虹は個を描く
「私、怒ってる」
「ふぬるぁぁぁあああああああ!!この私の偽物めぇぇえええええええ!」
ベチン!
ペチィ!!
ぬぺたんっ!!!
ポヨヨンッ!!
「·····ねぇ、何やってんの?」
「コイツが!私の体を基礎にヴィエルグランツに進化したのに!!胸が私より大きいんだもんっ!!!」
「これが平均、ソフィは平均より小さいだけ」
「ふんにゅぅるぃぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
「ちょっと!ソフィちゃん発狂しないで!!」
「こ、怖い·····」
「誰が!平均以下じゃ!ゴッルァぁぁああああああああああああ!!!!」
その後、私たちが騒いでるのを聞きつけたなかよし組のみんなが駆け付け、頭に血が上り切っていた私はアルムちゃんやフィーロ君によって取り押さえられたのだった。
◇
取り押さえられて私には絶対に突破できない最強の拘束具で拘束された私は、とりあえず床に正座しながらみんなに事情を説明していた。
ちなみに最強の拘束具はフィーロ君が手作りしてくれたマフラーだ。
私だったらアダマンタイトの鎖でも破壊できるんだけど、フィーロ君の手作りマフラーでまかれると壊すのは絶対嫌だから抜け出せなくてさ·····
「えーっと、なんでドッペルゲンガーちゃんとケンカしてたの?」
「ちがう、私はドッペルゲンガーじゃない、ヴィエルグランツのアヤメ」
「えっ!?ソフィちゃん名前つけたの!?」
「ヴィエルグランツってそんな魔物居たかしら·····」
「お城の図書館の古い本に載ってたような気はするけど、よくわかんない·····」
「ワシも初めて聞く名なのじゃ、じゃがドッペルゲンガーが進化するというのは知っておった、確かアレインドゥンケルじゃったよな?·····まさか、進化先がもう一つあったとは思わないのじゃ」
「·····初めて、知った」
「えーっと、説明するね、ドッペルゲンガーは特定条件を満たすと二種類のどちらかに進化するんだけど、今回はヴィエルグランツっていう魔物に進化した感じだね」
「初めて知った····· ドッペルゲンガーでさえ珍しいのに、その進化先があるなんて·····」
「そりゃアレインドゥンケルでさえ町一つ潰すくらいの人を取り込まなきゃ進化しないし、ヴィエルグランツに至ってはその上で魔物としての本質の人に成り替わる事を捨てて人の心を得なくちゃなれない進化先だからウルトラレアに決まってるじゃん」
·····実は、それぞれに更にもう一段階進化先がある。
もう闇落ち側の進化は無いから明かしちゃうけど、アレインドゥンケルの進化先は『ナイアルラトホテップ』だ。
惑星単位で生物を取り込んで無貌の存在へと至った影、それがナイアルラトホテップの正体だ。
·····まぁ、そこまで至ったのはこの宇宙の近隣宇宙でたった一人だけ、それが私の目の前に居る人間の一個体に取り込まれて名を得てしまった『ラーちゃん』だけなんだけどね。
ヴィエルグランツは····· うん、ヴィエルグランツも神に関わるとだけ。
「·····で?なんでケンカしてたの?」
「だって!!コイツ顔を見ればわかるけど私の顔を元にしてるクセにバストが私より大きいんだよ!?」
「これが、普通サイズ」
「むぬぁあああああああああああああああ!!」
「うーん····· 確かに平均くらい?」
「いろんな人に変身して、ソフィと同じくらいの年齢の女性の平均をとった、·····アルムは大きすぎて例外だから除外してる、アルムを入れたら倍くらい大きくなる」
「え、ワタシ例外判定?」
「うん」
「·····ていうかソフィちゃんが勝手に怒ってるだけじゃん」
「だってぇ·····」
「ソフィ、痛かったのに胸をずっと叩いてきた」
「ソフィちゃ~ん?」
「まったく·····」
「罰が必要そうね」
「くすぐる?それとも·····」
「とりあえず胸はワシより縮むくらい引っ叩いてやるのじゃ」
「ん、それがいい」
「えっ、ちょま!ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
◇
「んひぃ····· 胸が痛い·····」
「ちゃんと反省したんだ、珍しいじゃん」
「叩かれて痛いだけだよっ!!もー!!!」
私はみんなにけちょんけちょんにやられたけど元気です。
·····胸がめっちゃ痛いけど。
あっ良心が痛むとかじゃなくて物理的にね。
「そうだ、アヤメについてなんか聞きたい事ある人いる?」
「しつもーん、今のアヤメちゃんってどういう感じなの?」
「えーっと、見た目や思考はかなり人間に近いけど、身体能力とか魔力は魔物っていう感じだね」
「つまり僕のお姉ちゃんみたいな感じってことで良い?」
「バルタお姉さんだよね、そうそう、状況は違うけどああいう感じかな?」
人間と共に歩もうとする魔物は、実はドッペルゲンガーだけじゃなくて他にもいる。
例えばフィーロ君の姉のバルタお姉さんなんかは寄生型の魔物に全身を乗っ取られ、肉体は魔物と化したにも関わらず人の心を持ち続け、魔物の本能を人の心で上書きした稀有な存在だ。
他にもアキさんなんかは元から人と共存する事を定められた魔物だったり、アシュラスケルトンさんもあまり人と関わろうとはしないけど人間には友好的だ。
さらに言えば、魔族なんかは体内に魔石のような結晶体を持っているから魔物に近い存在····· いや、『魔物になった人間』が魔族だ。
ちなみにエルフやドヴェルグなんかにも魔石に該当する器官はあるけど、なんかちょっと違うらしくて魔物の一種とは認識されておらず人類種の亜種という定義になっているそうだ。
「それならなんとなくわかるかも·····」
「魔物ってよく分からない生き物だよね」
「そもそもエビちゃんも分類上は魔物だし、アキさんとかも魔物で、グラちゃんに至ってはダンジョンっていうイレギュラー中のイレギュラーだからね?ついでに私とフィーロ君は神だしウナちゃんは精霊化してるし、アルムちゃんは勇者だし、ミカちゃんは天使だし·····」
「本当に僕たち全員よくわからない生き物じゃん·····」
そう、ぶっちゃけ私たちの中にマトモな人間なんて一人も存在してない。
何ならここに居ないチェルやリリアも普通のエルフやドワーフじゃなくなってるし。
チェルはまだギリエルフだけど元々ハイエルフに近いエルフだったみたいだし最近では世界樹ユグドラシルに気に入られて進化し始めてる。
リリアに関しては原初のドワーフであるユミルドワーフへの先祖返りを起こしちゃったし·····
「そそ、だから別に今更魔物が加わった程度じゃ····· ね?」
「別に私たちは嫌という訳ではないわよ、多分みんなもそうでしょう?」
「僕も別に魔物ってくらいじゃ問題ないけど、アヤメちゃんは魔物だからもしバレたら·····」
「そこら辺は大丈夫、ヴィエルグランツは擬態能力が限定される代わりにその精度が完璧な状態、99.9%人間に、魔力の質も人間の物に変化できるから、王都の結界でも魔物が侵入したと気が付かれないよ?そもそも街中に魔物が絶対に入れないって訳でもないし·····」
そう、実は街中に魔物が入る事は意外と普通の事だったりする。
例えば馬車を引く魔物とかは普通に街中に入れるし、町に散らかったゴミの掃除で無害なスライムが普通に居たり、鳥や魚や蟹の魔物、それに魔族なんかも街を普通に出入りできるのよね。
だからヴィエルグランツみたいに魔力を完璧に人間の波形に変化させられる魔物だと結界を素通りできてしまうし、どうしても残ってしまう魔物特有の波形は街中に侵入できてしまう無害な魔物の波形と一致している上にその信号の高さも引っかからない程度にしかない。
更に彼女の擬態は究極レベルで高く、私もよく見ないと魔物と気が付けないレベルで人に近い魔力を持っているのだ。
「だから大丈夫、人間じゃないって気が付けるのは校長先生レベルの実力者じゃないと無理だよ」
「なら大丈夫かな····· でも気を付けてよ、アヤメちゃんもソフィちゃんも」
「大丈夫、みんな受け入れてくれた、きっと他の人も受け入れてくれる」
「希望的観測は良くないけど、まぁ別にテイムした魔物って言えば何とかなるし気にしなくていいよ」
この世界には魔物使いという職業があって、そういう人らが従えてる魔物はギルドが発行する許可証が必要だが街中に入れてもOKとなっている。
あとは高度な知能を持つ魔物自身が申請して登録する『知性的魔物証明書』という資格を手に入れる事でも人々と共に暮らす事ができる。
こっちは主にシルキーさんが自己申請する資格で、シルキーは大きな貴族の屋敷には大体いるからそういう資格があったりするのだ。
あとでアヤメもこの資格を取らせようと思ってるけど、まだ年始でギルドのそういう資格系の受け付けをやってないからもうちょい後になるかなぁ·····
「そうじゃ、質問なのじゃ」
「はいはい?」
「そやつ、ヴィエルグランツとか言っておったがどんな感じの能力があるのじゃ?」
「えーっと、ヴィエルグランツはアヤメみたいに個としての自分を認識してるせいで姿が固定されちゃってドッペルゲンガーが持つ変身能力が限定され、一日あたり3時間くらいしか変身できなくなるっていう弱点が産まれるんだけど、その代わり完全に別人へと変化することが可能になるのが特徴かな?思考や喋り方や癖、魔力や魔法や身体能力や技能なんかも完コピできるよ」
「凄いのぅ····· やはりヴィエルグランツは凄いのじゃ·····」
「おい!今のワシじゃないのじゃ!なにさりげなく変身しておるのじゃ!!」
「別に良いじゃろ?ワシの能力なのじゃから使うのはワシの勝手じゃ、お主が口答えするでない」
「むがあああああああああああっ!!!なんか、ウザイのじゃああああああああああ!!」
「ぷっ、こやつ自分が自分に煽られてキレておるのじゃ、あーおっかしいのじゃ」
「ふんぬるぅあぃぁぃいいぃいぁああああああああああああ!!!」
「す、すごい·····」
「ソフィ、変身する相手は一日1度しか変更ってできないのかしら?」
「いや、別にそういう事はなさそうね、一日に何度でも変身できるみたいよ?」
「わ、私に変身した?本当にできるのね····· というかエビちゃんが嫌がってたのわかるわ、気持ち悪くなるわね·····」
「えー?そう?わたしは普段からそんな感じだから」
「別に関係ないよねー」
「ねー」
「ウナ・ウェア・ラー・サーの四人で話してるから違和感は無いわよね」
「わかるー!5人になってもわたしたちはわたしたちだもんね!」
「·····本当に違和感がないや」
「まぁ、今更ウナちゃんが1人増えたとことでいつもの事だもんね」
「こ、今度は僕の番なんだ」
「私もできるよ、これで男の僕と女の私、2人になれるね」
「ちょ、まって、僕は僕だから·····いや僕じゃなくて、ええと、その·····」
「いいなー、ワタシが2人になったら····· ぐへへ····· ワタシ同士で····· ぐっへへへ·····」
「あっ、ちょっとそれは·····」
「えー!!!ちょっと!そこはちゃんとワタシになり切ってよー!!」
「ご、ごめんなさい·····」
「ん、謝る必要はない」
「ん、ありがと」
「おー、わたしだ、ねむい?」
「ん」
「「·····すやぁ」」
っとここで、アヤメが自身の能力を披露してくれた。
みんなに完全に変身して、喋り方や思考まで完全コピーして混乱させて遊んでいるようだ。
·····まぁ、変態アルムちゃんの時は流石に素が出ちゃってたけど。
「そんなわけで、ちょっと混乱するかもだけどアヤメが時々ここに来たりするけど歓迎してあげてね」
『『了解』』
「みんな、よろしくおねがいします」
「·····一つ良いか?」
「なに?」
「ワシらに変身してからかうのは絶対にやめてほしいのじゃ····· 頭がこんがらがるのじゃ·····」
「わかる!いや別にワタシはいいけど····· ぐへへ·····」
「僕も····· うん、あまり····· うーん·····」
「私も混乱するからちょっと抵抗があるわね、するなとは言わないけど控え目が良いわ」
「わたしはだいじょーぶ!!」
「ん、特に問題ない」
「むぅ·····」
「あーもう!ワシの顔になって泣くな!お主あの精神が図太すぎるソフィを元にしたにしては精神が弱すぎじゃろ!!わかった!程々にすればやって良い!!」
「ありがとう、エビちゃん」
「今回だけの特別じゃぞ!勘違いするでない!!」
こうして、私たちの中に誰にでもなれる確固たる個を得たドッペルゲンガー改めヴィエルグランツの『アヤメ』が加わったのだった。
名前:アヤメ
ひと言コメント
「私は私、たとえ誰に変わっても、私はアヤメっていう一人の人物、もう誰でもない影じゃないから」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「私は自分を複製して行動できるからアヤメが私になっても別に違和感はないかな?それに·····私に限ってはアヤメは20%くらいしかコピーできないからね」
名前:アルム
ひと言コメント
「流石に自分を襲うのはなんかアレだからやめよっかな、でもやっぱりワタシって可愛いから····· ぐへへへへへ·····」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「アヤメちゃん、可愛い····· そういえば、人は顔の平均値に近い顔を美人だって感じるって聞いた事あるかも····· あとアヤメちゃんはソフィちゃんに似てるから好きなのかも····· ううううう浮気じゃないよ!?」
名前:グラちゃん
ひと言コメント
「魔物だからってだけで少し偏見があったわね、申し訳ないわ」
名前:ウナちゃん
ひと言コメント
「5人目のわたしの名前どうしよ····· もう使うところがない····· 『・・』でいいかな?·····流石に嫌かも、うん」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「ふむ?流石に二人同時に変身は不可能なのじゃな、腹の子までは再現できなかったのじゃ、というか妊娠状態ではないな、なるほど····· ヴィエルグランツ、中々面白いのじゃ」
名前:ミカちゃん
ひと言コメント
「ねむい····· おやすみ·····」
「ちょっとまって!いまのワタシのひと言コメントじゃないよ!?」
「僕も言った記憶ないよ!?」
「ま、まさか、アヤメが変身して勝手に言ったのかしら?」
「うんうん!わたしたちに聞いたけどまだ誰も言ってないって言ってた!」
「あやつ!!早速やってやがるのじゃ!!あっ!あそこにアヤメが居ったのじゃ!!」
「·····あんま変わんない?」
「·····あっやば、·····てへっ☆」
『『アーヤーメー!!!!』』
「こういう時は、逃げるが勝ちっ!」
『『まてー!!!』』




