白い聖女と赤い賢者
ガタゴト·····
ガタゴト·····
ガタゴトと音を立てながら、フシ山の北部に位置するフシ盆地を数台の馬車が東へ向けて進んでいた。
その馬車の中では、3人の少女がワイワイキャッキャとお喋りをして盛り上がっていた。
「ねぇフィグ、フシ盆地にこんなウワサあるの知ってる?」
「なに?」
「これから私たちが行くフシ町って····· 出るんだってさ、『ブラッディ・ソフィ』って言うヤバいのが·····」
「ひぅっ」
「ソレは時々何処からか現れる血塗れの女性で、現れると魔物をあっという間に血の海に沈めるんだってさ····· そして血塗れになったソレをバカにすると·····」
「ひっ、ひぃっ!?ど、どうなっちゃうの·····!?」
「·····ぷっ、『ブラッディ・ソフィ』と同じ、血塗れにされるんだってさ」
「やややややややめて、こわ、こわいから····· うぅぅぅううう····· マルスちゃんひどい!わたしが怖い話が苦手だって知ってて言ったでしょー!!」
「あははっ!やっぱりフィグはからかい甲斐があって面白いなぁ」
「こらマルス、フィグを怖がらせちゃダメって聖女様に言われてただろう、根も葉もないウワサを怪談風に語るんじゃあない」
「いいじゃん、暇なんだしさ」
「わ、わたしを暇つぶしにしないでよーっ!!」
話の内容は、彼女たちがこれから2年間過ごす町の怪しい噂話だった。
·····長い旅路で会話のネタが尽きてしまい、フィグが苦手で避けていた怖い話や怪しい噂話をせざるを得ない状況になるくらいまで、馬車の旅路は暇だったのだ。
だがここはサークレット王国で人が住んでいる土地の中でもトップクラスの危険地帯であるフシ盆地だ。
『大変だ!魔物が出たぞ!!群れだ!』
「えっ!?魔物!?」
「ちっ面倒くさ·····」
「まずは敵を観察しなければ、ゴブリン程度ならば僕たちなら倒せるはず」
「くっ、多い!逃げながら戦うしかない!行くぞ!」
『『応ッ!!』』
\ドドドドドドドドドドド·····!!!/
「·····なんかヤバそう?」
「だね、焦ってるみたいだけど」
「待ちたまえ、何やら物凄い音がしているぞ」
サークレット教会付属サークレット王国立聖女学園聖地本校からやってきた3人組は、幌馬車の外を見た·····いや、見てしまった。
\バヒィィィイイイッ!!/ \ㇺモォォオオ!/
\ウォォォオオンッ!!/
\ゴブブゴブー!!/ \ギャギャギャ!!/
\ガルルルルル!!/ \ジュラララララァッ!!/
\ゲキョーッ!!/
「な、なに、あれ」
「ちょ、あんな量見たことないんだけど!?本当にヤバそうじゃない!?」
「あっ、僕たち、死んだかも·····」
彼女たちが目撃したのは、大量の魔物の群れだった。
それも彼女たちが見たことも戦った事もないような強力な魔物が多数含まれる、フシ盆地では小規模に該当する魔物の群れだ。
·····そしてフシ町の小規模は、他の場所では中~大規模とされるほど強力だ。
魔物の群れにはさまざまな種類の魔物が混ざり、ゴブリンは当然の事ながら、他にもオオカミ系の魔物やミニタウロス、スライム、スケルトンなど多種多様な魔物の集団になっていた。
だがそれだけではない、この魔物の群れにはボスが居た。
『Bgyiiiiiiii!!!!』
「くっ!ウェルダンボアが居るなんて聞いてないぞ!」
「ま、まっかだ·····」
「熱そう·····」
「もうだめだ、あぁルミナリア様、どうか魂だけは安らかにあの世へ行けますように·····」
/·····ィィィイイイン\
ウェルダンボア
冒険者協会によってBランクの魔物に指定された、業火を身に纏う巨大なイノシシだ。
その大きさは馬よりも大きく、尚且つ猛烈な炎を身に纏い接近を許さないにも関わらず烈火の如き突進を繰り出す凶悪な、出会ったら死を覚悟するほどの魔物だ。
その存在は、弱冠12歳の戦闘をほとんど行ったことが無い少女たちが死を覚悟するには、十分すぎた。
「諦めるな!いざとなったら3人は馬に乗って先にフシ町に逃げろ!それまでは回復と援護を頼む!」
「頑張れよ新米聖女ちゃんたち!」
「「「は、はいっ!!」」」
/キィィィイイイイイイイインッ!!!!\
「や、やるしかない·····」
「ちっ、私の魔法通じんのかなアレ····· まぁやってみるしかないか、魔法陣召喚っ!」
「魔導書開け、治癒魔法構築開始、光の大精霊ルミナリア様よ、僕に力をっ!!·····ってこの音何?」
→ ⤵︎ ︎
\ゴォォォオオオォォオオオオオ↓
オ
オ
オ
オ
オ
!
\
3人が戦う覚悟をした瞬間、ソレは降ってきた。
『ふんっ!!』
ドグッシャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
『Bgyrlaaaaaa!!!??』
「終わり、次」
ザシュッ
ゴヂュッ
メギャッ!
『ごぶぅ!?がっ!!?』
『がヴぉ!!?』
『ごぶぎゃぁぁあああッ!!』
『グルァァァアアッ!!』
「死ね」
ドゴォンッ!!!
『ギャイッ』
ドッッパァァアアアアンッ!!
『ガオアァァァアアアアッ!!!』
「レミア!」
『えへへぇっ!了解ですぅ!!』
どろぉっ·····
空から落ちてきた戦闘聖女服を身にまとった、今は一撃で倒したウェルダンボアの血肉で真っ赤に染まった銀髪の女から、同じような服を身にまとった真っ赤な少女が分裂するように現れた。
「ふぅ、じゃあ行きますよぉ!『Tropf Spritzennadel』!」
ピスッ
『ガッ!!?』
『ギャオンッ!?』
『·····?ッッ!?』
『カロロ·····』
『がぁ·····』
「トドメですぅ『Blutübertragung』!!」
ドッパァァァアアアアアンッ!!!
「サンキューレミア!後は·····須臾っ!!」
ッ
斬ッ!!!
ブッシャァァァァアアアアアアッ!!!
「討伐完了、ふぅ·····」
「お疲れ様です、ソフィさまぁ」
本来なら命を捨てる覚悟を決めるような強力な魔物の群れが、たった1分で、噴き出す魔物の血液が止まるより早く、全滅した。
そして、降り注ぐ血と肉片の雨の中で、血液に汚れた真っ赤な少女2人が佇んでいた。
その姿はフシ町で噂される、あの存在にしか見えなかった。
「な、なに、あれ·····」
「ま、まさかあの噂は本当だったとは·····」
「ち、ちまみれの、じょせい、も、もしかして····· 『血塗れの賢者姫』?」
「きゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!怖いいいいいいいいいっ!!!!」
\バッターンッ!!/
「あっ、フィグが倒れた·····」
「こ、こわすぎる·····」
血塗れの賢者姫
その正体は自身の血液と獲物の返り血で真っ赤に染まる世界最強のフシ町の町長の娘である一人の少女と、その狂信者だ。
◇
「はんぎゃぁあぁぁぁぁああっぁぁあああああぁぁっぁっぁあああああっ!!!???」
ガバッ!!
「あ、あれ、ここは·····」
「あっ起きた!よかったぁ·····」
「気絶していただけだから大丈夫だと思ってたけど、よかった·····」
「やっと起きましたね、ここはフシ町の教会です、ご安心ください」
「·····えっ、あっ!ブラッディ・ソフィは!?というか何があったんですか!?」
「落ち着いてください、説明いたしますので」
血塗れの賢者姫にビビって気絶していたフィグは、いつの間にか研修先のフシ町の教会にやって来ていて、休憩室の簡易ベッドに寝かされていた。
そして気絶している彼女を見守っていてくれたフシ町の教会の代表である神父さんから、何が起きたのか軽く説明されたのだった。
「·····えっと、助かったって事でいいです?」
「ええ、運が良かったですね」
「で、でも、ブラッディ・ソフィは·····」
「あぁ彼女でしたら·····」
ガチャッ
「ふぅ、流石にあれだけ派手にやると服以外は汚れちゃうかぁ····· それに返り血が付かないんじゃなくて徐々に綺麗になるなんてなぁ、戦ってる途中は赤いままかぁ····· ん?およ、起きたんだ」
「·····ソフィさま?なんでここにソフィさまが居るんですか?」
「だって私、ここで聖女やらされてるし····· ほれ聖女の指輪、本物の戦闘聖女服が制服になっちゃってるけど一応聖女だよ」
そういうと私は右手の薬指に嵌めている聖女の指輪を3人に見せつけた。
「ほ、ほんとだ·····」
「ブラッディ・ソフィってアンタの事だったの·····?」
「僕ぁ知ってたぞ、何せ博識な天才だからな」
「そこは血塗れ抜きで賢者姫って呼んでほしいなぁ·····」
「ええええええええっ!!?ってとこはソフィさまも聖女さまだったんですか!?」
「一応全ての魔法が使えるから治癒とか祓いも出来るし、ちょっと訳アリでこの前聖女にされたのよ、だから3人より経歴は浅いよ」
「凄いです!わたしたちは学校で頑張って目指してるのに、ソフィさまは一瞬で聖女さまになれちゃうなんて!」
「すっご····· あれ?シトラちょっといい?\なにかな?/ブラッディ・ソフィって2人居たっけ?さっきのもう1人って誰?」
「僕がなんでも知ってると思ったら大間違いだ、天才とは自分が知らない事もあると認知してるのだよ」
\あ?·····なんか腹立つんだけど/
「まぁまぁ落ち着いて、紹介するからさ?ほらレミアおいで〜」
『は、はいぃ·····』
···············ひょこ
「·····出ておいで?」
「えっと、その·····」
レミアは控え室からちらっとかなり遠慮気味に顔を覗かせて、それ以上出てこなかった。
「ふむ、アレがもう1人の血塗れの賢者姫か」
「何してんだろ」
「あー····· この前ちょっと聖職者とトラブっちゃってね、トラウマになってんのよ」
「はいぃ····· それと、憧れてた本物の聖女に会うのは、えっと、なんといいますかぁ····· 私、お子さんの教育にあまり良くないタイプの人間なのでぇ····· 会うのは遠慮しておきますぅ·····」
·····レミアはこの前聖女様にぶち殺されかけてたせいで、聖職者に会うのがトラウマになってんのよね。
しかも元々サークレット教の啓蒙な信者で聖女を目指してたみたいだし、それに背信して自分の教団を立ち上げた事に負い目を感じてるらしくてねぇ·····
変な所で真面目なのよねこの子。
\ガチャッ!!/
「あの、なんで出てこないんですか?せっかくならお菓子食べながらお話しましょうよ!」
「っっっぇへぇぇぁぁああっ!!?!?すみませんすみままみっまみっみみっ!!?!?」
「レミア落ち着いて、大丈夫だから」
「はぅふぅ····· す、すまみせん·····」
レミアは隠れてたのに、コミュ強のフィグちゃんに扉を開けられて焦っておかしくなってしまった。
とりあえず深呼吸して落ち着いたようだけれど、まだ不安なのかレミアは私の後ろにサッと隠れてしまった。
「·····こんな状態だから私が代わりに説明するね、この子はレミア、サークレット教の聖女である私を崇める『サークレット教ナーゼンブルーテン分派』の教主で司祭だよ、ちなみに冒険者ランクはA·····正確には準Sランクとして認められてる『狂血姫 レミア』ね」
「よ、、、その、、よろしくお願いしますぅ·····」
「えっそうなの!?すごい!·····んだよね?」
「·····知らない」
「ふむ、冒険者としてもかなり高位のようだ、それに2人とも立場的にもかなりやんごとなきお方で間違いない、2人とも、対応を間違えたら拳骨を食らわされるぞ、気をつけよう」
「はーい」
「うぃっす」
なんか、この3人見てると昔の私とアルムちゃんとフィーロ君を思い出すなぁ·····
私はこれから2年間ちょいちょい関わるであろう3人組を眺めながら、その様子で昔の私たちを思い出してなんだか懐かしい気持ちになったのだった。
名前:フィグ
ひと言コメント
「こ、こわかった····· でもソフィさまだったんだ····· なんだか安心したぁ」
名前:マルス
ひと言コメント
「·····てか私、もしかして公爵級の権限持ってるSランク冒険者にイカサマ働いてた?·····え、これヤバいやつ?私死ぬ?』
名前:シトラ
ひと言コメント
「やれやれ、それに気が付かずにイカサマするなんてなんて愚かなんだ、·····なんだその目はぁ?やんのかおらー!ぐぁいででで!!ぼぼっぼくっ!僕の体は硬いんだ!!ゆえにそこまで曲がらないんだ!!うぎゃぁぁあああっ!!!」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「·····先行きが不安すぎる、ホントに大丈夫か心配になってきたんだけど」
名前:レミア
ひと言コメント
「·····ソフィさまのお手を煩わせるおつもりですかぁ?えへ?ソフィさまなんでそんな怖い顔\ゲンコツ!!!/えぼべばっ!!?!?」




