盾を作りし魔物
無事に要救護者の救出と治療、そして帰還を終えた私たちは、引き続き坑道に残って例の洞窟の調査を開始していた。
「しかし、不思議な洞窟じゃのぅ····· むっ?お主は行かぬのか?ならばワシが先に」
「·····やっぱり、おかしい、これって」
「むぅ、どうしたのじゃ?」
だが、私は入り口で既に何か違和感を感じていて、違和感の原因にも気が付いていた。
「エビちゃん、ここ見て」
「なんじゃなんじゃ、何か····· むっ?色が違うのじゃ」
「そう、色が違うんだよ」
穴の入口は、何故か縁がうっすらと白い5cmくらいの層になっていたのだ。
いや、入口の縁だけじゃない。
この洞窟全体が、白い凹凸のない石で完璧に覆われているのだ。
「·····で、成分分析してみたんだけどね」
「なんだったのじゃ?」
「炭酸カルシウムだったのよ」
「むっ?炭酸カルシウム····· 確か石灰岩じゃったか?またここのも石灰岩か·····」
「違う、石灰岩じゃない、これは·····」
私は、壁面をコーティングして補強するトンネル工事の方法に心当たりがあった。
それは現在のトンネル工事で良く用いられる、平地・河川でのトンネルに多い掘削の方法である『シールド工法』だ。
シールド工法とは何かをざっくり説明すると、専用の円形のカッターヘッドという機材を用いて地盤を掘削し、掘削しながら機械を前進させると同時にエレクターと呼ばれる装置でセグメントと呼ばれるパネルを壁に敷き詰めてトンネルにするトンネル工法だ。
有名なところでは東京湾にある川崎と木更津を繋ぐ東京湾アクアラインの2/3を占める全長約9.5kmの超巨大トンネル『東京湾アクアトンネル』や、本州の山口と九州の福岡を繋ぐ海底鉄道トンネル『関門トンネル』、首都高速中央環状線の大井JCTから大井北立坑を結ぶ日本最長の18.2kmにも及ぶ道路トンネル『山手トンネル』などが挙げられる。
そしてこのシールド工法は物凄く面白い方法で発見されたモノで、なんと発見者は人類ではなく、人類よりも先に開発していたとある生物がいたのだ。
それが閲覧注意な海の生き物で、船や流木を食べて巣を作って生きる二枚貝の仲間である『フナクイムシ』と呼ばれる生き物だ。
この生き物はなんと二枚貝のくせに身を守るための殻を掘削に特化した形状に進化させた貝で、木をゴリゴリ削って食べながら進み、巣穴が潰れないよう貝殻の成分を分泌して穴を石灰質でコーティングしてしまうのだ。
それを見た昔のイギリスのエンジニア、マーク・ブルネル氏がこれをトンネル工事に用いる事ができると思いつき、完成したのが『シールド工法』という訳だ。
ちなみにフナクイムシは流木とかに穴を開ける貝だから石には穴を開けられなくて、石に孔を開けるのは『イシマテガイ』っていう別の貝なんだけどね。
ただどちらも掘った巣穴を石灰でコーティングする生態をしてるから、この穴はどっちかがバケモノ化した魔物が開けた穴だろう。
「·····遠回りしちゃったけど、つまりこれ、バカでかい貝が掘った可能性があるのよ、ちなみにたぶんフナクイムシ」
「まて、フナクイムシってどんな生き物じゃ!?デカすぎんか!?」
「あっちに居るのだと直径1cmくらいで長さは超絶最大でも1mらしいよ?」
あっ注意ね、うん、さっき調べたけど、クッソキモイから。
言ったら悪いけどキモすぎるから調べるのは自己責任で死ぬほど閲覧注意ね、イモムシとかヴヂィヌブル゜ゥィ·····ってしてる感じの長い生き物が大丈夫なら見てもいいけど·····
ちなみに私は無理、キモい、見たら3回見なくも死ぬ。
「って訳でエビちゃん見てきて」
「ワシも嫌じゃ!キモいのは嫌いなのじゃ!」
「あぁん!?私、この小説の主人公だよ!?汚れ仕事はエビちゃんがやれ!!」
「主人公じゃからこそ行け!読者はお主の珍妙奇天烈奇怪な悲鳴を求めておるのじゃ!」
「いーやーだー!!主人公でも嫌な物はあるんですぅ!!」
「ワシだって嫌じゃ!もう貴様は血みどろじゃろう!汚れ仕事はテメェの方が慣れてるのじゃ!さっさと行ってこい!!このブラッディ・ソフィが!!」
「あぁん!?誰が血塗れの賢者姫だごるぁ!!表出ろぶん殴ってやる!!」
そして私たちは、どっちがフナクイムシの魔物?が居るかを見に行くかで大ゲンカになってしまった。
だってキモいの見るの嫌だもん。
◇
その後しばらく取っ組み合いのケンカをした私たちは、フシ鉱山の危機になるかもしれないという事で和解し、妥協案を出し合ってそれで納得した。
「·····ちょっとまって、僕そんな理由で呼ばれたの?」
「妻に危険な仕事を任せるのは変だし、本当ならボクが行くべきなんだろうけどさ·····」
「いいじゃんいいじゃん、ほら、たぶんこっちだから·····」
「ちゃんと道先案内頼むのじゃ·····」
妥協案は、お互いの夫を盾に進むことだった。
私はフィーロくんとお兄ちゃんと地底にご案内して、酸素濃度が低かったので風魔法の応用で酸素濃度を増やした空間を顔に展開して進んでもらっていたのだ。
そんで私たちは夫の背中の影に隠れて、目を瞑ってブツを見ないように進んでいた。
「·····というか、これどこまで続いてるの?僕の目でも全く先が見えないし、本当にこっちで合ってる?」
「合ってる合ってる、僅かに傾斜して下に向かってるから多分こっちが進行方向で合ってる、だからほら進んで」
「よく見えますね····· ボクには光魔法の範囲外はもう見えませんよ·····」
「そうなんですか?」
ちなみにフィーロ君はドワーフの末裔で、他の人より若干先祖返りを起こしてドワーフに近付いてるみたいで、肌の色は普通だけど目が赤外線や紫外線が見えたり、筋肉密度が非常に高かったり、見た目が青年くらいまでしか成長しなかったりと結構色々な特徴が出ているのだ。
その中でも紫外線や赤外線を見れる色覚はかなり便利で、暗闇でもかなり良く見えるらしい。
だからこういう洞窟の探検には彼はもってこいなのだ。
特にここは地下3000m付近で地熱によってかなり熱く、岩石から放出される赤外線も多いから相当見やすいだろう。
「·····で、例のアレは?」
「見える訳ないじゃん·····」
その後私たちは10分くらい歩いて、徒歩じゃ無理だと判断した。
そして2人とも夫からバチクソに怒られた。
◇
ブロロロロロロロロロロロロロロロッ·····
「·····どこまで続いてるんだこれ」
「長いのぅ····· くたびれたのじゃ·····」
結局徒歩では無理だったので、魔動キャンピングトラックの魔動車を召喚した私は、それにのって約1時間ほど進んでいた。
ちなみに少し進んだら酸素濃度が1桁台になったからトラック内を水中・宇宙空間用に切り替えて完全に密閉して進んでる。
それと流石に狭くて暗い洞窟内では速度を出すことができず、時速10kmほどで移動していたがそれでも終着点に到着していないから驚きだ。
深さは現在3500mを優に突破し、洞窟の全長は10kmなんてもんじゃないとんでもない長さがあると推測で来た。
そして、どんなに長い洞窟でも、必ず終着点はある。
\ピピッ!!モウスグシュウテンデス!!/
「ひゃんっ!?あっ!やば、フィーロ君あとはお願いっ!」
「僕、運転ほとんどできないんだけど·····」
「アシストもあるから!それとゆっくり前進するだけでいいから!」
「もしや、終着点か!」
「大体3km先で洞窟が止まってるって出て来たから、たぶん間違いない」
ついに魔動車の感知機能の範囲内に終着点が入ったようで、その連絡が鳴った途端私は運転をフィーロ君に変わった。
だってキモいの見たくないし。
「·····キモいの見させられる僕の気持にもなってよね?」
「ボクも見させられるのかぁ·····」
「おねが~い♡」
「ワシも~♡」
「ソフィちゃん、今日の夜覚悟しといてね?寝かせないから」
「同じく」
「「ひっ!?」」
だがその代償は大きかった。
最悪の場合、家族が1人か2人増えることになるかもしれない。
私たちは不安と期待でドキドキしながら、その時を待ったのだった。
あっ、夜伽の方じゃなくてフナクイムシの方ね、マジで居たらどうしよ·····
だが、私の不安は珍しく的中しなかった。
◇
十数分後·····
「·····ソフィちゃん、端に到着したよ」
「マジ!?居た?キモいの居た?」
「ボクが見る限り何もないけど·····」
「でも洞窟の形が変?」
「ほぅ?なんか、ナメクジみたいなのはおらぬのか?」
「少なくとも居ないと思うよ」
「うん、だから見ても大丈夫だよ」
私たちは洞窟の端に到着したが、どうやらフナクイムシのバケモノは居ないらしい。
でも罠かもしれない·····
「·····エビちゃん」
「嫌じゃ!!」
「ほーら新鮮なエビだよー」
「エビじゃー!!」
\すっく!/
って事でエビちゃんをエビで釣って立たせ、運転席から外を見させた。
すると·····
「むっ?むぎゃああああああああああっ!!!!????」
「やっぱり!フィーロ君だましたね!?」
「·····って、何もないのじゃ」
「ソフィちゃん?なんで僕の事疑ったの?」
「だって、そりゃ疑うでしょ·····」
とりあえず何もないみたいなので後ですんごい事になりそうだけど受け入れて窓の外を見てみると、確かに何もなかった。
だが、何かがあった。
「·····なんだアレ」
「わからないけど見てきてみたら?」
それは半球状っぽい巨大な2つの何かで、岩石とも貝殻とも金属ともとれる不気味な光を反射してはなっていた。
·····もしかして、そういう事?
「わかった、ちょっと行ってくる」
私はそれを確かめるため、酸素がもうすでにほぼ無い洞窟内に飛び出すと洞窟の終着点にやってきた。
終着点は半球状に削れており、明らかに削ったような螺旋状の痕跡とコーティングが済んでいないのかコーティングが徐々に薄くなり、岩盤が露出している場所があった。
そして地面に落ちていた2つの巨大な物体を見て、そしてその間に落ちていたものを見て、私は確証した。
「·····フナクイムシの魔物だったんだ、でも多分何らかの理由で死んでここで途切れたんだ」
巨大な2つの物は掘削用の刃となる殻で、そして食べていたと思われる大量の岩石の中に、ひときわ強く輝く宝石のような巨大な岩があった。
その生物が魔物であると示す魔力器官、魔石だ。
ここは私の予想通りフナクイムシの魔物が作った途轍もなく巨大な巣穴で、状況を見るに相当昔にその魔物は死に、穴だけが残っていたのだろう。
そんな魔物は見たことも聞いた事もない。
多分、未発見で地中にしか生息しない正体不明の魔物だろう。
貴重なサンプルだから、この遺品は私が回収し·····
「·····まって、これ、えっ?」
『どうしたの?』
「·····引き返すよみんな!!!!これ!!とんっっでもない宝石がめっちゃ入ってる!!多分どっかでクソデカい晶洞にブチ当たってトパーズとかアクアマリンを飲み込んでる!消化できなかったのかゴロゴロ残ってるんだけど!?」
遺品であったと思われる胃の中身の岩石の中に、魔石以外に輝くモノがあった。
よく見れば、他の岩石もそうだ。
抱える程の大きさがあるトパーズ、まるで大黒柱かと見間違う太さのアクアマリン、黒っぽい綺麗な巨大な水晶····· それは、すべて花崗岩にできる巨晶花崗岩-ペグマタイトの産物である美しい宝石たちだった。
それだけじゃない、よく見たら落ちている岩石の中に大量にキラキラ輝く宝石が残っていたりした。
多分だけど、どこかで晶洞にブチ当たったんだけど硬すぎて削り切れずに外れた宝石が呑み込まれて、消化できずにそのままになっていたのだろう。
いやまてよ?
まさか、このフナクイムシ!主食の岩石じゃなくて鉱物を飲み込んじゃったことによる消化管内異物による腸閉塞かなんかで死んだのか!?
ってことはっ!?
「近くにとんでもない晶洞があるよ!!探すぞーっ!!!お宝じゃーーーーーーっ!!!!」
大フィーバーの、お宝ラッシュの始まりだっ!!!
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「んへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ····· これ、ヤバい、めっちゃヤバい、語彙力死ぬ、マジ死ぬ、ヤバすぎるって!」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「·····もう帰りたいんじゃが?」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「僕も同じく、さっきまで僕アニメ見てたんだけど·····」
名前:ラクト
ひと言コメント
「ボクは仕事中だったんだけど?まぁ、この件についての仕事だったからいいけどさ·····」




