帰ってきた普通の日常
「という訳でして·····」
「なるほど····· それは大変でしたね、お体に異常が無いようで安心しました」
「んじゃ報告は以上で、本部の方に2ヶ月くらい休暇を延長するように伝えてください」
「畏まりました、ではお気をつけて」
ふぃ~·····
これでやっと報告終わりっと·····
いやー大変だったわぁ、嘘を付くのも楽じゃないのよね。
私はフシ町のギルドに2ヶ月間行方不明だった偽の経緯と産休の延長を申請して、ようやく今回の騒動が一件落着したのだった。
いやぁだって流石に『時間の流れが違う異世界に行ってました☆』なんて報告できないでしょ?
だから寝る前に10分くらい悩んで思いついた嘘で押し通したんだもん、大変だったよ·····
ちなみに思いついた嘘は『依頼外で町の外に居たら魔物の特殊個体に襲われ、私とエビちゃんが魔物の能力で封印されていた』みたいな感じで、魔物が私とエビちゃんの魔力を結晶化させてきて内部に閉じ込めて封印してしまった、だから肉体の年齢も封印された時点で止まってて、元に戻るまでに2ヶ月も掛かった、倒した魔物はこちらが保管してるけど触れる物の魔力をすべて結晶化するので危険だから出せない。
って事にしてギリギリ押し通せたのだった。
·····あと、実は対象の魔力を無理やり結晶化させる魔導具は実在しているんだけど、相手の魔力を吸い出して魔結晶に加工して相手の魔力を枯渇させる結構危険な魔導具だから封印したモノだ。
今回はそのアイディアだけもらう事にしたのだ。
ちなみに時空属性の魔力を込めた魔結晶を結晶に封印したいモノの近くに置いてから使うと、私が付いた嘘のように実際に時間を止めて結晶内での保存ができたりもする。
·····真空保存の方が便利だし、インベントリの方がもっと便利だから使わないけど。
んで2ヶ月休みが延長しちゃった訳だけど、思いのほかすんなりと通って私も驚いている。
というのも、私が向こうに行ってる間にレミアが準Sランク(Aランク最上位)の冒険者になって、私の代わりに魔物の間引きとか、詰み依頼の攻略をしてくれてたらしい。
まぁいくら凶悪な力があるとはいえ、戦闘経験が浅いから苦戦してたみたいで傷跡とか直しきれない怪我が増えてたりしたから、選手交代って事で今はディメンションルームで傷跡ごと治療中だ。
·····まぁ何はともあれ無事に報告は終わったし、さっさと帰ろ。
何か今日微妙に体調が悪い·····というか、普通に体調が悪いから早く帰って寝たい·····
「んぷっ、·····悪阻かなぁ」
という訳でやることは全部やったので、私は吐き気を抑えながら帰る事にしたのだった。
◇
「ただいまぁ····· もうむりぃ·····」
ぼすっ
「大丈夫!?」
「大丈夫だから、ちょっと悪阻がきついだけ·····」
ディメンションルームに戻ってきた私は、直帰宅用玄関で靴を脱ぎ捨てるとそのままソファへとぶっ倒れてしまった。
ダルいから仕方ないよね。
そんな私の様子を見たフィーロ君はめちゃくちゃ心配してすぐに近くに来てくれたけど、吐き気と眠気とダルさでぶっ倒れてるだけだから余計な心配だ。
「無理しないでよ、別に僕が行ってもよかったんでしょ?」
「自分でやった事だし、自分で落とし前····· おえっ····· ちょいまち、えーっと·····」
「吐き気止めの魔法は『ノーノウゼア』だよ」
「ありがと、『ノーノウゼア』····· うん、多少マシになったわ·····」
「じゃあゆっくり休んでなよ、家事はアキさんがやってくれるし」
「うん·····」
私は自分に向けて吐き気止めの魔法を掛けて、なんとか吐き気を抑えることに成功した。
いやぁ、魔法って便利だねぇ·····
妊娠中ってあまり薬を飲まない方が良いらしいから頭痛とか吐き気が来ても薬でなんとかできないらしいのよね。
でも魔法なら肉体に直接作用するからお腹の子供に化学成分が行ったりしないし、私なら自分の身体だけに魔法を掛ける事なんて容易い事だからこそできる方法だ。
そのおかげでエビちゃんの時と比べると多分だいぶ楽に妊娠初期を過ごせてるんじゃないかと思う。
·····楽してるってバレてエビちゃんにめっちゃ怨まれたけど、まぁ、うん、なんかゴメンね☆
「そういえばエビちゃんは?」
「お義兄さんの所に行ってるよ、今日からしばらくは仕事も休んでずっと一緒に居るってさ」
「フィーロ君と同じかぁ·····」
「まぁ····· うん·····」
コレは昨日聞いた話なんだけど、実はフィーロ君とお兄ちゃんはこの二ヶ月の間ずっと仕事を休んでいた。
いや、正確には居なくなって一週間後にとりあえず仕事を再開したんだけど、あんまりにも酷いミスを連発して、フィーロ君に関しては実家の魔道具屋で魔道具作成中にボヤ騒ぎを起こしたり足の上に魔道具を落っことして怪我したり、普段ではやらないようなミスが酷すぎてしばらく休みになっていたらしい。
お兄ちゃんも同じく変なミスばっかりしてしばらく休まされていたそうだ。
「んふふ、どれくらいで落ち着きそう?」
「·····まだもうちょっと掛かりそう」
「そっか、んじゃ好きなだけ一緒に居てあげるよ、私はこれからしばらくは激しい動きも出来ないし、元々今から2ヶ月は特に何もしない予定だったからいつまででも一緒に居れるよ?」
「うん·····」
こりゃだいぶ重症だなぁ·····
私の側から離れようとしないし、完全に甘えモードになってるわ。
治るまで1週間は最低でも掛かりそうかな。
·····まぁ、嫌じゃないからいいけど。
◇
そして私の予想は的中し、その日から一週間くらいフィーロ君は私がどこに行っても必ずついてくるし離れようとしないでずっと一緒に居た。
流石にトイレの中に入ってこようとしたときは怒って追い出したけど、それだけで涙目になってたから相当精神がやられていたらしい。
ちょっと依存しすぎじゃないかなって思ったけど、それくらい愛してくれてたって事だから私は·····
『ぼぐへぁ!!!!』
ドンガラガッシャーンッ!!!
·····なんか、エビの悲鳴が聞こえた。
チッ、こっちは片時も離れようとしない可愛いフィーロ君の事をたっぷり10万文字書こうとおもったのに邪魔しやがって·····
「何エビちゃん、1人で漫才でもしてるの?」
「じ、じどらん····· おながいだいのじゃ·····」
「·····ふざけてないよね?」
「ないのじゃ····· おおぉぉぉ····· こ、こやつめ····· めっちゃ強く蹴りやがったのじゃ·····」
「えっ、蹴られた!?誰に、ソイツぶっ殺してくる」
私は画面から目を離してリビングを見回すと、そこら辺に転がってビクビクしてるエビちゃんが居た。
とりあえずバカにしてやろうと思ったら様子が変で、しかも誰かに蹴られてすっ転んだらしい。
·····私の親友にそんなことする人は居ないと思うけど、居たらちょっと許さないかも。
「殺すなのじゃ····· 腹、腹の子が思いきり蹴りやがったのじゃ·····」
「·····あっ、そういう事?」
「うむ····· というか、腹の内側から蹴られると、聞いたことはあったのじゃが、こんなに強、ぐぶぅっ!!?」
·····どうやらお腹の子供に内側から蹴飛ばされてるらしい。
やっと胎動が感じられるようになったのかな?
いやまて、確かエビちゃんは妊娠19週目だからまだ赤ちゃんはそんなに強くないはずだった気がするぞ?
もしかして、魔族の子供って妊娠6ヶ月前くらいでもう蹴り飛ばしてエビちゃんにダメージを与えられるくらい強い?
「大丈夫?」
「こ、こやつ、将来は大物になるやもしれぬ····· 腹の内側から蹴られるの、マジでキツイいのじゃ·····」
「そうなの?」
「お主、内臓を内側から蹴られたのじゃぞ?しかもなんかめっちゃ強いのじゃ····· ワシの子は可憐で優しい子のはずじゃのに·····」
「でもよかったじゃん、エビちゃんによく似た元気な子そうで」
「誰が暴力的な女じゃ!!ワシは家庭的でお淑やかな優しい女じゃぞ!?」
「あぁん?それ言ったら私は超絶ウルトラ良妻賢母だわ!!!」
「ふん、悪鬼羅刹か鬼子母神の間違いじゃろう?」
「てめぇ誰が鬼だって!?悪鬼はそっちだろクソエビ!!」
「久しぶりにその呼び方をしたのぅ、おい面を貸せ、顔面を凹ませるだけで勘弁してやるのじゃ」
「嫌だね、クロスカウンターで顔面凹ませてやんよ」
「「あぁん!?」」
ボコンッ!!
「おぶぇっ!!?」
「ぐぶぁっ!!?」
私とエビちゃんが額がくっつくレベルの距離で睨み合っていると、私のお腹に激しい衝撃が走った。
状況的に考えて、私はエビちゃんのお腹の子供に蹴飛ばされたらしい。
ついでにエビちゃんにもダメージが入ったみたいだ。
「·····冗談抜きでさ、将来は魔神になるんじゃないの?」
「うむ····· こやつ、強すぎんか?」
私たちはエビちゃんのお腹の子の末恐ろしさに恐れ戦いて、ケンカどころではなくなってしまっていつの間にかケンカを止めてお腹の子供を落ち着かせる方法を模索したのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「はっ!結構強く蹴られたけど私のお腹の子供は····· 良かった、大丈夫そうだわ····· 私の子供も強くなりそうだなぁ」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「·····ソフィちゃんがどこかに行って居なくなっちゃうのが怖い」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「うぐぅぅぅ····· こやつ、ちとヤンチャすぎぬか····· ワシでももうちょっとマシじゃったぞ·····」




