デミダイヤ『Si.C』
古い遺跡地帯に佇む、滅びた超文明の遺産のような美しくも不気味なゴーレムを、私は物陰から観察していた。
まぁ今もこの近くで瘴気と戦う聖職者たちがいるからのんびり観察してられないけど、それでも対観察したくなってしまうゴーレムだ。
「·····やっぱり、見た事ある」
ゴーレムは高さ1.5mと小柄だが人型であるにもかかわらず頭部が無いため非常に大柄な男性のように見え、身体の大半を占める胴体は黒い結晶でできた炎のような形をしており、そこから太く短い手足が生えている異形と言える姿だ。
だが、私はその姿に見覚えがあった。
あっ、いや、ポ〇モンのレアなアレ系のヤツじゃないよ?
その体を構成する物質に非常に見覚えがあったのだ。
何故見覚えがあるのかと言うと、私の趣味の関係だ。
私の趣味はちょっと特殊で、珍しい鉱物や宝石を集めている。
しかも天然・人工問わず集めているちょっと変わったコレクターで、その私のコレクションの中にアレと類似する鉱物があったのだ。
いや、正確には鉱物と言えるか微妙なモノだ。
「·····炭化ケイ素、そんな素材のゴーレムが居るなんて」
『炭化ケイ素』
その名の通り炭素とケイ素が組み合わさってできた物質で化学式は『SiC』。
特徴はとにかく『強い』事だ。
流石にダイヤモンドには及ばないが、モース硬度でダイヤの次に硬いサファイアをも超える硬度9.5という異常な硬さを持ち、ダイヤよりも耐熱性・化学的安定性に優れる事から研磨剤や耐火物や発熱体などに用いられ、半導体でもあるため電子素子にも用いられている。
この物質は主に工業的に作られた物しか存在しないのだが、極稀に自然界でも生成されている。
その際の鉱物名は『モアッサナイト』、地球上にはほぼ存在せず隕石の中から稀に見つかる程度しか存在していない希少な鉱物だ。
そしてモアッサナイトも炭化ケイ素と同じく人工合成されるのだが、その見た目は非常にダイヤとよく似ていて、非常に硬く輝きを司る屈折率もダイヤに近い上に煌めきを生み出す分散率に至ってはダイヤの2.5倍近くある美しい宝石となる鉱物だ。
ついでに油脂に対する親和性が高く皮脂で汚れやすいダイヤと違い、親油性が無いため汚れにくいし硬く割れにくいため宝石にするにはうってつけの鉱物だ。
なお、ダイヤと見た目がそっくりで名前も聞き馴染みが無い宝石なので『モアッサナイト・ダイヤモンド』という名でダイヤと偽り売る悪徳な商売もあるため、この名前を聞いた時は気を付ける必要がある。
ちなみに工業製品の炭化ケイ素は一見真っ黒なのだが、表面が酸化被膜の影響なのか虹色に輝き、更に強力な光を当てるか微細な破片にすると緑色やサファイアのような青色に透き通る性質がある。
また、炭化ケイ素の別名に『カーボランダム』という呼び方があるが、コランダムっぽいけどアルミニウムは含まれていなかったりする。
そしてこの鉱物は非常に知名度が低い。
きっとここまで読んだ読者さんも『そんなもん知らねぇ』という方が多いだろう。
そう、この物質は主に工業製品で使用されており加工前の状態で出回る事は非常に稀で、宝石ではキュービックジルコニアよりも高価な人工宝石のため中々出回らないレア物なのだ。
炭化ケイ素の原石を持っている人はかなり重度のコレクターと考えてまず間違いないだろう。
ちなみに炭化ケイ素の原石は非常に美しく、結晶が成長した物では六角板状の結晶が沢山生えた黒く美しい虹色光沢を放つ上に、業者によっては割と安価で購入できる面白いモノだ。
あと実は日本でもコレは生産されていて、なんと日本で唯一の工場がある屋久島で製造されて出荷されているのだ。
そして炭化ケイ素の原石の見た目は、今私の目線の先に居るデミダイヤゴーレムとそっくりなのだ。
あっわからないって人は『炭化ケイ素 標本』って調べると一発で出てくるよっ☆
「·····さてと、どう倒すかな」
話を戻して、問題はアイツをどう倒すかだ。
アダマンタイトの硬度は9.5と炭化ケイ素と同等の硬度を持つが、たぶん叩いたら刃が確実に欠けるほど硬いだろう。
·····まぁ星核合金とかソフィニウムだったらスパッと切れるけど、レア度Sのヒヒイロカネゴーレム級に超珍しい魔物だからせっかくならあっさり倒さずに戦ってみたい。
なんも珍しくないし厄介なだけな悪魔はテキトーに神属性魔法でも振りかけてやれば死ぬし瘴気も消し飛ぶから、今日はこっち優先だ。
「·····やっぱりソフィアの槍で行こう、柄の部分で殴れば切れないだろうし」
でも死傷者が増えるかもしれないし、武器はとりあえずソフィアの槍でいいだろう。
でもその前に·····
「魔導弾発射!」
パァンッ!!
バギャンッ!!
『ギギギギギ·····』
「おー硬い、でも砕けるんだ」
私は開戦の合図とばかりに魔導弾を一発胴体にブチかましたが、脆かった部分を砕いてまき散らしただけで内部にはほとんどダメージはなさそうだ。
そして砕け散った部分は即座に再生し、再び鋭く細かい結晶が生成されて元通りに·····
『ギギギ、ガガ·····』
バチバチバヂバヂハヂバヂッ!!!
「·····というか、再生してる?まさかっ!!」
全身の毛が逆立つような悪寒を感じた私は····· 否、全身の毛が電磁力により逆立つのを感じた私は、一瞬のうちに地面にソフィアの槍を突き刺して即座にその場から離れ、岩陰に隠れた。
次の瞬間
ズドッゴォォォオオオオンッッッ!!!
「わひゃんっ!!?」
耳をつんざくような爆音が響き渡り、周囲に酸っぱいような生臭いような焦げ臭いような何とも言えないオゾンの香りが漂って来た。
「やっばぁ····· やっぱり電気系の魔法を使ってくるかぁ」
実は私はデミダイヤゴーレムが電気系の魔法を使ってくることを予期していた。
この炭化ケイ素の製造方法は膨大な電力を使ってアチソン法という方法で製造する事から、もしかしたら電気の力で炭化ケイ素を生成してるんじゃないかと予想していたのだ。
そして案の定生成に使う電気を攻撃に転用してきて、超高電圧の放電攻撃を仕掛けてきたからソフィアの槍を避雷針にして、更に側撃雷の危険性も考慮して岩の影に隠れたのだ。
「·····ちらっ」
とりあえず電撃は終わったみたいなので岩陰からデミダイヤゴーレムが居た場所を見てみると、そこには何も·····
いや、地面に焦げた跡がある?
ヴィィィイイインッ!!!
「にょみゃぁぁああああっ!!?」
『ガガガガッ』
バギャァァアアアアンッ!!!
「間一髪セーフッ!!はっや!!雷かよ!!」
私は一瞬でしゃがむと、頭上を物凄い速度でヤスリのようにデコボコして尖った腕が通り抜けて行って、それを見届ける前にソフィアの槍の方へと走って逃げて行った。
「あっぶなー、流石は超上位の魔物ってだけあるね····· ヒヒイロカネゴーレムくらいヤバいんじゃない?·····あぢゃぁぁあああっ!!!?」
そしてソフィアの槍を引っこ抜こうとしたら、手が焼けた。
·····そりゃ雷が落っこちた金属に素手で触ったらそうなるか。
「あいたたた····· って、やばっ!!」
『ギギガガガガガッ!!』
ドバァァアアアンッ!!!
「あいででででででっ!!ヒールっ!!ヒールっ!!クールダウン!!ぎゃあばばっばばばばばっばっばばっばばばばばば!!!?」
って余裕をぶっこいてたら、デミダイヤゴーレムが雷の如き速度で突っ込んできていて、私は激熱のソフィアの槍を無理やり引っこ抜いて拳をガードした。
·····のだが、その拳から電気が流れてきてソフィアの槍を伝って思いきり感電してしまった。
私は神だが普段は人間で分体も人間の肉体をしている。
そして人間の身体は電気信号によって駆動するため、激しい電流が体内を貫くとあっという間に体が動かなくなり、そして死に至ってしまう。
今の私も全身に物凄い電気が流れ、脳波も乱れてあっという間に死に向かって爆速で進んでいる。
でも、私はタダじゃ死なないし·····
『絶淵の奈落姫』
「あばばばっ!!ばぁっ!!!」
『ギッガガ!!?』
魔法を発動できるのは、スキルを発動できるのは、この身体だけじゃない。
むしろ、あっちが本体で魔法を発動することもできる。
「·····たとえば、『ゼツエン』とか、ね?」
『ガガガ』
私は全身から煙を上げながら、熱で変質したタンパク質を、不可逆的な変化のはずのタンパク質の熱変成を魔法で無理やり治療して生の状態に戻しながら、冷気が出るほど冷却された槍をデミダイヤゴーレムに向けた。
そう、私は遠隔で本体からすべてを拒絶する深淵の力を開放させ、電気から体を遮断してしまったのだ。
微妙に使い勝手が悪くて使っていなかった絶淵の奈落姫のサブ能力『ゼツエン』の力だ。
ちなみにこういう微妙に不便な事にしか使えないし、泡沫ムゲンの眠り姫ほど融通が利く魔法じゃないからあんま使ってなかった能力だよっ☆
「『グランドアース』っと、さてと、もう油断しないし電気は効かないよ?」
『ギギガガギギギ!!』
ダァァァアアアアアアンッッ!!!
「·····電気って流れやすい方向に流れるのよね、あと超電導って知ってる?」
立ち直った私を見たゴーレムは即座に魔法で電撃を解き放ってきたが、私はもう対策済みだった。
まさか戦闘中に学校で習った事が役に立つなんてねぇ。
そう、電気は近くにある最も流れやすい物に優先的に流れる性質があるのだ。
そして最も電気が流れやすいのは電気抵抗が完全に0になる『超電導』という状態で、その超電導化した槍を持つ絶縁体の塊があったら、電気が流れるのはどちらだろうか?
はいシンキングタイム開始!
終わり!
正解は超電導化したソフィアの槍、それも蓄えた電気を逃がす魔法『グランドアース』を付与した対電気特化仕様に改造したソフィアの槍だ。
「さてとさてと?覚悟はいい?」
『ギガガギギッ!!』
轟ッ!!
「うーん、早いしもし掠ったら肉が抉れるね、でも····· まだ遅いよ」
電気が効かないと悟ったのかどうなのかはわからないけど、デミダイヤゴーレムは放電して通った道を焼き焦がしながら私に近付くと、太く短い腕を雷の如き勢いで突き出してきた。
更に突き出された腕は鋭くとがっており、側面は細かい結晶が生えて荒いヤスリのようになっており、掠っただけで想像を絶する痛みに襲われるのは簡単に予測できた。
·····でも、その動きも簡単に予測できてしまった。
「いやぁ、凄いね、どうやってそんな早く動いてるの?電磁力で移動って訳でもなさそうだよね?」
『ガガガガ』
「うーん、話通じないなぁ、殺戮マシーンみたいじゃん、というか見た目的に遅く動きそうなのにいきなり早く動くよね、君」
私はヤスリのような腕をソフィアの槍の側面で叩いて退けると、サッと距離を取って槍を構え直した。
「むぅ····· どうやってトドメ刺すかなぁ、あのコア、絶対モアッサナイト化してそうだからなるべく綺麗に取りたいんだけど·····」
『ガガガギギガガガ·····』
「·····はぁ、贅沢言ってる余裕ないか、絶縁してても流石に超高電圧の玉を作られたら熱でやられちゃうからなぁ、仕方ない、やるか」
あのうっすら透けて見えるコアは暗い炭化ケイ素をも貫通して蒼く光らせるほどの物凄い光を放つ美しい結晶になっているのだろうけど、それよりもデミダイヤゴーレムが作っている球電の方がはるかにヤバい。
流石に電気を絶縁してるとはいえ熱は遮断できていない。
もしアレが直撃したら私はなすすべなく蒸発して即死するだろう。
じゃあアレが直撃する前に倒せばいい。
「コアをなるべく損傷させないで破壊する、なら一撃で真っ二つにするのが一番だよね」
私はソフィアの槍を細い投げ槍のような投擲に特化した形状ではなく、大剣のようになった大きい穂先のまま投擲姿勢に入った。
槍を投げてコアを一撃で斬る、それが私が導き出した答えだ。
「いけっ!紫電一穿ッ!!!」
『ギガギガフンフンガガガガガッ!!』
限界まで体をしならせて私が本気投げた希望の槍ソフィアの槍と、デミダイヤゴーレムがなんか面白い音を出しながら解き放った珍妙な音とは真逆の絶望の球電が超高速でぶつかり合い·····
ヂュンッ
『ギィィィィイイイイイイッ!!!?ガ、ㇾジガガガガ、ギガガガガガガガガ、ガ、ガガ·····』
「よし貫いた!」
超電導状態+アース直結状態のソフィアの槍は超々高電圧の電気の塊を一瞬で喰らい尽くし、それでもなお勢いを落とさずに飛翔し、デミダイヤゴーレムのコアを正確に穿ち真っ二つに切断すると、回転によって螺旋状の断面を作りながら貫通し、背後にあった遺跡の岩をも穿ってそのまま山体の奥深くまで突き刺さった。
そして急所であるコアを穿たれたデミダイヤゴーレムは耐えきれるはずもなく、その動きを止めてしまったのだった。
◇
「っと、槍回収完了、あとはコイツの調査は····· まぁコアくらい見てみるかな」
結局あのあと山を貫通して宇宙まで飛び出してしまったソフィアの槍を回収した私は、瘴気汚染区域の浄化の前に軽くデミダイヤゴーレムを見てみることにした。
といっても私が興味あるのは外側ではなく内側のコアだ。
モアッサナイトだったら結構·····
「はひゃぁ····· やば、切ったの勿体ない·····」
我慢できなくなって外側の炭化ケイ素を切断して中のコアを取り出すと、なんとモアッサナイトの巨大な結晶が出てきた。
その形はピラミッドを上下にくっつけたような正八面体で、前世で手に入れたかった合成モアッサナイト結晶と同じ形をしていた。
しかも色は無色透明という極めて純粋でないとならない色で、なんと魔導化して魔石化しているし、しかも超デカいというめっちゃ珍しいモアッサナイトだ。
しかしその原石は緩いカーブを描いだ断面によって真っ二つになってしまっていた。
そりゃ私が切っちゃったし仕方ないけど、勿体なすぎる。
「仕方ない、『結晶化』」
って訳で私はピタッと2つになったコアをくっつけると、魔法で結晶同士をくっつけて元通りにしてしまった。
ほんと魔法ってなんでもありだよねっ☆
「いやーいい物を手に入れたわぁ、あとは全身を回収して帰····· っちゃダメだったわ、よしさっさと悪魔祓いして帰ろっ!!」
という訳で、デミダイヤゴーレムの本体である炭化ケイ素を回収し、いい暇つぶしとコレクションが手に入った私は、ルンルン気分で絶望と憎悪に満ちた瘴気汚染地区へと向かって空へと飛び立ったのだった。
【デミダイヤゴーレムの討伐】
complete!!!
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「·····もしかしてだけど、ウルツァイト窒化ホウ素ゴーレムとかいるのかな?ダイヤモンドゴーレムとか居るしワンチャンあり得るかも!!」




