怪獣、襲来
「今日も異常は無いわね、寒いけど日差しが暖かくてやりやすいわ」
ここはフシ盆地の飛び地的な場所に作られた町で、長閑で今日も今日とて鉱山で採れた鉱石を精錬する音が響く鉱山町『フシ町』だ。
そんな長閑な町に争いなど無縁····· とは言い難く、時々魔物が襲撃してきたり他の町より魔物の目撃証言は多いが、それでもかなり平和な町だ。
そして私はこの平和な町を守る警備隊の1人、第4警備隊のユーラだ。
昔はお父さんのお爺さんの父が有力貴族だったらしいけど、私の家は貴族の権限は受け継がずにフシ町に引っ越してきたみたいで、今はただの庶民だってお爺ちゃんが言っていた。
まぁ、お父さんが武器工房の専用販売所の代表をしているから、他の家よりはちょっとだけ裕福かもしれない。
そんな家に産まれた私は、お父さんが取り扱っている武器を持ち、いつも外壁の上を歩いて魔物が居ないかを監視する仕事をしている。
「武器を使わない方が良いと思うだなんて、武器商人の娘が考えちゃいけない事ね、ただ、やっぱり平和が一番ね·····」
このフシ町は魔物が強く数も多いフシ盆地にあるとはいえ、魔物が人の町に近付いてくるのは週に3回あるかないか程度だ。
いや、それは語弊があるわね、有害な魔物は週に3回程度しか来ない。
だからお父さんが私が警備隊に入る時にプレゼントしてくれた凄く良いこの剣も使う機会はあまりなくて、いつもは別の物を持っている。
·····いま手に持っているものは、私の趣味に関係している、出勤途中の料理屋から貰った野菜クズの入った袋だ。
私の趣味は、これを防壁の上からばら撒いて下に居るモフウサたちにエサをやる事なのだ。
最近ではご飯の時間を覚えたのか、モフウサたちはいつもの時間になると森からぴょこぴょこと集まってきて、防壁の下がモフモフ天国になっているのだ。
思わず飛び降りたくなるが、壁の高さは10m·····くらいよね?私が6人分くらいだから大体10mのはずで、そんな高さから飛び降りたら私もモフウサも大怪我をしてしまう。
ただ下に行くとモフウサたちは逃げてしまうので、私は壁の上から見るしか手段が無い。
仕事に不満は一切ないし、この野菜くずを食べなくても良いくらいに給与もいただいているからむしろ有難いのだが、モフウサたちと交流できない事だけは非常に残念だ。
「·····ん?チッ、ゴブリンか、でも結構遠いわね····· 数は3匹か、こっちに来なければいいけど····· 分隊長、方位は東で約2.5km先の森にゴブリンが3匹ほど現れました、どうしますか?」
『流石は『鳶の目』だな····· 監視は続けておいてくれ、こちらに来る様子が無ければ無視で構わないが数は記録しておいてくれ、さっきのアレで警備隊が外に行ってるからな、見逃すんじゃないぞ』
「了解したわ、·····さっきから少し多い気がするわね、やっぱりさっきの龍の咆哮と巨竜が降り立ったのが関係しているのかしら」
と考えていたら、遠くにゴブリンが3匹ほど居るのを確認した。
ちなみに私は視力が生まれつきかなり良く、光魔法の適性があり望遠魔法を使えるため、防壁の上からはるか遠くまで見渡し、遠くに居る魔物を見つける事ができた。
ちなみに氷魔法も少し使えるけど、あまり戦わないからこの野菜袋を冷やして鮮度を保つくらいにしか使っていない。
あと、数年前に暇を持て余して防壁の上を歩いていた町長の娘さんから手で距離を測る方法を教えてもらい、おおよその距離を測れるようになった。
そのおかげもあって、元々鋭い目つきだった私は『鳶の目』という少しカッコイイ異名をつけられたのだ。
大変栄誉なことだが、私は聴覚の方がよかった、そうすれば『モフウサの耳』という異名を漬けられていたかもしれない、私にとってモフウサを襲うトンビは天敵なのだから。
·····いや、近付くと逃げられる私にとってはトンビの目はあながち間違いではないのかもしれない。
·····閑話休題ね。
実は先程、南西方向にて天を穿つかのような炎が吐き出され、強力な竜の咆哮や大噴火のようなものが一瞬だけ発生したのだ。
それに加えて爆音が発生した事から、魔物、もしくは噴火の可能性があり外回りの警備隊が出払ってしまっているため、フシ町の警備は少し手薄になっていたの。
そしてあのブレス以降、驚いた魔物が森から飛び出してくる事が増えていた。
ただ不幸中の幸いなのは森からは出ようとせず、平野部に出るとすぐに引き返している事だろう。
ただしいつ魔物が襲ってくるかはわからない。
だからこそ、私は遠くまで正確に見渡せるこの目で·····
「·····へっ?なに、あれ?」
『どうした!!』
「分隊長!警備隊が大慌てで帰って来ています!街道を通ってこちらに····· えっ、·····えっ?おかしい、最近働きすぎて目が疲れたのかな····· モフウサを見て癒さなきゃいけないかも·····」
『おい!ユーラ!どうした!!』
私は自慢の我が目を疑った。
フシ町のあるあたりは、山が狭まりまるで門のようになっていて区切られているのだが、その山の影から····· 西側の山の影から見覚えのある警備隊が乗っている馬が沢山大慌てで逃げてきて、それに続いて武器を構えて何かを叫びながら後ろ向きで逃げるように歩く徒歩の警備隊員が見えた。
そして、最もわが目を疑うモノが現れた。
それは、竜だった。
巨大な体、人間なんて一口で食べてしまいそうな大顎、蹴られればひとたまりもないであろう屈強な後ろ脚、まるで丸太のような太く長い尻尾。
近くに居る人と比べたから正確な大きさはわからないけど、優に10mはありそうだ。
私は見たことが無いが、たぶんアレはアースドラゴンの一種だろう。
いや、アースドラゴンじゃないな、うん、きっと私の見間違え·····
『ギャォォォオォオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!』
『なんだ!?』
「ひゃっ!」
思わず可愛い声が出てしまったが、巨大な竜が私の悲鳴をかき消すほどの咆哮を放ち、それはフシ町まで届いてきた。
間違いない、強大な魔物だ。
「アースドラゴンです!警備隊····· えっ!?あれはコパル!?という事は、第三警備隊が応戦中!」
『なんだと!?ちょっと待ってろ!本部に連絡をしてくる!!』
「私がやります!意思を伝える光よ赤く灯れ『カラーライト』!」
どうやらあのドラゴンと応戦しているのは、私の親友のコパルが所属する外回りの警備隊の第三警備隊だったようで、
私はフシ町に脅威を及ぼすであろう強大な魔物が出現した事を知らせるため、警備隊本部の監視塔めがけて非常事態を示す赤色の光魔法を放った。
そしてその光を観測した監視員が警備隊本部に連絡を送ったのか、警備隊本部から人がゾロゾロと出て来た。
『どうする!町長の娘さんは今外に行ってるぞ!俺たちでも倒せるような相手か!?』
「絶対無理です!お願い、コパル、無事に逃げて·····」
私は親友のコパルが無事に逃げられるように祈った。
Sランク冒険者のソフィさんが居なくても、この町にはソフィさんが率いる冒険者パーティーのなかよし組の人が居ると聞いている。
その誰かが、助けてくれると私は信じていた。
だが、それは裏切られた。
「あれ、誰か背中に····· えっ??」
『どうした!』
「·····アースドラゴンの背中に、ソフィさんが居ます」
『·····はぁ?見間違い·····なわけないよな、ユーラに限って』
「間違いないです、足元にソフィさんの魔動車があるので間違いないですね、ただ魔動車に乗っている人は誰かわかりませんが·····」
『またソフィ嬢か····· 今月でやらかした回数は何回目なんだ·····』
「知りませんよそんな事」
アースドラゴンの背中にソフィさんが乗り、何やらはしゃいでいた。
それは、アースドラゴンをソフィさんが手懐けた事を物語っていたのだから。
◇
その後しばらくして、巨大なドラゴンはフシ町のすぐ近くまでやって来た。
しかも来るまでの間に人を襲うようなことは無くて、のんびりと歩いてここまで来たのだ。
本当に手懐けているのだろう。
「コパル!大丈夫だったかしら!?」
「あっユーラ!私は大丈夫だよ!あのドラゴンね!ソフィさんが説得してペットにしちゃったんだって!さっきの凄いブレスもこのドラゴンが撃ったものらしいよ!凄いよね!」
「·····無事なら良かったわ、ただ、あのドラゴンははた迷惑ね、それとソフィさんも」
『えっ私も!?いいいいや、わっ、私はこのゴジラサウルスさんと共闘して厄介な危険な魔物倒したから悪くないよ·····?』
そしてドラゴンと戦っているように見えたコパルは無傷で生還できて、それどころか死者も怪我人も居なくて済んだようで、とりあえず一安心した。
ただ、頭を抱えている人は居るみたいだけど。
「·····ソフィ、降りてきなさい」
「あっ、お、お父さん·····?えっと、そうだ!街道は異常なかったよ!それと何ヶ所か破損してる場所はあったけど、あっ、いやえーっと····· さっきの戦闘で街道がドロドロに溶けちゃったけど····· えっと、一応全部魔法で·····」
「降りてきなさい」
「ハイ·····」
この中で一番頭を抱えていたのは、ソフィさんの父親でこの町の町長のフェルゼンさんだった。
そして彼の頭を悩ませる原因となったソフィさんは地面に降ろされ、ドラゴン諸共説教を喰らっていた。
·····アースドラゴンがわけも分からずとりあえずソフィさんを真似して地面に座ってる姿はちょっと可愛かった。
「·····公開説教されたら私だったら自害してるわね、それか説教してきた相手を怨み続けるわ」
「んもー、その冗談怖いってー」
『グルルルルルル·····』
「もうやだぁ·····」
こうしてフシ町を騒がせた怪獣騒動は、元凶の説教によって被害が一切出る事なく幕を閉じた。
むしろ、あのドラゴンにビックリしたモフウサたちが初めて私の足元に近寄ってくれて、初めて触れ合えて私は大満足だった。
エサを全部食べたら一気に逃げられたのは少し悲しかったけど、1匹だけ懐いてくれて家で飼う事にしたから、この恩は絶対に忘れない。
·····と、私は膝の上にモフウサを載せ、今日の活動報告日誌を書き終えたのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「うっうっ····· 私主人公なのに初登場の人に主人公の座を奪われたし説教された····· 反省書10枚なんてもう書くことないのに·····」
名前:ユーラ
ひと言コメント
「モフウサ、なかなかいいわね····· 凄く触り心地がいいわ」
名前:コパル
ひと言コメント
「いーなー、モフウサ可愛いよねー、私にも触らせてよ!」




