わたしは誰?
校長先生にお米を売って大金を入手してからしばらく日が空き、私は実家に爆速帰宅して家族団欒をしたり、こっそり山に登って鉱物を探したりしていた。
そんなこんなで日は過ぎていき、今日は入学して初めての休日の前の夜だ。
「明日どこ行こうかなぁ····· みんなと街で遊ぼうって事にはなってるけど····· 思いつかないなぁ」
私は秘密の隠し部屋、魔法や魔道具を研究開発したり作成する『研究室』の机の前でひとりごちた。
最近は私の中身もかなり少女のものに近付いてきたのだが、深く考え事をしたり、鉱物の趣味をやったりするとまだ俺の部分が出てくる。
むしろ俺の部分は残しておいた方が今は良いのかもしれない、他の子よりも論理的思考力があるし前世の知識や技術を覚えている。
話が逸れた、私は今も『藤石 賢人』であって、表向きに『ソフィ・シュテイン』を演じているだけの偽装少女だ。
だが最近は俺の部分もだんだんソフィと融合してきて、先日校長先生に言ったように『藤石 賢人という人物の知識がある少女、ソフィ・シュテイン』っぽく振る舞えてると思う。
·····だけど。
本当は、怖い。
俺が俺でなくなり、俺が私になって、私は私としてこの世界で生きていくのが怖い。
俺が完全に私に切り替わるとき、俺はどうなるのだろうか?
パソコン用語で言うOSのアップデートのように根底は変わらず女の子になるのだろうか?それともCPUを取り替えるように藤石 賢人は破棄され、ソフィという新しいCPUが取り付けられるのだろうか?
元男の俺が女として生きていく事は出来るのだろうか?いつか好きな人が出来て、結婚して、妊娠して、私はちゃんと母親になれるのだろうか?
男だった私が、男の人に恋愛感情を抱けるのだろうか?女性として成長していく自分が受け入れられるのだろうか?
私はちゃんと女の子になれているのだろうか?
いや、それは出来ていると私は思う。
だってみんなと一緒に居るだけで楽しいし、意味不明な追いかけっこだって凄く楽しいし、アルムちゃんやグラちゃんやウナちゃんやフィーロ君と一緒に買い食いをするだけで心が踊る。
あと、可愛い服を着たりするのも私は好き、沢山お金も貰えたから町の洋服屋で可愛い服見たいなぁそれに甘いものも食べたい!スイーツは食べても食べても食べ飽きないくらい大好き!
んふふ·····
明日が楽しみだなぁ·····
「おっと思考がまたズレた、とりあえず明日はみんなで街の洋服屋に行ったあとスイーツ巡りをするとして、それよりも今は·····」
結局今の私は何なのだろうか。
·····わからない。
『貴女はいったい何者····· いえ、何のために転生してきたのかしら』
·····校長先生のその言葉が、私の頭の中で何度も木霊している。
校長先生は、魔王を倒すという明確な理由があってこの世界に来ていた。
じゃあ、私は?
変なコンテストで優勝してて、気に入られたから転生した?
·····そんなわけが無い。
「·····何のために、私は転生したんだろう」
必ず、何か裏がある。
近々魔王が復活するとか、他にも何か理由があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
いや、今は考える必要は無い、きっと何か理由があって私はここに居るんだ。
そう思う事にしよう、答えはいつかきっと見つかる。
私の2度目の人生は、答えの出ない問題でその命を無駄に費やす訳にはいかないんだから。
「·····それよりも、私は本当にこの子になって良かったのかな」
私は日本から魂だけこの世界へとやってきて、『ソフィ・シュテイン』という少女の魂の器に入り込んだ、いわゆる転生者だ。
·····俺は、ソフィという少女の中にねじ込まれた賢人というオッサンの魂なのだろう。
もし私が転生しなければこの体には本物の『ソフィ・シュテイン』の魂が宿り、魔法学校に通わず普通の町人として生きていたかもしれない。
·····その証拠に、私の転生先になるはずだったグラちゃんやウナちゃんは、『藤石 賢人』ではない魂が入って私の友達として今ここに居る。
じゃあ、本来のソフィ・シュテインの魂は、どこへ?
俺じゃなくわたしとして産まれた私にもわたしの人生があったはずだ。
だから、俺は·····
『ソフィという普通の女の子の人生を、狂わせてしまっているのではないだろうか?』
あぁダメだ、頭の中が気持ち悪い。
俺はまだ生きたい、私はみんなと遊びたい、わたしは·····本当は存在してたかもしれない、でも俺が生きるためにはこの子の体が必要で、わたしはそのために追い出されて、私として偽物のわたしが生活してて、それは私だけど俺そのものじゃなくて、でもわたしはわたしで、私もわたしで俺は私でありわたしでもあり、わたしだっていろんなじんせいをおくりたかったし、俺だってまだ27なのに人生これからだってのに死んで悔しいし、私の楽しい人生を過去と今の俺に邪魔されたくないし、███は·····
███は··········
「··········どう、すればいいの、███は」
ぴこんっ
《メッセージを受信しました》
《自動的に再生します》
◆
《メッセージ》
件名:悩んでるみたいだね
送信元:ガイア
宛先:ソフィ・シュテイン
本文
藤石賢人くん
あるいは『ソフィ・シュテイン』ちゃん
久しぶりだね、君を転生させた女神、ガイアだよ
何やら悩んでるみたいだね、このままだとキミの精神が壊れちゃうから、特別に教えてあげる。
キミの転生先の候補は3つあったね。
1人目は
キミが産まれたその国の次の王と王家に仕えるメイドとの子供
そして居るけど居ない不思議な子供達
『ウナ・ウェア・ラ・サークレット』
2人目は
伝説の魔導師がルーツの日本人の血を引く魔導貴族家の娘
そして魔法の才能に満ち溢れた子供
『グラシアル・ド・ウィザール』
3人目は
鉱山開発で出来たフシ町の町長家の娘
そして謎多き普通だったはずの子供
『ソフィ・シュテイン』
キミはこの中から3人目の『ソフィ・シュテイン』としての人生を選んだ
でも、選ばなかった2人もキミの前に現れた
という事は、ウナちゃんやグラちゃんには今は誰かの魂が入っている
でもソフィちゃんの中にはキミが居る
だったらソフィちゃんになるはずだった本当の魂もあったんじゃないか?もしかしたら自分の魂がソフィちゃんの魂を邪魔してるんじゃないのか?
ってキミは悩んでたんだよね?
これはナイショだよ?
魂ってCPUとメモリ等が合体した感じのコンピュータのようなモノなんだ
肉体というハードで受け取ったデータをCPUが処理してメモリが一時記憶、そして記憶はクラウドストレージである『神界書庫 アカシックレコード』へと記録され、必要な記憶は魂が所有する合鍵によって呼び出して使う、というシステムを私たちが効率的に組み上げたの。
それが、君たちが今『魂』と呼んでいるモノの正体なの。
そして死んだら神界にやってきて、初期化と修理をしてデータはアーカイブにして、新品同様にして現世に戻すんだ。
·····製造コストが高いからね。
そして君に提示したこの3人はね、中古のじゃなくて3つの新型の魂を入れる予定の個体だったんだ
前世なんて無い新品の魂だよ?
しかも新型の改良版、ハイスペックでより効率的に動けてアカシックレコードとの通信効率や身体との融和率も高くなる新型よ?
それでね、新しく作った魂は神が直々に作った身体に入れて経過観察するんだけどさ·····
何故かテスト前に3つの魂のうち1つが特殊能力を持ってもう1つと融合してニコイチになっちゃったのよ
だから魂を入れる予定だった身体が1つ余っちゃうし、融合したのは変に安定してるしどーしよっかな·····ってちゃってね?
結局計画は一旦凍結して練り直してたんだけど、都合よくキミの魂が来たからね!計画を解凍して今に至るんだ
話が長くなっちゃったね
最後に、悩める少女に私からの助言だよ
心も体も『キミ』の物だよ
神様より
◆
「·····んふふ」
俺は私
でも中身がどっちだろうとわたしには関係ない
どんな過去も経緯もあっても、俺もわたしも私も、『自分』で良かったんだ。
「よしっ!明日はみんなとたっぷり遊んで美味しい物をたべるぞー!!」
だって、わたしはソフィなのだから
パジャマに着替えたわたしはそのままフカフカのベッドに潜り込み、すぐに眠りに落ちた。
んふふ、明日が楽しみだなぁ·····
すやぁ·····
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
ひと言コメント
「みんな悩んじゃってごめんねっ!わたしはわたし!超絶プリティで可愛くキュートな普通の女の子ソフィちゃんだよっ☆」




