煩悩は年末で置いてけ
グラちゃんの地元の友達を加えた私たちは、相変わらず建物の影から顔だけを覗かせて2人の動向を見守っていた。
『·····さっきは逃げて悪かったわ、それは謝っておくわ』
『まぁ、いきなりだったからな、こっちこそ悪かった』
2人は防波堤というか護岸に腰掛けて、海を見ながら話をしている。
今はグラちゃんがさっき逃げた事を謝って、ウェイザ君も突然言った事を謝っていた。
「さっさとキスしないかなぁ」
「見ててもどかしいなぁ·····」
「·····ソフィちゃん、それワタシたち9年くらいずっと思ってたんだけど?」
「うんうん、ずーっといつまでたっても告白どころか好きとも言わなかったソフィちゃんとフィーロ君の方が酷かったからね?」
「それ、マジでそれなのじゃ、お主らのせいでワシはずっと砂糖を吐き続ける羽目になったの忘れてないのじゃ」
「ねむ·····」
「うわわっ!ちょっ、この子アタイの上で寝始めてるんだけど!?」
「起きて〜?」
「まぁ寝かせておいてやれよ、ソルは体強いだろ」
えっ、なんで私が責められる流れになってるの?
というかフィーロ君も巻き添え食らってんのに黙ってるし!これじゃ私だけのせいになるじゃん!!
このままじゃ私、地面に埋められる羽目になるから、たす、たすけてぇぇえええっ!
『·····返事、聞きたいかしら?』
『あぁ·····』
「み、みんな、私を埋めるよりもっと重大な事が起きてるからさ?ねぇ、ちょ、あ゛ーーッ!!むぐっ!!」
『『うるさいっ』』
私は口にタオルを詰め込まれ、為す術なく地面に垂直に埋められてしまったのだった。
そこはグラちゃん達が話を始めて私を埋めるのをやめて話を聞くパターンでしょ·····
◇
私は地面に埋められて地面に置かれた生首みたいな状況になりながら、私を埋めた犯人たちと一緒に2人の様子を見守っていた。
『正直に言うわ、貴方が自分の思いを私に打ち明けてくれたのは嬉しいわ』
『良かった、嫌われたのかと思って不安だったんだ』
『何も言わずにあの場を去ってしまって、不安にさせたのは悪かったと思ってるわ、ちょっと冷静になれなかったのよ·····』
私が地面に埋められてる事なんか全く気にせず、グラちゃんとウェイザ君は話を始めた。
『戻ってきてくれただけで嬉しいから気に病むなよ、まぁ、俺としてはこれからも普通に親友でいてくれると嬉しいと思ってる』
『相変わらず思った事が口に出る性格、治ってないのね』
『いや、今はちゃんと考えて言ってるぞ』
『そう、本当かしらね?』
ウェイザ君は思った事をつい言っちゃうタイプの性格なのか·····
でも聞いた限りだと変な事は言ってないから、素で真っ当な性格なのか、それともちゃんと考えて言えるようになったのか·····
まぁ、真相を知ってるのは本人だけだろう。
『それで、返事だけれども、貴方の気持ちは嬉しいわ、ただ·····』
『·····なんか、ダメっぽい感じだな、まぁ分かってたけどな、公爵家の令嬢と庶民じゃ釣り合わねぇって』
『違うわ、私も、よく分からないのよ····· いつも縁談で公爵の娘という立場としてしか見られてなくて、私自身を好きと言ってくれる人なんて居なかったのよ、貴族の立場抜きで好きだと言われたらどう反応していいのか、わからないのよ·····』
『·····そうか』
『だから、もう少しだけ答えは保留にさせて欲しいのよ、気持ちが定まってないのに答えを出すのは嫌っていう私の我儘だけれど、いいかしら』
『ワガママは貴族令嬢の十八番だろ、好きなだけ言っていいからな』
『ありがとう、ウェイザ』
『どういたしまして』
『私も少しずつしか出来なそうだけれど、気持ちを整理していくわ、もしウェイザが望む答えを私の口から出て欲しいなら、貴方もちゃんと動きなさいよ』
『当たり前だ、俺はグラシアルの事が好きだからな』
『·····まったくもう、私は慣れてないんだから、そうやって率直に言うの、やめなさいよね』
「あちゃー、答えは先延ばしかぁー!」
「まぁまぁ、春はまだ先だから、ボク達は2人をサポートし続けるのがいいだろうね」
「むーぅ、ズバッと行けばいいのに」
「ありゃまー、そうなっちゃうかぁー、まぁ何となく察してたけどさぁ·····」
「でもお互いに悪い感情は抱いて無さそうだし、グラちゃんに問題があるだけで後ちょっとひと押ししたら行けそうだよね!」
「僕も応援してるよ、グラちゃん·····!」
「もー、ブチューッてしちゃえばいいのに」
「乙女心は乙女にも分からぬモノなのじゃ、まだ時間はある、ゆっくりやっていけばいいのじゃ」
「すや·····」
グラちゃんの答えは、ひと言で言えば『保留』だった。
でも話を聞く限りではお互いに好意はあるみたいで安心した。
でも、ウェイザ君はグラちゃんに明確に好意を抱いてるけど、グラちゃんはウェイザ君の事が何となく気になるくらいの曖昧な感情なのだろう。
だから2人の感情がちゃんと一致して、同じ『好き』という感情になりたいって考えてるんだろう。
焦れったいなぁ、まったくもー·····
告白しちゃえば楽なのにさ?
あっちょっ、蹴るのやめて、私はサッカーボールでもウリアナ・ナールのボールでも無いからぁ!!
あっ!ウリアナ・ナールってこっちの世界の球技ね!魔法を使ったサッカーみたいな感じの競技で、ちょっ!やめ、エビちゃんが蹴ったら首の骨が折れるだけじゃ済まないから!
ウリアナ・ナールしようぜ!お前ボールな!しちゃううううううっ!!!
『さてと、私はそろそろ行くわ、元々ウェイザとのランチが終わって少ししたら帰る予定だったし、いいわよね?』
『あぁ、ごめんな、最後の最後で台無しにして』
「むっ、始まったのじゃ」
「きたきた!どうなるかな、別れ際が肝心だよ!」
「た、助かった·····」
よかった、今度こそグラちゃんに助けられたわ·····
『上着濡れちゃったわね、持ち帰って洗って返すわ』
『いや気にしなくていい、その程度なら干すだけでいいから』
『いいから、この上着のお陰で濡れずに済んだのよ、そのお礼よ』
『いや、でも····· 痛っ』
『どうしたのかしら?』
『何でもない、わかった、でも返すのは年明けで落ち着いてからでいいぞ』
『·····わかったわ、ありがとうウェイザ』
「かぁーっ!乙女心なんでわかんないかなぁ!!」
「ソル、石を投げるのは流石に危ないからやめてやれよ」
「今のはウェイザが悪いから不可抗力よね」
·····グラちゃんが座ってて濡れてしまったウェイザ君のコートを洗って返すと言ったら、ウェイザ君も対抗して自分で洗うと言い始めた。
まったく、乙女心がわかってないなぁ!!
そしたらソルちゃんが足元に落ちてた石をぶん投げてウェイザ君にぶち当てて意見を変えさせてた。
全く、アレは乙女用語で『持ち帰ってウェイザ君の香りで████したい』って言ってr
\ペチンッ!/
「あ痛っ!」
\ゴキッ!/
「マ゜」
なんて煩悩まみれな事を考えた瞬間、グラちゃんの方から氷の礫が飛んできて額に直撃、そしてアルムちゃんの激しい蹴りが私の後頭部に直撃して首の骨が折れてしまった。
『そこまで言うならいいか····· 頼んだぞ』
『ええ、任せなさい、こう見えて花嫁修業はちゃんとやらされてるのよ』
『·····料理、上手くできるようになったのか?』
『そ、それはまだ修行中よ····· 他のはできるようになったわ』
·····この前、シルキーさんに料理教わってたはずなんだけどなぁ。
ちなみに今シルキー軍団が集団食中毒(※病原菌無し)になって大惨事になってる。
『·····グラシアルが嫁さんか、中々良いな』
『何言ってるのよバカ、妄想は程々にしておかないとソフィみたいになるわよ』
酷い風評被害だぁ·····
『ははは、程々にしておくよ』
『まったくもう····· 私はそろそろ帰るわ、良いお年を』
『あぁ、また来年もよろしくな』
『·····ソフィの言ってたことだけれど、煩悩は年が変わる前に落としておくのが良いらしいのよね、私はそういうのはあまり信じないけれど、一応やっておくわ』
·····ん?
流れ変わった?
ちょっと首の角度戻すわ、真面目に聞きたいし斜めになってて見えにくいし激痛で声が聞こえにくいわ。
·····よし治った!
それと同時に、立ち上がっていたグラちゃんが相変わらず護岸に腰掛けてるウェイザ君の耳元に顔を近づけた。
くっ、ヒソヒソ話をするつもりかっ!
でも私の地獄耳を舐めないでねっ!
私、盗み聞きは大好きなんだよっ!
『·····色々言ったけど、私、ウェイザの事は嫌いじゃないわ』
『それって好きって事じゃないのか?』
『う、うるさいわよ!まだ好きとかじゃないわ!嫌いとは思ってないってだけよ!!』
『好きなら別にそう言えばいいじゃねぇk····· 危ない危ない危ないっ!落ちる、落ちるから押すなって!』
『うるさいわよバカッ!海に落ちて頭でも冷やしてきなさい!』
『死ぬわ!この時期の海に落ちたら全身が冷えて死ぬだろ!!』
『知ってるわよバーカ!!』
『それでも貴族令嬢かよ!』
『そんな地位、私には要らないわよ!』
『だぁー!!もうわかったから!押すな!マジで死ぬから!!』
·····いちゃラブしてるなぁ。
◇
その後、何とか海に突き落とされるのを回避したウェイザ君とグラちゃんは護岸から移動しはじめた。
そして私たちの方にやってきたグラちゃんを私たちがからかってたら、地面に埋まってた私とグラちゃんの地元の友達たちがグラちゃんに執拗に蹴り飛ばされてしまった。
いやー死ぬかと思ったよ。
まぁ蹴られた後は特に何も無く、地元の友達たちにも帰ると伝えて私たちはディメンションルームへと帰って行ったのだった。
「·····グラちゃん」
「言わなくてもわかるわよ、どうせ聞いていたのでしょう?」
「まぁね、んで、どうするの?いや、どうしたいの?」
「·····手伝ってくれると嬉しいわ、私、恋愛は不得手なのよ」
「んふふ、任せてね、私たちはグラちゃんの親友として全力でサポートさせて貰うから」
来年もまた激動な1年になりそうな予感を感じながら、私たちは騒がしくなってしまった年末を過ごしたのだった。
名前:グラシアル・ド・ウィザール
ひと言コメント
「·····難しいのね、恋愛って」
名前:ウェイザ
ひと言コメント
「嫌いじゃないって事は好きって事だよな?俺間違ってないよな?いてっ!おいソル!なんで蹴るんだよ!いてててっ!蹴るのやめろよマジで!!なんで蹴られてんだよ俺!!」
名前:ダブルなかよし組
ひと言コメント
ソフィ・シュテイン
「もう夫婦漫才できるんだから絶対お似合いだと思うんだけどなぁ·····」
アルム
「キスしろー!!抱けー!!」
フィーロ
「なんか、あの頃の僕を見てるみたいでなんか、うーん·····」
ウナちゃん
「近くで見る必要あんまりなかったなぁ」
エビちゃん
「あぁぁ·····これマジでおなかポッカポカになるのじゃ····· アルム、これ絶対商品化するべきなのじゃ!」
ミカちゃん
「ねむ·····」
ソル
「かぁーっ!上手くいかないもんだなぁ!!そこは大人しく付き合っておけばいいのにー!!」
ミタル
「アイツ、リーダー面しておいて意外と慎重派だからな·····」
リーベ
「お互いを知るのは付き合ってからでもいいとおもうんだけどねぇ」




