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TS賢者は今日も逝くっ!  作者: すげぇ女神のそふぃ
第五章 TS賢者は妻になるっ!
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想い悩んで



「·····来てくれてありがとう」



 私がぼんやりと海を眺めていると、背後から気配がした。



「やっと見つけた、呼んでくれるの待ってたよ、というかここって·····」


「うん、ここから私の女性としての人生が始まったからさ、何かヒントが無いかなって思って····· でも、フィーロ君の事しか思い出せなかったから、呼びだしちゃったんだ·····」



 夜が明ける前から始まった私の家出は、私の彼氏が迎えに来てくれた事で終わりを迎えた。


 家出の終着点は、私たちが付き合い始めた思い出の地、ルーラル島だった。



 ·····ここからは、話し合いの時間だ。


 私の気持ちは、大体決まった。

 あとは彼に伝えるだけだ。



「ごめんね、黙って出て行っちゃって、ちょっと、もう、どうしようもなくなっちゃってさ·····」


「僕に相談してくれたらよかったのに」


「これは私の事だから、だれにも頼らないで答えが出したかったんだ·····」


「·····わかった、それで、答えは出たの?」


「一応だけど·····」



 フィーロ君は展望デッキの手すりに寄り掛かって海を見ている私の隣にやってくると、家出した私を怒る事も無く、話を聞いてくれた。


 そんな彼なら、私の悩みも決断もきっと受け入れてくれる、そう信じて、私は話し始めた。



「·····まず出て行った理由はちゃんと話すよ」


「お願い、ずっと気になってたんだ」


「出て行った理由はね、一言に纏めるのが難しいんだけど····· そろそろ、赤ちゃんが欲しいなって言う気持ちが限界になっちゃって、でもどうしたらいいのかとか、私ちゃんと親になれるのかとか、色々悩んでたら不安でいっぱいになっちゃってさ·····」



 ·····私が出て行った理由は、妊娠の事が原因だ。


 妊娠したエビちゃんのお腹がどんどん大きくなっていくにつれて私といっつもケンカして先生に怒られてたあの悪ガキみたいだったエビちゃんが母の顔になっていくのを見て、そして赤ちゃんのイデアに触れて、毎日のようにフィーロ君と体を重ね続けて、両親や他の人たちからも子供はまだかと言われ続けて、私の心の中はグッチャグチャになっていた。


 私は男なのに、元男が妊娠して子供を産むなんて、元男が母親になるなんて、母親になれる自信なんてないのに、母になれるような真面目じゃないアホな性格なのに·····


 子供を授かって一児の母になるなんて、非常識じゃないかな·····



 ·····うん、全部私のワガママだってわかってる。


 でも、私に前世なんて無くて、男だった経験も記憶も無くて、純粋な女の子として生まれていたら、こんなに悩まなかったんじゃないかって思う。


 ·····だから、この記憶を書き換えて前世なんて無かった事にしたいって何度も悩んだ。

 でも私は前世があったからこそ今の私が出来ているから、前世の私、藤石 賢人は絶対に消すことはできない。


 男なのになんていう言い訳はただ妊娠するのが怖い事の言い逃れだっていうのも、周囲がとかエビちゃんがとかっていうのも、全部屁理屈····· いや、ワガママだってわかってる。



「·····どうしたらいいの、私」


「後先考えないソフィちゃんも悩むんだね」


「だって、だってぇ·····」



 私は、責任を負いたくないだけだ。



 産んだ子供は比喩なしの神の子として産まれ、生まれてから長くて100年や120年、この世界だったら数万年は生きる事がある。

 その子の人生を、私が全部背負わなければいけない。


 そして、私とフィーロ君には寿命がない。

 それは、いつかは必ず産んで育てた大事な大事な我が子が先に死んでしまうという事、更にその苦しみを何度も何度も経験しなきゃいけない呪いが掛かっている。


 ·····私は前に人生は小説みたいなもの、って言った。

 でも、私がもう一つの物語の作者になっていいのだろうか、新しい本を生み出して、その始まりを私が執筆してもいいんだろうか。


 子供は両親の影響を強く受けるって聞いたことがある。

 そして、私は一応自覚しているけど、16歳にもなって、前世を含めたら43歳にもなって、バカでアホでマヌケで愚かで怠惰で傲慢で自堕落で自分勝手な最低な女だ。

 そんな私を見て、自分の子供に悪い影響が出ちゃうのが怖いし、どういう風になるのかも、どんな子になるのかも、怖い。


 男だった私が自分の子供を育てられるのか。

 右も左も上も下も分らない私が、子供を立派に成長させられるのか·····



 ·····その責任が、全部の責任が、この世に生まれる新たな人間の人生を背負うという責任が、母になるという責任が、親になるという責任が、全部全部のしかかってきて、怖くなっちゃったんだ。



「·····私、どうすればいいの」


「知らない」


「えっ·····」


「僕にだってそんなことわからないし、知らないよ」


「·····そっか」



 ·····わからないよね、私の悩みなんか。


 こんな偏屈な悩みを抱いてる女なんて、世界に私くらいしかいないし、子供が出来るのは嬉しい事なのに、悩んでる方がおかしいに決まってるよね·····


 ·····フィーロ君なら、わかってくれるかなって思ったのに。



「でも、知らないならそれでいいんじゃないかな」


「·····どういう、こと?」


「ソフィちゃんがどうしていいかわからないみたいに、僕だってどうしたらいいかわからないよ、僕も、その····· 夜とかだと感情とか本能に身を任せて妊娠してみたいな事、無責任に言っちゃうけどさ····· 親になる覚悟なんて全然決まってないし、ソフィちゃんを妊娠させていいかとか、子育てを手伝えるかとか、赤ちゃんを産む苦しみを全部ソフィちゃんに押し付けていいのかとか、ソフィちゃんほどじゃないかもだけど悩んでるよ」


「そうなんだ·····」


「でも、僕は結論は出てるよ? こうやって考えてばかりじゃいつまでたっても前に進めないんだからさ、もう、いいんじゃないかなって僕は思うよ」



 ·····確かにそうだ。


 思い悩んで止まっているのは私らしくない。



「·····悩まない、考えないっていうのも、アリなのかな」


「いいんじゃないかな、それに僕も恥ずかしいけど子供を授かる時ってみんなどう思ってるんだろうって調べた事があるんだけど、不安がないって答えた人は居ないみたいだよ、みんな何かしら不安を抱いたまま産むんだから、別に気にしないでもいいと思う」


「うーん·········· うぁぁああああああああっっ!やっぱり無理、どうしても、やっぱり、わかんないよ!私は、私はっ、どうすればいいのっ!!」


「ソフィちゃんは1人じゃない、だから周りの出産経験者に、ソフィちゃんのお母さんとか、僕のお母さん、あと校長先生にも聞いてみるのが良いよ、わからないなら経験者に聞くのが一番じゃないかな」


「でも、恥ずかしいし·····」


「恥ずかしがってたらいつまでも事態は動かないよ、だからアレコレ悩む前に行動しちゃいなよ、たぶん悩み過ぎてるだけで意外と何とかなるんじゃないかなって僕は思うよ?」


「·····案ずるより産むが易し、かぁ」



 まさに読んで字のごとく、今の私にぴったりな感じのコトワザだなぁ·····

 昔の人も、子供を産む前は悩んでたんだろうな·····



「話を一番最初に戻すけどさ、ソフィちゃんは子供は欲しいっていうのは間違いないんだよね?」


「うん····· 欲しいけど、私が産んでもいいのかなって·····」


「いいよ、僕もソフィちゃんとの子供が欲しいからね、·····僕はまだ父親になる覚悟も決まってないけどさ、僕の子供、産んでよ、悩むのも苦労するのも喜ぶのも、全部それから考えよう?」


「っ!·····そっか、そうだったんだ、ありがとうフィーロ君、私、やっと····· やっとわかったよ」



 ·····私が求めてた答え、見つかったよ。



 色々悩んでた。

 どうすればいいかわからなかった。

 性転換も転生も経験した私が母親になるなんて。

 こんなダメな女が子を持つなんて。


 ·····そんなの言い訳でしかない、だから、答えなんてなかった。



 私が本当に望んでいたモノ、私がフィーロ君に言われたかった事、彼の口からききたかった言葉、それが本当の答えだったんだ。





 私、フィーロ君に、子供が欲しいって言われるのを待ってたんだ。





「私もフィーロ君の赤ちゃんが欲しい····· かな、なんて、んへへ·····」



「ソフィちゃん····· ありがとう、僕の我儘なんかを聞いてくれて」


「ううん、私の方こそごめんね、フィーロ君に赤ちゃんが欲しいって言われたいだけだったのに、気が付けなくて、言ってくれるよう頼めなくて、勝手に出て行っちゃって、ほんとに、ごめんね·····」



 一番好きな人に、一緒に親になる人に、私の体も人生も何もかも全てを預けて捧げて支えれくれる人に、赤ちゃんが欲しいって言われたかったんだ。


 これが乙女心なのか、男だった私にはわからない。

 ·····でも、その気持ちの複雑さだったらきっと乙女心と引けを取らないと思う。



 フィーロ君も私も悩んで悩んで、2人とも同じ結論、赤ちゃんが欲しいっていう気持ちが一致した。


 それが知りたかった、赤ちゃんが欲しいって言われたかった、父になるって、母になるって、言われたかった、言いたかった、ただそれだけなのに、悩んでたんだ。



 ·····アホらしいな、私。

 いや、アホだな私って。



「よろしくね、フィーロお父さん?」


「こっちこそ、僕も支えるから頑張ってね、ソフィお母さん?」



 フィーロ君は私の肩を抱いてくれて、寄り掛からせてくれた。


 ·····昔は一緒の身長だったのに、女の子みたいだったのに、気弱で軟弱な感じだったのに、フィーロ君の手も体も、いつの間にか私より大きくなってる。

 いや、心もきっと大きくなって、私も私たちの子供も包み込めるくらい大きく暖かくなってるのが、こうして触れ合っててよくわかる。


 ·····幸せだなぁ。



「ソフィちゃん、ずっと外に居たでしょ」


「うん、ほとんど外を歩き回ってた」


「体かなり冷えてるよ、とりあえず上着掛けてあげるけど、なるべく早く帰ろう?冷えるのはお腹の子供にも良くないんでしょ」


「ありがとう····· まだ赤ちゃん居ないけどね」


「知ってるよ、でも冷やすのは良くないから早く戻ろうよ····· 僕、上着無くて寒いし」


「そっか、みんなも心配してるだろうし帰ろっか」


「うん」



 私の悩みは太陽と一緒に水平線の向こうに消えた。

 それに、フィーロ君も居るんだから、不安なんてもう無い。



 私はフィーロ君に掛けてもらった上着の温かさを感じながら、彼と手を繋いで、一緒にディメンションルームへと帰って行った。



名前:ソフィ・シュテイン

ひと言コメント

「·····みんな、帰っても怒らないで心配してくれた、うん、みんなが居ればきっと大丈夫」


名前:フィーロ

ひと言コメント

「·····正直ものすごく不安だけど、きっと僕とソフィちゃんなら大丈夫」



この話の続きは19時投稿予定です、ここでは投稿できませんが·····

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