時差
渾天の指輪の機能を発動させて数秒後、渾天儀の中心に恒星のような光が宿ってフィーロ君の指輪とリンクが出来たことがすぐにわかった。
私とフィーロ君の愛情は世界をも超えてしまったのだ。
って惚気てる暇はないので、私は急いでフィーロ君と連絡を取り始めた。
「フィーロ君!いる!?」
『-』
「聞こえた!」
『-』
「何を言っておるのじゃこやつは」
「さぁ·····?」
しかし、指輪から聞こえてくるのは妙な音だけだった。
なんて言うか、ピッ!って一瞬聞こえてくるような、でもどっかで聞いたことあるような·····
「·····もしかして、エビちゃん!時間遅延やるよ!」
「何故じゃ!あまり時をイジるのは良くないのはわかっておるよな!?」
「いいから!『須臾』発動っ!!」
その瞬間、世界の動きが急激に遅くなり始めた。
いつもは狙った倍率まで一気に遅くするんだけど、今回ははゆっくりと倍率を落としていた。
私の予想だと、しばらくすると·····
『ー』
だんだんと聞こえてくる音が長くなってきて、雑音のように聞こえるようになってきた。
そしてどんどん倍率が変化していき、時の流れが1/100になるとだいぶ音が長くなってきた。
『sf!』
「·····まだ早すぎる、でも、わかった、たぶんだけどこの世界は元居た世界に比べて時が経つのが物凄く遅いか、元居た世界が時が経つのが異常なほど早いんだ」
「つまりなんじゃ?」
「時差があるって事、こっちでの1秒は向こうでの100秒以上になってるかもしれないって事だよ」
「ふむ、じゃから遅くしたら聞こえたという訳じゃな」
そう、私の推測は概ね正しかった。
この世界は時が経つのが異様なほど遅いと思われるのだ。
今の須臾の倍率は1/100、1秒が100秒に引き伸ばされている遅延した世界になっているのだが、それでも指輪から聞こえる声はかろうじて音に変化があると気が付けるレベルで音波が詰まって聞こえていた。
という事は、時の流れの差が100倍近く違うという事になるのだ。
そしてその仮説を確実にするため、どんどん須臾の倍率を変化させていくと·····
倍率 1/150
『sfychn!hnzst!!』
倍率 1/200
『ソピツィ!!へじすぃ!』
倍率 1/250
『ソフィちゃん!返事して!!』
「きた!!!聞こえる!フィーロ君!!」
『聞こえるよ!!ソフィちゃん!!!大丈夫なの!?ねぇ、返事してよ!!』
「大丈夫だから!!ちょっと異世界に飛ばされてただけだよ!すぐに帰るから安心していいよ!」
『だって、もう、1ヶ月半も音信不通だったんだよ!!?心配くらい、するに、きまってんじゃん、もう····· 生きてて、本当に、良かったよ····· 早く帰って来てよ、ソフィちゃん·····』
「·····えっ、1ヶ月半!?どういう事!?」
時間の遅延速度を1/250にした瞬間、フィーロ君の声が私の耳にもはっきりと聞こえてきた。
そして指輪から彼の声で意味の分からない事が聞こえてきた。
·····私たちがこの世界に来てから、既に1ヶ月以上経ってる?
まさか·····
確か私たちがこの世界に来てから大体4時間半は経ってたはずだ。
そんでフィーロ君と会話を成立できるようになったのは時の流れが1/250になった場合·····
という事は時の流れが元の世界の1/250になっているという事·····
·····たった1時間で、10日近く経ってる?
だとしたら辻褄がある程度合う、4時間半を250倍すると1125時間、1時間は約47日だ。
1ヶ月は大体60日だから、フィーロ君の言う1ヶ月半とぴったり一致している。
『ソフィちゃん達が行方不明になってから、ガイア様がずっとずっと探してたのに見つからなくて、僕、もうソフィちゃんが二度と帰ってこないんじゃないかって、ずっと心配で·····』
「大丈夫、絶対に帰ってくるから、とりあえずそっちの様子を教えて?」
『うん·····』
そして私にとっては4時間半ぶりで、フィーロ君にとっては1ヶ月半ぶりに、フィーロ君がずっと泣きながらだったけど情報交換を始めた。
◇
あの後途中からガイア様も参戦して話を続けた結果、色々な事が判明した。
・まず元の世界で私が行方不明になってから既に46日近く経過しているようで、その間ずっと音信不通だった。
・数日前にようやくフィーロ君宛てにメールが届いたが、ひたすらSとずっと書かれたメールが一つ届いたことで私たちの生存だけは確認できた。
・この1ヶ月半の間、ずっとガイア様が私の捜索をしていたが全然見つからなかったし、残していた道標も見つからなかった。
・お兄ちゃんもフィーロ君同様にめっちゃくちゃ心配してるし、なかよし組のみんなも、私の家族も、知り合いたちもみんな心配していた。
・フィーロ君とお兄ちゃんは何度か心配しすぎて体調を崩してぶっ倒れて、お兄ちゃんに関しては仕事をしてないと逆に心配しすぎて体に悪いと判断されて、ひたすら町政の仕事をやってる。
・フィーロ君は絶賛不眠症中で、夜になるとミカちゃんの強烈な睡眠魔法を喰らって強制的に寝かされてる毎日を送ってる。
・生活に関してはディメンションルームはガイア様が化身を送って片手間で維持管理をしてくれてて、家事や食事はアキさん率いるシルキー軍団によって元と変わらない生活を送れている。
・世界の情勢とかは特に変化は無くて、しいて言えばスワ町の近くにオークが大量出現してなかよし組のみんなも出動して倒したお陰で死者も出なかった。
・フシ町周辺の魔物の間引きは準Sランク冒険者になったレミアが請け負って殲滅して回ってたものの、信仰対象が居なくなった事でだいぶ凹んでるらしい、てかヤンデレ化してるらしくて帰りたく無い。
・グラちゃんとウェイザ君に進展は無い。
・ウナちゃんとイルミア君は日本で不妊治療を受け始めたけど吉報はまだ。
って感じだったようだ。
·····フィーロ君とお兄ちゃん大丈夫かな。
だいぶ生活が荒れてるみたいだし、早く帰らないとなぁ·····
「とりあえずこっちの状況としては、この世界に飛ばされてからはまだ4時間半しか経ってないからまさかそんなに時間が飛んでるとは思わなかったわ·····そんでこの世界は魔族と絶賛戦争中だったんだけど、問い詰めたら別の人間の国が元凶ってわかって今それを潰してとっとと終わらせようとしてたところだね」
『もしもしソフィちゃん!?聞こえる!?』
「ん?ガイア様?」
『よかったぁ!!!間に合った!大丈夫だった!?』
「大丈夫ですよ、時差が酷い世界に来ちゃったせいで全然連絡に気が付けませんでした·····」
『生きてたらそれでよし!いやー凄いねこの指輪!見事にソフィちゃんの所までリンクしてるよ、あと30分もあれば救出に····· こっちの時間で30分だけど救出できるから待ってて、今すぐ行くから』
「あっちょっと待って下さい、今ここに4人別の世界から····· 日本と類似する国がある世界から来た学生が勇者召喚で来てるんですけど、その人らの救出もお願いします」
『はいはい、被召喚者の送還ね、データはある?』
「あります、そちらにデータを送信するので確認をお願いします」
『えーっと?うん、受け取れてる、なるほど····· 第65082宇宙か、国の名前とか県名とか一部の言葉がだいぶズレててコミュニケーション大変だったっしょ?』
「大変でしたね、でも何とか成立させて、今は城下町へ観光に行ってると思いますよ」
『ふんふん、ちなみに第65082宇宙とソフィたんの居るその宇宙は時差が倍くらいみたいだね、行方不明になってからそれ程経ってないみたいだよん』
なるほど·····
そっちでも時差があるのか、でも少なめでよかったわ、場合によっては1秒で別世界では1000年経ってるなんてことも稀によくある事だし、逆に私の世界とここの時差が1/250程度でよかったわ。
「えー羨ましい····· まぁいいや、んじゃ····· あーガイア様ちょっといいですか?」
『何かな?』
「あと1時間だけここに居てもいいですか?多分時間の流れが大体1/250になってるので帰還は10日くらい後になっちゃうと思うんですけど·····」
『嫌だ!早く帰って来てよ!ソフィちゃん!!』
「フィーロ君、待ってて、絶対に帰ってくるから、それにこの世界は戦争で滅びかけてるみたいだから、一度かかわったからには放ってほけないんだ、すぐに終わらせるから、お願い」
『·····うん、やっぱりソフィちゃんだ、どうせ僕が何を言っても止まらないんでしょ?わかったよ、待っておくよ、でも絶対に、絶対に10日後には帰ってきて!』
「んふふ、当たり前だよ、だって私はフィーロ君の隣が居場所だからね」
「のぅフィーロよ、そこにスマホがあるじゃろ?それでワシの声を録音してくれぬか?愛しの夫に可愛い可愛い妻の声を聞かせてやりたいのじゃ」
何か割り込まれた。
まぁエビちゃんもお兄ちゃんの事を心配してるんだろう。
『えっ、あっうん、わかった、じゃあ録音始めるよ』
「ちょ!?いきなりじゃなお主!?あー、おほん、ラクトよ、元気じゃったか?ワシは元気じゃ、まさか1ヶ月半もお主の事を待たせてしまうとは思わなかったのじゃ、とりあえずワシもお腹の子も元気じゃから安心してまっておくのじゃ、じゃが少し用事が残っておる、10日程だけ待ってほしいのじゃ、ではまたな、愛しの我が夫よ····· よしもう良いのじゃ」
『録音できたよ、後でお義兄さんに聞かせてくるね』
「よろしく頼むのじゃ」
「じゃあフィーロ君、そろそろ私たちはこっちで動き始めるよ、早く終わればその分早く帰ってくるから」
『うん·····』
「ガイア様も、一応そっちの時間で10日後に来てください、全部が終わったら回収お願いします」
『はいよん、お任せあれ~』
さてと、色々衝撃的な事はあったけど伝えたい事は伝えられたし、フィーロ君も一応納得してくれてだいぶ声に元気も戻って来てるみたいだから、そろそろ戦争を終わらせる決定打を作る作戦を決行しようかな。
「·····フィーロ君、なかよし組のみんなにもよろしくって伝えておいて」
『うん、みんな、2人が帰ってくるの待ってるから!』
「んふふ、またねフィーロ君」
「ラクトによろしくなのじゃ!」
『またね、ソフィちゃん』
私はフィーロ君の声を聴き遂げると、連絡を終了したのだった。
さぁ、ここからは時間との勝負だ。
たった0.1秒がみんなと一緒に居れる時間を25秒も削ってくるペナルティのあるRTAの始まりだ。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「まさか、こんなに時間が経ってるなんて····· よし、早く終わらせよう」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「うむ、容赦なしなのじゃ」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「ソフィちゃんもエビちゃんも無事で本当によかった·····」
名前:ガイア
ひと言コメント
『さてと、さっさと現地に行ってくるかな』




