のんびり休むとある休日の日
京都観光から帰ってきた私は、そのあと1ヶ月くらいかなり真面目に働いた。
っていうか、他に何もなかったから普通にいつも通り仕事をして育児をした結果そうなっただけで、他に何かやる事があったら真面目に働いてなかったと思う。
·····いやそれも違うかな、京都観光でたっぷり遊び回って満足したから仕事に集中してたのかも。
という事があって、パーフェクト完璧、すなわちパーペキな私は1ヶ月も仕事ばかりしていたら溜まっている仕事も後回しでもいい仕事も全部終わらせてしまうほどの高スペックなため、仕事が無くなってしまった。
しかし仕事が無くなってしばらく暇になったとしても、私のやる気はあんまり回復していなかった。
「·····という訳だったのですね、どこにいらっしゃるのかと思ったら6月でもうバカンスですか」
「そうそう、ホントはこっちの沖縄あたりでリゾートホテルにでも泊まってのんびり釣りをしながら海水浴でもしようと思ったんだけど、もうハイシーズンに入っちゃったのか部屋埋まってるし料金高いしで諦めたのよね····· 早めに予約しときゃ良かったわぁ·····」
という訳で、アキさんが言った通り私はしばらくバカンス中だった。
バカンスっていうと遊んでるように見えるけど、どっちかというと紅〇豚の主人公みたいなのんびりとするだけの無意味な時間を過ごすというある意味最高のバカンスの時間だ。
ただ私は沖縄にバカンスに行ったことがなくて、しかも思いつきでバカンスしようと思い立っちゃったもんだからいい感じのホテルが全部埋まってた。
という訳でディメンションルームの常夏の海水実験室というなのビーチにやって来て、元々ビーチのある島の一角に天窓がある海食洞を作ってその中でバカンスをしていたのだ。
·····まさにあの豚が居る隠れ家そのものだけど、ああいう落ち着いたところが私も好きだったから憧れて作ってみたのだ。
「·····はぁ」
「どうされたのですか?」
「たまには一人も良いなって思って」
「お邪魔しましたでしょうか?」
「あっアキさんが邪魔とかそういう意味じゃなくて、たまには浮世から離れるのもいいなぁって思っただけだよ」
「そうでしたか·····」
「·····でもさ、砂浜でメイド服ってどうにかならないの?」
「確かに不自然でした、申し訳ございません」
そんで私はバカンス中はほぼずっと水着だった。
まぁ水着と言ってもすんごい露出度の高い物とかスク水とかじゃなくて、物凄くシンプルな黒ビキニで下はひらひら付きでスカートっぽくなってる物で、その上から白パーカーを羽織っているラフすぎる格好だ。
ときどきラフすぎて裸婦になるけど、ここは基本私一人しか居ないから大丈夫だ。
「着替え終わりました」
「はっや、いま5秒くらいしか経ってないけど!?」
「シルキーですので」
「あぁそう·····」
って一瞬意識を逸らした間に、アキさんはメイドビキニに着替えていた。
流石は超エリートシルキーってだけあるなぁ·····
「·····ところで何しに来たの?」
「フェニカ様がお腹を空かせておりますが、どうされますか?」
「あーいま何時?·····11時かぁ、ちょっと早いけどお昼ご飯つくろっと」
「私が代わりにいたしましょうか?」
「いやいいよ、別に家事が嫌でここに来たわけじゃないしさ」
そんでアキさんがここへ来たのは、リビングに居るフェニカがお腹を空かせていて何か食べさせるかを聞きに来るためだったようだ。
·····ちなみに私は何もかも嫌になってここに逃げ込んだとかそういう訳じゃなく、純粋に暇だったから来ただけで普通に家事もするし育児もしてるのよね。
って事で私は汚れや水気を魔法でさっと綺麗にして、お昼ご飯を作りに行ったのだった。
◇
そして食後、私はフェニカと遊んでビキニを引っ張られて色々丸出しになってたまたま見ちゃって釘付けになっていたグラちゃんの夫のウェイザ君がボッコボコにされて私にまで飛び火しかけて、こっちに逃げて来た。
いやぁ恥ずかしかったわぁ·····
やっぱりあっちに行くときはちゃんと着替えるべきだね、料理中に油がはねて私のお腹に直撃して死ぬほど熱かったし、ちょっと筋肉っぽいけどしっかりモチモチな私のプリティーな太ももに味噌汁がこぼれて危うく全身に味噌汁を浴びそうになったし·····
まぁそれは過ぎた事だし、やけども魔法で治して足に掛かった味噌汁はさっき海に入って洗ったから大丈夫だし、投げっぱなしにしている釣竿に当たりは無いしで、小洒落たビーチチェアに座ってのんびりとした時を私は満喫していた。
「·····でも、フェニカも随分成長したなぁ」
そんなのんびりした時の中で、私は自慢の娘の事を考えていた。
フェニカが産まれてからもう1年半近くが経ったなんで、私は未だに信じられなかった。
たしかにこの体で産んで、この手で抱いて、沢山愛したっていうのに、ついこの前までたった3kgしかない小さな小さな子だったと思ったのに、気が付いたら産まれた時の3倍近い体重になっていて、身長も凄く大きくなって、赤ちゃんから子供へと明らかに変わっていると感じられた。
子供の成長って、ホント早いなぁ·····
多分、気が付いたらあっという間に大人になってて、フェニカが彼氏を連れてきて、私がギャーギャー騒いで、孫が産まれたとか言って大泣きしてるんだろうなぁ·····
それに、もうちょいしたら2人目も作りたいなって思ってるし、グラちゃんなんかは結構張り切ってるみたいだから、1年以内にはもう一人増えるかもしれない。
「·····私も、大人になれたよね」
フェニカを産んでから、何度も何度も自分がまだ未熟だと反省してしまう癖ができてしまった気がする。
ああすればよかった、こうした方がよかったんじゃないか、アレは間違いだったんじゃないかって、目を瞑ると思ってしまう。
·····でも最近、それが大人で親の役目なんじゃないかって思い始めた。
自分ばっかり責めていたけど、全部フェニカの事を思って色々考えていたし、思い付きで行動しないでどうすればいいか悩むのも、誰かの事を思って行動するのも、本当は大人らしい事だったんじゃないかって思う。
·····どこからが大人なのか、どうすれば子供を卒業できるかは2度目の人生でも結局よくわからなかったし、今の私も大人になれているのかわからない。
ただ、今世の私は大人になれているかはわからないけど、親にはなれていると思いたい。
最近ではフェニカに勉強をさせてみたり、嫌がらないよう楽しく勉強できるように寝る直前まで悩んだり、その他色々なお世話をしてるからきっと大丈夫だろう。
それに、魔法という無限の力を手に入れて、これを自分のためだけじゃなくてみんなのためにも使えている、若干私のエゴが混ざってる気がしないでもないけど、大人っぽく使えてるんじゃないかなって思う。
他にも色々あるけど、それをひっくるめて、やっと私は自分が大人になったんじゃないかなぁって思えるようになってきた。
·····体に関してはもう完全に大人だけどね、胸は小さいままだけど、子供も産めるし、母乳もちゃんと出たし、親知らずはたぶん頭が消し飛んだ時だと思うけどいつの間にか吹っ飛んで消えてたし、悔しいけど成長が止まったからもう完璧に大人だろう。
こうやって空に手をかざしたら、前世に比べると華奢でやわらかくて細い手だけど、産まれた時よりも、魔法学校に居た頃よりも、確実に大きくなってるってわかる。
武器もペンも魔法も我が子も掴んだこの手は、ちゃんと大人の物だろう。
「·····エビちゃんはどう思う?」
「とっくにワシは大人じゃ、お主がヘタレなだけじゃろう?」
「まぁ、ヘタレなのは事実だからいいけど、エビちゃんだって同じでしょ?」
「違うと言いたいが、その通りじゃからのぅ」
それは、いつの間にか近くに来ていたエビちゃんも同じだったようだ。
ちゃんと水着を着てきているあたり、彼女もここでバカンスでもするつもりなのだろう。
それか、食後の運動にでも来たかもしれない。
「エビちゃんはもう19だけど、大人になれたっていつ実感した?」
「いや、一度もして無いのじゃ」
「およ?」
「隣、失礼するのじゃ」
エビちゃんは私の隣にビーチチェアを置くと、ドカッと座った。
「·····ワシが大人になったと自覚するのは、ラクトが死んで、死を受け入れられた時なのじゃ、·····愛する者の死を、家族の死を前世のワシは受け入れられんかったからのぅ、きっとそれを受け入れられて、ワシは初めて大人になるのじゃ」
「·····そっか、お兄ちゃんは生きても100歳くらいまでだもんね」
「うむ·····」
私たちは、寿命がほぼ無いに等しい。
特に神に至った私たちは永遠に生き続けてしまうだろう。
その長い寿命に比べると、人間の寿命はほんの一瞬、須臾の如き時間しかない。
エビちゃんは前世では幼少期に親を失い、それを受け入れられず唯一の肉親の姉に依存していた。
今世では、夫ができて子供も生まれたけど、魔族である娘は長寿で長生きするだろうけど夫はただの人間で長生きするとは限らない。
·····私の家系は魔族の血が濃いから他の人よりかは長生きかもしれないけど、それでも十分短い。
「確かに、誰かの死を受け入れられて初めて大人になるっていうのは有り得るかもなぁ·····」
·····でも最近、私も誰かの死を受け入れられる覚悟が出来たような気がする。
私は永遠に生きられる。
それはつまり、愛した人々を永遠に見送り続ける必要があるって事だ。
·····私は、死が怖かった。
あの事故で価値もなく無意味に死んだトラウマはそう簡単に消えるものじゃない。
でも、誰かと家族同然くらいなかよくして、誰かを愛して、子供を産んで、価値観がちょっと変わった。
人の人生には、物語には、必ず終わりはある。
·····でも、人生ってのはどう生きたかじゃなくて、どう終わったかが1番大事なんだって気がついた。
ちゃんと納得できる終わり方を迎えられれば、私は愛する夫が亡くなっても、きっと受け入れられる。
フィーロ君だけじゃない、私の大親友たちも、お父さんもお母さんも、娘もいつか産まれるかもしれない息子も、孫も曾孫も玄孫も子孫たちも、私はその人生の物語を見守って、たまにちょっかいを出して良い人生を送れたって言えるようにしたい。
·····死ぬのは怖い、けれど悪い事じゃない。
そう思えるようになったから、私はやっと大人になれたような気がした。
「まぁそうじゃな····· 寿命の長いワシらにとってそれは未来の話じゃ、今は気にせんでも良いじゃろう?」
「だね、今はこうしてのんびりするのが最優先だよ」
「·····それは違うのぅ」
「·····んっ?なんかやる事あったっけ?」
「竿、引いてるのじゃ」
「マジで!?早く言ってよー!!」
南国な感じで陽気な場所だっていうのに湿っぽい話をしていた私たちだったけど、竿に当たりが来た事で雰囲気は一変し、義理の姉妹で協力して魚を釣り上げたのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:18歳
ひと言コメント
「たまにはこうやって、のんびりしながら自問自答するのも悪くないなぁ····· 昔はよくやってたんだけど、だいぶ久しぶりな気がするなぁ·····」
名前:エビちゃん
年齢:19歳
ひと言コメント
「そうじゃのぅ、浮世離れしておるワシらが浮世から離れて物思いにふけるのも、たまには悪くないのじゃ」
名前:███
ひと言コメント
『·····そっか、受け入れられるようになったんだね、この世界の█は』




