受け継ぐ『アイ』
来るのが遅かったって言うのもあるけど、空賊の人たちの武勇伝を聞いたり私の武勇伝を聞かせたり風の大精霊さんと一緒に歌ってみたりした結果、なんだかんだ夕方まで居座ってしまった私たちはそろそろ帰る事にして、桟橋の私の戦闘機の元まで戻って来ていた。
「ではお世話になりました、料理も歌も景色も全部最高でしたよ流石は風の大精霊って感じでした、今度は友達も全員連れてくるんでよろしくお願いします」
『いいとも、風は皆の事を待っているよ、じゃあまた会おうね、神様』
「んふふ、別に畏まらなくてもいいんですよ?だってここは『立場を忘れて食と歌を楽しむ止まり木』なんでしょう?」
『あちゃあ!これは1本取られたねぇ!わかった、次きた時サービスでキミの英雄譚を詩にして送ってあげるよ』
「んふ、楽しみにしてます、ではまた今度~」
シュゥゥゥウンッ·····
ガチャンッ
カチカチカチッ
ギュォォォォォォォオオオッ·····
私はコックピットのハッチを閉じて、エンジンを始動させて魔導推進システムで垂直離着陸を開始した。
その様子は見ていた風の大精霊様も流石に結構驚いていて、興味深そうに見ていた。
そりゃ超最新鋭の魔導兵器なんだし、一応彼も飛空艇に関わる者だから気になるに決まってるよね。
ちなみに空賊の人たちも桟橋に集合したり窓から顔を出してこっちを見てザワザワしていてなんだかちょっぴり面白かった。
そんな愉快で面白い人たちに見送られ、私とフィーロ君が乗る戦闘機はレストランの上を旋回して最後に超音速飛行を披露するサービスをしてから、故郷であるサークレット王国へと向かったのだった。
◇
サークレット王国とヴェルグ地方は大体1万km以上離れているが、私たちが乗るこの戦闘機は実在するA-12偵察機のように成層圏付近を超音速、マッハ5で飛翔しているため2時間もあれば到着してしまうだろう。
それに、転移で帰る事も出来るけどそれだと味気ないし、私はこうやって空を飛ぶのが、宇宙に近い青い空を見るのが好きだ。
·····あと、生命が訪れる事が困難なこの場所で、私はフィーロ君に伝えたい事があった。
だから、わざわざ転移で帰らないで飛んでいたのだ。
「·····ねぇ、フィーロ君」
「なに?」
「伝えておきたい事があるの、·····あっいや別れ話とかじゃないよ、でも大事な話だから聞いてほしいんだけど、いいかな」
「·····いいよ」
伝えたい事は、私もつい最近知った事で、私でさえ物凄く衝撃的な事だった。
そして伝えるか悩んで、やっと決心がついて伝えることに····· いや違う、私はこの秘密を自分だけで抱え込むのは無理だと判断したんだ。
一応堪えようとは思ったけど、耐え切れなくてストレスが溜まってイライラしちゃっていて、誰かに伝えないとダメだと判断して、フィーロ君に伝えようとしたんだ。
「·····私って、前世は男だったでしょ」
「もちろん知ってるけど·····」
「なんかね、もう一つだけ過去があったみたいなの」
「どういう事?」
「·····話すと長くなるんだけど、端的に言えば『私は女神ガイアだった』ってこの前教えてもらったんだ」
そう、私の正体は、私がクソ女神とか呼んでいる世界を管理する最もえらい女神様である『ガイア』だったのだ。
「·····でも、女神ガイアは偽名で本当の名前は『ソフィ・シュテイン』、私なんだ」
「つまり、この世界に来たのも自作自演って事?それとも、実は未来のソフィちゃんとか、そういう事なの?」
「ちょっと違うかな····· 彼女は並行世界の私で、『完結』に納得できなくて、何度も何度もやり直して、やり直し続けてきた、可哀想な一人の少女だったんだ」
女神ガイアの正体は、並行世界の私だ。
彼女は私と同じように転生してフィーロ君と結婚して神になった。
そこまでは同じだった。
·····だが、明確に違う点が何個もあった。
「ガイア様の産まれた世界では、フィーロ君は普通の人間くらいの年齢で天寿を全うして死んじゃったんだってさ」
「ずっと一緒に居たいくらい大好きな人だったのに、自分が神になったから一緒に死ぬ事もできず、自殺も出来ず、その後もなかよし組のみんなが死んでいくのを見守るしかなかった」
「みんなが死んだ時、自分も死んでみんなと一緒にあの世へ行きたいって私は思ったんだってさ」
「·····ただ、彼女は納得できなかった」
「ううん、受け入れられなかったの、フィーロ君の死を、みんなの死を」
「彼女は、その瞬間全てをやり直したかった、·····でも、あちらのフィーロ君が言った願いのせいで絶対にできなかった」
「あっちのフィーロ君は私にね、『忘れないで、でも生きて、いつかまた会えるから、ずっと一緒に居れるから』って伝えて旅だったんだ、それを忠実に守った私は、それから神様として地球が滅ぶその日まで、宇宙が滅ぶその時まで待ち続けたんだ」
·····でも、ダメだった。
彼は戻ってこなかった。
そこで私は、神の力で平行世界に乗り込んだ。
私はその世界で、自分が転生したあの世界を、みんなと共に過ごしたあの世界を、もう一度作った。
いつかフィーロ君が帰ってきてもわかるように。
·····でも、ダメだった。
自分の力で創造した世界にはフィーロ君も居て、みんなも居て、いつものように過ごしていた。
·····けれど、既に運命を知ってしまっている自分が作った世界では、道中は違えども結末は同じだった。
世界に皆が死ぬという運命が決定づけられていて、どうやってもダメだったんだ。
でも諦めなかった、いつかずっと一緒に居られる世界が見つかると信じて、いつかあの時のフィーロ君が帰ってきてくれると信じて、私は世界を何度も何度もやり直した。
人間の定義では決められない程の数値になるまで、永遠に試し続けた。
·····そんな私の望みは、叶う事は無かった。
そして私は無限に広がるはずのifの世界線を全て渡り歩いた。
でも、どうやっても結果は同じで一緒に暮らせる世界は来ることはなかったし、フィーロ君もみんなも帰ってくる事は無かった。
·····世界をやり直せば何回でも大好きなみんなに出会える、でも、それが悲しかった。
私が望んでいたのは、私が愛したフィーロ君にもう一度出会うこと。
·····いや、本当の私の想いは、私の願いは、私が望んた結末は、単純なモノだった。
みんなともう一度出会って、そして死にたかった。
フィーロ君の隣のお墓で、永遠の眠りにつきたかっただけだったんだ。
「でも、叶わなかったんだ」
「·····ガイア様の話なんだよね?」
「うん、ガイア様の話であり、ifの私の話だったんだ」
世界のストックが尽きた後、私は絶望した。
それはつまり、フィーロ君が帰ってくる場所が無いって事だ。
·····それだけじゃない。
虚像だとしても、もう二度と大好きだったみんなと話す事もできなくなって、そして死ぬこともできなくて、ただひたすら一人ぼっちだった。
·····永遠に続く孤独は、本当につらかった。
でもそんなときに、諦め悪く世界を調べ続けていると、彼女は世界の果てで一つの世界を見つけた。
ガイア様の世界から遠く離れたある場所に、自分が作ったはずの無い、ガイア様の世界とほぼ同一の世界があった。
どれだけ探してもたった一つしかなかった、奇妙な世界。
「それがここなんだってさ」
「·····だからifの世界って言ってたんだ」
その世界は、彼女が知っている世界であり全く違う世界だった。
何せ、既にその世界には『ソフィ・シュテイン/藤石 賢人』が存在していたのだから。
「そのもう一人のソフィ・シュテインこそが私だったんだ、それを見たガイア様は悟ったの、『この子を私の二の舞にしてはいけない』って、そして『ソフィ・シュテイン』の願いを叶えるために、主人公ではなくサポートに回る事に決めたんだ」
「じゃあ、ソフィちゃんはガイア様だけどガイア様じゃないって事?」
「正解、私はガイア様とは別の存在なんだってさ」
·····でもガイア様は、その判断をたことをずっと後悔してたし、羨ましがってた。
·····もう一度、みんなから『ソフィ・シュテイン』として接して欲しいって。
ソフィって呼ばれながら、変なボケをかましてみんなにボコボコにされたり、笑い合いたいって。
ただガイア様はそれをずっと我慢して、もう1人に自分の願いを重ね、託す事にした。
·····ガイア様が失ってしまった『アイ』を。
だから、ガイア様は私の『賢人の石』に『アイを知れ』と書き込んだのだ。
そして私はその『アイ』を知って
·····そして、ガイア様とは違う『アイ』を導き出した。
永遠に生きられる存在が、有限の存在の死を看取る時に出来るアイの形は、帰ってくるのを待つんじゃなくて、受け入れる事。
「·····私は、もしキミが死んだ時、·····受け入れる覚悟は出来てる、世界をやり直すつもりも無い、魔法を使って生き返らせるつもりも無い、ちゃんと見送って、キミのことを忘れないで生き続けるつもりだよ、·····きっと凄く泣くし立ち直るまで凄く時間がかかるだろうけどね」
·····それが、私が導き出した最後の『アイ』の形だ。
「·····でも、僕は」
「わかってる、一緒に神様になっちゃったからね」
ただ、私とガイア様の世界では大きな違いがある。
それは、フィーロ君も亜神化している事だ。
きっと、フィーロ君は私が消えるその日まで死ぬことは無い。
だからガイア様よりもっと長い時間、一緒にいられるだろうし、長くいればそれだけ納得できる猶予もある。
·····正直言うと、私もフィーロ君が死んじゃうって思うと、辛い。
でも、それだけ長い間一緒にいれば、きっと私は死を受け入れられるから。
「·····それで、ガイア様は私の出した結論を知って、引退を決意したみたいなの」
「でも····· ガイア様はそれでいいの?」
「いいみたいよ、もうガイア様がこの世界に干渉せずとも私は上手くやって行けるし、キミがガイア様が待ち望んでたあの時のフィーロ君じゃないってハッキリ分かったみたいだからね」
·····それに、ガイア様がもう干渉しないって言ったのは、私が望んだ結末が正しかったのか、この世界ではなかよし組のみんなは絶対に死なないか、私も死んで大往生できるのかもしれないと確定したからだろう。
なんで満足したかは本人に聞かないと分からないけど、『全てを引き継いで生きていって、私からの最後のお願いね、私』という書き置きしかないから、その真意は分からない。
ただ一つだけ明確なのは、私は一人ぼっちじゃないって事だけだ。
「ガイア様の役目はもう終わった、だからもう二度と会えないんじゃないかな」
「·····ガイア様はどうなったの?」
「さぁね、私の事は私が一番理解できないから、きっと今頃どっかで寝てるんでしょ、·····1ヶ所だけ心当たりあるし」
何はともあれ。
この世界は、私が本当に望んでいた世界に間違いない。
これからもずっと、こんな感じでワイワイ楽しく生きていけるんだろう。
私はそう思いながら、大好きなみんなの所へ帰って行った。
名前:『本当のソフィ・シュテイン』(ifの女神ガイア)
ひと言コメント
「·····これでいいんですよね、私」




