魔王と魔王
とんでもない物を食べさせられたけど無事に朝食を食べ終えた私たちは、一応メイクとか身だしなみのチェックをしてから馬車に乗り、魔王国の国の中枢へと向かっていた。
ちなみに魔王国の国の中枢は議事堂って事になっているけど、エビちゃん曰く魔族語のニュアンスでは議事堂って言うより『宮殿&議会』っていう方が近いらしく、議会宮殿とか宮殿議会とかどっちかイマイチわからない呼ばれ方をしてるんだとか。
そして建物の見た目も日本の国会議事堂っていうよりかはもっとヨーロピアンな質実剛健って感じの宮殿に近い感じになっている。
あと建築様式は外国の物が混ざっていて純魔族風では無いらしいけど、外国特有の絢爛豪華な装飾はついていないんだそうだ。
だって冬になると雪が壁に積もって見えなくなるから、雪の重みや寒さに耐えられる方に力を入れた方が良いって事で工夫してるってエビちゃんとさっきイモムシジャム紅茶を吹きかけちゃった外交官のミルシェさんが言っていた。
「·····で、昨日から聞いてて思ったんですけど、もしかして外交官じゃなくて観光ガイドの方だったりしませんか?」
「いえ、私は国家公務員である外交官で間違いありません、·····ただ来賓の皆様をご案内しているうちに観光情報に詳しくなってしまっただけです」
「結局観光ガイドじゃな」
「うぐ····· ····· ·····その通りでございます、エヴィリン様」
すっごい不満そうだなぁ·····
でもここまでたくさん紹介できることがあるって事は魔族たちは何だかんだここでも上手く暮らせているのかもしれない。
暇つぶしに馬車の窓から見える人々の様子を見てるけど、なんだかんだ見える人は全員楽しそうに暮らしていて私もなぜか少し安心してしまった。
◇
その後、私たちは無事に宮殿議会へと到着して来賓質に通されてお茶と茶菓子を食べながら魔王の到着を待っていた。
「·····これ、芋虫ジャムじゃないですよね?」
「クランベリーのジャムでございます、ご安心ください」
「よかったのじゃ·····」
ちなみに出されたお茶には案の定ジャムがついて来てたけど、イモムシジャムではない事はもう何度も確認済みだ。
でもなんかちょっとゾワッとするのは私の気のせいだろう。
\コンコンッ/
ガチャッ
「·····相変わらず虫ジャムが苦手なのですね、エヴィリン」
「失礼いたします、魔王様がいらっしゃいました」
ってお茶を飲んでたら、明らかに魔王ってわかる感じのピチッとしたスーツっぽい感じの服を着た人物が部屋へと入って来た。
年齢は外見年齢はたぶん30か40くらいの多分女性で、失礼だけど胸がストンってしててよくわからないから男の可能性も十分あり得る。
そしておとぎ話やラノベの魔王のような残虐非道な魔王のイメージとは全くかけ離れていて、スーツっぽい服のせいだろうけどバリバリのビジネスウーマンって感じの見た目だ。
「あっ、魔王様おはようございます、私はサークレット王国のSランク冒険者、賢者姫のソフィ・シュテインと申します、本日はよろしくお願いいたします」
「そしてワシが王家であるファゴス家の魔王エヴ·····むっ?あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!お主!お主はぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!???」
「ちょ、エビちゃん何叫んでるの!?」
「構いませんよ、彼と私は知り合いですので」
「そうなの!?」
そしてエビちゃんが物凄い叫び声をあげて驚いていたが、どうやら魔王国の王様と知り合いだったらしい。
マジで?っていうか知り合いって言うと前世からの知り合いって事?
「ええ、彼とは幼少期からの知り合いです、あぁ申し遅れました、私は『アルフェネル・オリエンス・カルボキシル』と申します、長いのでアルフェとお呼び下さい」
「ネルってついてるからわかると思うがこやつは女なのじゃ、そして····· うぐぅ·····」
「うぐぅ?」
「ふふふ、懐かしいですね、角落ちの時期に告白してきた事、今も忘れていませんよ?」
「やめろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!貴様!マジでやめろ!のじゃ!!」
「えっ!?アルフェ様がアレでアレした人なんですか!?」
「そうですよ、彼の初恋の相手です」
「だぁぁぁまぁぁぁぁぁれぇぇぇぇええええっ!!!黒歴史を掘り返すなら帰るのじゃ!!そんな目的でワシを呼んだのじゃ貴様!!っていうかソフィ!その目でワシをあと3秒見たらぶっ刺してやるからな!!?」
っていうか知り合いどころじゃなかったわ。
前にエビちゃんが角が生え変わった時に姉貴が暴露した、前世で好きで告白しに行ったら彼氏とイチャイチャしてるのを見てしまって失恋したトラウマを作った原因の張本人だったのだ。
確かに言われてみれば美人だな·····
後々聞いた話だけど、胸が無いと思ったらサラシみたいなのを巻いて男装していたそうだ。
魔王は男ってイメージがあるから彼女が女性なのは周知の事実だけど、魔王なので一応胸を隠してるって事らしい。
「まぁまぁエビちゃん落ち着いて、それで、会談の内容もあまり知らされていませんでしたけど何をお話する予定なのですか?」
「昔の知り合いが生き返ったと聞いたら会いたいに決まっている、それに彼は····· いや失礼、今は『彼女』と言った方がよかったかな、彼女は私と違い本物の魔王だ、やはりこの国には偽物ではなく本物の魔王が必要だ、という意見が多くてな、渋々呼んだのだ」
「·····ワシは確かに魔王、今では魔神になったんじゃがもう国王になるつもりは無いのじゃ、というか元々行政にはあまり関わっておらんかったからのぅ」
「いえ行政に関しては現状で十分です、しかし、一部の国民からは私のような役職の魔王ではなく本物の魔王を望む者が居て少し困っているのです」
「なるほど、そういう事じゃったか·····」
「しかし、エヴィリンはもうこの国に戻らないとは予想していて対策済みなのですが、事情を知る国の上層部の者からは一度は呼ぶべきだとの声が多く、まずはこのように非公式での会談という形になったのです」
「面倒じゃのぅ·····」
「面倒で頭が痛いですよ、だから非公式という事でその問題について話すついでに旧友との3600年ぶりの会話でも楽しもうかと」
「ひでぇのじゃ」
なんか事情が複雑なんだなぁ·····
確か魔族の寿命は短い種だと人間とあまり変わらないけど、長い種だと普通に数千年は生きるし、アマイモン種に関しては軽く数万年は生きるらしいから、あの戦争で魔族がほぼ滅びた後も生き残っている民が少なからず居るようだ。
例えば目の前に居るアルフェネルさんなんかが正にそれで、あれから3600年経ってるのに多分だけど多少は加齢が来たのか30代っぽくはなってるけどまだまだ元気そうなのよね。
多分今は5000歳くらいじゃないだろうか。
ちなみに話によると娘さんが居ていま2400歳っ·····
·····ん?
『オリエンス・カルボキシル』ってどっかで·····
「あ、あの、話遮って申し訳ないんですけど·····」
「なんでしょう」
「娘さんのお名前って·····」
「もう会っているでしょう?ミルシェネルですよ」
「え、えぇ·····」
やっべ、私、魔王の娘で外交官にチョップをカマして魂すっぽ抜けさせちゃった·····
み、民主主義国家だからいきなり処刑とかないよね·····?
私が滝のように汗をかいていると、エビちゃんも続けざまに話し掛けた。
「あ、あやつお主の娘じゃったか····· 2400歳と言うと戦後直後くらいの生まれじゃのぅ····· ·····2400歳であのポンコツ感なの大丈夫なのじゃ?」
「大丈夫でしたら外交官なんでやらせてません、どうも甘えん坊が抜けきらないのです」
どこかから可愛らしいクシャミが聞こえてきた気がした。
「·····なるほどのぅ、お主もポン」
「うふ」
「エビちゃんそれ以上はヤバい」
「や、やめとくのじゃ····· えっと、話変え····· いや戻すのじゃが、魔王国の現状を教えて欲しいのじゃ」
そしてアルフェネルさんから魔王国の現状を聞いてみてるけど、どうやら魔族の中にも過激派みたいな派閥が居て、本物の魔王を復活させてあの頃の力を取り戻すべきだ、戦争をするべきだという意見が未だにあるらしい。
アルフェさんはそういう人を『戦争が忘れられない戦闘狂の老害』ってズバッ!って言ってたけど、戦争から生き延びた魔族たちだから無視するわけにはいかなくて大変なんだとか。
だって各国から軍事力は持つなって言われてるけど魔物に対抗できる手段や自衛手段が無いと国が滅ぶから、一応日本みたいに自衛隊だけは作っているそうだ。
そんでもし他の国同士で戦争した時は魔族が攻め込むって事で戦争を中止させる抑止力程度の力しかないらしい。
もし戦争をしたらまだ人口が少ないこの国はあっという間に負けてしまうっていうのに、戦争をしたいって言ってる派閥が居て頭が痛い·····
だからとりあえずエビちゃんに魔王として戻ってもらって、戦争はやらないってガッツリ言ってほしいと考えたんだとか。
まぁそんな感じのガチっぽい内容の話をエビちゃんとアルフェさんは15分以上ずっとやっていた。
·····私の事を完全に放置して。
「ところで全然話変わるんですけどいいですか?」
「なんでしょう?」
「·····私ってなんで呼ばれたんですか?」
「ふふふ、昔私の事を好きと思ってくれた男が転生した後ずっと助けてくれていた相手というと気になるじゃないですか、ソフィさん、エヴィリンの事を助けていただき感謝します」
「そういう事かぁ·····」
どうやらただの親友の恩人って事で呼ばれたっぽい。
一応お礼言われたからいいけど、それだけなのかぁ····· もっと、こう、すんごい冒険者だからなんかあるのかなとか、戦争したい派を蹴散らせとかそういう事かと思ったんだけどなぁ。
「まてアルフェ、お主、もしやワシの事を気に掛けてくれてたのじゃ·····?」
「ふふ、もちろんですよ?私の事を好いてくれていた親友ですもの、もしあの時告白してくれればOKといっていましたよ?」
「·····そうじゃったのか」
「何せあの頃の私はヤンチャでしたからね、あの時はまだ3人でしたがあの後に増えて12人は彼氏がいたので即OKを出していたと思います、ちなみにミルシェネルは4人目の彼氏の子供ですよ、·····うふ、もしエヴィリンが告白していればエヴィリンの娘だったかもしれませんね」
えぇ·····
告白してくれたらOKを出してたって、普通は実は両想いだったとかそういうパターンじゃないの·····
男遊びが大好きでヤンチャだったから12股してるから一人増えたところで変わんないからOKってだいぶ酷いなぁ·····
性格はすっごい真面目で立派に魔王国を統治できてるから色々凄いんだろうけど、若い頃のはっちゃけが恐ろしい人だ。
でもエビちゃんでさえ釣られるほどの魅力があったからこそ、12股なんて出来たのだろう。
「それは惜しい事をしたのぅ、もし告白しておれば魔王家は今も続いていたかもしれぬし、ワシも死なんかったかもしれぬからのぅ·····」
「そうですね····· ですがもう過ぎてしまった事ですから」
「·····えっ、12股は気にしないの?」
「魔王国じゃ普通なのじゃ、まぁ普通は5人とかじゃけどな」
「そうですよ?確かに少しヤンチャし過ぎてはいましたが、今は夫が4人と普通くらいになっていますよ」
「一妻多夫の国だったのかぁ」
「多夫多妻ですよ、この制度は当時と変わっていませんから」
「えぇ·····」
12股じゃなくて本当に彼氏が12人居るだけだったのかよこの人·····
でもなんでエビちゃんは彼氏とイチャイチャしてるの見て逃げたんだろ。
「それはですね、秘密にしていたからですよ?ふふふ·····」
「·····一応怨んでおるからの?ソレ」
「では今から付き合いますか?」
「いいや要らんのじゃ、ワシはもう夫も子も居るただの1人の女じゃからのぅ」
「そう言うと思っていました、·····時の流れは残酷ですね、あの頃の彼氏も半分が戦争で死んでしまい、何人かは寿命で死んでしまいましたから」
「3600年は魔族にとっても長い年月じゃからのぅ·····」
どうやらエビちゃんはアルフェさんに彼氏が居ないと思い込んでショックを受けたっぽい。
でもそんな事は水に流して2人は昔の事を思い出しているのか、なんかしんみりとした雰囲気になっていた。
3600年ぶりの親友の再会は、なんだか少し暗いスタートだった。
名前:エヴィリン・アマイモン・ファゴサイトーシス
ひと言コメント
「あの頃のワシも、今みたいにグイグイ行っておけば良かったのかのぅ····· ところでアルフェ、お主はワシみたいな口調じゃないんじゃな?」
名前:アルフェネル・オリエンス・カルボキシル
ひと言コメント
「以前はそうでしたが老人臭いのでやめてしまいましたよ?·····私はもう、過去の事はキッパリ割り切って忘れる事にしたのですから、でないとエヴィリンの事を思い出してしまいそうですからね、うふ·····」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「なんで魔族ってこうも重いのが多いんだか····· ていうかなんかアルフェさんって独特な人だなぁ····· 微妙に掴みどころがないっていうか抜けてるっていうか、やっぱりポン\ポンッ/」




