魔無し
それは初夏のとある日の事だった。
プルルルルッ!!
プルルルルルッ!!
「はいもしもし、ソフィ・シュテインです」
『ソフィちゃんバッドニュースよ、『魔無し』が出現したわ』
フェニカの面倒を見ているとテーブルの上に置いていたスマホに着信が来て、手が離せなかったから魔法で浮遊させて耳元に近付けて応答すると、電話の向こうから校長先生の声が聞こえて来た。
そして、挨拶もなくいきなりバッドニュースが飛び込んできた。
「·····本当ですか?」
『本当よ、ただグッドニュースもあるわ、発見場所は周囲に集落が無い山奥だそうよ』
「それならセーフですね·····」
『今すぐ王都のギルド本部に来なさい、リリアちゃんは役に立たないから呼ばなくてもいいわ』
「了解です、すぐに行きます」
ガチャッ
「フィーロ君、ちょっとマズい事態になったからフェニカの面倒お願い」
「どうしたの?」
「今のってお姉様よね?どうしたのかしら?」
「魔無しって確かなんかの本で読んだことあるような·····」
「ちょっと帰ってから説明するね、どれくらい時間がかかるかわからないから夕飯とかはアキさんにお願い、フィーロ君はフェニカをお願いね」
「わかった、頑張ってねソフィちゃん、魔無しについては僕から説明しておくよ」
「ありがと、じゃあ行ってきます」
私は即座に魔法で神衣に衣替えすると、その場で転移魔法を発動して王都にあるサークレット王国ギルド本部へと転移していった。
◇
「よっと、到着っと」
「なんだ!?·····賢者姫様!?」
「ん?·····あっどうも、賢者姫ですよ〜·····久しぶりに賢者姫って呼ばれたから忘れかけてたわ」
「直接ここへ転移してくるなんて非常識すぎるわよ·····」
転移を発動した瞬間、私の視界は切り替わって王都にあるギルド本部の大会議室へとやってきた。
そこには多数のギルド職員や有名な冒険者、そして校長先生が居た。
「まぁ今は非常事態ですし良いじゃないですか」
「そうね、ソフィちゃんの非常識さに助けられたわ·····」
「んへへ····· で、本題に入りましょう?魔無しの情報はどれくらい集まってますか?」
「グダグダしてる暇は無いわ、これが現在判明している情報よ」
私は校長先生から手渡された報告書を早速読み始めた。
えーっと、出現場所はストレイア渓谷····· どこだここ?あーなるほど、天竜川っぽい渓谷か。
それで魔無しはどんな感じか·····
「うげぇっ!?」
「言うと思ったわ、厄介すぎるわよねソレ·····」
「大地竜型ドラゴンって厄介すぎる·····」
よし、ちょっと打ち合わせに集中したいからここで一旦解説タイムに入ろう。
まずさっきから説明ができてなかった『魔無し』について。
魔無しとは簡単に言うと世界のバグみたいな存在で、魔力が一切存在しない魔物の事を指す名称で特定の種類の魔物の事ではない。
そんで魔無しというとただの牛とかの動物と思われがちだけど実際は違う。
まず前提として、基本的にこの世界にあるものは少なからず絶対に魔力を持っている。
たとえ魔力を持たない普通の動物でも魔法が使えない人間でもそこら辺の草でも絶対に魔力が存在している。
ついでに言うと、私の前世の世界も極端に魔力量が少ないだけで存在しないわけではないのだ。
だが、ごく稀にその魔力を徹底的に拒絶する存在が出現する。
極度のアレルギー反応のように自分以外の魔力を拒絶し、強力な魔力拒絶領域を展開し全てを弾き返す能力を得た魔物·····
それこそが『魔無し』と呼ばれるのだが、Sランク冒険者が招集されている時点でもう察しているとは思うが物凄く厄介な存在なのだ。
なぜSランク冒険者の私たちが出動する必要があるかというと、魔無しには『魔力を含む攻撃を一切無効化する』というとんでもない性質があるからだ。
正確には魔力を持つものを拒絶するという性質があり、魔法はもちろん魔法の剣とか土属性魔法で生み出した岩石なんかも弾き飛ばし、更になんと普通の武器でさえ僅かに存在する魔鋼化した部分を感知して弾き飛ばしてしまうのだ。
更にさらに、魔法の結界なんかは相手に攻撃されると紙きれのように容易く引き裂かれてしまうため防御も不可能だったりする。
つまり、魔無しに攻撃を仕掛けるには一切の魔力を持たない物質で直接攻撃して純粋な防御力が高い装備で身を守るしかないというとんでもなく厄介な存在なのだ。
ちなみに多分だけど私の神槍ガイウスの槍も弾かれるだろうし、ミカちゃんのアイギスも砕けはしないがはじき返されるだろう。
ただ弱点もある。
こいつ、時間経過で死ぬのだ。
というのも、魔物の異常個体として魔無しは産まれるのだが、魔力を受け付けないから魔無しと呼ばれているだけで魔力を持っていない訳ではなくて、魔物の活動に必須な魔力の補給が不可能なため、しばらくすると衰弱死してしまうのだ。
だがそれが厄介極まりないのだ。
魔物が魔力を摂取する方法は何個かあって、自然に存在する魔力を直接受け取る方法が一番よくあるパターンなのだが、魔力の経口摂取もその次に多い。
そう、直接受け取れなくなると食事で魔力を補おうとして物凄く凶暴になってしまうのだ。
更に運の悪い事に、今回出現したのは最悪のパターンに近い竜タイプの魔無しでコイツは最強の拒絶タイプと言っても過言では無い強力な魔力拒絶領域を展開していて、歩くだけで山が弾き飛ばされる程の強さを持っている。
そんな存在が、獲物を食おうと町へ近寄っても町は全て弾き飛ばされ、獲物が逃げて行くストレスと空腹による苛立ちでドラゴンは怒り狂い、暴走モードへと突入する。
過去にはドラゴン系の魔物の魔無しが出現した国が丸ごと滅び、周囲の国もほぼ壊滅状態になり、莫大な数の人々が戦いを挑んで破れ続け、ドラゴンの魔力が尽きて死に至るまでの1ヶ月間で周囲の国や生態系がほぼ消滅したという凄惨な事件も起きている。
そんな激ヤバな魔物がこの国に出現したとなると、そりゃ大騒ぎにもなるよね。
そうそう、あと魔無しの魔物は実は月1くらいで出現してはいるから意外と沢山いるんだけど、大半は数の多いアリとかみたいな雑魚で環境に適応できずにすぐに死んでしまうんだけど、極稀にこうやって適応してかなり長い事生きられて大暴れする個体が出現し、そういう個体に限ってクソ強いという特性があるのだ。
「さてと、どうします?·····っていっても、一つしかないですよね」
「そうだ、確実に討伐してくれ」
「あっ!国王様····· じゃなくてウナちゃんのお爺ちゃんっ!?」
「ビックリしすぎて逆になってるわよ、お久しぶりです、国王陛下」
なんだかんだ話をしていたら、突然聞き覚えのある声が聞こえてきてビックリしてしまった。
なんか真後ろからウナちゃんのお爺ちゃんであるこの国の国王様がやってきて話し掛けてきたのだ。
やっべー····· 処刑ポイント的にこれはデュラハンルートかなぁ·····
「堅くならなくて良い、今は緊急事態だ」
「畏まりました」
「りょーかいです、まぁやるしかないですよね、手段はどうであれ」
「あぁ、いかなる手段でも構わん、確実に倒してくれ」
国王様がそういった瞬間、会議室内が一気に騒がしくなった。
何せその発言は、自然を破壊するのも厭わない対魔無し用の戦術を全力で使えとの命令と同義であったからだ。
対魔無し用の戦術はいたって簡単だ。
魔法が効かないなら自然の力、物理の力で倒せばいい。
小型の魔無しであればエサで崖まで誘導し、そこから突き落とせば重力に引かれて地面と激突し死に至るし、地上の生物であれば生き埋めや水没などの方法で窒息死が可能で、洞窟の中であれば酸素を無くして窒息死なんかも可能だ。
また、大きい魔物で山の近くなどに出現した場合は、種類によるが魔法で大規模な山体崩壊を発生させ、谷もろとも埋めて持久戦に持ち込んで倒すなんていう方法もある。
そう、魔無しといえど魔物といえど生命体であることに変わりはない。
だからこそ、こうして魔法が関係しない現象などを利用すれば倒すことが可能なのだ。
自然破壊や生贄などを使ってでも倒さなければいけない····· 否、それらを使わない限り絶対に魔物を、私はこれから王の命令によって倒さなければならないのだ。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「·····んふふ、こういう難易度の高いモノってやっぱり燃えるよね、どう倒してやろっかなぁ」




