永世金剛の墓標
私は、光り輝く色とりどりの正八面体結晶でできた砂の上にできている道を歩いていた。
この空間は、私が産まれた温かいフシ町の秋の陽気のような温かい光が降り注ぎ、夜になると私が好きな美しい星空が広がる、私が大好きな場所だ。
そして、その日差しを浴びて周囲の砂粒たちは命のように一つ一つが煌めき、私の思い出を呼び起こしてくれる。
この道の終点は、私が進んでいる未知の終点は、この空間の中央にある小さなオアシスだ。
「·····ただいま、みんな」
オアシスには、普通の木とあまり変わりないの大きさで寄り掛かりたくなるような世界樹ユグドラシルが生えていて、その根元には5つの墓標があった。
ただ、その墓標たちは1か所だけぽっかり存在していなくて、本当なら6個あるはずの間隔で並べられていた。
·····ここは、みんなのお墓だ。
この墓標の下には、最初の私と一緒に過ごしたなかよし組のみんなが眠っている。
本当はここじゃなくて、みんなが好きな場所に別々に埋葬されていた。
·····でも、あの星が終わる時に、世界が消える時に巻き込まれてみんなとの思い出が、みんなが消えるのが嫌だったから、思い出のこの場所に移したんだ。
「·····やっと、いい報告ができるよ、フィーロ君、ifの私がね、私が望んでた未来に進み始めたんだ」
私はそう伝えると、みんなのお墓の前にみんなが好きだった花を供えた。
そして私は、一ヶ所だけある空席に、本当なら私の墓標が立っているはずの場所に座って、どこまでも続く光り輝く金剛石の平原を眺めた。
「·····相変わらず、いい景色だね」
·····あの金剛石の砂粒は、一つ一つが全てみんなだ。
最初のみんな以外の遺骨は、私の力でダイヤモンドへと変えてこの世界に置いて行った。
本当なら埋葬して墓標を立てたかったんだけど、そうするとここは大きな大きな墓地になって陰気臭くなっちゃうし、みんなもそんな場所は好きじゃないだろうから、こうしてみんなの骨をダイヤモンドに変えて散りばめたのだ。
雑な扱いだと私も思う。
でも、ダイヤモンドは熱を加えない限り決して傷付く事なく永遠に存在し続ける、美しい墓標となる。
それに、不可説不可説転も超えた延々と続く世界のループによって、どこまでも終わりなく続くダイヤモンドの大平原が完成していて、その景色は凄く美しくて、悲しくて、嬉しくて、辛くて、私はみんなに囲まれている気がして凄く好きなんだ。
あの5mmに満たない小さなダイヤモンド一つ一つがみんなで、私はあの全てのダイヤモンドの記憶を、どの世界のダイヤだったかを、一つたりとも忘れたことはない。
須臾の狂いもなく、全て忘れることなく、覚えているんだ。
だから、私はあの時から今までずっと一人ぼっちだったけど、ここに居る時だけはみんなと一緒に居る時の楽しさも悲しさも全部思い出せて、寂しくない。
「·····本音を言うとさ、今の私が羨ましいよ、入れ替わって、あの頃の人生をまた謳歌したいよ」
·····でも、一緒に居れる気がしても、みんなは私に話しかけてくれない。
話しかけても、答えてくれることは絶対にない。
·····だって、みんなの魂は輪廻に還ったのだから。
神様だから、そんなことわかってる。
「·····邪魔はしない、私はもう、ソフィじゃないから」
辛くて悲しいけど、散々泣いて泣いて泣いて、世界が変わるたびに泣いてきた私に、もう流す涙なんて残っていない。
私はもうソフィ・シュテインじゃなくて女神ガイアだから、あの世界に混ざる事は出来ない。
·····でも、もう満足だ。
ifの私が、全力全開のあの頃の笑顔を取り戻せたんだから。
ううん、あの頃以上の笑顔をこれから生み出し続けられるんだから。
·····だから、私は全てをあの子に託した。
私のアカシックレコード『インフィニティ』は、もうあの子の『トリニティ』へと権限を譲った。
ガイアという名前も、引退した先代にその名前を返した。
これで、私はもう神様じゃない。
ただの、ソフィ・シュテインだ。
「·····だからさ、私はもうみんなと一緒に居た『ソフィ・シュテイン』なんだ、だから·····いや、もうソフィ・シュテインでも無い、名前も無いタダの何かでしかないけど、·····名前を全て失う前の、私の最後のワガママなんだけどさ」
「·····私が消えるまでの間だけ、ソフィ・シュテインで居させて欲しいな」
私の墓標には日付けは無い、それに、永遠に日付けが刻まれることも、ソフィ・シュテインと刻まれる事もないだろう。
·····だって、私は死ねないから。
「·····私、あの私みたいに死にたいよ、本当にこれで消えられたら、楽なのに·····そうすれば、みんなの所に行けるから」
私に掛けられた永遠に生き続ける呪いは、決して解けない。
永遠に生き続けるから、この墓標には何も刻まれず、墓標さえも存在しない。
·····私の最後は、どうなるかわからない。
墓標も残さず何もかも消えて無になるか、永遠に存在し続けるか、私にもわからない。
ただひとつ言えるのは、私はここに埋葬される事は絶対に無いって事だけだ。
·····でも、少しなら眠ってもいいかもしれない。
·····みんなと眠れるなら、目覚めることなく永遠に眠り続けても悪くない。
醒める事のない終わる事のない夢の中で、もう一度みんなと会うのも、悪くない。
だって、起こしてくれると、帰ってきてくれると約束してくれた彼は寝坊してずっと寝てるんだから、私も一緒に寝たって怒らないはずだ。
·····いままでも、あの頃も、ずっとそうだったから。
「·····おやすみなさい、フィーロ君、それとみんなも」
私は墓標のあるべき場所に寝転がると、あの時みたいに、6人全員で寝転がった時みたいに世界樹で半分隠れた空を眺めて、あの時を思い出してちょっと笑顔になりながら、眠りに就いた。
覚めない夢は、現実と変わらないと言う。
でも、私はそれで満足だった。
だって、夢の中で、みんなが待ってくれてたから。




