孤独な影よ煌く虹となれ
「·····え、名前?」
「うん、名前が、欲しいの」
それは新年が始まってしばらくして、妊娠10週目に入ってつわりが一番つらい時期に入ったエビちゃんがくたばってるのを介護してると、私を元にしたドッペルゲンガーが訪ねてきて『名前が欲しい』と言ってきた。
ドッペルゲンガーは彼女の名前ではなく、ドッペルゲンガーという魔物の名前だ。
·····魔物が個体名を持つ場合は何パターンかある。
・非常によく目立つor見かける魔物の個体(レディクルスさんや玄武さんなどが該当)
・非常に強力で、特異的に強くなった魔物の個体、いわゆる二つ名持ち(マッスルマッシュ『ノーススター』さんなどが該当)
そして、もう2つだけ名前が付く場合がある。
・人に化けた魔物が人の名前を受け継ぐ場合(人間に化けたドッペルゲンガーなどが該当)
・人と共に生きる事を覚悟し、人に名前を付けてもらうor名前が付けられる場合(そこらへんで飼われてるペットのモフウサや馬車を引く魔物、家事精霊シルフィーのアキさんなどが該当)
彼女は、きっと最後のパターンを望んでいるのだろう。
「覚悟、できたみたいだね」
「うん、私は魔物、でもヒトをたくさん見て、沢山の人の記憶を貰った、だから、私は·····人間になりたい」
「·····魔物は人間にはなれないよ」
「うん、しってる、それでもいい」
「そう、それなりに覚悟はしてきたみたいだね」
私は判断を全て彼女に任せていた。
ドッペルゲンガーをアルムちゃんのお店に派遣させていたのは、良くも悪くも人間とのコミュニケーションが発生し、沢山の人々に触れる仕事だからだ。
アルムちゃんのお店にも時々理不尽なクレーマー来る、それを見て、自分で対応して、彼女は人間は愚かと感じるかこういう人も居ると割り切って受け入れるのか·····
それを判断させたかったんだけど、どうやら彼女は人間の味方をする事に決めたようだ。
·····一応こうなるとは察してたから、事前にドッペルゲンガーの生態は調査済みだ。
「別にいいけど、名付けると色々障害が発生するよ、元の自由に姿を変えられるドッペルゲンガーとは別の魔物になるけど、いいの?」
「いい、別の魔物になっても私は私だから、たくさん人と話して、私の存在が確立できたから、大丈夫」
「ちゃんと自我も確立してたのか、んじゃいいよ、名前ね、別に自分で決めてもいいんだよ?」
「ううん、決めてほしい、ソフィは、私のお母さんだから」
·····うーん、私が調べたのはドッペルゲンガーという魔物の生態だけで、このドッペルゲンガーはちょっと特殊個体すぎて予測不可能っ!!
私はお母さんじゃないわ!!
「·····私は君のお母さんじゃないよ」
「でも、私の元になった人、何も知らない私に色んな事を教えてくれて、私をヒトにしてくれた、ヒトはそれをお母さんって言うって、教えてもらったから」
·····困った、想像以上に困ったぞこの子。
いや確かに母親としか言いようがないけどさ、それは違くない?
むぅ····· どうするべきかな·····
「とりあえず名前は考えてあげるけど、どんな感じがいい?」
「どんな感じでもいい、でも、私らしい名前がいい」
「むぬぐぅ·····」
名付けるのって意外と難しいんだよ?
そう簡単に言われてもさぁ·····
·····でも、出来ない事は無い。
「まず名前を付ける前に、もし個体名を得て人間と共存すると決めたら何が起きるか、ドッペルゲンガーの進化先とかも教えてあげるから、そこに座って」
「うん」
そう言うと、ドッペルゲンガーはソファに腰掛けた。
ちなみにエビちゃんは私の回復魔法をたっぷり浴びて、魔力の実をたらふく食べて悪阻が楽になったのかお兄ちゃんの居るフシ町の実家へフラフラと帰って行った。
「んでまずはドッペルゲンガーの進化先だね、ドッペルゲンガーは二択の進化先がある、まず正統派の進化先である大量の人々を乗っ取り続けて恨みや怒りを継承していくと変化する『アレインドゥンケル』、そして希少種の人に変化し続けたにもかかわらず人の人生を乗っ取る事をほぼ経験しないで、人々の希望や幸福の意味を知り、受け取り、理解して人と共に歩むことを選ぶと進化する伝説の魔物『ヴィエルグランツ』の二択しかない、そして、キミは····· ヴィエルグランツしか選ぶことはできないね」
「ヴィエルグランツ·····」
「ヴィエルグランツの進化条件はさっき言った通り、沢山の人に変化したにもかかわらず他人を乗っ取る事をせずに、その上で人の名前を略奪せず、人と触れ合い自分自身で人の心を得る事が条件で、そして自分自身をドッペルゲンガーではなく人として認識したうえで、信頼する人間から人としての個体名を付けられることで進化するんだ、そこはいい?」
「うん、大丈夫、だって本能で分かるから」
「そ、というか話し方も私から随分離れてるみたいだし、個を獲得できたのは間違いないみたいだからあとは名付けるだけだけど·····」
「名前、欲しいから、お願い」
·····幻の魔物『ヴィエルグランツ』、それは虹色に輝く人のような魔物と言われている。
場合によっては魔物ではなく精霊や神の一種として語られる魔物だ。
その正体は、産まれた時から持つドッペルゲンガーという魔物の本能·····いや、本質を捨てて人と共存する形で人になる事を覚悟して受け入れたドッペルゲンガーだ。
2人の影を意味するドッペルゲンガーではなく、孤独な暗闇を意味するアレインドゥンケルでもなく、沢山の人の心に触れて沢山の光を見てきた、多くの光を意味する『ヴィエルグランツ』、その進化条件は非常に厳しい。
さっきも言った通り、沢山の人に化ける、他人を乗っ取らない、人々に受け入れられる、自我を確立する、誰かに名前を付けてもらう、これが進化条件だ。
大量の名前を奪い、自我を奪い、全てがまとまって真っ暗になった減法混色の成れの果てであるもう一つの進化先とは大違いで、全てが合わさり純白になった加法混色の極致にある進化は非常に難しい。
でも、やってのけたんだから私は何も言わない。
クレーマー対応とかで闇を混ぜようとしたのに乗り越えたんだから、もう戻る事は無いだろう。
「·····白色ってね、色々な色が混ざって出来てるんだよ」
「どういうこと?」
「赤、青、緑、黄、紫、水·····その全てが合わさって白くなる光の現象の事、白色は虹色を一つに纏めた、複数の光の色をまとめた色なんだよ」
「なるほど、凄い」
「たくさんの人に触れて、人の心という色を経験して、その色を自分に塗って、それでも白色で居る事を選んだんでしょ、·····良い名前、思いついたよ」
「教えて、早く」
白色は加法混色で全ての色が混ざった色。
何物にも侵食されていない美しい色は、全ての色が混ざり合ってできた過去を持つ。
黒から始まり、色が混ざって白になる。
「·····虹、そこから転じて虹の女神イリス、イリスだけじゃひねりが足りないしつまらない、それに私は名前に花って付けるのが好きなんだ、だから·····」
「·····おしえて?」
「君の名前はドッペルゲンガーじゃない、虹の女神が愛した花の名前からとって『アヤメ』、ヴィエルグランツのアヤメなんてどうかな?」
「アヤメ、うん、すごくいい、·····ありがとう、名前、考えてくれて」
「私をヒトとして見てくれて、嬉しかった」
「私をあの時殺さないでくれて、ありがとう」
「私、ヒトとして生きられて、楽しかった」
そして、どっかで見た事ある感じで、多分私の記憶を根底にした影響で、ドッペルゲンガーはソファから立ち上がると、私の方を見て笑顔のまま、後ろ歩きで私から離れて行った。
「·····さようなら、お母さん」
次の瞬間、ドッペルゲンガーは爆散して光となり、目が開けられない程の光が収まると、元居た場所の周囲に彩雲のような光が漂うだけになってしまった。
だが、ここからだ。
「·····ヴィエルグランツ、いや『アヤメ』戻っておいで」
うん。
私の耳にそう聞こえた瞬間、周囲を漂っていた彩雲が一ヶ所に集まり始め、虹色の層ははどんどんと虹の層がきめ細かくなり、輝きを増して、色とりどりの虹は世界の法則に従い、一つの色へと、穢れ無き純白へと変化し始めた。
そして、光は人の形になると、今度は爆散することなく、静かに光が収まった·····
いや、彼女に一体化した。
「·····成功した、かな」
「大丈夫、ちゃんと進化できてるよ、おめでとう、アヤメ」
「うん、よかった」
彼女は私のコピーである影の存在から、人の心に触れた光の集合体であるヴィエルグランツへと、個を持つ魔物へと進化できたようだ。
·····彼女に、もう私の面影はほどんどない。
どこか私と似ている、私と同年代の女性·····
「·····おい」
「なに?」
「それなんだ」
\たゆんっ/
「·····えっ、知らない」
「·····私より大きいとかどういうことだあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
\ベッッッチコンッッ!!!!/
「いたいっ!!!!」
何故か私をコピーした癖に私より一回り大きい胸を、私は怨み全開でひっぱたいた。
そしてドッペルゲンガー改めヴィエルグランツのアヤメは、真っ白な髪の色を感情で変化させ、痛みを示す赤と黄色に目まぐるしく変化させていたのだった。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「クソが、なんで私より大きくなるんだよ!!!あーーもう!!最近豆乳飲むの忘れてたバチがあたったのかー!!くそっ!くそっ!いやまだだ!まだ成長期は終わってない!バストサイズは最低でもあと一まわり大きくなりたい!!Cカップは欲しい!!!」
名前:アヤメ
種族:魔導目精霊科魔物属ヴィエルグランツ
ひと言コメント
「い、いたい····· これが、痛いっていう気持ち、これが、理不尽って感情、これは····· 怒り·····?これが·····怒り·····ッ!!」




