異世界の空を翔ける船
私が2回目の人生を謳歌するこの世界は、中世ヨーロッパのように古く伝統的な生活を送る日本と比べると物凄く劣る技術力しかない。
·····と私は思っていた。
「いやー凄いなぁ····· 海外すごぉ·····」
よくライトノベルで異世界の技術レベルなどは中世くらいっていわれるけど、実際にこの目で見てみると近世(15世紀~のルネッサンス以降)に近くて、っていうかこの世界に関してはサークレット王国が離島の辺境にあるせいで文化革新があまり起きなくてちょっと古くみえるだけで、本当は近代のくらいの文化があるのだ。
しかも産業革命は起きていないんだけどそれとよく似た技術は既に発展していて、こっちの世界でも文化の中心地となっているヨーロッパ·····こっちの言葉では『ヴェルグ地方』っていうんだけど、そのあたりはすんごい事になってるのだ。
例えば、あんなのとかね。
「噂には聞いてたけど来るのは何気に初めてかも····· こんなに飛空艇が飛んでるなんてなぁ」
「すごい、日本でもこんなに飛んでるの見たことないよ」
私たちの視界の先には、アドリア海に該当する巨大な湾の上空を何百、何千という数の小型の飛空艇が行き交う凄い光景が広がっていた。
私たちの世界は、日本のある世界とは似ているけど文化の進行はだいぶ違う事になっていた。
時を遡ること3600年前、日本から異世界転移してきた勇者たちが来た当時のこの世界の技術レベルは本当に中世ヨーロッパ並みだった。
だが魔王討伐が成された後、たった一人残された校長先生は己の持つ知識を使って数万年間全く変わらなかった異世界の文化や技術をどんどん引き上げていった。
その結果、3600年経った今ではついに異世界版産業革命である『魔技革命』が起こり、ここ百年くらいで一気に文化が変わったのだ。
魔技革命は略称で、本当の意味は『魔導技術革命』で何気に私の中でもトップを争うめっちゃ良い翻訳だったりする。
んで、この魔技革命では魔道具を使用した上で更に魔法を使わない技術を組み合わせ、様々な工業機械を作成できるようになった文化の大革新なのだ。
その集大成の一つと言えるのが、あの空飛ぶ船『飛空艇』だろう。
「ほんと凄いよねアレ、あっちだと1800年代終盤でやっと飛行技術ができはじめて最初は滑空で次は気球で、色々あって飛行機ができたって言うのにさ、もう空を飛んで一般化しちゃってるよアレ····· 大航海時代の代わりに大飛空時代が始まっちゃってるよ」
「凄いなぁ·····」
飛空艇の形は様々だけど、基本は船舶に飛行機の翼を取り付けたようなデザインで、推進システムに魔導エンジンによるプロペラ推進機構、飛行にはある程度空力による物理現象が関わってはいるが基本は浮遊魔法による飛行となっている。
だから日本でもよく飛ぶ小型飛行機とか、どっかのアドリア海の赤い豚みたいな世界観の飛行機って言うよりも船が空を飛んでるようなイメージに近いのだ。
でも最近だと空力も気にし始めたのかところどころに船から進化したような流線形の専用デザインの飛空艇があるから、もうあと数十年もすればちゃんとした飛行機が出てくるかもしれないと私は思ってる。
あとこの世界だとアドリア海には船よりも飛空艇の方が多いと言われていて、しかもすべての飛空艇が水上離着陸機なので海上を飛空艇が航行している事もよくあるのだ。
っていうか、普通に使われている船が飛空艇になってるって言った方が良いのかもしれない。
だって翼の無い船でもフワフワ浮かんだりして移動することもあるみたいだし·····
でもやぱり最新鋭の飛行機は見当たらないようだ。
「·····って言ってるけどさ、ソフィちゃん」
「はいはい?」
「一機だけ明らかにおかしいの飛んでるよね?」
「えっどこ!?見たいんだけど!!」
「鏡見なよ·····」
「えっ?·····今日も美人だけど?」
「機体全体を見てよ·····」
·····あっそう言う事か。
実は今日の目的は、フィーロ君と一緒に遊覧飛行デートなのだ。
もちろん乗っているのは私がイチから手作りした飛空艇·····っていうか最早戦闘機である『航空魔導戦闘機PS-01』だ。
こいつは確かにそこら辺を飛んでる飛空艇と同じく航空力学ではなく基本は魔法の力で浮遊して飛行するから同じ飛空艇に分類されるんだけど、その見た目は明らかにオーバーテクノロジーだ。
何せ形状はA12偵察機を戦闘機に改造したような見た目で、推進力はプロペラなんかではなく魔導式ジェットエンジンで両翼の付け根付近に2つ、そして機体後部にドデカいのが1つある計3つの構造で、更に超音速飛行を行う際は光環式推進システムを使って超加速する、もはや現代の戦闘機でさえ上回る超オーバーテクノロジーの飛行機なのだ。
「確かになぁ、どうせなら飛空艇も一隻ほしいなぁ、面白そうじゃない?」
「もうたくさん持ってるでしょ·····」
「飛空艇は持ってないから!ね?いいでしょ?」
「ダメ」
「けちぃ~」
なんて上空で夫婦漫才を私たちは繰り広げたのだった。
◇
私たちは美しい地中海の海と島々の上を時速200km前後というかなりゆっくりな速度で遊覧飛行していた。
眼下には美しい青い海が広がり、海面を進む飛空艇が白い波の軌跡を残していて、空は青く白い雲が浮かび、島々は青々と木々が茂って、沿岸の町は独特のヨーロッパのような建築が立ち並ぶ非常に美しい光景だった。
あとさっきから飛空艇乗りが私を見つけて面白がっているのか、何とか追いつこうと追いかけてきたりしてた事もあって、楽しいフライトになっていた。
「ふんふん~ん~ん~♪」
「鼻歌を歌ってる····· 楽しい?」
「んっ?あっごめんボーっとしてたわ、景色に見とれてた·····」
「楽しいなら良かったよ、·····ところでお腹空いたんだけど、どこかでお昼にしない?」
私はあの映画が実はめっちゃ好きで、ド定番の空を飛ぶお城の映画とか神様のお風呂の話とか今鹿とか擦りおろし大和芋とか色々ある中で、ぶっちゃけ言って世界観とか、あのなんていうか····· ハードボイルドな淡白だけど情熱がある世界観がかなり好きなのだ。
その舞台であるこの海はやっぱり美しくて、私はつい見惚れてしまっていたようだ。
そして人は何かに夢中になると時間があっという間に過ぎてしまうという癖があり、私も気が付いたらお腹が空いていて、後ろに乗ってるフィーロ君も私と同じくお腹が空いてしまったようだ。
「いいね!丁度いい感じの店をさっき見つけたから行ってみない?あの映画の海上レストランみたいなさ、桟橋に飛空艇が係留されてる孤島のお店だったんだけど良くない?」
「そんなのあったんだ、そこさ、降りる前に上空から見せてくれない?僕も見てみたい」
「もっちろん!んじゃ行くから舌噛まないように気を付けてね!」
「わかった!」
という訳で、私たちはのんびりと遊覧飛行をしながらさっき見つけたお店へと向かいはじm
\ヴォンッ/
「ん?ソフィちゃん、ワープで行くの?」
「·····チッ!あのゲートって!」
だが私たちの目の前に、見覚えのある黒紫色の次元の亀裂が現れて、中から美しい焉狐g
\ドゴォッ!!/
『ぢょわっ!!!??ぐっはぁ·····』
「·····フィーロ君、何も見なかった、いいね?」
「バードストライクじゃなくて、フォックスストライクかぁ·····」
·····タイミングめっちゃ悪いなぁ、たぶん疫刻須宮さんは仕返しにきたんだろうけど流石に時速200kmで飛んでる飛行機の目の前に出てきたらアカンよ。
こっちは時速200kmで飛ぶ星核合金製の戦闘機だから、たとえ相手がSランク級の魔物でも人型だからひとたまりもないはずだ。
まぁ死んでないと思うけど、うん、海に落ちたなアレ。
「·····そう言えば言って無かったんだけど、このあたりって海賊っていうか空賊が結構多くて空を飛んでる飛空艇に乗り込んで金目の物を盗む奴らとか、それを退治して金を稼ぐ賞金稼ぎとか結構いるのよ」
「どういう事?」
「·····疫刻須宮さんなら上空1500mから海面に叩き付けられても平気だけど、たぶん気絶してるっぽいし空賊に拾われちゃうんじゃないかなぁって」
「って事は、奴隷にされたりとか?」
「まぁ、うん、そうなるんじゃない?知らんけど」
精々優しい人に拾われて助けられるといいね、それか優しいご主人様が引き取ってくれることを祈ってるよ、疫刻須宮さん。
◇
その後、私たちは遊覧飛行を楽しんでいるはずだった。
「おおおっ!結構早い!いいね!」
ダダダダダダダダッ!
ヴォォォォォォオオオオオンッ
「あっは!あぶなっ!」
「ソフィちゃん!どうしてこうなったの!!」
「なんか煽り飛行されたから煽り返しちゃった!!」
「バカァァァアアアアッ!!僕、こういうのちょっと苦手なのにぃぃぃいいっ!!」
私の戦闘機の後ろには、最新鋭っぽい割とちゃんと航空機な形をしている飛空艇に追いかけられて空中戦を繰り広げていた。
『くっ!なんて性能なんだコイツは!新入りぃ!この空のルールも知らねぇで飛びやがって!』
「知らんわそんなルールっ!!こっちは優雅に飛んでお昼ご飯食べに行く所なんじゃいっ!!」
ちなみに相手の飛空艇には機関銃のような魔導銃が搭載されていて、さっきからバカスカ撃って来ててちょっと困ってる。
んで襲われてる理由は、なんかこの人のナワバリに入ったからとか何とかで、この辺りの常識を知らなかった私はそこに入ってしまって追いかけ回されているのだ。
っていうか、あの飛空艇ちょっとカッコイイんだけど。
いいなぁ、ロマンあるなぁ·····
『ナメてんのか!!』
「舐めるっていうか食べなきゃ満足しないんですよ!!あーもう!邪魔っ!」
ギュオッ!!
『何ぃっ!!?』
「後ろは貰った!」
でもいい加減うっとしくなった私は機体を垂直に起こして機体全体を使って急激に空力のブレーキをかけて時速200kmから一瞬で停止して、空賊の飛空艇の後ろに回り込んでしまった。
基本的に空中戦では後ろを取った方が圧倒的に強く、私の魔導戦闘機は物理法則を完全に無視した動きができるからこうして空中で急停止して背後を取ったりできるのだ。
ちなみに米軍との第2回魔導戦闘機試験ではマッハ2でやって驚かせたから、時速200kmくらいならおちゃのこさいさいだ。
『くっそが!!何なんだテメェは!!』
「ただの遊覧飛行をしに来た夫婦ですよ!!」
『嘘つけ!』
「もうお昼ご飯食べたいんで、おさらばです」
『クソォォォオオオッ!!俺が、俺がこんなところで!!』
私は、敵機に向けて機銃のトリガーを引いた。
\ダァンッ!/
\ベモッ/
『いでっ!!?』
「·····はい、私の勝ちですよ」
·····だが、そこから出たのはかなり威力の弱いデコピンくらいの威力のショックボールだった。
それが空賊の後頭部に直撃して、ビックリしたのか一瞬操作を誤ってフラフラはしたけど墜落することはなかった。
そんな飛空艇の真横に私はやってきた。
「殺す気は無いんで安心してくださいね、こう見えてもSランク冒険者なので無益な殺生は好まないんです、んじゃ私たちはあそこのレストランに行くのでここらへんで失礼しますね」
「·····僕の妻がご迷惑をおかけしました、ごめんなさい」
『お、おう·····』
そして空賊の結構なイケオジに挨拶をすると、私たちは進行方向を変えて海上レストランへと向かったのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「のんびり遊覧飛行しに来たはずなんだけど、どうしてこうなったんだろ····· まぁいいや、レストランいこっと」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「疫刻須宮さん大丈夫かな····· 僕ちょっと心配なんだけど、だってお腹に先端がモロ直撃してたよ?絶対痛いじゃんアレ·····」




