夢中説夢に踊る天使
それはウナちゃんが赤ちゃんを産んで暫く経ち、公務と育児でウナちゃんが疲れ果ててディメンションルームでしばらく休養を取ると発表したある日の事·····
「んぅぅぅうううっ、よくねた·····」
「あっミカちゃんおはよ」
「んっ·····」
上野動物園のパンダ並みに動いてる所を見れないミカちゃんが珍しく起き上がり、思いきり伸びをして相変わらず眠そうな目を開いた。
彼女のパジャマはいつも通りはだけていて、見えちゃいけないとこまで普通に見えているのもいつも通りだが、いつもとちょっと違うところがあった。
「·····ひさしぶりに、うんどう、しよっかな」
『『·····ええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!?』』
「大丈夫!?運動って、どっか体調悪いの!?変なモノ食べた!?頭打った!?寝がえりでベッドから落ちて床に頭強打したとか·····」
「うんうん、というか本当にミカちゃんなの?」
「信じられない·····」
「そうね、明日は世界滅亡かしら·····」
「·····ごめん、わたし疲れて変な夢見ちゃってるかも」
「·····は?お主が運動?何を言っておるのじゃ?」
「えっ、うごけたんだ·····」
「·····んぅ、みんな、ひどくない?わたしだって、たまには動くよ?」
正に夢中説夢、空からカエルが降ってきたり突然トラックに轢かれて異世界に転生するくらい絶対にありえない事が目の前で起きて、私たちは驚きの余り困惑してしまった。
あの一日480時間は寝てるし、ご飯を食べるのも眠いからめんどくさいと言って餓死寸前まで何度も行った事のあるミカちゃんが動くと言ったのだ。
しかも出会って3年で自ら運動したいと言ったのはコレが初めてなのだ。
「でも、なんで急に·····」
「きのうネット記事で『良き睡眠のためには適度な運動が必要』って書いてあったの見た、だから運動する、快眠のために」
「あらやだこの子ネットの記事鵜呑みに····· いや普通の事言ってるわ、ミカちゃんが言うもんだからてっきり詐欺かと·····」
「ん····· やっぱ酷くない?」
ちなみにミカちゃんは快眠のためなら結構努力(?)するタイプの性格で、割とネット記事に騙されるのよね。
寝る前にニンニクを生で丸かじりするとよく寝れるとかいう根拠の無い噂を信じて食べたら目がパッキパキに覚めて自分の激臭で寝れなくなったり(ふて寝して3日起きなかった)、回る椅子で全力で回って三半規管を狂わせてから寝るとすぐ寝れるという噂を信じて回りすぎて吐いたり(1週間寝込んだ)、挙句の果てに『銀河波動エネルギーの氣のお陰で快眠に導き健康を維持するガンも消せる快眠ペンダント』(お値段29万8000円)とかいう詐欺商品を通販で買おうとしてた時はギャグハリセンで頭引っぱたいて止めたり·····
(その後詐欺られたと気がついてキレたミカちゃんが地球滅ぼしかけて時を戻してなんとかした)
だから『適度に運動する』という普通の事も、つい騙されてるんじゃないかと思っちゃった訳よ。
「で?運動って何するの?腹筋2回とか?私たちも手伝うよ」
「ん、じゃあついてきて」
「はーい、みんなは?」
「·····ワタシの第六感が言ってる、ワタシたちは行かない方がいい」
「アルムちゃんの直感はよく当たるからなぁ····· ロクな事にならない気がするし、僕はフェニカの面倒を見るから行って来ていいよ」
「そうね、私もトウマの面倒があるから遠慮するわ」
「わたしはむりぃ·····」
「ワシも今日はラクトのとこに行くから無理なのじゃ」
「わ、わたしも、やめておく·····」
「えっ?って事は私一人だけ?」
『『行ってらっしゃーい』』
「·····はぁい」
という訳で、私は1人でミカちゃんの運動に付き添う事になったのだった。
◇
「んぅぅぅぅうううっ····· お日さまポカポカしてる····· さむいけど·····」
「今日はまだ温かい方だよ?」
ちゃんとした服に着替えてフシ町の自宅から外に出ると、太陽光を浴びたミカちゃんは気持ちよさそうに伸びをして体を軽く動かしていた。
普段はナマケモノみたいにのんびりとしか動かないから、遅めなラジオ体操くらいな速さで動くミカちゃんはブレイキンの大会に出場して優勝を掻っ攫っていったスローロリスくらい衝撃的な光景だ。
あとミカちゃんは超珍しく彼女専用に作られた白色カッチリとした天使の服を身に着けている。
なんて言えばいいんだろ····· あまりファッションに詳しくないから例えしか出せないけど、T〇L〇veるの金色〇闇の白色バージョンみたいな感じ?
「んで運動って何するの?」
「依頼」
「·····ギルド行く?」
「ん」
「了解」
という訳で、私たちは徒歩でギルドまで·····
·····えっ、ミカちゃんが徒歩で?
うっそ、普段は頑なに歩こうとしないし、移動は大体天使の力で浮遊してやるから歩いてるの久しぶりに見たわ·····
なんかハシビロコウが動いてる時くらいな衝撃だわ·····
◇
その後、冒険者ギルドに到着した私たちはミカちゃんの想うがままに依頼を受けて、早速町の外へとやって来ていた。
「·····めっちゃ高難易度の依頼受けてたけど大丈夫?」
「ん、わたし強いから、だいじょうぶ」
「わかった、でも危なそうなら助太刀するからね?」
「ん」
受けた依頼はヒュドラの討伐という超高難易度の依頼だ。
依頼場所もこの国の禁足地となっている外洋にある日本には無い島で、本来はその島のすぐ近くにある伊豆大島っぽい島に生息しているのだが、何故かその隣の危険な魔物が跋扈する熱海に該当する場所のちょっと沖にある島に出現したか移動してきたかで、毒をばらまくせいで周囲の生態系が大荒れしてるのだが、危険すぎて放置されていた依頼だそうだ。
ちなみにこの依頼は私も知ってたけどめんどくさいしそこまで緊急性も無いから受けてなかった依頼なんだけど、ミカちゃんが運動には丁度いいと言って受けてしまったのだ。
「·····毒系の魔物だけど大丈夫?」
「ん、わたし、毒きかない」
「なるほど、まぁ天使だからねぇ·····」
そんでヒュドラは9つの首が生えた巨大な蛇····· って思われがちだけど、この世界のヒュドラ首は1つしかない。
そのかわりに8本の毒を生成する管状の器官が頭部から全身の1/10くらいまで行ったあたりから生えており、そこから後ろが一気に太くなっているためあたかも首が9本生えたように見える特殊な蛇だ。
一説によると元々は海生爬虫類で、水中にいた頃はヤツメウナギのようなエラの穴があったのだが地上に上がるとそこが発達して筒状に伸びて毒を噴射するようになったという説があるそうだ。
そんで使う毒はフグ毒で有名なテトロドトキシンやクラゲの猛毒、イモガイの猛毒の槍などの海に関する毒から、キノコ系の毒や化学物質などの毒、更には強酸性の硫酸なども扱ってくる毒のスペシャリストだ。
そして厄介なのは、この毒は液状で噴射するだけでなく固体にして槍としてはなってきたり、毒霧にして広範囲攻撃を仕掛けてきたりする点だ。
しかもこの魔物は毒を使って狩猟を行うため、コイツが現れた地の食べ物は悉くダメになってしまうという恐ろしい生態があるのだ。
「島見えてきたけど、本当に大丈夫?私一応神化しておくけど·····」
「ん、もんだいない」
·····で、私たちの目の前には、ヒュドラが狩猟をした痕跡が濃く残る島が見えていた。
島の所々の森が枯れ、紫色の魔法系の毒の霧で覆われた場所が何ヶ所もあり、周囲の海には毒が流れ出ているのか時々魚や魔物などの死骸が海に浮かんでいるのが見て取れた。
いやぁげにおそろしきかな。
おっ、そう言ってたらヒュドラみっけ、デカいなあの個体·····
「ん、みつけた、倒す」
「ちょ!はやっ!!」
って何となくヤマタノオロチを思い出してわびさびな感じを醸し出していると、ミカちゃんが動きだした。
·····あの、スカートだから丸見えなんですけど?
というか結構派手なの持ってたのね、レースの肌触りが気に入らないって言ってたのにフルバックのレースのだし·····
ていうかスカートの中を見てたら遅れるわ、ミカちゃんめっちゃ早いわ。
私がボーっとしていると、獲物を発見したミカちゃんは一瞬で方向を変えて物凄い速度で地上に向けて飛翔し始めた。
その速度はさっきまで音速で並走していた私を一瞬で置き去りにするほどの速度で、普段のミカちゃんからは考えられない程の俊敏さだ。
「·····私もちょいと本気出すか、一応ソフィアの槍とカルスの槍を召喚、神衣:武装モードで着用っ!」
そして私も猛毒の大気の中に突っ込むため、私の神器ソフィアの槍とそれのコピー神器のカルスの槍を両手に持ち、私の神衣を武装モードで着用しておいた。
神衣の武装モードは神々しいスチームパンクなドレスアーマーといった感じで、露出度は低い代わりにカッコイイ感じの星核合金メッキのミスリル装甲を取り付けて防御力と動きやすさを両立させた装備だ。
ちなみにスカートだけど見せパンを穿いてるので何の問題も無い。
·····まぁいつもの伝説のパンツを変形したヤツだからショーツなことに変わりはないんだけどさ。
「さてと、神&天使 VS 神話のバケモノの戦い、行ってみよっか!!」
私は飛翔魔法の出力を一気に上げると、まるでミサイルを打ち落とすファランクス機関砲の如き勢いで猛毒の槍や弾丸で彼女を迎撃している超巨大なヒュドラと、それを避けながらヒュドラへと接近している美しいくすんだ金髪の無敵の護衛艦へと、私は劇毒の流れ弾の間を縫う島風の如き速さで追いかけていった。
名前:ミカエル
ひと言コメント
「ん、ちょっとホンキ出したくなった」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「うわすっご····· 準Sランクの魔物相手に平気で迫ってるよあの子····· まぁそりゃそっか、だってミカちゃん私と互角以上の強さだし」
名前:なかよし組
アルム
「やっぱ行かなくて正解だったでしょ?」
フィーロ
「アルムちゃんの第六感ってバカにできないからなぁ····· というか帰ってきたらデトックスさせなきゃ、ソフィちゃんは毒が平気でもフェニカには危ないだろうからね、ねっフェニカ?·····まだ反応しないかぁ、フロウちゃんは声を掛けたら反応するようになったんだけどなぁ····· フェニカも早く喋れるようにならないかなぁ」
グラちゃん
「フィーロ、饒舌ねぇ····· ところでなんで女子に性転換してるのかしら?·····母性を感じたかったのね、でも貴女母乳····· はぁ?出るの?フィーロ、貴女おかしいわよ?」
ウナちゃん
「もうむりぃ····· ウェアかラーかサーかわってぇ·····」
エビちゃん
「ワシは強酸と熱には強いのじゃが、毒はちと厳しいのぅ····· カキにあたった時はずっとキツかったのじゃ、上も下も滝だったのじゃ····· ノロウィルス怖いのじゃ·····」
アヤメ
「·····誰?わたしの知っているミカエルちゃんじゃない、不思議」




