ようこそフシ町へっ!
フィグちゃんが気絶から醒めて一通りわちゃわちゃした後、私は邪魔にならないよう陰から3人を見守っていた。
·····ゲンコツ食らって気絶したレミアを介抱しながらね。
「では説明は以上です、これから3人にはこれから2年間この教会でシスターとして実際に働いてもらいますのでよろしくお願いしますね」
「「「はいっ!!よろしくお願いいたしますっ!!」」」
今は丁度この教会の神父さんが説明を終えた所だ。
ちなみにフシ町の教会は場所が場所だけに結構な死者が運び込まれる。
ぶっちゃけ言って他の町より倍以上多いし、魔物の被害による死者や鉱山での死者ばかりなので結構悲惨な場合が多い。
·····まぁ、運び込まれた遺体だけでそれだから、実際はもっと死んでるけどね。
だから最初は見るのも憚られて厳しいかもしれないけど我慢するよう伝えられていて、3人ともちょっと震えていた。
ちなみにちなみに、フシ町の鉱山での死者は割と少ない方だ。
それでも前世の世界に比べたらかなり多く、月に1人は鉱山の中で死んでいる。
あっ鉱山が落盤しやすいとか酸素が足りなくて死ぬとか毒ガスとかじゃないよ?
ぶっちゃけウチの鉱山はこの世界でも最高峰に安全面に考慮した設計になってるからね、何せ貴重な魔結晶の鉱山で国が力を入れて作って、しかも私が改造を施した超ハイテクで各国から視察が来てるらしい有名な鉱山だからね!
でも鉱山の中って地中深くまで坑道があるせいで魔力がかなり多くて魔物が発生しやすいのよ、そんで曲がりくねって暗い坑道の中で魔物とばったり遭遇して殺されたり大怪我を負ったりすることが多いのが原因だったり·····
こればっかりは私にもどうしようもないし、前世の世界ではそんなトラブルなんて絶対起きないので対処法が思いつかず、気を付けるようにとしか言えなかった。
一応だけど私が作った爆☆閃光玉を鉱山労働者さん達に3個ずつ支給してて、暗い鉱山の魔物は光に弱いのでそれで目くらましして逃げるようにとは伝えてあるし、明らかに死者数も減ったので効果はあるんだけどねぇ·····
「ではソフィさん、3人に何かお言葉はありませんか?」
「うぇっ?いや私は聖女モドキなので遠慮しておきます、とりあえず3人が立派な聖女に慣れるよう応援しています」
「いえ、町長の娘さんとしての立場や冒険者としての視点で構いませんので」
チッ·····
面倒だから逃げようと思ったんだけどなぁ·····
神父さんに逃げ場を無くされたし、3人もキラキラした目で見てるから逃げられないわぁ·····
「そうですね····· フシ町は魔力量が豊富で魔物が多いフシ盆地にあるが故に非常に過酷な土地です、それも貴女たちが暮らしていた聖地よりずっと危険で過酷です、ですがこの町の人々は逞しく生きています、また、この町には昔から土着の山岳信仰の文化がありますし、·····なんていうか、うん、変な新興宗教とかもあるんで、自分たちが信じる宗教とは違う価値観に触れる事もいい経験になると思います、ですので貴女たちには教会だけでなく、この町全体を見て見聞を広めてもらえたら、フシ町の町長の娘としてとても嬉しいですね、ではこれから2年間よろしくお願いいしますね」
\パチパチパチパチパチパチパチっ/
なんか拍手もらっちゃった·····
おいフィグ、いま思考読んだけど『ソフィさまって本当に凄い人だったんだ』って思ったな?
あとでスパルタ式稽古してやっから覚悟しろよ。
おほん、ちなみにフシ町ではサークレット教以外にも信仰されてる宗教がある。
·····いや、血液と血塗れの賢者姫を崇めるカルト教団じゃないよ?
まずはご存じの通りサークレット王国の国教である光の精霊を信仰する『サークレット教』。
そしてもう一つが古くから、この町がまだフシ村だった頃から存在している土着の山岳信仰の二つだ。
なんでも昔からこの町では鉱石の採取が盛んで川からは小さい魔結晶が採取できることもあって、更に土地の栄養は豊富で魔物や自然動物も多い事で食に困る事はなかったので、自分たちの命を育んでくれている山を敬い、信仰する文化が産まれたそうだ。
祭神の山は『古フシ山』と呼ばれてて、日本で言う奥秩父山脈の中の1つ『金峰山』に該当する山·····のはず、ちょっと地形違うから分かんないけど。
まぁそんなところで、この町には今も根強く山岳信仰が存在していて主に鉱山に関わる人にサークレット教と共に信仰されているのだ。
·····もっとも、今は宗教として信仰されてるって言うより、鉱山労働の安全を祈願したり、より質の良い鉱石が採れるよう祈ったりする対象みたいな扱いをされてるけどね。
ちなみに魔物に襲われないように山に動物の生贄を捧げる文化があったけど、今は動物性の料理をお地蔵さんみたいな感じの祭壇に置く習慣に変化してて、この町に生贄を捧げるような宗教は···············
·····
·····
\スーーー·····(不都合な記憶を消す音)/
うん、無い。
「ソフィ様、質問いいかな」
「はいシトラちゃん何かな?」
「僕の知識に間違いは無いのだが」
「·····何その前置き、あっごめん続けていいよ」
「サークレット教はこの国において他の宗教の信仰を許可していないはずだ、たとえ土着の信仰でもダメだったと思うのだが、なぜこの町には2つの信仰があるのか教えて頂けないだろうか」
「あー、えーっと、·····なんでOKなんでしたっけ?」
「私から説明いたしましょう、この町では昔から山岳信仰も信仰することを特例的に許可しています、正確には山を祀る『フシ分派』という事になっています、鉱山の中は非常に暗く光の大精霊ルミナリア様の御光が届きません、ですので鉱山の中ではルミナリア様の代わりに大地の精霊様に彼らを守っていただき、必ず御光の下に帰ってこれるよう我々は御山様とルミナリア様の両方を信仰致しているのです」
「あーそうだソレだ、確か昔にこの町に教会ができた時、山岳信仰があんまりにも根強すぎてサークレット教に入信したら他の宗教の信仰を許さないと言ったら·····
『こちとら御山様に対して日々生きるか死ぬかのご機嫌を取ってんのに何言ってんだ』
『その光の精霊るみなりあ?とやらは真っ暗な鉱山の中でも俺らの安全を守ってくれんのか、崩落を支えてくれんのか』
·····とか言われちゃって全く信仰されなくて、困った当時の·····あっ今もか、聖女様がサーちゃんに了承を得て、サーちゃんも渋々了承して分派としてなら良いって事で山岳信仰を認めたって本人たちが言ってたわ」
これ私も気になって実際にサーちゃん····· 光の大精霊ルミナリアとあの聖女サマに聞いた話ね。
要するに、フシ町の山岳信仰には明確な神や精霊は居ないらしいんだけど、流石に目先の生死に直結してる事を司ってる信仰に対してはどうしようもなかったみたいで『光が届かないところは専門家に任せるけど、貴方たちが光の下へ帰ってこれるよう我々も導く』っていう落とし所で落ち着いて、ようやくこの町でもサークレット教が信仰されるようになったんだとか。
ちなみに今では『フシ分派』って呼ばれてて、この町で信仰されてるサークレット教という事になっている。
これも信仰対象が実在するからできる荒業だよね☆
·····ちなみに、こういう前例があるから『ナーゼンブルーテン分派』が割とあっさり作られたのよね。
「ふむ、なるほど、それならば納得だ」
「啓蒙な信者さんとかはあんまり別の宗教を信仰することは無いし許可されている所も少ないけど、暗黙の了解で一つの町に複数の宗教の教会があったりはするかな?主に山岳か海洋の自然信仰だけどね?まぁ先入観は捨てて見るのもいいと思うよ?」
「わかった、·····僕ぁ良き知識を授けてくれるものに対して敬うようにしている、これも一種の信仰として考えればこの町の宗教観も理解できる、ゆえにソフィ様にはしっかりめに感謝しておこう、ありがとう」
「はーい、んじゃ他に何か聞きたい人は?」
「はーい!」
「フィグちゃんどうぞ」
「この教会ってキッチンありますか!?」
「ありまs」
「お菓子作りは制限します」
「えええええええええっ!!!???」
「基本的にお菓子作りは許さないからね?」
「·····ぷっ、面白」
「マルスちゃんもだよ?」
「は?」
「この町には賭場があるけど、もう顔写真付きで周知して出禁にしてあるから」
「えっちょっ、何してくれてんの」
「やっぱり行こうとしてたね?」
「げっ!!?」
そう、フシ町ってリリムが勤めてる大人の夜の街に賭博場があるのよね。
ちなみに人気ナンバーワンはモフウサレースだ、私もハマってた時期あるし中毒性が高い危険な賭け事だ。
で、そこにギャンブル好きのマルスちゃんが行ったら大事になる。
·····運が良すぎて大勝ちしまくって多分命狙われる。
いやまぁ、胴元は一応シュテイン侯爵家から許可が降りた団体がやってるからヤの付く自営業の方みたいなヤバい団体じゃないんだけどさ。
でも普通にヤバいから、私がお爺ちゃん経由であの辺りの賭場に通達して出禁にして貰ったのよ。
ちなみにその対価はフシ町の闇賭博場の一斉摘発ね、だからこの町にマルスちゃんが行ける賭博場はもう無いのよ。
「つ、つまんな····· じゃあ私これからどうしたら」
「僕の考えによれば、普通に見習い聖女として働くべきだ」
「いやそうじゃなくて····· 正論だけどさ····· わかったよもう·····」
「マルスちゃん大変だねー」
「·····フィグちゃん?いま『わたしはバレないようにこっそり作れば大丈夫だよね·····』って考えたね?」
「ぎくっ·····」
「ふむ、やはりソフィ様の前では隠し事は難しいか、僕ぁ大人しく教会で本でも読んでるとしよう」
「漫画禁止ね」
「なんだとぉ!?せ、せっかく聖地では禁止されていた漫画が読めるいい機会だったのに····· ティンクル☆キュルピカが面白いという噂を聞いてぜひ読みたかったのに····· むぐぐ·····」
「お菓子·····」
「ギャンブル·····」
「はぁ····· じゃあ3人ともこうするわ、私が見ている場合に限り許可します、ついでにお菓子作りについても私が教えてあげるから、勝手にお菓子を作るのはやめて、ギャンブルは·····モフウサレースだけで同伴してる時限定ね、漫画は週に2冊までで教会内で読むのはダメ、いいね?」
「えっ!ということは、ソフィさまにお菓子作りを教えていただけるのですかっ!!?」
「そうなるね、特別に週に1,2回だけだよ?量も常識的な量で作成はその時のみ許可します、だから研修を頑張ってね?」
「やったぁ!!」
「賭け事、賭ってもいいんスか?」
「賭けてよし!」
「漫画もよんでいいのかぁ!?」
「読んでよし!」
「ただし!その分見習い聖女として真摯に信仰に向き合ってこの2年間を過ごすこと、いいね?」
「「「はーい!!」」」
·····ちなみにコレ、事前に神父さんには報告してあるし、全て私の計画通りなのよね。
ふふふ·····
◇
そんな計画を計画の対象になっているフィグちゃんは知るはずもなく、彼女たちはフシ町教会近くにある教会関係者用の寮に荷物を運び込んで新生活のスタートで浮足立っていた。
「·····あのさフィグちゃん、それ重くなかった?」
「重かったですよ?」
「料理道具を持ってくるのは想定外すぎる·····」
·····が、フィグちゃんの荷物を見た私は若干頭を抱え気味になってしまった。
そこには彼女が愛用しているお菓子作りの道具が物凄い量入っていて、私物より料理道具の方が多いレベルだった。
ポーチから出てきたの、化粧品だと思ったらバニラエッセンスとかお菓子用の刷毛だったし·····
「やっぱり····· フィグだけ重そうにしてたから変だと思った」
「てへ☆」
「てへって····· ちゃんと先生に言われた通りに服は持ってきた?」
「え、エプロンなら·····」
「·····ソフィ様、この町にお洋服の店ってある?なるべく安いトコ」
どうやらフィグちゃんは着替えの服とかもほとんど持って来てなかったようで、色々足りなかったらしくほとんど相部屋な隣の部屋に住んでいる同級生二人に突っ込まれていた。
ちなみに構造としてはリビングが共有で寝室だけ個室になっているような感じだけど、寝室は安いホテルくらいにはスペースはあって私が学生だった頃に入っていたB寮を彷彿とさせるような感じだった。
「もちろんあるよ、まぁちょっと若者向けじゃない感じになっちゃうかもだけど」
「じゃあこのおバカに服を買わなくちゃいけないので案内してくれると嬉しいんだけど、場所わかんないから案内してくれる?」
「えー!?どうせなら可愛い服買おうよ~!」
「来るときに支給されたお金、どうなった?」
「え?料理道具になったよ?今残ってるのは3000円くらい!」
「「やっぱり·····」」
·····この子の金銭感覚もなんとかしなきゃなぁ。
「まぁこの町はそんなに物価も高くないし古着屋とかもあるから案内するよ、早速行ってみる?」
「「「行ってみますっ!!」」」
そう言った直後にはもう財布やカバンを持って外に向かって走って行ってしまった3人を見て、私はなんだか微笑ましい気持ちになったのだった。
·····って、やべ追いかけないと勝手に行かれたら困るわ。
だが私の焦りは杞憂に終わり、外出許可も得ずに出ようとしていた3人は入り口で取っ捕まって怒られていて無事に合流出来て、ついでに許可も得て一緒に町に向かったのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「3人とも元気あるなぁ····· まぁ元気すぎる方がいいけどね、さてと案内しよっと」
名前:聖女ーズ
フィグ
「知らない町!初めてこういうのするからすごく楽しみ!」
マルス
「ギャンブル以外になんか趣味見つけないとな····· なんか良いの無いかな、運気で何とかなるやつ」
シトラ
「むっ、なんだこの総称は、僕らには『シトラちゃんズ』という正式な名前が」
\シトラ、それ却下って何度も言ってるんだけど!/
\うんうん!流石に無いよそれは!!/




