辺から角度を求めよっ!
「ねぇミナタ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だっけ、なんとか持ち直したっば·····」
私がバージョンアップしてから1週間ちょっと後、悲劇の10巻を読んでここ最近ずっと寝込んでいたミナタがだいぶテンションを取り戻して、鈍った体を動かすため近所で完了できる依頼を受け、それをやりに町の外に出てきていた。
ちなみに生き返るキッカケになったのは私が書いたifストーリーだ。
主人公が助けにきて心神喪失状態にならなくて済んで、でも力不足を感じで引退したっていう設定のストーリーを見せたら一気に元気になってた。
·····まぁ、最終巻でどのみち戻ってきて死ぬんだけどね、でもその時には鍛えられてるから大丈夫でしょ。
そんで話を戻して、ミナタは戦いやすい格好をしたいと言って、季節も真夏だったので出会った時に着てた露出度の高い民族衣装へと着替えていた。
ちなみに私以外のなかよし組は付いてきてない、暑くて外に行くのが嫌って言われた。
「んじゃ依頼の場所に向かうけど、そこそこ近いから歩いて行く?それとも魔動車で行く?」
「魔動車ってなんっけ?」
「えっ前にも説明しなかったっけ····· 人より早く移動できる乗り物って感じのモノだよ」
「んー、走りたいけ、いらないった」
「あー走る?んじゃ私の後を付いてきて」
そんで移動に関してはミナタの意向で走っていくことになった。
まぁ距離としては8kmくらい先で、日本地図でいう塩ノ山の東側辺りで見つかった『マーブレット・ミノタウロス』という斑模様のミノタウロスを倒しに行こうとしている。
ちなみにマーブレット・ミノタウロスは割と凄い高級食材だがクソ強いBランクの魔物で、見た目は太り気味で明らかにパワー型な感じで、そして何よりの特徴で肉が霜降り肉なのだ。
ただ強いからそうそう倒せる人も居なくて、誰も受ける気配が無かったから私たちが受けたのだ。
「そんじゃ行くよ?」
「へなっ、·····へなけど、アチシの方が早いっけ?何せへなっけな!!」
「まぁまぁ、じゃあ行くよー」
「へなー」
ミナタがへなと言ったのを確認し、私は普通のランニングくらいの速度で走り出した。
「言うほどでもねっけな、アチシの方が早いっけ!」
\ズドドドドドドドドド!!!!/
「おー早い早い」
そしてミナタはいきなり短距離の陸上選手がビビるような速度で走り出して私を追い越してしまった。
·····だが、距離は離れなかった。
「·····へな?んなっけったんげ!?ソフィんげとすげっけ!」
そう、私はミナタの後ろにピッタリと付けて、彼女が速度を上げても一定距離で全く同じ速度で走っていたのだ。
「まぁね、ほらほら付いてきて、こっち」
「追い抜かれたっけ!?くそーっ!負けねっけ!」
「いやだからこっちこっち!この速度ならこっちの方が近いんだってば」
「へな?」
「橋は使わないで飛び越えるよ、ミナタなら行けると思うし」
「できっけ!ソフィより飛ぶっけ!」
私はバージョンアップで身体能力がバカみたいに向上したので、とんでもない速度で走るミナタを軽々追い抜いて彼女をショートカットルートである川を飛び越える地点に誘導した。
だがミナタも負けじと私を追い越して、あんまり早すぎるとミナタがバテるので程々な速度で抜きつ抜かれつを繰り返し、そして川へとぶち当たった。
「さて行くよ、頑張ってね」
「へなっ!?結構な段差と幅っけ!?むむぅ、やってやっけぇ!!とうっりゃあっ!!」
そしてミナタはさらに速度を上げ、そこそこ高い河岸段丘の上から一気にジャンプした。
段丘の対岸までの距離は実に75m以上、走り幅跳びの世界記録が約9mということを考えると8倍以上の距離があるが·····
「おー飛び越えた、さっすがミナタ」
「へ、へな、割とへなだったっけ····· ってけんったさぱっ!?」
「ん?どうしたの?」
「おま、けっぱなりったにっちやっさなっけ!?」
「まぁそりゃ神様ですし?」
飛び越えられて歓喜しているミナタが私の方を振り返ると、つい元の言葉が出てしまうほどビビっていた。
まぁそりゃ川の上を普通に走って渡ってきたらビビるよね。
「ど、どうなってっけ?」
「簡単だよ、足の下に魔法で足場を作って踏み台にして歩けば空中でも歩けるってだけの事だよ?」
「あ、ありえないったっさ·····」
私は飛び越えるのが面倒だったので普通に空を走って渡りきってしまったのだった。
「そんじゃ行くよー」
「あっ!しったなむっましねっけてっけなー!!」
そんで私は唖然としていたミナタを追い越して、目的地まで突っ走って行ったのだった。
◇
「へ、へなぁ、アチシもうへなったっけぇ·····」
「しっ!居たよ、アイツがマーブレット・ミノタウロスだよ」
15分後、ミナタが私の匂いを追ったのか無事に私の元へとたどり着いた。
だがずっと突っ走ってたからなのか、もう既にだいぶバテてしまっていた。
そんな私たちの視線の先には、家畜だったであろう羊を引きちぎって食べている体長4m近い巨大なミノタウロスが居た。
·····まぁ、太り気味でしかも木陰でだらしなく座って肉を食べてる様子はただのオッサンにしか見えないけどね。
「んで、どうする?ミナタが1人でやってみる?」
「アチシが!?いやさすがにアチシ1人じゃ無理っけ!へなは村の皆で倒す相手っけ!!」
「えっそうなの?ミナタだいぶ強そうだけど·····」
「·····まぁできねっけたっけ、へなたっけな?」
「頑張れば1人で行けるんじゃん、やってみなよ」
だがミナタの実力ではまだアレに勝つのは厳しいようだ。
でもグラちゃんとかよりは強いし、本気を出してないエビちゃんと戦えるくらいの実力があるなら倒せると思うんだけどなぁ·····
「無理っけ!角度たりねっけ!」
「ん?あぁ····· なるほど」
なんで無理って言っていたか大体わかった。
ミナタは『角度90度以下の角度から異空間に出入りする』という能力と、角度90度以下の角から剣のような『虚無の棘』を生成できる能力があるのだが、ここには角度90度以下の物が少なかったのだ。
彼女の種族は不意打ちや神出鬼没の攻撃が得意なのだが、明確な弱点がある。
平地にクソほど弱いのだ。
今いる場所はフシ盆地の一角で周囲に角度があるものが少ない。
それはつまり逃げ込む場所も出現する場所も少ないということになり、彼女の本来の戦い方がやりにくいのだ。
つまり、彼女は実力的には魔物を倒せるけど場所が悪いせいで倒せなくなるという状態なのだ。
ちなみに彼女の村の人々の戦術としては、魔法で岩を砕いて『角』を作りまくってばら撒き、そこから出入りするという戦術だったらしい。
「·····手伝う?」
「へな、たのむっけ」
「おっけ、任せて」
だがそこは私が居れば何とかなるし·····
んっ?
「·····『泡沫ムゲンの眠り姫』、眷属強化」
「へなっ!?·····へな?なんっけこれ?」
「おおっ!?進化した·····けど、そっちなのかぁ」
私はとりあえず能力を駆使してミノタウロスの周囲に大量の石柱や角度があるものを作り出そうとした所で、とあることに気が付き『泡沫ムゲンの眠り姫』を発動した。
すると似たような存在であるミナタを強化して私の絶淵魔力を付与することで進化させられたのだ。
そんでもしかして角度120度まで行けるかなぁ·····って思ったけど、思いもよらなかった能力が覚醒した。
「角じゃなくて辺にも入れるようになるなんて·····」
「へな·····」
角度に変化は無かったが、なんと辺にも入れるようになったのだ。
元々は90度以下の角というか頂点からしか出入り出来なかったのに、今のミナタは辺からも出入りできるのだからかなりなレベルアップだろう。
鑑定した感じ元々ある程度は辺でも入れたらしいんだけど、90度以下の角から5cm以内の辺のみでしか使えなかったのが、今ではいくらでも使えるようになったらしい。
「·····でも辺もすくねっけ、それにアチシ、入れる場所作れる方法ねっけな」
「·····ま、まぁ、手伝うからさ?頑張ってみてよ」
「へな·····」
ただ、相変わらず平地には弱いままだったので私が手伝う事になったのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「いやーそういやティンダロスの猟犬ってこっち側の存在だし行けるかなって思ったら行けちゃったわ、なんか進化しちゃったし」
名前:ミナタ
ひと言コメント
「·····このチカラ、便利に見えっけな、ホントは意外とへな微妙っけ」




