花も恥じらう角落ち娘っ!
「どうか、どうか命だけはご勘弁を·····」
私は土下座していた。
理由はもちろんお分かりの通り、私が角グリグリをやってエビちゃんの角を破壊したからだ。
もう死ぬ覚悟の準備をしておいた方がいいかもしれない。
それとも刑務所ぶち込まれる楽しみにしておいた方がいいかも·····
「別に怒ってないのじゃ」
「ひっ·····」
絶対怒ってるヤツじゃん、ごめんフィーロくん、私死んだわ·····
「ソフィたん、顔上げて」
「はっ、ハイッ」
私は顔を物凄い勢いで上げた。
するとそこには、折れた角をいじっているエビちゃんと、魔族の姿になって角の折れた面を魔法で治療している姉貴が目に映り込んできた。
·····えっ、マジで怒ってないっぽい?
「·····怒ってないの?」
「怒ってないのじゃ」
「マジで怒ってないの?」
「·····怒ってないのじゃが、これ以上言ったら怒るのじゃ」
「アッハイ」
うわっ、マジで怒ってないし·····
エビちゃんも寛容になったなぁ、今ならエビちゃんの秘蔵盗撮写真をお兄ちゃんに横流ししてたの言っても怒られないかも?
·····いや絶対怒るから言わないでおこう。
「·····じゃあ、なんで怒ってないん?」
「あー、実はのぅ····· 魔族は種によるがワシらアマイモン属は一度だけ角が生え変わるのじゃ、大抵は14とか16なんじゃが、ワシのアマイモン種は『角落ち』が遅いんじゃ」
「そうそう、魔族は成長期に入ると1度角が生え変わって、だいたいはその時期の春頃に生え変わるんよ」
「なるほど····· つまりエビちゃんは鹿だったと、まったく····· 馬鹿じゃないの?」
「おいお主、コレをお主のケツにブチ込まれたくなかったらその減らず口」
\ポロッ/
「·····ちょうど2つあるし、両方にブチ込まれたくなかったら黙る方がお主の身のためじゃぞ?」
「ハイ·····」
「ちなみに普通はこんな風に自然にポロッって落ちるんだけど、ソフィたんが一気に外しちゃった感じだねぇ」
私が調子に乗って馬鹿とか言ったらキレられた。
そして残っていた左の角もアッサリとポロッと落ちてしまった。
流石の私でもあんな太いのは無理····· じゃなくて、えっと、なんだっけ·····
「·····魔族って角生え変わるの?」
「生え変わらん種もおるし、しょっちゅう生え変わる種もおる、ワシらみたいな種はこの時期に1度だけじゃな、それ以降は折れても生えてこんのじゃ」
「そうそう、いやーおめでとう、やっと角落ちになったじゃん、いいねぇいいねぇ·····」
「·····姉貴、角落ちってなに?」
「えっご存知ない!?まっさかぁ!?」
「知らんわ!!!」
この後、魔族の『角落ち』についてエビちゃん達が詳しく教えてくれた。
◇
魔族が成長すると行う『角落ち』とは、魔族の種によって時期が異なるが、エビちゃんが属するアマイモン種の場合は肉体の成熟を示すサインになっている。
他にも、成長期の始まりに落ちる種やそもそも生え変わらない種やしょっちゅう生え変わる種などが居るらしい。
だが基本的には肉体が成熟すると生え変わり、魔族の間では角が落ちれば大人の仲間入りと認識され成人式のように祝われたりすることもあるそうだ。
そして角が落ちて生え変わり始めた子を『角落ち』と呼び、みんなから温かい目で見守られる青春の証拠になるんだとか。
ちなみに角は半年で生えてきて、種族ごとの特徴はあるけど個体差が出てくるらしい。
現に同じアマイモン属の姉貴とエビちゃんの角は形がちょっと違くて、エビちゃんは尖ってギザギザした段差状のねじれ角で、姉貴は尖りも少なくて滑らかだけどエビちゃんよりよく捻れている角を持っている。
ちなみに爺ちゃんは遺影で見切れてたけど捻れながら捻れる二重捻れ角だった。
んで抜け落ちた角は恋人が出来るとプロポーズの時に自分で加工して指輪にして渡したり、角が大きい種とかだと腕輪にする場合もあるらしい。
あとは右の角は人間で言うと左の薬指くらい大事な物らしくて指輪に加工する以外は絶対に使わないで一生大切に保管して、余った左の角は魔法を使う人なら魔法の武器の触媒にしたり近接武器に加工したりアクセサリーにしたり売ったりと、その人が自由に使うという使われ方をしている。
ただアマイモン種は角が落ちるのが遅いので、基本的についたまま先端を切り落として加工して渡すのが普通らしい。
あと生まれてから生え変わるまでは角の形は基本的に誰でも同じだけど、エビちゃんの角はちょっとゴツゴツと捻じれ過ぎてるから性格が反映されてたんじゃないかとか言ってた、確かにひねくれてるもんなぁ·····
\ゴキブチッ!!/
ちなみに今私全身捻れてる。
痛い。
そういや今1400歳近い姉貴の角はデザインがエビちゃんのとは違うなって思ってたけど、姉妹でも違うのかなって思ってたけど個体差らしい。
聞いたところによると、家族間で共通の特徴もあるらしくてファゴサイトーシス家はツノが捻れながらゆるやかに半回転ほど捻れる特徴があるらしい。
ちなみに私もおんなじ捻れ方してる。
めっちゃいてぇ。
「っていうかツノの無いエビちゃんの違和感がヤバい、なんか面白い」
「あぁん!?時々やってるじゃろうが!日本に行くときとか!」
「いや日本に行くときは絶対帽子被ってるじゃん、だから新鮮だなぁって思ってさ」
「·····そう言えばそうじゃな、むぐぅ·····ワシはツノが無いのが嫌いなのじゃ·····」
「なんで?結構可愛いと思うけど·····」
「絶対言わん!!のじゃ!!!」
ちなみに魔族の角は生えている間は一時的にだけど引っ込めて隠す事ができるらしい。
隠す方法は物理的にやってるのではなく、魔術的な方法で一時的に消してるらしくて魔族の体でもトップクラスに謎な機能だ。
でも他の魔族はツノは確かに魔族の象徴であり誇りだけど、引っ込めて隠す事に抵抗はあんまりないみたいだし、出してると狭い場所を通るときに引っかかるからよく引っ込めることもあるらしい。
だがエビちゃんは何故か頑なに角を引っ込めようとせず、たまにドアにツノをひっかけてすっ転んだり首を痛めたりしてるのよね·····
理由を聞いても誤魔化されるし·····
「あーエヴィリンねぇ、前世の角落ちの時期に好きな子に告白しに行ったら断られるどころか彼氏とイチャコラしておっぱじめそうな所を見ちゃって盛大にトラウマになったみたいなのよね~、ぷっwww あの泣いて帰って来た時の顔ww 写真があの時代にあったらなぁ!!もーマジ最高っ!!」
「あっ、姉上ぇぇぇぇえええええええええええっ!!!!」
「ぶふっwww だからツノを引っ込めるのがトラウマだったんだ~、へ~~~~?」
どうやら角を引っ込めたくないのは過去のトラウマが原因だったらしい。
あー面白過ぎるわぁ·····
「そういうソフィたんも小学生の頃に好きな子に『お嫁さんになってください』って告白して『嫁とかマジで無いわ』ってすんごい断られ方してたよねwww やっぱり血がつながってないのに姉妹だわこの2人www」
「姉貴てめぇぇぇぇえええええええええええええええええええええっ!!!」
「だぁぁぁああああっはっはっはっはっ!!ひーっ!お主wwwおよめさんになってください?彼女をすっ飛ばして?ッッぶふっwwwバカじゃなwwwあぁもう、死ぬほど面白いのじゃwww」
ってエビちゃんの黒歴史に爆笑してたら私の前世の黒歴史を大暴露されてしまった。
絶対許さん。
仕返ししてやるっ!!
「そういう姉貴こそ、中学までガチで絵本の中の世界を信じててサンタさんに短冊を書いて『えほんのおうじさま、きてください、だいすきです♡』って書いてたよなぁ!?後々聞いたけど父さんと母さん、それ見る度に死ぬほど恥ずかしかったんだってなぁ!!」
「そういえば姉上、前世の頃にショタを誘拐して部屋に連れ込もうとして警備隊に捕まってガチで怒られておったのぅ!!」
「ちょっ!?やめっ、やめろー!!!」
私は姉貴の恋愛黒歴史の中で一番恥ずかしがるのを暴露して、エビちゃんも姉貴の前世の恥ずかしい過去を暴露した。
そして、事態は最悪の三竦みの膠着状態になった。
誰が最初に爆弾を投げ込むか、そして投げられた瞬間報復攻撃を始めるか、正に世は冷戦時代だ。
「·····とりあえず、この話やめない?」
「·····じゃな、誰も得せず傷付くだけなのじゃ」
「·····それが良いね、うん、もうやめよ」
だが私たちは即座にマルタ会談して、最悪の全面黒歴史戦争は避けられたのだった。
◇
その後、一旦お茶を飲んで休憩した私たちは会話を再開していた。
「·····で、どこまで話したんだっけ」
「あー、どこじゃっけ·····」
「確かアレ、角の形状とかじゃないっけ?」
「それじゃな、まぁ角の形状はどうなるかはワシにもわからぬ、その時次第じゃのぅ·····」
「なるほどー」
んで話の続きで、エビちゃんの角は生え変わるまではどんな感じになるかはわからないようだ。
とんでもない卑猥な形で出てこないかな、そしたらちょっと面白いんだけど·····
「·····お主、ツノで目潰すぞ?」
「ごめんごめん」
「あっちなみに基本の形は今までと変わらないよん、ただデザインが変わる感じだね、私のはより流線形でシャープな感じになったのよ、結構いいでしょコレ」
「へぇ、って事はアンモナイトみたいな巻き角とかにはならないって事だよね?」
「そうそう、ただ生え変わりの初期は多少柔らかいから無理やり曲げて固定とかできるね、割とそういうの流行ってたけど結構痛いみたいだからオススメはしないよん」
「わかっとるのじゃ、ワシは変えるつもりはないのじゃ」
「そんな事できるんだ、すごぉ·····」
「ちなみに生え方は鹿とかと一緒だね、成長中は皮膚で覆われてて、血管とかから魔力を供給して魔結晶に近い物質を作るんだよ、でも確か、食べる物によってある程度材質とか硬度が変わるらしいんだけどよくわかってないのよね、基本的には魔結晶+カルシウム+鉄+若干の生体組織とかが多いかな?」
「灰鉄魔結晶ってところか、魔結晶部分がどう動くかで柘榴石系か輝石系に分かれるかな」
「確か硬度は7以上あったから····· 輝石ってどんくらいだっけ?私鉱物はそんな詳しくないんよ」
「輝石は5から6、柘榴石は7以上だね、魔導化してるから硬度の上昇はあるけど、柘榴石型が多いのかな?でも形状を見ると輝石系が多い気がする」
「なるほどぉ、体内で鉱物結晶を作ってそれで角を生やしてたのか、ふんふん····· 鉄とカルシウムの由来は多分食べ物の可能性が高いね、この時期は確か貧血になる事が多いから体内のヘモグロビンから鉄を補給してるのかもしれないね」
「だね、んじゃもしかしたら水にフッ素が多く含まれてる地域なら蛍石とかになる可能性もあり得るし、ケイ素を多く取り込めば高硬度なツノになるかも?」
「それあり得る、んじゃさ、アルミとかどうよ、確かアレってサファイアの原料っしょ?」
「そうそう、サファイアって言うかコランダムね、もしコランダム化した場合は不純物として血液中の鉄が使われる可能性があるからもしかしたらブルーのサファイアになる可能性も否めないかな」
「ほっほー、んじゃクロムを混ぜたらルビーに?」
「なるかも、でも魔族の消化器官じゃそこまで強い素材を溶かすことはできないから、金属の直での摂取は難しいかも、だから何らかの方法で体内に取り込む必要があるかもしれないね····· あるとすればメタケイ酸を多く含む温泉水を飲むのもアリだと思う、たしかメタケイ酸は水晶の原料にもなる物質だからツノをケイ素質にして頑丈さを挙げられる可能性があるね」
「へぇ、って事は何らかの方法で金属成分を液体の中に入れることができればワンチャンある?」
「あるかもしれない、アルミニウムを混ぜるのは難しいけど、アクアマリンとかのベリル族の鉱物には高温型熱水鉱床で産出するものもあるからアルミニウムが水の中に溶け込む可能性も十分あり得る、いけるかもしれない」
「いいね実験してみようよ、できる?」
「できるできないじゃない、やるんだよ!!」
どうやら魔族の角はドワーフの鉱物質の体とちょっと似ていて、取り込んだ成分によって角の材質が変わるようだ。
ただ魔族の体は生憎岩石を溶かすほどの機能は備わってなくて、あってもカルシウム・鉄・リン・ケイ素くらいだろう。
これだけでも色々な鉱物にできるし、実際に魔族の角はどうやら『輝石グループ』と呼ばれる鉱物の一つである灰鉄輝石に類似した鉱物か、ほぼ同じ成分でできる『灰鉄柘榴石』でできているようで、更に魔結晶が混ざり魔力で置換された部分もあるのか硬度は輝石のような見た目だが柘榴石の如き強度がある未知の生体鉱物である可能性が出て来た。
でもヒドロキシアパタイトのように人間が鉱物を産み出す方法はあるから、もしかしたら効率よく金属元素を取り込んで魔族の角に渡す事ができれば角の質を変えることができるかもしれない。
だとしたら最強は折れにくく硬度がある『コランダム』一択だろう。
硬度9かつ靭性が非常に高く、魔導化すると魔力の蓄積や増幅などありとあらゆる魔導効果が付与される最強の魔法触媒だ。
かなり難しいけどやろうと思えばできるかもしれない、これは試す価値がありそうだ。
「って事でエビちゃん!!!」
「·····ワシ、話についていけんのじゃが?」
「ついていけないならそれで結構!エビちゃんの角、めっちゃ強くカッコよくしてあげるからね!!」
「楽しみにしてなよー?」
「·····クッソ不安なんじゃが?」
エビちゃんの心配をよそに、私たち藤石姉妹は別パターンの姉妹であるエビちゃんの角の魔改造計画を立ててニヤニヤしたのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「これは面白くなってきたぁ!!」
名前:ホモカネル・アマイモン・ファゴサイトーシス
ひと言コメント
「なるほど、その手があったかぁ、って事はアレをこうしてこうすれば····· やっぱ最適解は血液中に直接注入する事じゃない?えっ?やっぱりそうだよね、だとすれば····· ふっふふ·····」
名前:エヴィリン・アマイモン・ファゴサイトーシス
ひと言コメント
「おい、ワシはいわゆる『花も恥じらう角落ち娘』になったんじゃぞ!?そ、そんなワシに何をする気なんじゃ!!お主ら2人が専門用語ばかり使って話してるとマジで怖いのじゃっ!!!·····あの、マジで大丈夫なんじゃよな?ワシめっちゃ不安なんじゃが?」




