは浮かれていた。
「ふふふ❤️」
旅行鞄を抱きしめる。
「初めてのお友達との旅行ですわ❤️」
ママも、パパまで一人で行くことを許可してくれた。
正直、無理だと思っていた。
ロゼッタは満面の笑みを浮かべた。
「楽しみですわ❤️」
途中退場した令嬢A
「お父様、グランフェル公爵夫人からお手紙が届きましたわ……」
令嬢A父
「内容は!?」
令嬢A
「『次は最後までいて下さいね❤️』」
令嬢A父
「謝罪文を!!」
令嬢A
「公爵閣下からも『娘が寂しがっていた。』と」
令嬢A父
「追加で用意しろ!!」




