へな恐ろしき狩人
「はぁっはぁっはぁっ····· ここまでくればっ·····」
私はあの恐ろしい"狩る者"の追跡から逃げ回っていた。
"アレ"は私がどこに居ようがすぐに見つけ、私を狙ってやってくる。
きっとここも安全圏ではないだろう。
それに"アレ"が獲物を逃すとは思えない、すぐにでも私を見つけるだろう。
「みぃつけたっけ!」
「ほんぎゃーっ!!!??」
私の予感は的中し、建物の角から私を狙う猟犬が姿を現し、私を捕まえようとしてきた。
私は"狩る者"とは反対方向に逃げ出したが、ありとあらゆる直角以下の角という角から黝い不気味な剣の如き棘が無数に表れ、道を塞いで私の逃げ道を遮断してしまった。
「ソフィせんせ!ティンクル☆キュルピカの作者ってホントっけ!?サインくれっけ!!」
「いいいいいいや、えと、その、ちがっ!」
振り返ると、次元を超える狩る者が私の事を狙っていて、不気味な黝い色に変化した髪を揺らし、私に近付いてきていた。
"アレ"からは逃れることはできない。
直角以下の角さえあればどこにでも出現が可能な性質故に、この町に、この世界に、安全圏は存在しないだろう。
"アレ"から逃れるためには、真球の部屋の中に入るか角度どころか物さえ存在しない無の世界に逃げるしかないだろう。
「も逃げれねっけ!」
「いや、んふ、んふふふふ、まだ逃げ場はあるっ!」
しかし私は天才だ。
ついでに美少女だ。
だからその天才的な頭脳で私は逃げ道を見出した。
上に。
「サラダバーッ!!!」
「へなっ!!?おんげめっけなってっけっぱぁぁぁあああああ!!」
私は魔法を使って唯一ふさがれていない真上へと飛び上がったのだ。
そう、空には何もない。
何もないという事はそこには角度というもの事態が存在せず、かの狩る者も追跡は不可能になるはずだ。
「ふぅ····· さてと、どうしよっかな····· 面倒だから逃げてきちゃったけど帰ったらどのみちまた迫られるし、今のうちに記憶を消しちゃうかな····· とりあえずウナちゃんに謝ろっと、えーと、スマホは·····」
しかし、私は次元を超える狩人を甘く見ていた。
「角度みっけっけ!」
「あばーっ!!?ミナタ!?ミナタナンデ!?」
狩人はスマホの鋭角から飛び出し、私をガッチリホールドしてしまったのだ。
掴まれたらもう逃げようはない。
びっくりした私は飛行魔法の制御を忘れてしまい、まっすぐ地面へと堕ちて行った。
そして·····
\ゴシャァッ!!/
「いすらふぇるっ!!?」
私は地面に綺麗に直角に頭から突き刺さり、残念な姿ってかショーツをさらしてしまうのであった。
こうなるならスカート履いてこなけりゃよかったわ、トホホ·····
◇
その後は置いてけぼりにしていたウナちゃんとイルミア君とも合流し、私たちはフシ町の食事処で昼食を食べながら話をしていた。
「へな、ソフィが作者っけ?」
「·····ハイ」
「すげっば!アチシの憧れだっけ!!」
「えと、一応アレ黒歴史だからあんまり触れないでもらえると·····」
「んなげっけなっか!!サイコーだっけ!恥じる事ねっけった!!」
·····実はあの漫画、私のデビュー作のベストセラーであると同時に黒歴史だったりするのだ。
ぶり返した中二病全開で書いたから見ててマジで恥ずかしいし、町でティンクル☆マスターなんて呼ばれた日にはもう何度自殺しようとしたことか·····
ってくらいには黒歴史だから、バレるの嫌だったのよね。
·····まぁでも、さっきからミナタが内容を熱くべた褒めしてくれてるし、一応私の自信作だから褒められたら嬉しいし、機嫌も良くなるに決まってる。
「わかった、もう降参するわ、ミナタ用にサインを書いたティンクル☆キュルピカ全18巻あげるよ、1巻しか読んだことないんでしょ?」
「へな!ええんけ!?町だと1巻しかねっけっけ読めんけったっか!!続きへな気になってたっけぱ!」
「んふふ·····」
「あっ·····」
「どうされたのですか?」
「ナンデモナイヨー」
「ネー」
·····実はティンクル☆キュルピカは魔法少女モノだけど、女児にも人気はあるが大人にも人気があるのだ。
なんでかって?
世界観が表面上だけ見ると明るいんだけど成長して物事を色々理解出来るようになってから見ると、明らかにダークな世界観とすぐにわかるエグい内容になっているのだ。
特に第10巻からヤバくなって、主人公たちのうちの一人が敵にこてんぱんにやられちゃった☆という展開なんだけど、うん、死んではないけどそれが切っ掛けでガチ鬱展開に突入し、最終巻で最後の敵を倒すが仲間を守り切れず、全ての敵を倒した事をトリガーに現れた原初の存在に主人公が為す術なく取り込まれて融合してしまい、守ってきた世界を滅ぼすっていう展開なのよね。
ちなみに滅ぼす描写はやたらネットリ描いてて、未だにトラウマ回って呼ばれてる。
でも主人公はラスボスの中で目覚め、魔法のステッキの真の力を開放して精神世界でのラスボスとの対話で決別すると体を突き破って現世に戻ってきて、ラスボスの力とステッキの力で超巨大化したステッキを惑星に突き刺すと星のキュルピカの力を使って自分が滅ぼした生命の魂を自分を箱船にする事で別世界へと飛び、平和な世界を再構築してその世界で1話と同じ展開でダイジェストでやり直して死んだ仲間たちと再会するけれど、キュルピカの力が関わる戦いも変身も無い、平和な世界になっていて主人公を含め誰もあの戦いの事を覚えていない····· って言う一応ハッピーエンドな終わり方だ。
でも最後の一コマが、キュルピカも敵も無くなったはずの世界で、苔むして古びた謎の魔法少女のステッキのような巨大なオブジェが突き刺さっているのを、主人公が振り返ってちらっと見て微笑むという意味深な終わり方だったり·····
最終巻を出した時、しばらく町を歩くと人々に囲まれて『最後のアレは何なんですか!?』とか『どういう世界になったんですか!?』と聞かれて、謎は謎のままがいいから誤魔化してって言うのを続けてて結構大変だったのよね·····
ちなみにストーリー的には深い理由は無い、強いて言うなら読者に色々考察して終わった後も悩ませて引き留める為の仕掛けって程度かな。
だから今も考察されていろんな説が出てるし、未だに本編も続編も結構売れてるのよね。
·····だからこの漫画を読み始めたばかりの人を見ると、読み終わった人は大体複雑な目を向ける事になってしまうのだ。
そんで熱心な読者だったウナちゃんと作者の私は、まだキュルピカ☆してる1巻しか読んだことのないミナタに生暖かい眼差しを送っていたという訳だ。
「へな楽しみだっけなぁ····· へな!ムコ探しはてっはぱ止めて漫画読むっけ!!」
「あんまり夢中になり過ぎちゃダメだからね?程々にするんだよ」
「えへなっ!!」
そんな目を向けられているミナタはというと、長年続きを見たかった漫画が読めるとなって尻尾をブンブン振り回して喜びまくっていた。
「·····ところでソフィちゃん」
「はいはい?」
「最近でた『デスブリンガー★ダークネス』って漫画もさ、名前変えてるし二次創作のテイで出版されてるけど、もしかしなくても作者ソフィちゃんだよね?」
「·····バレてた?」
「すぐにわかるよ、だって絵柄が全く同じだし」
そう、実はティンクル☆キュルピカには続編というか、改めて日本の漫画やアニメを履修して解析を行ったアカシックレコードと私の頭脳によって新たに作成された、ティンクル☆キュルピカからティンクルもキュルピカも無くしたガチの鬱展開漫画を描いているのだ。
一応13巻で完結予定で今5巻まで出してるけど、早速町で絶望に打ち拉がれた人が大勢出現している問題作なのだ。
しかも最初の見た目はティンクルよりももっと可愛らしく明るい印象なのに、3話から既に前作の主人公っぽいパラレルキャラが呆気なく死ぬのだ。
そこから怒涛の展開で主人公が敵に襲われて死んで、敵となって復活して、かつての仲間を殺したところで敵の力を奪い取って意識が戻り、絶望して、でも魔法少女だった頃を忘れられずに敵であることを隠して魔法少女チームに入れてもらって、敵と味方をどっちも欺いて、本来味方の敵を体は嫌がっているのに倒さなきゃいけないし、味方の魔法少女たちを殺したい衝動や、でも仲間で守りたいという苦難を味わい続けるという地獄みたいな内容だ。
ちなみにオチは前作と同じでラスボスとの対談で、でも世界を滅ぼすんじゃなくて手を取りあって生きていける世界を構築するんだけど、その手段が世界の全ての生命を等しく差異の無い穢れなき無垢な身体(正体は魔物·····というより魔物の正体こそ新たな生命)に載せ替えて、強制的に平和にしましょうっていう、某ンゲリオンでもやらなかったような、拒絶しなかった展開を実際にやったらどうなるか?をやってしまった展開にしようとしてる。
しかも私の経験上、どんなエグい展開でもギャグパートや明るい話やお色気をちょいちょい挟むとつい読んでしまうというのは知っていたから、主人公が所々でギャグを挟んでいるしちらっと破廉恥なシーンが挟まるせいでダークなのに明るくて面白いし、楽しそうにしている主人公を求めてギャグパートを求めて超絶ダークな話なのに続きを見てしまうという悪魔みたいなストーリー構成にしてて、読者の心を徹底的に折るためだけに作った作品だ。
ちなみに、読んでいたエビちゃんに『これ書いたヤツ魔王より性格クソ悪いのじゃ』とまで言わせた実績もあるのよね。
「アレをミナタに読ませたらどうなると思う?」
「しばらく寝込むんじゃないかな?」
「私もそう思うわ、アレはまだ読むのには早いよね」
「んっけ?へな話してっけ?」
「「なんでもないよ」」
何でもないとは言ったが、私とウナちゃんはいつかダークネスの方も絶対読ませようと内心思っていた。
ちなみにウナちゃんの隣でイルミア君が漫画に興味を示していたので、彼にも堕ちてもらおうと思う。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「何気にミナタから逃げるの普通じゃ無理だねアレ、弱点は結構あるっぽいけどだいぶヤバいわぁ·····」
名前:ミナタ
ひと言コメント
「続き楽しみだっけ!·····えっ、他にも漫画あっけ!?へなった読むっけ!」
名前:ウナちゃん
ひと言コメント
「ちなみにね!ティンクル☆キュルピカにはソフィちゃん公式で作らせたスピンオフ作品の『フル☆キュルピカMAX!!』っていう作品もあるんだよ!そっちは100%明るい完全子供向け内容なんだ!」
名前:イルミア
ひと言コメント
「ぼくも庶民の書物は気になっていました、この際せっかくですから読ませてもらいます」




