不老と繁栄を
「·····大丈夫?」
「·····お主、これ見て大丈夫じゃと、思うか?」
「無理そうだね、お疲れ様」
エビちゃんは出産後の色々な事を終え、やっとこさ病室に帰ってきた。
その様子はまるで運ばれてきた冷凍マグロめいていて、明らかにげっそりとして疲労困憊といった様子だ。
まぁそりゃ1時間半近くずっと頑張ってたんだから疲れるよね。
そんで今は安静にするように言われて病室でゆっくり休んでいる所らしい。
「ラクト、ワシの子はどこじゃ·····」
「新生児室で診察したり身体を洗ってるって言ってたよ、大丈夫そうだったら終わり次第来るって」
「そうか····· 早く会いたいのぅ·····」
こりゃだいぶ体力使って疲れてるみたいだなぁ·····
仕方ない、出産祝いでもしてあげよう。
「エビちゃん疲れてるでしょ?回復魔法は要る?」
「あー、うむ、頼むのじゃ····· じゃが、母乳が出なくなるまで回復するでないぞ?」
「わかってるって、ただちょっと時間かかるよ?」
「休んでおるからいいのじゃ、頼むぞ」
「へーい」
私はエビちゃんに向けて鑑定魔法を放つと、身体の細部まで解析してアカシックレコードにデータを取り込み、再生する箇所とそうでない箇所を分類し始めた。
実は事前に産後に元に戻したい部分については聞いていて、伸びきってしまったお腹の皮や子宮とかそこら辺を戻して、産道は今後の事も考えてあまり戻さないでおいて、胸は授乳に必須なので一切手を付けず、内臓の位置を元に戻したり損傷した箇所や歪んだ骨格を元データを参照しながら元に戻す作業をどんどん進めていった。
·····やっぱり治しててわかるけど、人間の出産って負担大きすぎるよなぁ。
どうにかなんないのかなこのクソ仕様。
「あぁぁぁあああぁぁああぁあぁぁあああぁぁ····· 腰がゴキゴキ言うとるのじゃ·····」
「そんなに酷かったの?」
「うむ····· 酷い腰痛から解放されたのじゃ····· あと背骨も大分ヤバかったのじゃ·····」
「うへぇ····· 私も産んだら即なおそっと·····」
確かに耳を澄ますとエビちゃんの身体から時々変な音が聞こえるわ·····
まぁそりゃ3kg以上の重りを常にお腹の中に入れてたんだから重いし骨も歪むよなぁ·····
「よし、身体は大体元に戻ったよ、あとは体力だけど·····とりあえず魔力の実食べる?」
「おー、いや、うむむ·····」
「ジュースにしとく?」
「そうするのじゃ·····」
「おっけー」
私はそのまま保管してても扱いに困るので一部をジュースに加工しておいた魔力の実の果汁100%ジュースを取り出すと、コップに注いでエビちゃんに手渡した。
魔力の実はジュースにすると透き通ったさわやかな甘酸っぱいジュースになって、しかもトマトなんか比じゃないくらい魔力があって、更に飲み過ぎると鼻血を出してひっくり返るくらい栄養素があるから体力や魔力を失ったときには最適だ。
ちなみに見た目はスッキリしててさわやかだけど、飲むとスムージーかってくらい濃厚で、でもリンゴジュースみたいにサッパリしてる不思議なジュースで私のお気に入りだ。
「はいどうぞー」
「うむ、助かるのじゃ、んっ····· ぷはぁ!生き返るのぅ!!」
その証拠に、出産で体力も魔力も使い果たしていたエビちゃんは今ではすっかり回復してツヤッツヤだし、蓄えていた脂肪も余っていたお腹のお肉も完璧に元通りになって元のエビちゃんに·····
「おっと失礼、戻し忘れがあった」
「お主、この期に及んでワシの胸のサイズに嫉妬しておるんじゃなかろうな?お主もそのうちこうなるのじゃ、がまんせぃ」
「·····チッ☆」
「お主、☆つけときゃ可愛く見えるとか思ってるじゃろ」
「もちろん☆」
「·····はぁ、頭痛くなるヤツじゃのぅ」
「んへへ、でも一瞬で体調良くなったからよかったじゃん」
「そういう事にしておいてやるのじゃ」
絡んでて気が付いたけど、エビちゃんの体調が目に見えてよくなったのがわかった。
さっきまではもう死にかけの干しエビみたいになってたのに、今では鮮度抜群のピッチピチのプリップリなエビになってるくらい生き生きとしている。
他二つと違って量産型とはいえ、流石は神の実の一角なだけあるなぁ·····
◇
それからしばらくの間、家族以外立ち入り禁止の病室でつかの間の家族団欒をしていると、ついにその時が訪れた。
コンコンッ
「おっ!?来たかっ!ワシの子じゃな!!」
病室の扉が開くと、そこには·····
『『·····誰?』』
知らない人がいた。
「·····」
「ちょ、無言で近付くななのじゃ!」
謎の人物は無言でこちらに近付いてきた。
「マジで誰なのじゃお前!!怖いのじゃぁぁあああっ!!」
\がちゃ/
『お待たせいたしましたエヴィリンさん、新生児をお連れいたしました』
病室に割と普通の女性が入ってきて無言でニコニコしながら近づいてきて恐れ戦いていると、少し遅れてエビちゃんが産んだ新生児が看護婦さんと共に入ってきた。
·····えっ、今の人マジで誰?
「·····ま、まぁ、アヤツは放置でよいじゃろう、それよりもワシの子を早く!!はよぅ見せろなのじゃ!!」
「落ち着いてくださいエヴィリンさん、興奮しすぎるとお体に····· 目に見えてよくなりましたね、魔族ってそういう種族なのかしら····· おほん、失礼いたしました、抱っこする際はお気をつけて」
「うむっ!!」
ちょ、あの人は!?
·····あっ、隣の患者さんなのね。
ベッドに到着した途端ぶっ倒れてたわ。
ご出産お疲れ様です。
「って目を離してる隙にぃぃぃいいいっ!!!」
「うるさい!!この子が泣いてしまうじゃろうが」
「あっごめん·····」
隣の病室の女性に気を取られていると、いつの間にかエビちゃんが娘を抱っこしていた。
くそぅ·····
一応アカシックレコード直結保存式魔導カメラで撮影してるから後からでも見れるけど惜しい事をしたわ·····
◇
ワシは先程産んだ我が子を抱き上げると、そっと身体に近付けてやった。
我が子は暖かくて愛おしく、スヤスヤと眠って幸せそうな顔をしておった。
「ぷっ、シワクチャじゃのぅ、じゃが愛おしいのじゃ·····」
「かわいい·····」
我が子は産まれたばかりでしわしわしており、きっとこの子がソフィの子じゃったらきっとワシは笑っておったじゃろう。
じゃが、ワシが腹を痛めて頑張って産んだ、この世に2人目のアマイモン族の末裔で、自慢の我が子というフィルターを通せばもうどうしていいかわからぬほど愛おしく見える。
「結構重いのぅ····· よう肥えておる、これじゃったら元気に育ちそうじゃ」
「はい、3510gなので平均よりも大きい子でしたよ、これ以上時間が掛かっていたら母子ともに危ない所でした」
「そうか····· じゃが産まれてよかったのじゃ·····」
どおりで産むのが辛かったわけじゃ。
まったくこやつめ、腹の中ですくすく成長しおって·····
·····ワシは力が強い。
アダマンタイト製の大剣を振り回せるほど力があるが故に、たった3kg強の重りなんぞ普段なら何とも思わぬじゃろう。
じゃが、何故かはわからぬがいまワシの腕の中で感じる重みは明らかに3kgよりもずっとずっと重かった。
「·····幸せじゃのぅ」
「だね·····」
多分、幸せの重さは3kgよりもはるかに重いのじゃろう。
◇
その後、夫婦で第一子をめでていた2人だったが、面会を許可されたので一旦中断してなかよし組のみんなに新生児を見せに来ていた。
『『か、かわいい·····』』
「じゃろう?可愛かろう?むっふふふ····· 羨ましいじゃろ、お主らもはよぅこの幸せを味わうが良いのじゃ」
そしてエビちゃんの赤ちゃんを見たみんなの反応は全く同じで、可愛いとしか感想が出ていなかった。
「髪の色はどっちにも似てないというか、2人の色を合わせた感じ?」
「うむ?そうじゃな、ラクトほど明るい金髪でもないし、ワシのように完全な銀髪でもないのぅ·····」
「プラチナブロンドって感じかな·····」
エビちゃんの子供は生まれてすぐなのに結構髪がしっかり生えてて、綺麗な金色混じりの銀髪だった。
髪の色に関してはあまり詳しくないけど、たぶんプラチナブロンドで合ってると思う。
色は薄いけどそのぶん白く輝く金髪で、きっと成長して髪が伸びたら美しい髪になるだろうと容易に想像できた。
ちなみにイデアはお兄ちゃんよりもはるかに明るい太陽のように輝くやかましいくらいの金髪で、エビちゃんの子供は絹のように優しく艶やかに光る優しい金色だ。
·····髪の色が性格に関係してるとすれば、きっとおとなしくて優しい子に育つだろう。
そして何より、頭から生えている小さいけど立派な、母親譲りの黒紫色のツノが良く目立っていた。
「·····ところで名前は?」
「今言うべきか?一応決めておるのじゃが·····」
「言ってもいいんじゃないかな、家族もエヴィリンの友達も全員いるんだし」
「そうじゃな、じゃあここでこの子の名前を発表するのじゃ」
おっ!?
フィーロ君ナイス質問!!
それめっちゃ気になってた!!
私たちは名前の発表と聞いた瞬間一瞬で黙り、聞く姿勢に入った。
「こういう時だけお主ら団結が半端ないのぅ····· まぁよい、父上も母上も聞いてくれなのじゃ」
「もちろんだ、いい名前なんだろうな?」
「楽しみねぇ」
「うむ、では····· ワシが言っても良いか?」
「もちろん、だって考えたのエヴィリンでしょ」
「じゃな、ではいうのじゃ」
·····中々じらしてくるなぁ。
でももうすぐいうみたいだし黙ってよ。
「この子の名は、一度は滅びたアマイモン族と魔王家であるファゴサイトーシス家の新たな希望で、魔王家の再興と繁栄、そして二度と滅びぬよう、永遠に続くよう願って、かつて魔族が金星で繫栄しておった頃に交流のあった異星の人々より伝わった挨拶と、まぁ、その、ワシが今この時代に生きていられるきっかけになったソフィのかつての故郷である日本の言葉を組み合わせた名前じゃ」
「ワシの娘の名は、不老と繁栄を組み合わせた名がふさわしいのじゃ·····」
「この子の名はフローリス、フローリス・アマイモン・ファゴサイトーシスなのじゃ」
「シュテインは?」
「·····一応フローリス・シュテインと言う名もあるのじゃ、どっちも本名って事にするのじゃ」
「おーっ!!不老とFlourishを組み合わせたんだ、いい名前じゃん」
「もちろんじゃ、沢山悩んだからのぅ····· フロウ、その名に恥じぬよう永く、そしてアマイモン族の未来を託すのじゃから元気に育つのじゃぞ」
そう言うと、エビちゃんは自慢の娘のフロウちゃんの頭を優しく撫でたのだった。
名前:エヴィリン・アマイモン・ファゴサイトーシス
娘:【フローリス・アマイモン・ファゴサイトーシス】
ひと言コメント
「なかなかいい名前じゃろう? ·····流石は姉上じゃな、ダブルミーニングが得意で助かったのじゃ、ソフィのダブルミーニング好きは姉上譲りじゃったとはのぅ、何はともあれ、フロウは可愛いのぅ、成長が楽しみなのじゃ」
名前:ラクト・シュテイン
娘:【フローリス・シュテイン】
ひと言コメント
「ねぇエヴィリン、そろそろボクにも抱っこさせてくれないかな·····」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「エビちゃん、お兄ちゃん、おめでとう!! フローリスちゃんかぁ····· 良い名前なんだけどさ、フロウって呼び方もいいんだけどさ、魔族が昔バ〇カン人と交流があった疑惑の方がめっちゃ気になってそれどころじゃないんだけど····· エビちゃん、その宇宙人の挨拶って何か特徴的なハンドサインとかなかった?なんかこういう····· くそっ指がこんがらがる····· できたコレコレ、あっ····· うん、わかった、この話はやめよう、はい!!やめやめっ!!」




