なるほど西伯利亜送りだ
ガタンゴトン·····
ガタンゴトン·····
「·····暇じゃのぅ」
「こういうのをのんびりしてるって言うんだよ、·····まぁ暇だけどさ」
私たちは今、この世界に存在する数少ない鉄道に乗ってとある場所へと向かっていた。
その目的地は、サークレット王国ができる前のサークレット列島を支配していた超高度異星文明の末裔である魔族たちの国だ。
彼らは戦争に負けると、残党って言うのはあんまりよくないけど残った民は北へと逃げ続け、北海道に該当する島を超えてその先にある樺太まで逃げて現代のロシア連邦で言うところの『ロシア連邦 サハリン州 オハ』という町あたりに『サタニキア魔王国』という小さな国を作って静かに暮らしている。
今日はその国にエビちゃんがお呼ばれして、私も同伴で行くことになったのだ。
·····ただ、こっちが転移魔法を使えるっていう情報を詳しく知らなかった魔王国は、転移と言ってもそこまで長距離はいけないだろうと北海道でいうところの稚内あたりにあるメアンエツという町に迎えを出してしまって、直接行くのがなんか申し訳なくなっちゃったからそこまで行った。
そんで送迎の人たちと合流した私たちは、金星由来の技術で作られたであろう結構ハイテクな定期船に乗って対岸まで行き、そっからはなんと鉄道で首都まで向かう事になっていたのだ。
でもそこからが大変だった。
何せ到着した地点から首都までは大体900kmもあり、鉄道は一応魔物が近付かないようにはなってるらしいけどそれでも時速60kmが平均で最高でも70kmくらいしか行かないから、最初の2時間くらいは異世界の車窓を眺めて楽しんでいたけど、途中から飽きてしまってかなり暇をしていたのだ。
·····しかも、訳あって異世界由来の暇潰しが使えないから相当暇だ。
「·····あとどれくらいで着きます?」
「現在は300kmほど進んだと思いますので、のこり10時間でございます」
「ひえぇ·····」
この部屋、特等客室なんだけどお付の人ってか魔王国の外交官のお姉さんが居るから迂闊に異世界のモノ出せないのよね。
まぁそれはいいや·····
んで解説に戻るけど、あっちの世界にはシベリア鉄道っていうこれとよく似た鉄道があるけど、そっちは数日は景色が変わらない電車の中で過ごさなきゃいけないって聞いた事がある。
っていうか姉貴が乗ったことがあるけど、ずっと木の本数を数えてたら気が狂ってしばらく木を見ると発狂して殴りかかる状態になったらしい。
だからシベリアとかの木の本数を数えるのはやめておこう。
っていうか、私たちが乗ってる鉄道に関してはツンドラ地帯ではなくて、ほぼ草原か低木が生えてる程度の寒すぎて森林限界な場所だから何もなくてすっごい暇なのだ。
確かこういうのを周氷河地形って言うはずだったと思う。
北海道の宗谷とか猿払あたりで初めて見た時は感動したけど、もう5時間くらい眺めてると流石に飽きてきたわ。
「·····この鉄道は我々の祖先が開発した軌道車と呼ばれる技術を用いて」
「あーーーーーーーーーーーーっ!!!それもう17回目なのじゃ!!しつこいのじゃ!!」
「失礼いたしました、私も何か話をしていないと眠ってしまいそうでして·····」
その暇さは同じ客室でガイドを務めている魔王国の外交官の人も同じだったようで、さっきからこの鉄道の説明をしょっちゅうやろうとして私たちは気が狂いそうになっていた。
·····まぁでも暇だし、どうせ到着は真夜中で向こうで一泊することになってるからその間にこの鉄道について車内をぶらぶら歩きながら説明でもしようと思う。
「って事で私はちょっと歩き回ってきます」
「ワシもじゃ」
「同伴いたします」
「·····いいですけど、トイレの中までついて来ないでくださいよ?」
「お手洗いでしたか·····」
◇
私たちが乗っているこの鉄道、正式名称は『サタニキア魔王国魔導軌道』というのだが、これは現代で言う鉄道でほぼ間違いない。
仕組みとしては2本のレールの上を走る仕組みで、動力車は両端に魔導式の強力なものがあって今の進行方向でいうと先頭車両には魔力によって駆動するML(魔導機関車)と、2両目にSL(蒸気機関車)のような内燃機関によって動作する動力車が存在していて列車全体を牽引し動いている。
んで基本的にMLだけで走行は可能なんだけど、クッソ寒すぎて内燃機関による動力が無いと車内が-30℃とかになって死ぬのだ。
という訳で、旧式の内燃機関搭載の機関車は推進力ではなくその熱を車内にいきわたらせて温めるのが目的で利用されているから車内は常に温かく保たれている。
ちなみに燃料はこの辺りから豊富に採取できる石炭を使ってるらしい。
さっき1個貰ったから後でコレクションに加えるつもりだ。
ちなみに窓は断熱構造になってるせいか開かないし、ほぼ完全に密閉されていて寒い外気が入ってこないようになってる。
そんで車両の中にはさっき入ってたトイレや食堂車、寝台車両に1車両に2部屋しかない超豪華な客室まで色々存在していて、何ならお土産屋まであるしシャワールームもあるし、小さいけどカジノまである豪華さだ。
ちなみにさっき行ったけど大負けした。
んで確か21両編成で、そのうち3つが動力車、1つが厨房車で2つが乗務員室だから、一般人が入れるのは15車両だったはずだ。
私たちが割り当てられたのは、たった2室しかない特等客室で、マジで豪華でソファとかあったりして小さいけどホテルの1室みたいになってる最高級の部屋だった。
でも私は4つベッドがある3等室も好きだしちょっと入らせてもらったりした。
次にこの列車の運行ルートとかについて話そうと思う。
この列車は樺太·····こっちの世界ではサタニキア島と呼ばれている縦長の島を縦断していて、総距離は900kmとなっている。
こんだけ長い鉄道を作るのは大変だと思ったけど、なんか鉄道路線を作る専用の魔導車両があるみたいで結構簡単に作れてしまったらしい。
更にこの辺りはくっそ寒すぎて魔物でさえあまり存在せず、もし居ても時速60kmで走る鉄道に突っ込んで獲物を狩ろうとするバカはどこにも居ないし、魔物を追い払う特殊な魔力波を放つようになってるそうで、魔物も寄ってこないようになってたりするのだ。
あと車内に宿泊できる設備があるのに一応1日で行けるのがなんか変だと指摘したら、どうやらサタニキア王国の対岸からシベリア鉄道的な感じでずーーーーーーーーーーーーーーーーっと延びていてヨーロッパに該当するヴェルグ地方まで続いてる超長距離鉄道があるらしいのだ。
この車両もメインはあっちで使ってる物らしく、今走ってるこの鉄道路線上だと1台しかないフルスペック車両なんだとか。
ちなみに路線は基本的に単線で、途中で退避場があってそこで停車した時は降りて外を歩き回れたりするけど基本的にマジで何もないしクソ寒いから、観光って言うより体を動かす程度にしか使われていない。
あと補給基地にもなってるって言ってた。
まぁ一応途中でちらほら街があったりするけど、基本的にほぼ全部大草原の中を走っている。
·····で、なんでそんな何も無い大草原の中をこんな長い列車が走ってるのかというと。
「·····あっ貨物列車だ」
「本当じゃのぅ」
「あちらで魔王国の首都へ食料や生活必需品、そして石炭を送り届けています、この土地は基本的に寒く農作には向いていない事と、極寒の地である首都では燃料が必要不可欠なので、その輸送のためにもこの鉄道は重要なのです」
んで、この鉄道はサタニキア魔王国の大動脈と言っても良い重要な交通網になっていて、魔族の超技術で環境を無理やり変えた農園地帯から首都へ物資を輸送する交通網にもなってるし、海産物は沢山採れるからそれの輸送も担っている重要なモノだそうだ。
あとは海運もそこそこ発達していて、それで物資を輸送したりもするらしい。
そして何より、極寒の地であるここでは火魔法だけでは暖房が間に合わないため、サタニキア島各地から豊富に採れる石炭を採取して輸送するために鉄道網が整備されているのだ。
魔族はその技術力を活かし、こんな不毛な大地の中でも逞しく生きているのだ。
「何だかんだ言って魔王国がやっぱり一番ハイテクだよなぁ·····」
「そうじゃな、一番あっちに近いのじゃ」
「あっちとは?」
「あっ何でもないですよー」
·····まぁ、生活の水準で言えば魔王国って世界トップクラスに良いんだけどね。
だってこんな鉄道を敷けるくらいの技術力はあるし、噂によると首都はめっちゃ機能的に作られていて小さいながらも最高に過ごしやすいんだとか。
あと魔王国は国という名は付いてるし魔王が統治しているってなってるけど、実はあの国は私たちが想像するファンタジーの魔王の国ではない。
元々はそうだったんだけど、今は国家元首が魔王·····『魔族たちの王』って意味の魔王で、王族は既に全滅してるので魔族たちにとっては王は総理大臣的な意味合いがかなりつよいんだとか。
だから王国のくせに城が無くて、一応宮殿っぽい感じの議会があるくらいだ。
そんで議会とか総理大臣って言ってたからわかるけど王国の癖にここは民主主義っぽい制度の国だったりする。
だからこそ、私はこの国を一番現代に近いって呼んだのだ。
「あとは····· なんかあったっけ?」
「今食ってるこれでも紹介すればええじゃろ」
「そうしよっかなぁ·····」
「こちらは当鉄道で最も人気の高いガルプツィ(トマトスープで煮込んだロールキャベツ的なやつ)とニターシェ(ピロシキっぽいけどなんか違う料理)でございます、ガルプツィはコメと一緒に食べるのが最近の流行りでございます」
ちなみに最近魔族にお米ブームが来てるらしくて、普通にライスが出てきてビックリしたけどガルプツィと一緒に食べるとめっちゃおいしいからそれも納得できた。
ちなみに米はサークレット王国から輸入してる超高級品らしくて、特級客室とか高級ホテルやレストランでしか出ないらしい。
そんな凄い料理が鉄道の中で食べられるなら大満足だし100点満点だ。
「料理と一緒ならこの車窓も十分楽しめるなぁ、なんかいいよね」
「うむ、·····ところで今の毛深そうなウシの魔物はなんじゃ?」
「私たちの言葉でコロヴァと呼んでいる四つ角の牛の魔物ですね、皮下脂肪が非常に厚く肉にも油があり非常に美味しい魔物です、また毛皮は温かいためコートなどに加工される我々魔族の生活を支える重要な魔物でございますね、ちなみにこちらを使ったビーフシチューやステーキもありますが如何いたしましょうか?」
「「お願いします!」」
列車の旅はまだ10時間くらいあるけど、私たちは食事をしたりしながら何だかんだ楽しみながら魔王国へとむかったのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「ちなみに時々授乳しなきゃだからトイレの中からディメンションルームに転移してるよ、まったくこんな大変な時になーんで私までシベリア送りにされなきゃいけないんだ····· って思ったけど、この鉄道に乗れたからまぁいいかな」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「仕方ないじゃろう、世間にワシが本当の魔王じゃとバレてしもうたんじゃし·····」




